NHKは、2023年1月1日”混迷の世紀「世界は平和と秩序を取り戻せるか」”と題して、ウクライナ出身のジャーナリストでノーベル平和賞作家、スベトラーナ・アレクシェビッチ氏のインタビューを放映しました。
また、朝日新聞は1月1日朝刊のトップ記事で、関田航氏撮影のスベトラーナ・アレクシェビッチ氏の大きな写真とともに、根元晃氏のインタビュー内容を掲載しました。
彼女の著書、『戦争は女の顔をしていない』や『アフガン帰還兵の証言』、『チェルノブイリの祈り』 などは、日本でも出版されており、広く知られていると思います。
私は、原発事故の問題を取り上げているときに『チェルノブイリの祈り』を手にしたことがありますが、スベトラーナ・アレクシェビッチ氏という人は、一般市民の視点で、ロシアという国の問題を深くとらえていると思いました。
だから、戦争がなければ今回のような報道はとても意味のあることだと思います。でも今、ロシアとウクライナは戦争をしています。戦争中にこうした報道をすることは適切ではないと思いました。停戦・和解を遠ざけ、難しくすると思ったのです。
2023年の1月1日、NHKと朝日新聞が、スベトラーナ・アレクシェビッチ氏を取り上げたのは、偶然の一致でしょうか。
報道の意図はわかりませんが、ウクライナ戦争が続いている新しい年のはじめに、反ロの感情を幅広く、深く日本人に浸透させるような内容の報道をすれば、もともと停戦・和解をする気のないアメリカの戦略に沿うかたちで、戦争継続を支持する雰囲気をつくり出すことになり、多くの人びとを苦しめ、犠牲者を増やすことになる、と私は思います。
ロシアという国にさまざまな問題があるとしても、ロシアは潰さなければならない国ではない、と私は思います。政権転覆しなければならない国でもない、と私は思います。停戦・和解は可能だと思うのです。今は停戦・和解を最優先すべきだと思います。
私は、国際社会の平和と安定のためには、ロシアよりもむしろアメリカの方に問題が多いと思っています。アメリカは、六十を超す国々に大きな「基地」を持ち、隠然たる影響力を行使しつつ、第二次世界大戦後もいたるところで武力行使をしてきました。下記の抜粋文にあるように、他国の主権を侵害するような条約や協定を改めず、不平等な関係も維持しています。
下記は、「在韓米軍 犯罪白書 駐韓米軍犯罪根絶のための運動本部」徐勝+広瀬貴子(青木書店)から「Ⅱ 米軍犯罪の実態と原因」の一部を抜萃したものですが、韓国にも、日本とほぼ同じようなアメリカによる隠然たる支配や理不尽な主権侵害があることがわかります。
同書には”駐韓米軍は、自分たちが韓国国民を守るために来ているという傲慢な考えに浸っている。”などという文章もありますが、私も、アメリカが他国に基地を置いている第一目的は、アメリカの覇権と利益の維持拡大だろうと思います。
だから、著者の徐勝(ソスン)氏がいうように、”アジアから米軍を撤退させる”ことによって、アメリカの隠然たる支配を終わらせ、自立した国家による国際機関をつくらなければ、超大国のエゴによる戦争がくり返され、同盟国や弱小国が、望むと望まざるにかかわらず、巻き込まれることになると思います。
ウクライナ戦争がはじまる前、バイデン米大統領は、”ロシアがウクライナに侵攻したら、独ロを結ぶガスパイプライン「ノルドストリーム2」を終らせる”と強調したことが報道されました。”ドイツの管理下にある事業をどう止めるのか”という質問には”われわれにはそれが可能だ”と述べたということも報道されました。そして、現実にガスパイプライン「ノルドストリーム2」は爆破され、だれが爆破したのかは曖昧のままです。
ウクライナ戦争の背景にあるこうした現実に目をつぶってならないと思います。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
Ⅱ 米軍犯罪の実態と原因
1 米軍犯罪の実態と処理現況
