真実を知りたい-NO2                  林 俊嶺

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関東大震災 違法違令の戒厳令施行

2011年10月22日 | 国際・政治
 「現代史資料(6)関東大震災と朝鮮人」には、大正12年10月13日付けの河北新聞の記事が収録されているが、そこに「現在布かている戒厳令は空前の震災に際し、臨機の処置として執られた手段で世間一般には已むを得ざるものと認めているが、発令当時の事情が明かとなるに従ひ違法違令の批難を免れぬこととなった。元来この戒厳令は前内閣の手に依って布かれたもので、政府は去月1日震災と同時に閣議を開き、既に一応戒厳必要を内定したが同日中に異論が現れたらしく、既に枢密院の諮詢を仰がんがため、内閣各顧問は二手に分かれて各顧問官の許に急使を派することになってゐたのを、一方の使は取止め他方内閣一書記官が廻った方では伊東伯を始め数名の顧問官が各別に首相官邸に参集し、その際内田臨時首相から戒厳令の方は止めたが取敢えず日ならず出兵することにしたといって、枢府側の諒解を求めたのに徴しても分る。…」とある。戒厳令は違法違令であるというのである。

 下記、戒厳令第1条に「戒厳令は戦時若くは事変に際し兵備を以て全国若くは一地方を警戒するの法とす。」とあるが、関東大震災は自然災害であり、 戦争でも事変でもない。しかし、朝鮮人や社会主義者の反乱に対する恐怖心が強かったのか、あるいは、これを機に反乱の可能性のある人物や反体制的な人物、及びその組織を潰そうとしたのか、戒厳令を発令する要件を備えていないにもかかわらず、戒厳令を施行したのである。戒厳令を公布するには緊急勅令を出すことが法律で定められていたが、勅令に不可欠だった枢密院の諮詢がなく、手続き的にも問題があった。

 9月2日に内務省警保局長後藤文夫が発した各地方長官宛ての電文(「303 関東大震災 流言蜚語と朝鮮人虐殺」参照)から、戒厳令施行の根拠が、朝鮮人の不逞行為(放火、爆弾の投擲、井戸への毒物投入、略奪・暴行・強姦、組織的襲撃等の流言蜚語)であったことが読み取れるが、下記資料1の永野錬太郎(当時の内務大臣)の談話で、それが裏付けられている。したがって、流言蜚語によって戒厳令が施行されたことになるが、もしかしたら、逆に戒厳令を施行するために流言蜚語を流し、軍を動かして朝鮮人や中国人、社会主義者などを虐殺したのではないか、と疑われる面もある。
資料1------------------------------
          1 治安当局の所感と戒厳令の公布

   
 ・・・
 翌朝(2日ー編者)になると人心恟々たる裡に、どこからともなくあらぬ朝鮮人騒ぎ迄起つた。大木鉄相の如きも朝鮮人攻め来るの報を盛んに多摩川辺で噂して騒いでゐるといふ報告を齎らした。早速警視総監を喚んで聞いてみるとそういふ流言蜚語がどこからともなしに行われてゐるとの事であった。そんな風ではどう処置すべきか、場合が場合故種々考へても見たが、結局戒厳令を施行するの外はあるまいといふ事を決した。
 然るに徴発令にしても、戒厳令一部施行にしても、枢密院の議を経ねばならぬ、依て書記官長にも来て貰って、種々相談をかけたが、議長始め顧問官の所在も不明であり、又参集を乞ふにも通知の仕様もなく迎へにやる手段もないので途方に暮れた。さればとて、手続きが出来ないからといふて、放任しておく訳に行かぬので、総理以下議を凝らして内閣の責任を以て御裁可を仰がうといふ事に決した。
(東京市政調査会編)「密都復興秘録」永野錬太郎談話


