今回は「考えられる鑑別疾患」から、緊急性の高い疾患について考えていきましょう。
a 代謝性疾患
低血糖:インスリン使用中や経口糖尿病薬を使用中などの患者に多い。 その他、アルコール性ケトアシドーシスに伴うものや、副腎不全、敗血症、肝不全、腎不全などでも認められることあり。 血糖40mg/dL以下の場合に痙攣をきたすリスクが高い。
高血糖:非ケトン性高浸透圧症候群(nonketotic hyperosmolar syndrome)では痙攣を起こし得る。 糖尿病性ケトアシドーシスでは、痙攣は起こしにくい。 これはケトン体は脳細胞の栄養源となり得るためで、そのためケトン体は抗痙攣作用をもつとされる。
低カルシウム血症:副甲状腺機能低下症、偽性副甲状腺機能低下症、横紋筋融解症、薬剤性(ビスホスホネート製剤)などによって起こる。 低カルシウム血症に基づく神経筋系の興奮性亢進による症状として、痙攣に加え、テタニー発作や感覚異常などを認める。 身体所見ではChvostek徴候やTrousseau徴候などを認める。
低ナトリウム血症:115mEg/L以下のときに痙攣をきたしやすい。 ただし、急速に血清ナトリウム値が低下した場合には、それ以上でも起こる。
高ナトリウム血症:細胞内脱水をきたしていることがほとんどである。 輸液で補正するときに痙攣を起こしやすい。
低マグネシウム血症:アルコール依存症などで起こることが多い。
低リン血症:低栄養などの場合に起こりやすい。
b 感染症
髄膜炎・脳炎:頭痛、発熱、悪寒、髄膜刺激症状、意識障害などを有する患者で痙攣を見る場合、考える。 時に痙攣以外の症状が初期には明らかでない場合があるので要注意。 髄膜炎患者で痙攣を認める場合、その多くは細菌性である。 脳炎の原因としてはウイルス性(ヘルペスウイルスなど)が多い。
脳腫瘍・硬膜下膿瘍:頭痛、発熱、悪寒などを有する患者で局所性痙攣をみる場合、考える。 脳外科術後や耳鼻科疾患、全身性疾患(気管支拡張症など)を有する患者にみられることが多い。
HIV感染症:HIVそのものによる脳障害(脳症)や日和見感染によるもの(トキソプラズマ、中枢神経系リンパ腫、クリプトコッカス髄膜炎など)がある。
c 局所的中枢神経障害
外傷性脳障害:頭部外傷の病歴に注意する。
脳血管障害:動脈性(脳梗塞・脳出血・クモ膜下出血)が多いが、時に静脈性(静脈血栓症)のものがあるので注意。 脳梗塞のうち、アテローム血栓症やラクナ梗塞と比べて、脳塞栓症(心原性など)の場合に痙攣発症が多い。
脳腫瘍・がん性髄膜炎・動静脈奇形:痙攣で初発する場合がある。 転移性の脳腫瘍のほか、原発性脳腫瘍(膠芽腫・リンパ腫など)も痙攣の原因となる。
今回は以上です、続きは次回に。