今日・11月14日は世界糖尿病デー である。
糖尿病は今や世界の成人人口のおよそ5~6%の人が抱える病気となっており、その数は増加の一途を辿っているという。
世界糖尿病デーは、従来、IDF(国際糖尿病連合)と WHO (世界保健機関)により、糖尿病の認知向上を目的として1991(平成3)年に制定されていたそうだが、そのような増加の状況を踏まえ国際連合が、国際糖尿病連合 (IDF)の要請してきた「糖尿病の全世界的脅威を認知する決議」を2006(平成18)年12月20日に国連総会で採択し、インスリンの発見者であるバンティング博士の誕生日である11月14日を「世界糖尿病デー」に指定した。
IDFは決議に先駆け、”Unite for Diabetes”(糖尿病との闘いのため団結せよ)というキャッチフレーズと、国連や空を表す「ブルー」と、団結を表す「輪」を使用したシンボルマーク(ブルーサークル)を採用。全世界での糖尿病抑制に向けたキャンペーンを推進している。
日本でも、2007(平成19)年11月14日には東京タワーや鎌倉大仏、通天閣などを「世界糖尿病デー」のシンボルカラーである青にライトアップし、糖尿病の予防、治療、療養を喚起する啓発活動が展開され今日に至っている。
なお、国連が「世界○○デー」と疾患名を冠した啓発の日を設けたのは、12月1日の「世界エイズデー」に続き「世界糖尿病デー」が2つ目だそうだ。糖尿病による死者数は、エイズ(AIDS。後天性免疫不全症候群) による死者数に匹敵し、糖尿病関連死亡は、エイズ の関連死亡を超えると推計されており、 日本においても、高血圧に次ぐ罹患率の多い疾患となっているそうだ。
糖尿病は、血糖値(血液中のブドウ糖濃度)が病的に高い状態をさす病名である。
この糖尿病も高血圧も生活習慣病のひとつであるが、糖尿病は高血糖そのものによる症状を起こすこともあるほか、長期にわたると合併症を引き起こし、体中の微小血管が徐々に破壊されていき、腎臓を含む体中の様々な臓器に重大な傷害を及ぼす可能性があり、糖尿病治療の主な目的はそれら合併症を防ぐことにあるという。
糖尿病、高血圧、肥満、高脂血症(=脂質異常症)、の合併は「死の四重奏」「syndrome X」「インスリン抵抗性症候群」などと称されていた(以下参考に記載の※:「(財)健康医学協会HP」の健康医学:死の四拾重奏参照)。これらは現在メタボリックシンドロームと呼ばれている。この「メタボリックシンドローム」(メタポ)は、2006(平成18)年の流行語大賞の一つに選ばれている。
2007(平成19)年の国民健康・栄養調査によると、「糖尿病が強く疑われる人」の890万人と「糖尿病の可能性を否定できない人」の1,320万人を合わせると、全国に2,210万人いると推定されており、しかも、糖尿病が疑われる人の約4割はほとんど治療を受けたことがない人だという。これは、糖尿病がはじめのうちは、痛みなどの自覚症状がないことから、検査で血糖値が高かったり、治療が必要といわれたことがあっても、そのまま治療を受けない人が多いからのようだ。そして、糖尿病が原因で死亡する人は年間で1万4千人くらい(平成19年人口動態統計)いるという。そのほか、もうひとつの大きな問題が先ほど述べた合併症であり、糖尿病による腎臓障害で人工透析を始める人は、年間1万5千人ほどおり、糖尿病が原因の視覚障害の発生も年間約3,000人もいるという(以下参考に記載の※2:「生活習慣病を知ろう!(厚生労働省HP)」の糖尿病のペーシを゛参照)。
そのため、糖尿病の検査は、2008(平成20)年度から実施されている特定健診(一般に「メタボ健診」といわれているもの)に含まれており、特定健診は40歳~74歳までの公的医療保険加入者全員を対象としている。
日本が世界に誇るべき国民皆保険制度。これは、公的な支えによって運営されており、誰でも等しく医療を受けられることが特徴である。しかし、近年の少子化や長期的な経済の停滞が保険料収入の減少を招き、一方で高齢化によって医療費は年々増加している。このような状況の中、現在の国民皆保険制度を堅持し、将来にわたり、社会保障制度全般を持続可能なものとしていくため、2006(平成18年)6月、医療制度改革関連法が成立した。これら法律は要するに、中長期的な医療費の適正化を目指したものであり、その1手段として、国が示す基本方針に基づき、医療保険者が新たに「特定健診」を実施することになったのである(以下参考に記載の※3:「医療制度改革について」、※4:「厚生労働省告示第百五十号」参照)。厚生労働省の2007(平成19)年の資料によると、現在、国民医療費の3割が生活習慣病で、死因別死亡率の6割が生活習慣病が原因となっているという(以下参考に記載の※5参照)。