資料2------------------------------
   7
 朕茲に緊急の必要ありと認め、帝国憲法第8条に依り、一定の地域に戒厳令中必要の規定を適用するの件を裁可し、之を公布せしむ。
  御名御璽
  摂  政  名
   大正12年9月2日
                         内閣総理大臣伯爵  内田 康哉
                           外務大臣伯爵  内田 康哉
                           鉄道大臣伯爵  大木 遠吉
                           陸 軍  大 臣  山梨 半造
                           司 法  大 臣  岡野敬次郎 
                           内 務  大 臣  水野錬太郎
                           農商務 大 臣  荒井賢太郎
                           大 蔵  大 臣  市来 乙彦
                           文 部 大 臣  鎌田 栄吉
逓信大臣子爵  前田 利定
 勅令第398号
 一定の地域を限り別に勅令の定むる所に依り、戒厳令中必要の規定を適用することを得。
    附  則  
 本令は公布の日より之を施行す
 朕大正12年勅令第398号の施行に関する任を裁可し、茲に之を公布せしむ。
  御名御璽
  摂  政  名
   大正12年9月2日 
                         内閣総理大臣伯爵  内田 康哉
                           陸 軍 大 臣 山梨 半造 
 勅令第399号
 大正12年勅令第399号に依り、左の区域に戒厳令第9条及第14条の規定を適用す、但し同条中司令官の職務は東京衛戍司令官之を行ふ。
 東京市、荏原郡、豊多摩郡、北豊島郡、南足立郡、南葛飾郡、
    附則
 本令は、公布の日より之を施行す。〔震災関係法全集〕


 <参考> 戒 厳 令
 第1条 戒厳令は戦時若くは事変に際し兵備を以て全国若くは一地方を警戒す
      るの法とす。

 第2条 戒厳は臨戦地境と合囲地境との2種に分つ
  第1 臨戦地境は戦時若くは事変に際し警戒す可き地方を区画して臨戦の区
     域と為す者なり
  第2 合囲地境は敵の合囲若くは攻撃其他の事変に際し警戒す可き地方を区
     画して合囲の区境と為す者なり
 第3条 戒厳は時機に応じ其要す可き地境を区画して之を布告す
 第4条 戦時に際し鎮台営所要塞海軍港鎮守府海軍造船所等遽かに合囲若く
     は攻撃を受くる時は其他の司令官臨時戒厳を宣告する事を得又戦略上臨
     機の処分を要する時は出征の司令官之を宣告する事を得
 第5条 平時土寇を鎮定する為臨時戒厳を要する場合に於ては其地の司令官
     速かに上奏して命を請ふ可し若し時機切迫して通信断絶し命を請ふの道
     なき時は直に戒厳を宣告する事を得
 第6条 軍団長師団長旅団長鎮台営所要塞司令官域は艦隊司令官鎮守府長官
     若くは特命司令官は戒厳を宣告し得るの権ある司令官とす 
 第7条 戒厳の宣告を為したる時は直ちに其状勢及び事由を具して之を太政官
     に上申す可但其隷属する所の長官には別に之を具申す可し
 第8条 戒厳の宣告は曩に布告したる所の臨戦若くは合囲地境の区画を改定す
     る事を得
 第9条 臨戦地境内に於ては地方行政事務及び司法事務の軍事に関係ある事
     件を限り其他の司令官に管掌の権を委する者とす故に地方官方裁判官
     及び検察官は其戒厳の布告若くは宣告ある時は速かに該司令官就て其
     指揮を請ふ可し
 第10条 合囲地境内に於ては地方行政事務及び司法事務は其地の司令官に管
     掌の権を委する者とす故に地方官地方裁判所及び検察官は其戒厳の布
     告若くは宣告ある時は速かに該司令官に就て其指揮を請ふ可し
 第11条 合囲地境内に於ては軍事に係る民事及び左に開列する犯罪に係る者
     は総て軍衙に於ての裁判す

