真実を知りたい-NO2                  林 俊嶺

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関東大震災後の朝鮮人等虐殺事件 吉野作造の対応

2011年10月30日 | 国際・政治
 関東大震災直後、多くの朝鮮人や中国人、社会主義者等が虐殺されたことに対し吉野作造は敏感に反応し、活発に動いた。下記の「決議」の提出やマスメディアへの意見発表は、その一端である。
 吉野作造は、埼玉県の「不逞鮮人暴動に関する件」の移牒文や、船橋送信所か ら各地方長官宛てに送られた内務省警保局長発の電文などを取り上げ、「当時、此の流言に対する官憲及び軍憲の処置が、当を得ざりし事は之を認めざるを得ない」と、流言蜚語に対する国家責任を厳しく追及しつつ、直接手を下した自警団員はもちろん、流言蜚語を信じた民衆もその責任から逃れることはできないと論じ、なすべき事を提起しているのである。
 「鮮人の陰謀並に鮮人と主義者との通謀」などによる組織的活動などなかったにもかかわらず、多くの朝鮮人や中国人、社会主義者を虐殺してしまった。したがって、先ず「犠牲者に対する救恤乃至賠償」を、と吉野作造は呼びかけたのである。しかし、民間の一部にそうした動きはあったようであるが、国は動かなかった。むしろ逆に、国は不祥事の隠蔽に動いたのである。
 吉野作造の取り組みは貴重であり、忘れられてはならないと思う。資料1は「関東大震災時の朝鮮人虐殺 その国家責任と民衆責任」山田昭次(創史社)から、資料2は「現代史資料(6)関東大震災と朝鮮人」から抜粋した。

資料1-------------------------------
     第5章 日本国家と虐殺された朝鮮人をめぐる追悼・抗議運動

 1 日本人の抗議や反省をこめた追悼運動

 吉野作造ら学者とキリスト教徒の動き

 23年10月20日、「23日会」を代表して吉野作造と堀江帰一は、山本権兵衛首相、後藤新平内相、平沼騏一郎法相、岡田忠彦家警保局長に下記の決議を提出した。

 「決議
1、鮮人の陰謀並に鮮人と主義者との通謀の有無に関する調査事項を公表すべし
2、前記事実の如何に拘らず鮮人殺傷の不祥事を発生せしめたる流言に付て飽く
  までその出所を糾し、その責任を明にすべし。
3、流言の横行を取締らず民情の激情に由る暴行を放任せるに対し当局はその責
  任の帰属を明にすべし。
4、朝鮮人死傷者数、被害の場所並に被害の状況を出来る丈詳細に公表すべし。
5、目下保護中の鮮人に対しては、成るたけその希望に応じ帰国の便を図る等便
  宜の処置を執るべし。特に負傷者に対しては、相当の手当を加え遺憾なきを期
  すべし。
6、鮮人殺傷の犯罪に対しては法の厳正な適用を期すべし。
7、速に本件に関する言論自由の禁令を解くべし。」(中央新聞23・10・22)

 ・・・(以下略)

資料2-------------------------------
              18 人民による事件調査

 10
 
 1、朝鮮人虐殺事件について
                                 法学博士  吉野作造

 ・・・
       ○ 
 殺された鮮人の大部分が無辜の良民であつたと云ふ事は当局でも断言して居るが流言の如き事実が鮮人の間になかつたかと云ふ事に就いては、久しく疑問とされて居つた。
 民衆の昂奮余りに軌を逸するを見てや、当局は瀕りに慰撫の警告を発して、鮮人の多数は無害の良民なり。妄りに之に危害を加ふる事なからんことを諭した。併し乍ら一度び誤り信じた民衆の感情は、容易に納まるべくもない。当局の戒告に拘わらず鮮人暴行を説くものは今日尚頗る多いではないか。斯くして鮮人の我々の間に於ける雑居は、今日尚充分安全ではない。当局にして之を矯めやうとするならば、実はもつともつと民衆に向かつて啓蒙的戒告に努むべきであつた。この点に於て我々は当局の態度の頗る冷淡であつたことを遺憾とする。単にそればかりではない。時々鮮人と社会主義者とが通謀して恐るべき不敵の企てをなせるものあり、などの記事を新聞に発表せしめて、却て民衆の感情をそそる様な事もあつた。兎に角事実は久しく曖昧模糊の中に隠されてゐた。従つて我々も当局の態度に対し種々の疑を持つたのであるが、此頃に至つて段々事実の発表を見て少なからず疑を解く事ができたのである。


 日本人と鮮人との××に関する報道は今尚公表を禁じられて居るから、今は説かない。併し之を以て大袈裟な組織的陰謀とみるべからざる事だけは疑ないらしい。若しそれ震災に乗ぜる鮮人の突発的暴動に至つては、先月下旬の公表に数十名の夫れを算ふると雖も、大部分皆殺されて居るのだから、冷静な判断としてはどれ丈けの暴行をしたのか分からぬと云ふの外はない。
 よしあつたところが、あの位の火事泥は内地人にも多い。普通あゝ云ふ場合にあり勝ちの出来事で、特に朝鮮人が朝鮮人たるの故を以て日本人に加へた暴行と云ふ訳には行かない。況や2、3の鮮人が暴行したからとて凡ての朝鮮人が同じ様な暴行をすると断ずる訳には行かぬではないか、泥棒が東に走つたら東へ行く奴は皆泥棒だと云ふやうな態度だつた。殊に鮮人の暴行に対する国民的復讐として、手当り次第、老若男女の区別なく、鮮人を鏖殺するに至つては、世界の舞台に顔向け出来ぬ程の大恥辱ではないか。


     
 鮮人虐殺事件に就き差当り善後策として、何よりも先に講ぜねばならぬのは、犠牲者に対する救恤乃至賠償であろう。若し之が外国人であつたら喧しい外交問題が惹き起されて居る筈だ。朝鮮は日本の版図だからと云つて不問に附することを得べき問題ではない。尤も殺された者の多数は労働者などであるから、氏名も判らず、遺族の明らかならぬも多かろう。かういふものに対しては、救恤賠償に代へるに、将来一般朝鮮人の利益幸福に資すべき設備の提供を以てするがいいかとも思ふ。

 要するに、僕は此際鮮人虐殺に対する内地人の、謂はば国民的悔恨若しくは謝意を表するが為めに、何等かの具体的方策を講ずるの必要を認むるものである。而して特に之を主張するは、只に日鮮融和の政略上よりするのではなく、寧ろ之を以て大国民としての我々の当然なる道徳的義務と信ずるからである。


       ○
 更に進んで、我々は自らの態度を深く反省して見るの必要を感ずる。我々は平素朝鮮人を弟分だといふ。お互いに相助けて東洋の文化開発の為めに尽さうではないかといふ。然るに一朝の流言に惑ふて無害の弟分に浴せるに暴虐なる民族的憎悪を以てするは、言語道断の一大恥辱ではないか、併し乍ら顧ればこれ皆在来の教育の罪だ。此所にも考察を要する問題が沢山あるが、これらは他日の論究にゆずり、只一言これを機会に、今後啓蒙的教育運動が民間に盛行競られん事を希望しておく。
                         (中央公論 大正12年12月11日)



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コメント (1)
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