つまり、メタボが生活習慣病の大きな一因となっているという学説に基づき、内臓脂肪を減らすことで生活習慣病対策、ひいては将来の医療費削減につながるだろうというのである。ただ、厚生労働省はメタボ健診によって年2兆円の医療費を削減できるとしているようだが、この見込みは楽観的すぎる。メタボ検診費用の方が多くて、かえって赤字になるだろう、という批判もあるようだ。
そして、メタボ健診受診率や保健指導実施率、のち(2008→2012年度)の目標到達度によって後期高齢者医療制度への財政負担が保険組合や自治体に対して最大10%内で増減されるようだ。つまり、予防対策をしていない場合には国からの助成が出なくなったり、また、一定期間内の減少率が国の基準に達しなかった場合には、事実上の「罰金」を課すといったいわゆる「アメとムチ」によって、保険者が受診を促すようにし、かつ、被保険者に対してメタボを解消する動機付けの機会を増すことを狙っているようだ。メタポ健診の項目は平成19年厚生労働省令第157号第1条に規定されている。
このメタポ健診については、世界的に複数の診断基準があり、混乱が生じていことから、約150カ国の専門家が参加するIDFとNCEP(米国コレストロール教育プログラム)が中心となって診断基準の統一が協議されてきたが、2008(平成20)年には診断の国際的な統一基準が示され、今後統一基準で腹囲が診断の必須条件から外れることになったようだ。
IDF基準は腹囲が基準値以上で中性脂肪などの血液検査の結果の4項目の内2項目に異常があればメタポと診断するが腹囲は人種別に定めている。一方、NCEPは、腹囲など5項目のうち、3項目に異常があればメタポとし、腹囲は必須条件ではなく基準値は一種類しかない。日本はIDF基準と同じ考え方に基づいているが、統一基準はNCEPを基本としており、腹囲は必須条件から外れるが、人種別に定めている。NCEP基準は、肥満でなくても他の項目に異常があればメタポと診断される。日本が2008〔平成20〕年から始めたメタポ検診では、腹囲測定が必須で、シンボル的存在となっており、国際的に日本のメタポ検診の特異さが際立っているようだ(<メタボ>腹囲が必須条件から外れる 診断基準を国際統一 毎日新聞 、2008年8月20日より)。
世界のメタポの代表的な診断基準を比較したものは以下参考に記載の※5のメタボリックシンドロームの疫学を参照されると良い。
日本のメタボの腹囲基準において、世界で唯一「男性が女性よりも基準が小さい」(日本の場合男性:85cm以上、女性:90cm以上)独自路線をとっているのは、肥満と言っても病気につながる肥満とそうでない肥満があり、その違いは、お腹まわりの脂肪にあるとしている。つまり、脂肪には皮下脂肪と内臓脂肪があるが、お腹まわりにつく脂肪が内臓脂肪(脂肪組織参照)であり、この内臓のまわりに脂肪が多くたまる内臓脂肪こそが、糖尿病や高血圧などの生活習慣病をひきおこす主要な原因の一つなのだという。そして、欧米人の場合は皮下脂肪型の肥満が多いのだが、日本には高度の肥満は余りいないが、糖尿病などの発生率はアメリカより日本人に多く、日本人は民族的特徴から、米国人より内臓脂肪が多く、メタボへの悪影響を受けやすいとされており、日本では特にこの内臓脂肪の蓄積による肥満(内臓脂肪型肥満)が共通の基盤として着目され、腹部肥満=男性型肥満ともいわれている上半身型肥満(リンゴ型肥満)に対して注意が呼びかけられているようだ。
この内臓脂肪の蓄積で生活習慣病の危険性が高まる「メタボリック症候群」の診断基準の妥当性について検討していた厚生労働省研究班が今年・2010(平成22)年2月9日、現在は「90cm以上」としている女性の腹囲を「80cm以上」に厳しくすれば、より多くの脳卒中や心疾患を予防できるとする研究結果をまとめたことが報道されている。研究班は、全国の40~74歳の男女約3万6千人に、腹囲と、血圧や血糖値などの関係を調べた。
メタボリック症候群は、内臓脂肪蓄積に加え脂質異常、高血圧、高血糖のうち2項目以上に該当する状態だが、男性で85cm前後、女性で80cm前後を上回ると、そうした状態になる可能性が3倍に高まり、心筋梗塞や脳卒中が起きるリスクが大幅に上昇することが分かった。・・・というのである(以下参考に記載の※7参照)。