米軍犯罪は1945年9月8日に米軍が駐屯して以来、一日もやむことなく続いている社会現象である。 45年の米軍駐屯以後、10万件を超える米軍犯罪が発生した。韓国法廷で処罰されたのは97年10月現在で、そのうちの平均1~2%にすぎない。韓米行政協定発効後の67から87年の20年間に発生した米軍犯罪の総数は3万9,452件で、一日平均5件、年平均2200件である(犯罪にかかわった米軍関係者は4万5174人)。これに対し、韓国政府による裁判権行使率は0.7%である。
また、この期間に申告された韓国人女性の強姦事件は72件である。報道されなかった事件および韓米行政協定の発効前である67年以前の事件まで含めると、米軍関係者によって強姦された韓国人女性は100人をはるかに超えるであろう。強姦と強盗は67~87年の20年間に最も高い比率となっている。
80年以後、駐韓米軍を相手とする売春女性のなかで、自然死とは異なるなんらかの原因(他殺、疑問死など)による死亡者数は27人にのぼることが明らかにされている。92年から97年10月までに米軍関係者に殺害された女性は7人である。(このうち3人は米兵と結婚した女性であり、3人は売春女性)米軍犯罪の発生件数および傾向も少しずつ変化した。
96年の政府統計によると、93年から96年6月までに2293件の米軍犯罪が発生した(一日平均1.8件)。このうち韓国政府が裁判権を行使したのはたった107件であり、93年以降の米軍犯罪に対する裁判権行使率は2%である。(97年1~8月の米軍犯罪480件、裁判権行使率7.3%)。
これは警察の手で立件された犯罪の統計である。基地村の住民や売春女性の場合、犯罪にあっても申告すること自体をはばかる場合が多いので、現実の被害規模は表面化したものよりはるかに深刻である。
1990年代に入ってからは、年平均1000件と米軍犯罪が減少していることがわかる。
犯罪の内訳も、暴力および交通死亡が最も高い順位を占めている。これは駐韓米軍の兵力が3万
7000人に縮小されたたこと、また1980年代後半から韓国で「反米意識」が広がったことと深く関係している。また、1992年10月、米兵による尹クミ氏殺害事件をきっかけとして、「駐韓米軍犯罪根絶のための運動本部」が結成され、米軍犯罪の根絶および韓米行政協定の改定を世論に訴え続けてきたことも米軍犯罪の抑制につながっている。
米軍犯罪被害に対する損害賠償はほとんどされなかった
駐韓米軍により被害にあった韓国人は、損害賠償も満足に受けることができない。法的には損害賠償手続きがあるが、韓国人の権利はごく限られたものである。損害賠償申請をしたところで結果がでるまでには少なくとも一年以上かかり、手続きや規定が複雑で実際にはほとんど被害者の役に立たない。賠償は被害者の権利の面からも重要であるが、賠償がきちんとおこなわれた場合、米軍犯罪を抑制する効果をもつという点でも重要である。
2 米軍犯罪の発生原因と問題点
米軍犯罪のの根底には不平等な韓米関係という構造的な問題がある。米軍犯罪は米軍の傲慢さと占領軍的な態度、事大主義的な韓国政府、不平等な韓米行政協定という三つの要因がはたらいて生まれたものである。
(1) 不平等な韓米行政協定
米軍犯罪に対する処罰を実質的に妨げているのは、「韓米行政協定」と呼ばれる「大韓民国とアメリカ合衆国間の相互防衛条約第四条による施設と区域、および大韓民国における「合衆国軍隊の地位に関する協定」(Agreement under Article 4 of the Mutual Defence Treaty between the Republic of Korean and the United States of America, Regarding Facilities, and Areas and the Status of United States Armed Forces in the Republic of Korea) である。(略称SOSA〔ROK-US Status of Force Agreement〕)。
