真実を知りたい-NO2                  林 俊嶺

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関東大震災 流言蜚語と朝鮮人虐殺

2011年10月16日 | 国際・政治
 下記(資料1)の「船橋送信所関係文書」の「1」は、関東大震災直後の9月2日、当時の内務省警保局長後藤文夫が、船橋送信所に派遣した伝騎(伝令の任務を命じられた騎兵)に持たせた各地方長官宛ての電文である(当時、震災地と他地方を結ぶ通信は、海軍省船橋送信所か、横浜港内の船舶無線を利用する以外に方法がなく、中央政府の通信文はすてべ船橋を経由したという)。「1」の各地方長官宛も「2」の朝鮮総督府警務局長宛も「3」の山口県知事宛も、その内容は「朝鮮人が、放火や爆弾の投擲、井水に毒薬投入等、不逞の行動に出ているとの噂があるので注意せよ」というような注意喚起ではない。「流言蜚語」の事実確認をすることなく、民心の不安をかき立てる事実として打電したものであり、結果的に朝鮮人虐殺を多発させることとなった。流言蜚語の政府による煽り行為といえる(さらに言えば、流言蜚語の中には、政府の作為を感じさせるものもある)。

 また、「埼玉県通達文」(資料2)は、各市町村に自警団の組織化を呼びかけるものであり、埼玉県下でも凶器を手にした自警団員によって多くの朝鮮人が殺害されることとなった。

 ところが、海外から朝鮮人虐殺について非難をあびた政府は、一転、流言蜚語によって兇行におよんだ自警団員を検挙するのである。当然のことながら、その虐殺に至る責任の所在について、激しい抗議の声があがった。資料3は、警察や内相・法相に対する抗議文であり、詰問状である。「現代史資料(6)関東大震災と朝鮮人」からの抜粋である。

資料1------------------------------
                2 船橋送信所関係文書

        1
 ○呉鎮副官宛打電  9月3日午前8時15分了解
   各 地 方 長 官 宛                 内務省警保局長 出   
 東京附近の震災を利用し、朝鮮人は各地に放火し、不逞の目的を遂行せんとし現に東京市内に於て爆弾を所持し、石油を注ぎて放火するものあり。既に東京府下には一部戒厳令を施行したるが故に、各地に於て充分周密なる視察を加へ、鮮人の行動に対しは厳密なる取締を加へられたし。
 《此電報を伝騎に もたせやりしは2日の午後と記憶す。当時の衆人の印象は斯の如かりしなり。事後又は他地方の人には考へも及ばざるべし》


        2
 ○鎮海要副官宛  9月3日午前8時30分了解
   朝鮮総督府警務局長宛        内務省警保局長 出
 東京附近の震災を利用し、在留鮮人は放火、投擲等、其他の不逞手段に出んとするものあり。既に東京府下には、一部戒厳令を施行せるを以て、此際朝鮮内、鮮人の動静に付ては厳重なる取締を加へられ、且内地渡来を阻止する様、御配慮相煩度。


        3
 ○呉鎮副官宛   9月3日午後10時10分了解
   山 口 県 知 事 宛            内務省警保局長 出
 東京附近震災を利用し、内地在留鮮人は不逞の行動を敢てせんとし、現に東京市内に於ては放火をなし、爆弾を投擲せんとし、頻に活動しつつあるを以て、既に東京府下に一部戒厳令を施行するに至りたるが故に、貴府に於ては内地渡来鮮人に付ては厳密なる視察を加へ、苟も容疑者たる以上は内地上陸を阻止し、殊に上海より渡来する仮装鮮人に付ては充分御警戒を加へられ、適宜の措置を採られ度。


資料2------------------------------
               10 流言の流布と自警団

        1
  埼玉県通達文
 東京に於ける震災に乗じ暴行を為したる不逞鮮人多数が川口方面より或は本県に入り来るやも知れず、又其間過激思想を有する徒之に和し以て彼等の目的を達成せんとする趣聞き及び漸次其毒手を揮はんとする虞有之候就ては此際警察力微弱であるから町村当局者は在郷軍人会、消防手、青年団員等と一致協力して其警戒に任じ一朝有事の場合には速やかに適当の方策を講ずるやう至急相当手配相成度き旨其筋の来牒により此段移牒に及び候也。