  刑法 
   第2編
  第1章 皇室に対する罪
  第2章 国事に関する罪
  第3章 静謐を害する罪
  第4章 信用を害する罪
  第5章 官吏瀆職の罪

   第3編
  第1章
  第1節 謀殺故殺の罪
  第2節 殴打創傷の罪
  第6節 擅に人を逮捕監禁する罪
  第7節 脅迫の罪
  第2章 
  第2節 強盗の罪
  第7節 放火失火の罪
  第8節 洪水の罪
  第9節 船舶を覆没する罪
  第10節 家屋物品を毀損し及び動植物を害する罪
 第12条 合囲地境内に裁判所なく又其管轄裁判所と通信断絶せし時は民事刑
     事の別なく総て軍衙の裁判に属す
 第13条 合囲地境内に於ける軍衙の裁判に対しては控訴上告を為すことを得
     ず。
 第14条 戒厳地境内に於ては司令官左に配列の 諸件を執行する権を有す但
     其執行より生ずる損害は要償する事を得ず
 第1 集会若くは新聞雑誌広告の時勢に妨害ありと認むる者を停止する事
 第2 軍需に供す可き民有の諸物品を調査し又時機に依り其輸出を禁止する事
 第3 銃砲弾薬兵器火具其他危険に渉る諸物品を所有する者ある時は之を検査
    し時機に依り押収する事
 第4 郵信電報を開緘し出入の船舶及び諸物品を検査し竝に陸海通路を停止す
    る事
 第5 戦状に依り止むを得ざる場合に於ては人民の動産不動産を破壊燬焼する
    事
 第6 合囲地境内に於ては昼夜の別なく人民の家屋建造物船舶に立ち入り察す
    る事
 第7 合囲地境内に寄宿する者ある時は時機に依り其地を退去せしむる事
 第15条 戒厳は平定の後と雖ども解止の布告若くは宣告を受くるの日迄は其効
    力を有する者とす
 第16条 戒厳解止の日より地元行政事務司法事務及び裁判権は総て其常例に
    復す
 ○第37号(8月5日輪郭付陸軍卿海軍卿連署)
  凡そ法律規則中戦時と称するは外患又は内乱あるに際し布告を以て定むるものとす


   8
 朕茲に緊急の必要ありと認め、帝国憲法第8条に依り、非常徴発令を裁可し、之を公布せしむ
  御名御璽
  摂  政  名
   大正12年9月2日
                         内閣総理大臣伯爵  内田 康哉
                           外務大臣伯爵  内田 康哉
                           鉄道大臣伯爵  大木 遠吉
                           陸 軍  大 臣  山梨 半造
                           司 法  大 臣  岡野敬次郎 
                           内 務  大 臣  水野錬太郎
                           農商務 大 臣  荒井賢太郎
                           大 蔵  大 臣  市来 乙彦
                           文 部  大 臣 鎌田 栄吉
逓信大臣子爵  前田 利定
                           海軍大臣子爵  財 部 彪
 勅令第396号
   
非常徴発令
 第1条 大正12年9月1日の地震に基く被害者の救済に必要なる食糧、建築材
     料、衛生材料、運搬具、其の他の物件、又は労務は内務大臣に於て必要
     と認むるときは、其の非常徴発を命ずることを得
 第2条 非常徴発は、地方長官の徴発書を以て之を行ふ
 第3条 非常徴発を命ぜられたるもの、徴発の命令を拒み、又は徴発物件を蔵
      匿したるときは、直に之を徴用することを得 
 第4条 徴発物件又は労務に対する賠償は、其の平均価格に依り難きものは、
      評価委員の評定する所に依る。
 第5条 非常徴発の命令を拒み、又は徴発物件を蔵匿したるものは3年以下の
      禁錮又は3千円以下の罰金に処す、徴発し得べき物品に関し、当該官
      吏員に対し、申告を拒み、又は虚偽の申告を為したるもの亦同じ
 第6条 徴発物件の種類、賠償の手続き、評価委員の組織、其の他本令の施行
      に必要なる規定は内務大臣之を定む
       附  則   
 本令は、公布の日より之を施行す     〔震災関係法全集〕


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