真実を知りたい-NO2                  林 俊嶺

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アメリカは、国際平和のためだ、と言って戦争する国

2023年07月03日 | 国際・政治

 しばらく前、朝日新聞の「考/論」に、高橋杉雄・防衛研究所・防衛政策研究室長の文章が出ていました。ウクライナ戦争推進論といえるような内容でした。下記です。

チョンハル橋への攻撃は、ミサイルの性能や射程を考慮すると、英国から供与された巡航ミサイル「ストーム・シャドー」が使われた可能性が高い。ロシアが大規模な兵站を構えるクリミアとウクライナ本土を結ぶルートは他にもあるが、遠回りなので一定程度はロシア側の補給が制限されそうだ。今後もウクライナによる補給路などへの攻撃が続くだろう。
 ウクライナ軍の反転攻勢はかなりの損害が出ているようだが、必死に守りを固めたロシア軍の陣地突破が容易でないのは想定の範囲内だ。重要なのは、防衛線を突破できたときに、後方に控える予備戦力を素早く投入できるかどうかだ。ウクライナ軍は、装甲性能に優れたドイツ製のレオパルト2をロシアの防衛線を突破するための戦力として投入した後、第2陣として使い慣れた旧ソ連製戦車で機動戦を展開するつもりでは。突破戦力の消耗は仕方ない。消耗のペースが想定を上回るかが問題だ。
 昨秋の北東部ハルキウ州では、ロシアの重要な補給拠点クピャンスクを奪還したことが、ウクライナ軍の電撃的な領土奪還につながった。今回も、例えば中南部サポりージャ方面の防衛線を突破し、アゾフ海沿いの各都市に通じる重要拠点のトクマクを奪還できれば、一帯の迅速な進軍が可能になるだろう。アゾフ海まで到達すればクリミア半島孤立させられる。そうなれば、クリミアで反攻を展開し、最後に東部ドンバス地方を狙うといったシナリオも描ける。

 まるで、悲惨なアジア・太平洋戦争がなかったかのような主張だと思います。再び日本は、こんな国になってしまったのかと思いました。
 自分自身や、自分の親・兄弟、親族、あるいは知人・友人が戦っている時も、”突破戦力の消耗は仕方ない。”などと言えるのでしょうか。人命軽視だと思います。私は、高橋杉雄氏の役職名を日本の防衛研究所・防衛政策研究室長ではなく、戦争推進研究所・戦争推進政策研究室長に改めるべきではないかとさえ思います。
 また、こうした考えの人ばかりを、日本の新聞やテレビ局などの主要メディアが、専門家と称してウクライナ戦争について語らせていることに、大きな問題があると思います。事実に反する大本営発表を流し続けた戦前・戦中の日本と変わらない状況になっているように思います。アメリカの戦略に逆らうような考え方をする人たちがすっかりメディアから排除され、停戦や和解に関する民主的な議論がほとんどできなくなっているように思うのです。
  アメリカは、1776年の建国以来ずっと戦争を続けてきました。ある人は、アメリカは建国以来239年のうち222年間、すなわち93%の年月を戦争に費やしてきたと書いていました。そして、現在もウクライナ戦争に深く関わっていますが、アメリカの武力的支配の現実に目をつぶり、日本が野蛮なアメリカの手先となって、戦争を推進するような道を歩んではいけない、と私は思います。
 アメリカは世界中に基地を持っています。国防総省2018米会計年度の「基地構造報告書」によると、海外に展開する米軍基地は45カ国で、計514にのぼるといいます。アメリカは、米軍基地が国際秩序を維持し、平和を守るために必要だというのですが、私は違うと思っています。
 アメリカは、世界中の国々から搾取や収奪を続けるために、米軍基地を必要としており、米軍基地は、駐留国や周辺国を威圧するための存在であることを見逃してはならないと思います。
 また、アメリカは圧倒的な経済力にものをいわせて、他国をアメリカの戦略に従わせてきたと思います。従わない国に対しては、軍事的圧力のみならず、経済制裁などの圧力かけてきたと思います。

 アメリカは、国際社会に民主主義と自由主義をもたらす国であるという、パックス・アメリカーナの考え方がありますが、それは、アメリカが現実に世界中でやってきた不都合な事実を隠し、アメリカの影響力行使を美化し、正当化する考え方である、と私は思います。現実を直視する必要があると思います。
 そこで、森 聡氏の「ウクライナと「ポスト・プライマシー」時代のアメリカによる現状防衛」に注目しました。国際社会の変化の捉え方には、異論がいっぱいあるのですが、民主主義や自由主義に反するアメリカの力による支配の一端を知ることができると思ったのです。

