前回に引き続きCOPDの臨床所見についてです。
5.COPD急性憎悪におけるバイタルサインの変化
a.頻 脈
低酸素血症・高二酸化炭素血症は、カテコールアミンを増加させ、頻脈をきたす。 重度の低酸素血症・高二酸化炭素血症の場合には、多源性心房性頻脈multi-atrial tachycardia(MAT)や心房細動をきたすことがある。 更に重度になると、心室頻拍、心室細動、無脈性電気活動などをきたす恐れもある。
b.頻 呼 吸
COPD急性憎悪の重症度と呼吸数には強い相関がある。 高二酸化炭素血症による急性呼吸性アシドーシスをきたしている患者で、浅くて速い頻呼吸(>毎分40回)の場合には、機械的補助換気の適応である。 一方で、急性呼吸性アシドーシスで呼吸数が毎分7回以下の場合には、呼吸停止寸前であることを意味する。 また、聴診上、喘鳴wheezeが聴かれることが多い。 喘鳴の重症度分類には、喘息発作に準じて、Johnsonの分類を用いるとよい。
c.高体温または低体温
COPD患者で、体温が38,5度以上または35,5度以下の場合は要注意である。 特に、悪寒戦慄や頻脈、頻呼吸(RR>30回)をきたしている患者では、敗血症を考慮すべきである。
d.血 圧
高二酸化炭素血症では、脈圧が拡大し収縮期高血圧をきたす。 気道の閉塞が強い場合には、奇脈pulsus paradoxus(吸気時に収縮期血圧が10mmHg以上低下した状態)をきたし、奇脈のサイズと気道閉塞の程度とは相関がある。
e.高二酸化炭素血症の身体診断
急性の場合、ベースラインからどの程度pCO2が上昇しているかを判断するための、高二酸化炭素血症の身体診断としては下記が目安となる。
5mmHg以上のCO2上昇→手のぬくもり:hot hand
15mmHg以上のCO2上昇→フラッピング:flapping(asterixis)
20mmHg以上のCO2上昇→傾眠
30mmHg以上のCO2上昇→冷汗・眼底所見にてうっ血乳頭
40mmHg以上のCO2上昇→昏睡
お わ り に
身体診察は早く簡単にでき、コストもほとんどかからない。 肺機能検査などの諸検査機器のない一般外来においても、身体診察によってCOPD診断は可能となる。 禁煙などの行動変容ケアにそのままつなげることができる。 急性呼吸困難を訴える患者が救急搬送されてきた場合、身体診察によってCOPD診断や高二酸化炭素血症の診断を行うことにより、COPD急性憎悪やCO2ナルコーシスのマネジメントを迅速かつ効果的に行うことができる。
今回のシリーズは以上です、ではこれにて。