そうであれば、基準の変更を真剣に検討する必要があるだろう。
ただ、日本では、生活習慣病は内臓にたまった脂肪細胞が原因としているが、日本人には肥満でない人にも生活習慣病が多いことなどから、脂肪組織以外の臓器が関与しているのではないかという推定もされれていたようだが、今年・2010(平成22)年11月6日朝日新聞朝刊に、”血糖値を上昇させるホルモンが肝臓でつくられていることを金沢大学の金子周一教授らのグループが突き止めた。このホルモンを抑えると血糖値が改善されることをマウスの実験で確かめた。血糖値上昇が原因となる糖尿病や生活習慣病の新薬開発に繋がることが、米科学誌「セル・メタポリズム」に掲載された”ことが掲載されていた。同グループは、肝臓に着目し、糖尿病患者から採取した約3万7千種のたんぱく質遺伝子を解析した結果、血糖値が高い人程肝臓で作られるホルモン「セレノプロティンP」の濃度が高いことがわかり、このホルモンをマウスに注射して実験の結果血糖値が上昇しインスリンが利きにくくなり、ホルモンがつくられるのを抑制したマウスでは血血糖値が低くなったという。同グループは、こうした肝臓由来のホルモンを「ヘパトカイン」と命名し、金子教授らは「ホルモン濃度の計測などにより、糖尿病になりやすい体質の人の早期発見も期待できる」と話している・・・・という(以下参考に記載の※8参照)。つまり、これまで後天性の糖尿病は脂肪摂取が主な原因と考えられていたが、肝臓との関連が見いだされたのはこれが初めてだという。そうすれば、メタポ検診でNCEP基準は、肥満を必須基準として居らず、肥満でなくても他の項目に異常があればメタポと診断されるのに、日本のみが肥満を必須基準としていることが正しかったのかどうか?。それは、私にはわからないが。・・・。
このように肥満が必ずしも病気と言うわけではないようだが、肥満が良いわけではないので、肥満ににならないように気をつけた方が良いことには間違いない。腹囲だけでなく、ヒトの肥満度を表す体格指数として、ボディマス指数(BMI=Body mass index。)がある。 BMIは、身長の二乗に対する体重の比(BMI=体重kg/〔身長m〕2)であらわされる。
WHOでは25以上を「標準以上 (overweight)」、30以上を「肥満 (obese)」としているが、日本肥満学会では、WHO より厳しく、BMI22の場合を標準体重としており、25以上の場合を肥満、18.5未満である場合を低体重としている。 以下で、自分の肥満度をチェックしてみよう。
BMI(肥満度)チェック
http://www.health.ne.jp/check/bmi.html
どうも、日本のメタポ検診には、その導入の動機などには、一寸厭な面も見られるのだが、メタポとは、病気ではなく、本来生活改善をするきっかけとなるべきものであり、その意味で、「メタボ健診」を行なうことは意義があると思う。
私も、メタポ検診を受けるようになって、基準をパスするように、毎日ウオーキングをしたり、食時にも気をつけるようになったし、入浴の都度体重測定もするなど、肥満にならないよう気をつけるようになり、御蔭で、一時より腹囲もかなり良い状態になっている。しかし、これで、誰もが元気になり、平均寿命がどんどん延びることは結構なことであるが、これから先の長い人生、日本の保険制度や年金問題は、寿命が延びる分、ますます重要なな問題となってくるだろうな~。長生きするのはいいけれど老後を過ごすのに必要なお金はどこから稼ぎ出せば良いのだろうか?それが心配だよ・・・(-_-)ウーム。
(画像は、2010年度版「世界糖尿病デー」公式ポスター。世界糖尿病デー 公式ホームページより)
参考:
※1:(財)健康医学協会HP
http://www.kenkoigaku.or.jp/
※2:生活習慣病を知ろう!(厚生労働省HP)
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/seikatu/index.html
※3:医療制度改革について
http://www.pref.tochigi.lg.jp/kokuho/cont_06/index.html
※4:厚 生労 働省 告示第百五十号(PDF)
http://www-bm.mhlw.go.jp/bunya/shakaihosho/iryouseido01/pdf/info02_01.pdf#search='平成19年厚生労働省令第157号第1条'