 特に、「①  対ロシア制裁」で、アメリカが、ウクライナ戦争が始まる前から、ロシアにさまざまな経済制裁を科し、ロシアの弱体化を意図していたことがわかります。
 また、「② 同盟国への安心供与」や「③ 対ウクライナ支援」で、アメリカが、ロシアを軍事的に挑発するような取り組みや支援をしていた事実がわかると思います。NATO加盟国ではないロシアの隣国ウクライナに、ジャベリン対戦車ミサイルを供与したり、統合多国籍訓練グループ・ウクライナが、ウクライナ西部ヤボリウの軍事訓練用基地を拠点に、ウクライナ軍の訓練をしたり、15カ国の軍隊から6000人が参加するラビット・トライデント演習をウクライナ領内で実施したりしているのです。プーチン大統領が演説で、レッドラインを超えた” と語ったことが頷けるのではないかと思います。
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        ウクライナと「ポスト・プライマシー」時代のアメリカによる現状防衛
                                                森 聡
 はじめに
 米中が対立を深めているところに、ロシアが隣国ウクライナに軍事侵攻したことで、米露と米中が対立と相互不信を深め、中露が結託し、世界が分裂して国際秩序が大きく変わると騒がれる時代が到来した。世界は、いかにしてこのような時代に至ったのだろうか。まずは冷戦終結後の大きな流れを、アメリカを軸にした大国間関係の変化という文脈に即して振り返ってみたい。冷戦が終結した頃から2008年にグローバル金融・経済危機が発生して数年が経つまでの時期は、ユニポーラー・モーメント(単極のとき)とも呼ばれる。アメリカが単極を成す圧倒的な優位、すなわちプライマシーを確立し、いわゆるリベラル国際秩序の擁護者としての役割を果たしていた時代と捉えられる。自由主義的な国内統治や対外行動に関する規範やルールの重大な違反に及ぶ国家は、「ならず者国家」とされ、経済制裁や、イラクのように武力介入による体制転換の対象とされた。
 領土侵攻や大規模人権侵害の阻止、民主政の樹立、大量破壊兵器の脅威除去、テロ掃討などを大義名分に掲げて、中山俊宏が活写した『介入するアメリカ』は、クウェイトからソマリア、ハイチ、バルカン半島、アフガニスタンそしてイラクで、次々と経済・軍事制裁という形で力を行使していった。またアメリカの同盟は、その存在意義を互いの領土防衛を前提とした集団防衛から、「域外」におけ
るリベラルな価値や規範の推進に求める傾向を強めた。冷戦後の世界でアメリカがプライマシーを確立していったという理解は、市場経済型民主主義国家モデルの正当性が高まるということと表裏一体でもあったといえよう。北大西洋条約機構(NATO:North Atlantic Treaty organization)の東方拡大は、こうした時代の潮流の中で進んだ。
 リベラルな価値や規範を力で執行し、世界の「変革」を推し進めようとしたアメリカが、2003年にイラク戦争を始めた際には、自らが信奉するはずのルールや制度から逸脱するかのような単独主義的な姿勢を強めているとして、利害を異にする同盟国あるいは世界から、「帝国主義化」という批判を浴びた。そうした物議を醸しながらも、圧倒的な優位の下でルール違反国を「制裁」するのが、プライマシー時代のアメリカであった。
 この間、アメリカは中国やロシアをリベラル国際秩序に取り込もうとした。アメリカはまず中国による世界貿易機関の加盟を推し、ロシアを先進国首脳会議に招き入れて、G8の一角を占めさせた。この当時、中露両国がアメリカに対抗する理論的な可能性は語られても、アメリカの圧倒的な優位が際立っていたために、そうした可能性は現実味を持たなかった。アメリカのユニポーラー・モーメントが力の変動で終焉することよりも、一強のアメリカがあまりにも自在に力を行使できることへの懸念が一部の同盟国の間で強まった時代だったといえよう。
 しかしアメリカは、介入先で出口が見つけられなくなり、アメリカの理念と力をもってしても人権の保障や民主主義の実現が困難であることを思い知ることになった。また、それまで新興国で発生していた金融危機が、アメリカを震源地として2008年に発生すると、アメリカ経済は大打撃を受け、国際問題の解決に労力をかけようとする余裕を失う。アメリカ政治指導者たちは、国内経済・社会の「再生」、あるいはそれを求める有権者の期待に応えることに腐心し、国際場裏での力の行使を抑制する姿勢を強めた。この最初の兆しは、2013年9月のオバマによるシリア空爆の見送りに顕われた。
 そして力を行使する意欲を減退させたアメリカを見た中国とロシアの指導者らは、アメリカによる報復や大規模な対抗行動を招かないような巧みな方法によって、自らが正統と考える世界を作り出すべく、「現状」の変更に乗り出した。
 2014年の春先にロシアがクリミアを不法に併合し、ウクライナ東部に干渉するという出来事は、このような時代の文脈において発生した。アメリカの対外姿勢の変化は、ウクライナ情勢や南シナ海情勢への対応にも滲み出てくることになる。
 アメリカは、ロシアによるウクライナ侵略に対して、これまでのように対応し、これから何をどのまでやる用意があるのだろうか。本稿は、現時点で入手可能な各種資料を手掛かりに、2014年にロシアがウクライナへの侵略を開始して以降、アメリカがいかにウクライナ情勢に対応して来たかを検証するとともに、アメリカの指導者が下してきた判断の輪郭を捉えることを試みたい。