資料3-------------------------------
                10 流言の流布と自警団
        7
  警察官憲の明答を求む
                            法学博士 上 杉 慎 吉
 私は数百万市民の疑惑を代表して、簡単に左記の五箇条を挙げて、警察官憲の責任に関し明答を得たいと思ふ。
 1、9月2日から3日に亘り、震災地一帯に○○襲来放火暴行の訛伝謡言が伝播
   し、人心極度の不安に陥り、関東全体を挙げて動乱の情況を呈するに至った
   のは、主として警察官憲が自動車ポスター口達者の主張に依る大袈裟なる 
   宣伝に由れることは、市民を挙げて目撃体験せる疑うるべからざる事実であ
   る。然るに其の後右は全然事実に非ずして虚報であったと云ふことは、官憲 
   の極力言明して打消して居る所である。然らば警察官憲が無根の流言蜚語 
   を流布して民心を騒がせ、震災の惨禍を一層大ならしめたるに対して責任を
   負はなければなるまい。


 2、当時警察官憲は人民に向けて○○○○の検挙に積極的に助力すべく自衛 
   自警すべきことを極力勧誘し、武器の携帯を容認したのであった。而して手に
   余らば殺しても差支なきものと、一般をして何となく信ぜしめたのである。而し
   て之を信じて殴打撃殺を行った者は到る処に少なからぬのである。此れ等の
   自警団其の他の暴行者は素より検挙処罰するべきこと当然であるが、さて之
   に対する官憲の責任如何。


 3、仮りに警察官憲が之を勧誘教唆したのではないとしても、彼の場合にあれだ
   けの大騒擾大暴動を起して、之を予防も鎮圧も出来なかったと云ふ、職務を
   尽くさざりしの責任はどうする。

 4、当時警察官憲は各種の人民を見界なく検挙して殴打した。遂に之を殺戮し、
   其死体は焼棄てたと云ふことは亀戸事件にも見えて居る。此の警察官憲の 
   暴行には軍隊も協同したと云ふことであるが、警察官憲は無責任と云ふわけ
   には行くまい。


 5、憲兵が大杉を殺した事件には警察官憲の諒解承認又は依頼勧誘があったも
   のんと疑われて居る。
    既に疑いがあれば、憲兵方面では甘粕大尉が軍法会議に移されたと云ふ 
   だけで、大杉と野枝と子供と3人を殺したと云ふ事実はまだ疑わしいのに、断
   然司令官迄が責を引きたるが如く警察や政府の方面でも、即時罷免其他責
   任を明にする処置は執らねばならぬであろう。詳しく論ずれば論じ度きこと多
   くあるが、明瞭を期する為、右の5点の要領を述べる。之を述べる所以は、こ
   れだけの事が、明にならぬと云ふと、数百万市民の胸が、治まらぬからであ 
   る。(談)
                          (国民新聞 大正12・10・13夕刊)



        8   
  今頃になって検挙とは何事ぞ
     関東自警団同盟から内相法相に詰問状
 新時代協会菊地義郎氏外32名、労働共済会中西雄洞氏外52名、自由法曹会野田季吉氏外12名、城南荘菊池良一氏外数名、満鉄調査課綾川武治氏外8名発起となり市内各区に設けられた自警団を傘下に集めてこんご関東自警団同盟を組織し昨今各方面に火の手をあげている自警団の検挙騒ぎに対する対抗策を講じた結果左の決議を可決しこれを内相法相に致すことになった。

 我等は当局に対して左の事項を訊す。

一、流言の出所に付 当局が其の責を負はず 之を民衆に転嫁せんとする理由如
   何。
一、当局が目のあたり自警団の暴行を放任し 後日に至りその罪を問はんとする
   理由如何。
一、自警団の罪悪のみ 独り之を天下にあばき、幾多警官の暴行は之を秘せんと
   する理由如何。

 我等は当局に対し左の事項を要求す。
一、過失により犯したる自警団の傷害罪は悉く之を免ずること。
一、過失により犯したる自警団員の殺人罪は悉く異例の恩典に浴せしめること
一、自警団員中の功労者を表彰し特に警備のため命を失ひたる者の遺族に対し
   ては適当の慰藉の方法をとること。