※5:糖尿病等の生活習慣病対策の現状について<厚生労働省>(PDF)
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/06/dl/s0620-10b.pdf#search='、国民医療費 3 割 生活習慣病'
※6:メタボリックシンドローム情報〔国立国際医療センター 研究所〕
http://www.imcj-gdt.jp/metabolic_synd/mts_overview.html
※7:共同通信ニュース:女性メタボ基準は腹囲80センチ より厳しく、厚労省
http://www.47news.jp/CN/201002/CN2010020901000922.html
※8:時事ドットコム:血糖値上げる肝臓ホルモン発見=糖尿病の新たな治療法に期待−金沢大
http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2010110500369
生活習慣病予防セミナー
http://www.terumo.co.jp/healthcare/seminar/report/fy2006/02_061206_osaka.html
ユーキャン新語・流行語大賞
http://singo.jiyu.co.jp/
世界糖尿病デー 公式ホームページ [世界糖尿病デーイベント実行委員会]
http://www.wddj.jp/
糖尿病ネットワーク
http://www.dm-net.co.jp/
糖尿病 - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B3%96%E5%B0%BF%E7%97%85
国民皆保険とは - 時事用語 Weblio辞書
http://www.weblio.jp/content/%E5%9B%BD%E6%B0%91%E7%9A%86%E4%BF%9D%E9%99%BA
厚生労働省:平成18年度医療制度改革関連資料
http://www.mhlw.go.jp/bunya/shakaihosho/iryouseido01/index.html
糖尿病は今や世界の成人人口のおよそ5~6%の人が抱える病気となっており、その数は増加の一途を辿っているという。
世界糖尿病デーは、従来、IDF(国際糖尿病連合)と WHO (世界保健機関)により、糖尿病の認知向上を目的として1991(平成3)年に制定されていたそうだが、そのような増加の状況を踏まえ国際連合が、国際糖尿病連合 (IDF)の要請してきた「糖尿病の全世界的脅威を認知する決議」を2006(平成18)年12月20日に国連総会で採択し、インスリンの発見者であるバンティング博士の誕生日である11月14日を「世界糖尿病デー」に指定した。
IDFは決議に先駆け、”Unite for Diabetes”(糖尿病との闘いのため団結せよ)というキャッチフレーズと、国連や空を表す「ブルー」と、団結を表す「輪」を使用したシンボルマーク(ブルーサークル)を採用。全世界での糖尿病抑制に向けたキャンペーンを推進している。
日本でも、2007(平成19)年11月14日には東京タワーや鎌倉大仏、通天閣などを「世界糖尿病デー」のシンボルカラーである青にライトアップし、糖尿病の予防、治療、療養を喚起する啓発活動が展開され今日に至っている。
なお、国連が「世界○○デー」と疾患名を冠した啓発の日を設けたのは、12月1日の「世界エイズデー」に続き「世界糖尿病デー」が2つ目だそうだ。糖尿病による死者数は、エイズ(AIDS。後天性免疫不全症候群) による死者数に匹敵し、糖尿病関連死亡は、エイズ の関連死亡を超えると推計されており、 日本においても、高血圧に次ぐ罹患率の多い疾患となっているそうだ。
糖尿病は、血糖値(血液中のブドウ糖濃度)が病的に高い状態をさす病名である。
この糖尿病も高血圧も生活習慣病のひとつであるが、糖尿病は高血糖そのものによる症状を起こすこともあるほか、長期にわたると合併症を引き起こし、体中の微小血管が徐々に破壊されていき、腎臓を含む体中の様々な臓器に重大な傷害を及ぼす可能性があり、糖尿病治療の主な目的はそれら合併症を防ぐことにあるという。