 そこで第1節では、まずオバマ政権とトランプ政権の取り組みを検証し、対ロシア制裁、対ウクライナ支援、NATO諸国への安心供与という、今日まで続く三本柱の取り組みがいかなる判断に立って形成されたのか、そしてその内容にはどのような特徴があり、いかに発展して来たのかを明らかにする。第2節では2022年2月にロシアがウクライナに全面侵攻する前の段階におけるバイデン政権の取り組みを、そして、第3節では、侵攻開始後のバイデン政権の取り組みを明らかにする。第4節では、ウクライナ戦争がアメリカにもたらす3つのインプリケーションについて検討し、最後に「ポスト・プライマシー」時代のアメリカは、核兵器を保有する国による武力を使った現状変更にどう対応するかについて考察して結ぶ。なお、資料が制約され、報道記事にも頼らなければならないため、本稿は同時代的な予備的な分析の範疇を出ないということを断っておきたい、

                 1 クリミア併合後のアメリカのウクライナ政策
 (1)オバマ政権
 2014年2月27日に武装集団がクリミア自治共和国の議会や政府施設を占拠したことを受け、3月3 
日にアメリカを含む西側諸国は、ロシアによるウクライナの主権と領土的一体性の侵害を非難する共同声明を出した。兵力を撤退させるべきとの要請に対してロシアは翌々日、現地の自衛組織はロシアの指揮下にないなどとして要請を退けた。このときオバマ大統領は、政権内の安全保障政策の責任者らに対して、「我々は、野次馬(筆者注:ワシントンの政策論壇)に脱線させられないように、我々の利益に見合った対応をとらなければならない」と伝えた。オバマは、ロシアをアメリカの利益に多大な損害を及ぼしうる危険な存在と見なしていたが、ロシアは強さではなく、弱さに駆られて行動している「強い軍隊を有した地域国家」とみなしており、ロシアを圧倒的な強国として扱うべきではないと考えていた。また、プーチンは最長で2024年まで大統領職にいる可能性が高いので、アメリカは長期間にわたって持続可能な対応をとるべきと考えていた。こうした判断に立ってオバマは、①ロシアを制裁し、②同盟国には安心を供与して、③ウクライナを支援するという三本柱からなるアプローチをとった。
 ① 対ロシア制裁
 そこでオバマ政権は当初、ロシアに対してまず金融制裁を科した。アメリカの対ロシア制裁の多くは、最近のものも含め、国際緊急経済権限法(IEEPA:Internaitional Emergency Economic Power Act)や国家緊急事態法(NEA:National Emergency gencies Act)を根拠とする行政命令(いわゆる「大統領令」と呼ばれるものを、行政命令だけを指す場合もあれば、行政命令と大統領令の両方を指すこともある)に基づいて科されている。資産凍結や投資・金融取引の禁止などの金融制裁は、米財務省外国資産管理局(OFAC:Office of Foreign Assets Contorol)が所管している。
 2014年3月6日付の行政命令第13660号、同16日付大3661号、同20日付第13662号は、ウクライナの不安定化とクリミア侵略に関わった人物、プーチン側近を含むロシア政府関係者やロシア国営企業幹部などを対象にした個別制裁であった。ただし、かつてロシアはアメリカに金融制裁を科されたことがあったので、制裁対象がすでに対策を講じていれば痛手にならないのではないかとの指摘もあり、制裁の実効性に疑問が持たれた。
 また、連邦議会もウクライナ関連で「ウクライナの主権、統一、民主主義、経済の安定性を支援する法」(SSIDES:Support for the Sovreignty Integnity,Democracy,Economic Stability of Ukraine Act of 2014)と「ウクライナ自由支援法」(UFSA:Ukraine Freedom Support Act)という二本の法案を可決し、オバマ大統領が署名して法律になった。前者はウクライナで人権侵害や情勢不安定化に関わった人物、重大な腐敗事案に関わったロシア人などを対象とし、後者はロシア政府が運営する武器輸出業者や、ウクライナやシリアなどに兵器を移転する人物や団体、ロシアで深海・北極海・シェールオイルの開発に投資している人物や団体、ロシアの兵器輸出や資源開発などを幇助している外国金融機関などを制裁対象とした。