韓米行政協定の呼称は、米国が上院の批准を要さない政府間の行政協定という立場をとっていることを示す。韓国では国会の批准を経ており、駐韓米軍地位協定(あるいは韓米駐屯軍地位協定)が本来の呼称といえる。韓米行政協定は本文と付属文書である合意議事録、了解事項など三つの文書で構成されており、三つの文書は31カ条と各条に含まれる数十の条項で構成される膨大な内容となっている。
韓米相互防衛条約は朝鮮戦争末期である1953年に締結された。これに対し、駐韓米軍の基地使用、法的身分、民事請求権、通関、関税特恵などに関する規定である韓米行政協定はその14年後にようやく締結された。防衛条約の締結と同時に結ばれるべき協定が、このように長期にわたって放置されていたのは、台湾(45年、米華相互条約。65年、在華米軍地位協定)を除いて、NATOや日本はもちろん、フィリピンと比べても異例である。
駐屯軍地位協定のなかで最も理想的な例は51年に締結されたNATO協定であり、韓米行政協定も協定条文からみればこれにならったものだといえるが、付属文書である合意議事録、了解事項によって本協定の内容が歪曲変質し、受入れ国である韓国の主権が大きく侵害されたものとなった。
韓米行政協定は1967年に発効し、91年に改定されたが、もっとも重要な本文は手をつけられず下位規定だけの部分的な手直しにとどまった。95年11月、韓米両軍は再び改正のための会談に入ったが、96年10月の七次交渉後は、なんの進展もみていない。97年5月22日にワシントンで開かれた韓米政策協議会において米国側は、韓米行政協定改正に関する両国の立場があまりにも違うとして延期を主張した。結局米国は5月27日、韓国外務部に今年は韓米行政協定改正交渉をおこなわないという立場を示して、改正会談は中断された。
労働法、安全企画部法の改悪には、早朝のぬきうちによる強行採決も辞さなかった金泳三政府が、国民の人権と生命を侵害する韓米行政協定の改正問題では、米国の一声になすすべを知らなかった。
現行協定中、米軍犯罪と関連が深い第22条、刑事管轄権の不平等条項を調べてみると次のようになる。(第22条1項)
米軍軍属や軍人の家族は犯罪をおこしても処罰することはできない。
米兵の家族や軍属が犯罪をおこしたときには、米軍が刑事管轄権を行使する。では米軍は軍人のかぞくや軍属の犯罪をきちんと処罰するだろうか? そうではない。1960年、米国連邦裁判所は軍属と軍人の家族を軍法会議において裁判することを違憲だとする判決を下した。しかも韓米行政協定の合意議事録には、「平和時、合衆国軍当局は軍族および軍人の家族に対して有効な刑事裁判権を持たない」とあるため、米軍当局は軍人の家族や軍属の犯罪に対しては行政的措置のみが可能である。
NATO協定の場合、該当国家は軍属と軍人の家族にも裁判権を行使できるように保障されており、それとはきわめて対照的である。
韓国に専属管轄権が保障されている事件の場合にも、米国側が要請するならば韓国は専属管轄権を放棄しうる。(合意議事録第22条2項)
米軍犯罪に対する刑事管轄権は、韓米どちらか一方 の当事国が排他的に行使しうる「専属的管轄権」と、韓米両国ともに行使しうる「共同管轄権」に分けられる。ところがこの条項によると、韓国側に専属管轄権が保障されている場合にも、米国が要請すれば韓国は放棄できるようになっている。
刑が確定し韓国刑務所に収監中の米兵も、いつでも本国に帰ることができる(合意議事録第ニニ条、七項)
1987年に東豆川のタクシー運転手が殺された事件をみてみよう。正当にタクシー料金を要求した運転手を米兵がカミソリで殺害したのであるが、被告はわずか3年の刑を宣告されただけであった。そしてしばらく韓国刑務所で服役したが米国の要請により本国に送還され、不名誉除隊とすることで事件は集結した。これは韓国法院の宣告の効力を実質的に無力化させるものである。
駐韓米軍には裁判を拒否する権利がある。(合意議事録第ニニ条第九項(1)身分に応じた軍服や私服の着用を認め、手錠をかけないことなど、合衆国軍隊の威信にふさわしい条件でなければ裁判を拒否する権利をもつ)