糖尿病、高血圧、肥満、高脂血症(=脂質異常症)、の合併は「死の四重奏」「syndrome X」「インスリン抵抗性症候群」などと称されていた(以下参考に記載の※:「(財)健康医学協会HP」の健康医学:死の四拾重奏参照)。これらは現在メタボリックシンドロームと呼ばれている。この「メタボリックシンドローム」(メタポ)は、2006(平成18)年の流行語大賞の一つに選ばれている。
2007(平成19)年の国民健康・栄養調査によると、「糖尿病が強く疑われる人」の890万人と「糖尿病の可能性を否定できない人」の1,320万人を合わせると、全国に2,210万人いると推定されており、しかも、糖尿病が疑われる人の約4割はほとんど治療を受けたことがない人だという。これは、糖尿病がはじめのうちは、痛みなどの自覚症状がないことから、検査で血糖値が高かったり、治療が必要といわれたことがあっても、そのまま治療を受けない人が多いからのようだ。そして、糖尿病が原因で死亡する人は年間で1万4千人くらい(平成19年人口動態統計)いるという。そのほか、もうひとつの大きな問題が先ほど述べた合併症であり、糖尿病による腎臓障害で人工透析を始める人は、年間1万5千人ほどおり、糖尿病が原因の視覚障害の発生も年間約3,000人もいるという(以下参考に記載の※2:「生活習慣病を知ろう!(厚生労働省HP)」の糖尿病のペーシを゛参照)。
そのため、糖尿病の検査は、2008(平成20)年度から実施されている特定健診(一般に「メタボ健診」といわれているもの)に含まれており、特定健診は40歳~74歳までの公的医療保険加入者全員を対象としている。
日本が世界に誇るべき国民皆保険制度。これは、公的な支えによって運営されており、誰でも等しく医療を受けられることが特徴である。しかし、近年の少子化や長期的な経済の停滞が保険料収入の減少を招き、一方で高齢化によって医療費は年々増加している。このような状況の中、現在の国民皆保険制度を堅持し、将来にわたり、社会保障制度全般を持続可能なものとしていくため、2006(平成18年)6月、医療制度改革関連法が成立した。これら法律は要するに、中長期的な医療費の適正化を目指したものであり、その1手段として、国が示す基本方針に基づき、医療保険者が新たに「特定健診」を実施することになったのである(以下参考に記載の※3:「医療制度改革について」、※4:「厚生労働省告示第百五十号」参照)。厚生労働省の2007(平成19)年の資料によると、現在、国民医療費の3割が生活習慣病で、死因別死亡率の6割が生活習慣病が原因となっているという(以下参考に記載の※5参照)。
つまり、メタボが生活習慣病の大きな一因となっているという学説に基づき、内臓脂肪を減らすことで生活習慣病対策、ひいては将来の医療費削減につながるだろうというのである。ただ、厚生労働省はメタボ健診によって年2兆円の医療費を削減できるとしているようだが、この見込みは楽観的すぎる。メタボ検診費用の方が多くて、かえって赤字になるだろう、という批判もあるようだ。
そして、メタボ健診受診率や保健指導実施率、のち(2008→2012年度)の目標到達度によって後期高齢者医療制度への財政負担が保険組合や自治体に対して最大10%内で増減されるようだ。つまり、予防対策をしていない場合には国からの助成が出なくなったり、また、一定期間内の減少率が国の基準に達しなかった場合には、事実上の「罰金」を課すといったいわゆる「アメとムチ」によって、保険者が受診を促すようにし、かつ、被保険者に対してメタボを解消する動機付けの機会を増すことを狙っているようだ。メタポ健診の項目は平成19年厚生労働省令第157号第1条に規定されている。
このメタポ健診については、世界的に複数の診断基準があり、混乱が生じていことから、約150カ国の専門家が参加するIDFとNCEP(米国コレストロール教育プログラム)が中心となって診断基準の統一が協議されてきたが、2008(平成20)年には診断の国際的な統一基準が示され、今後統一基準で腹囲が診断の必須条件から外れることになったようだ。
IDF基準は腹囲が基準値以上で中性脂肪などの血液検査の結果の4項目の内2項目に異常があればメタポと診断するが腹囲は人種別に定めている。一方、NCEPは、腹囲など5項目のうち、3項目に異常があればメタポとし、腹囲は必須条件ではなく基準値は一種類しかない。日本はIDF基準と同じ考え方に基づいているが、統一基準はNCEPを基本としており、腹囲は必須条件から外れるが、人種別に定めている。NCEP基準は、肥満でなくても他の項目に異常があればメタポと診断される。日本が2008〔平成20〕年から始めたメタポ検診では、腹囲測定が必須で、シンボル的存在となっており、国際的に日本のメタポ検診の特異さが際立っているようだ(<メタボ>腹囲が必須条件から外れる 診断基準を国際統一 毎日新聞 、2008年8月20日より)。