  死を賭して汚名を雪ぐ
     流言者は果たして誰か
        幹部の恐ろしい鼻息
 なほこの外檄文三千枚を印刷して各方面に配布し、われわれは内相等に陳情するのではなくて抗議するのだと恐ろしい鼻息だが幹部の菊池義郎氏曰く
 「某々方面より鮮人襲来の惧あり、男子は武装せよ。女子は避難せよ、○○と見れば、○しても差し支えないとふれまはつたのは何者であったか、当局は、これを横浜に強盗を働いた某々等の宣伝であると云ふも直接我等に伝へたものは、明らかに他にあった。ところが今日になって自警団の功績は、ことごとく顧みられず全国七千万の同胞から兇器無頼の悪徒と見られ、事情を知らざる外人よりは血に飢えた蛮人のように誤解されている。尤も中には殺人強盗を働いたえせ団員もまじっていたけれどもこれ等はわれ等の仲間ではなく、われ等の責任を負うべきものではない。そこで名誉恢復の為に決議を当局に致すことになったのだが、汚名をそそがぬ以上は一同死すともやまぬ決心である。」                                              (東京日々新聞 大正12・10・23) 
 


        9
  角笛 事実三つ
 自警団の殺傷沙汰はまことに遺憾にたえない。
 無論法の命ずるところに従って、厳罰に処せられるべきであろうが、同時に自警団をしてこの過誤におちいらしめた責任者がいまだ一人も表面にあらわれないのは何事であろう。若しこのままで葬るならばでく人形に使われたる自警団員のうらみはとも角、国法の威信はどうなるであろう。私は三田警察署長に質問する。9月2日の夜××襲来の警報を、貴下の部下から受けた私どもが御注意によって自警団を組織した時「××と見たらば本署につれてこい、抵抗したらば○しても差し支えない」と親しく貴下からうけたまはった。あの一言は寝言であったのか、それとも証拠のないのをよいことに、覚えがないと否定さるるのか、如何(四国町自警団の一人)
 私は巣鴨の住人だが、巣鴨警察署は、警察用紙へ「井戸に毒を投ずるものあり各自注意せよ」と書いて各所へはり出した、次に「脱獄者数十名あり警戒を要す」その他(以下3行けずる)などつたへ、われわれが竹槍やピストルを持って辻を堅めてゐると、巡回の警官は 禁じもせずかえって「御苦労様」とあいさつしてあるいた。いまさら責任を自警団にのみ負はせるとは何事だ(渡辺清三)
 9月2日午前10時ごろの事だ。野宿の私どもの所へ官服着用の警官が来て「12時前後に昨日以上の大地震がある」とふれまはった。2時頃に前同様「3時に激震」ともふれた。無論虚説だった。
 附近の食品屋や酒屋は警官の徴発にあった。一杯気嫌の警官が行人に難癖をつけてこまらせている実情も私は見た。


  自警団の兇行
    普通犯罪と同視するのは何うか
      某法学博士談

 震災当時各所において演出された自警団の兇行は言語道断であるが、… 平素想像だも及ばぬ兇行を平気でやり甚だしきは凶行後直に警察署に出頭して恩賞を要請したものがあるなど……現に埼玉県下は郡村長にあてておだやかならぬ移牒文さへ発表されたではないか。
 これは独り埼玉県下にかぎった問題でなく、他の府県にもありそうに懸念さるるから余程考えてかからねばならぬ。下手をすると藪蛇になる。政府の藪蛇は問ふところでないとしても帝国の中外に対する信義如何せんやだ。
 次に亀戸事件について一言したい。政府は本件に対しては単に衛戍規則により殺害したとのみで具体的説明を避けているが、衛戍規則とて無暗に人を殺していいとは書いていない。
 多分、「多数集合して暴行をなすに当たり兵器を用ふるに非ざれば鎮圧の手段なきとき」の条項をあてはめていふのであろうが果たしてその程度のものであったかどうかは具体的説明をなさなければならぬ。 
                         (東京日々新聞 大正12・10・22) 
 


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