これは韓国の司法を信用せず、裁判を拒否する自由を米軍に与える結果を生んでいる。大韓民国の司法権を本質的に無視し、侵害するものである。米軍基地内で韓国のタクシー運転手と米兵とのあいだにいさかいがあったからといって現行犯でもないのに明確な捜査や証拠もないまま、運転手に手錠をかけ連行する米軍の態度とは対照的だある。
このほかにも公務執行中に発生した米軍犯罪については、米軍が一次的裁判権をもつようになっている。米兵が韓国人を殺したとしても公務中のことだと主張すれば、韓国政府はその米兵を処罰することはできない(公務中であるというのは米軍当局が発行した証明書があるかどうかによるが、これは米軍当局においてのみ発行されるようになっている)。韓米行政協定は米軍犯罪にに対する韓国人の人権と生命保護にはなんの役にも立たずむしろ米軍犯罪を合法化する「免罪符」になっている。
韓米行政協定の問題は第二ニ条にとどまらない。第五条には米軍基地の無償使用が規定されており、第四条には米軍基地返還時に原状回復義務をもたないと明示し、米軍基地の環境汚染に対する責任を回避している。これ以外にも米軍犯罪被害者の賠償申請を妨げる第二三条の民事請求権、韓国労務者の労働権を制約した第一七条労務条項をはじめとして米軍にのみ有利な内容が大部分である。韓米行政協定は一言で表すならば、米軍に特恵を与えるための合法的装置だということができる。
駐韓米軍の問題
駐韓米軍は、自分たちが韓国国民を守るために来ているという傲慢な考えに浸っている。
米軍は世界平和に寄与するという美名のもとに、攻撃的に教育、訓練されている。米軍犯罪を最も多くおこしている駐韓米軍の主力、第二師団の標語が「出生は偶然(Live by Chance)、愛は選択(Love by Choice)、殺人は職業(Kill by Profession) であるのは決して偶然ではない。また、米兵中の相当数が貧民出身であり、彼らはただ金もうけのために韓国に来ている(李承晩大統領の顧問であった米軍人ロバート・オリバーは、韓国駐屯米軍3万人中2000人はごろつきだと語った。米国の文筆家ケビン・ハードマンは在韓米兵を指して、アメリカ社会のありとあらゆる無能力者と犯罪者になる素質をもった人間たちだと、インターネットに一文を載せた〔97年9月〕)。
このような米兵の犯罪を助長しているのは、犯罪者に対する米軍当局の態度である。米軍当局は、刑事裁判で処罰されてしかるべき米兵に対しても、ほとんど注意、譴責などの懲戒で処理している。彼らにとって米軍犯罪による韓国人の被害は、ささいな問題にすぎない。
1992年10月、東豆川で米兵マークル・リー・ケネスにより尹クミ氏が殺害された際にも、当時の駐韓米軍司令官のロバート・W・リスカーシーは一言の謝罪や反省もなく次のように恩着せがましく語っている。
「最後に、両国間の緊密な繃帯関係の一環として米軍がここに来ているという事実に留意していただきたい。40年以上にもなる我々の友邦関係を通して、実に数十万人もの米兵が大韓民国の防衛に寄与するために自分たちの故郷と家庭を離れてここに来ており・・・」
(3)
米軍犯罪に対する韓国政府の裁判権行使率の低さは、米軍犯罪がほとんど放置されていることを立証するものである。韓国検察は殺人、強盗、強姦などの重犯罪にあたらない事件については、軽微であるとの理由でその大部分の裁判権行使を放棄している。韓国人の場合なら当然、拘束、起訴され厳重処罰される事件が、米軍の仕業なら、いつの間にか軽微な事件になってしまう。これは、駐韓米軍が韓国軍の戦時軍作戦指導権をもつ「上官」であるという問題に根ざしており、米軍が韓国の政治、軍事、経済、文化など全領域にわたり強大な影響力を行使しているためだ。
実際に被害者たちが最も苦痛に感じているのは、米軍犯罪に対する韓国捜査機関の姿勢である。第一線の警察では米軍犯罪が発生した場合、公正に捜査するのではなく、できるだけ事件を隠蔽しようとする。とくに米兵による被害や犯罪に遭った女性たちに対しては、米兵がどんな罪を犯したのか追及するのではなく、なぜ米兵とつきあったのかと責める態度になる。女性たちが最も多く被害に遭いながらも申告したがらない理由がここにある。