世界のメタポの代表的な診断基準を比較したものは以下参考に記載の※5のメタボリックシンドロームの疫学を参照されると良い。
日本のメタボの腹囲基準において、世界で唯一「男性が女性よりも基準が小さい」(日本の場合男性:85cm以上、女性:90cm以上)独自路線をとっているのは、肥満と言っても病気につながる肥満とそうでない肥満があり、その違いは、お腹まわりの脂肪にあるとしている。つまり、脂肪には皮下脂肪と内臓脂肪があるが、お腹まわりにつく脂肪が内臓脂肪(脂肪組織参照)であり、この内臓のまわりに脂肪が多くたまる内臓脂肪こそが、糖尿病や高血圧などの生活習慣病をひきおこす主要な原因の一つなのだという。そして、欧米人の場合は皮下脂肪型の肥満が多いのだが、日本には高度の肥満は余りいないが、糖尿病などの発生率はアメリカより日本人に多く、日本人は民族的特徴から、米国人より内臓脂肪が多く、メタボへの悪影響を受けやすいとされており、日本では特にこの内臓脂肪の蓄積による肥満(内臓脂肪型肥満)が共通の基盤として着目され、腹部肥満=男性型肥満ともいわれている上半身型肥満(リンゴ型肥満)に対して注意が呼びかけられているようだ。
この内臓脂肪の蓄積で生活習慣病の危険性が高まる「メタボリック症候群」の診断基準の妥当性について検討していた厚生労働省研究班が今年・2010(平成22)年2月9日、現在は「90cm以上」としている女性の腹囲を「80cm以上」に厳しくすれば、より多くの脳卒中や心疾患を予防できるとする研究結果をまとめたことが報道されている。研究班は、全国の40~74歳の男女約3万6千人に、腹囲と、血圧や血糖値などの関係を調べた。
メタボリック症候群は、内臓脂肪蓄積に加え脂質異常、高血圧、高血糖のうち2項目以上に該当する状態だが、男性で85cm前後、女性で80cm前後を上回ると、そうした状態になる可能性が3倍に高まり、心筋梗塞や脳卒中が起きるリスクが大幅に上昇することが分かった。・・・というのである(以下参考に記載の※7参照)。
そうであれば、基準の変更を真剣に検討する必要があるだろう。
ただ、日本では、生活習慣病は内臓にたまった脂肪細胞が原因としているが、日本人には肥満でない人にも生活習慣病が多いことなどから、脂肪組織以外の臓器が関与しているのではないかという推定もされれていたようだが、今年・2010(平成22)年11月6日朝日新聞朝刊に、”血糖値を上昇させるホルモンが肝臓でつくられていることを金沢大学の金子周一教授らのグループが突き止めた。このホルモンを抑えると血糖値が改善されることをマウスの実験で確かめた。血糖値上昇が原因となる糖尿病や生活習慣病の新薬開発に繋がることが、米科学誌「セル・メタポリズム」に掲載された”ことが掲載されていた。同グループは、肝臓に着目し、糖尿病患者から採取した約3万7千種のたんぱく質遺伝子を解析した結果、血糖値が高い人程肝臓で作られるホルモン「セレノプロティンP」の濃度が高いことがわかり、このホルモンをマウスに注射して実験の結果血糖値が上昇しインスリンが利きにくくなり、ホルモンがつくられるのを抑制したマウスでは血血糖値が低くなったという。同グループは、こうした肝臓由来のホルモンを「ヘパトカイン」と命名し、金子教授らは「ホルモン濃度の計測などにより、糖尿病になりやすい体質の人の早期発見も期待できる」と話している・・・・という(以下参考に記載の※8参照)。つまり、これまで後天性の糖尿病は脂肪摂取が主な原因と考えられていたが、肝臓との関連が見いだされたのはこれが初めてだという。そうすれば、メタポ検診でNCEP基準は、肥満を必須基準として居らず、肥満でなくても他の項目に異常があればメタポと診断されるのに、日本のみが肥満を必須基準としていることが正しかったのかどうか?。それは、私にはわからないが。・・・。
このように肥満が必ずしも病気と言うわけではないようだが、肥満が良いわけではないので、肥満ににならないように気をつけた方が良いことには間違いない。腹囲だけでなく、ヒトの肥満度を表す体格指数として、ボディマス指数(BMI=Body mass index。)がある。 BMIは、身長の二乗に対する体重の比(BMI=体重kg/〔身長m〕2)であらわされる。
WHOでは25以上を「標準以上 (overweight)」、30以上を「肥満 (obese)」としているが、日本肥満学会では、WHO より厳しく、BMI22の場合を標準体重としており、25以上の場合を肥満、18.5未満である場合を低体重としている。 以下で、自分の肥満度をチェックしてみよう。
BMI(肥満度)チェック
http://www.health.ne.jp/check/bmi.html
どうも、日本のメタポ検診には、その導入の動機などには、一寸厭な面も見られるのだが、メタポとは、病気ではなく、本来生活改善をするきっかけとなるべきものであり、その意味で、「メタボ健診」を行なうことは意義があると思う。
私も、メタポ検診を受けるようになって、基準をパスするように、毎日ウオーキングをしたり、食時にも気をつけるようになったし、入浴の都度体重測定もするなど、肥満にならないよう気をつけるようになり、御蔭で、一時より腹囲もかなり良い状態になっている。しかし、これで、誰もが元気になり、平均寿命がどんどん延びることは結構なことであるが、これから先の長い人生、日本の保険制度や年金問題は、寿命が延びる分、ますます重要なな問題となってくるだろうな~。長生きするのはいいけれど老後を過ごすのに必要なお金はどこから稼ぎ出せば良いのだろうか?それが心配だよ・・・(-_-)ウーム。
(画像は、2010年度版「世界糖尿病デー」公式ポスター。世界糖尿病デー 公式ホームページより)
参考:
※1:(財)健康医学協会HP
http://www.kenkoigaku.or.jp/
※2:生活習慣病を知ろう!(厚生労働省HP)
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/seikatu/index.html
※3:医療制度改革について
http://www.pref.tochigi.lg.jp/kokuho/cont_06/index.html
※4:厚 生労 働省 告示第百五十号(PDF)
http://www-bm.mhlw.go.jp/bunya/shakaihosho/iryouseido01/pdf/info02_01.pdf#search='平成19年厚生労働省令第157号第1条'
※5:糖尿病等の生活習慣病対策の現状について<厚生労働省>(PDF)
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/06/dl/s0620-10b.pdf#search='、国民医療費 3 割 生活習慣病'
※6:メタボリックシンドローム情報〔国立国際医療センター 研究所〕
http://www.imcj-gdt.jp/metabolic_synd/mts_overview.html
※7:共同通信ニュース:女性メタボ基準は腹囲80センチ より厳しく、厚労省
http://www.47news.jp/CN/201002/CN2010020901000922.html
※8:時事ドットコム:血糖値上げる肝臓ホルモン発見=糖尿病の新たな治療法に期待−金沢大
http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2010110500369
生活習慣病予防セミナー
http://www.terumo.co.jp/healthcare/seminar/report/fy2006/02_061206_osaka.html
ユーキャン新語・流行語大賞
http://singo.jiyu.co.jp/
世界糖尿病デー 公式ホームページ [世界糖尿病デーイベント実行委員会]
http://www.wddj.jp/
糖尿病ネットワーク
http://www.dm-net.co.jp/
糖尿病 - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B3%96%E5%B0%BF%E7%97%85
国民皆保険とは - 時事用語 Weblio辞書
http://www.weblio.jp/content/%E5%9B%BD%E6%B0%91%E7%9A%86%E4%BF%9D%E9%99%BA
厚生労働省:平成18年度医療制度改革関連資料
http://www.mhlw.go.jp/bunya/shakaihosho/iryouseido01/index.html