 オバマ政権がロシアに対する経済制裁を本格化させたのは、同年7月以降、いわゆるセクター別制裁に及んだときである。7月16日に行政命令第13662号の適用範囲を、金融サービス産業とエネルギー産業に拡げ、さらに9月12日には防衛産業にも広げた。これに加えて12月19日付行政命令第13685号は、すべてのアメリカ人によるクリミア地方との輸出入や同地方への投資を禁じた。これらの制裁は、マレーシア航空17便が、ロシアが提供した地対空ミサイルによって撃墜されたとして、欧州諸国で強い反発が生じていたことを背景にとられた措置であった。
 ②同盟国への安心供与
 第二のアプローチである同盟国への安心供与は、当初はイギリス、イタリア及びアメリカ本土の米軍部隊を、バルト三国とポーランドに緊急展開して、パトロール任務に参加させたり、合同軍事演習を実施するという形をとった。中心的な取り組みとなったのは、オバマ大統領が2014年6月にポーランドを訪問した際に発表した「欧州安心供与イニシアティヴ(ERI:European Reassurance Initiative)であった。ERIはトランプ政権期の2018年に「欧州抑止イニシアティヴ(EDI:European Dterrence Initiative)」に名称を変更されるが、①軍事プレゼンスの増強、②装備・軍需品等の事前集積、③インフラの増強、④パートナー国の能力強化、⑤演習と訓練という5つの事業で構成されている。2015会計年度(9.85億ドル)と2016会計年度予算は規模が限定されていたが、2017年会計年度から2019会計年度にかけて増額され、その後2021年まで減少傾向を辿っていくことになる。
 ③ 対ウクライナ支援
 第三の柱である対ウクライナ支援は、2014年にウクライナで誕生した新政権の要請を受けて、ロシアの支援を受けたウクライナ東部の武装勢力と戦うために必要な装備を提供し、演習や訓練を実施することから始まった。また、オバマ政権はアメリカ政府及び国際通貨基金による対ウクライナ経済援助パッケージも策定し、ウクライナ経済を支える取り組みを実施した。
 まず訓練については、アメリカによるウクライナ軍の訓練は、1993年から「州パートナーシップ(State Partnership)まるプログラムとして20年以上続いており、アメリカ州兵がウクライナ軍の訓練にあたってきたという実績があった。これはロシアを脅かさない形で、国防改革を目指す中東欧諸国との軍事交流を進めるという趣旨で設けられたプログラムであった。
 しかし、2014年に事態が急変すると、2015年春から米陸軍第7訓練コマンドの責任の下で、統合多国籍訓練グループ・ウクライナ(JMTG-U-:Joint Multinational Training Genter Ukuraine)が、ウクライナ西部ヤボリウの軍事訓練用基地「国際平和維持・安全保障センター」を拠点に、ウクライナ軍の訓練を開始した。イギリスなど他国もウクライナ軍への訓練を実施したが、アメリカのプログラムは、アメリカ各地の州兵が9ヶ月のローテーションでウクライナに赴いて同国軍部隊の訓練に当る形をとった。こうした多国籍の取り組みの一環で、2014年9月には、15カ国の軍隊から1300人が参加するラビット・トライデント演習をウクライナ領内で実施するなど、演習や訓練が強化された(なお、このヤボリウの訓練基地ないし演習場は、2022年3月13日にロシアが30発以上のミサイルで攻撃して破壊されることになる)。
 また、アメリカ国防省は、2016年度国防授権法第1250条で定められたウクライナ安全保障イニシアティヴ(USAI:Ukraine Security Assintance Iitiative) を通じて、各種装備の提供も開始したが、兵器類は非殺傷兵器に限定された(USAIは、ERIのパートナー国能力強化支援の枠組みの中に位置付けられている)。2015年には、アメリカがウクライナに殺傷兵器を提供すべきか否かが問われ、この問題をめぐってオバマ大統領と政府高官らとの間で意見が対立した。政府高官の大半が殺傷兵器を提供して、軍事バランスを変えられないまでも、ロシアの武力侵攻の敷居を少しでも上げるべきだと主張したのに対し、オバマ大統領はあくまで殺傷兵器の提供反対という立場を貫いた。このとき殺傷兵器を供与すべきだと主張した高官の中に、当時ウクライナ問題を任され、同国のポロシェンコ大統領と良好な関係を築いていた副大統領バイデンや国務副長官だったブリケンらもいた。
 当時国際安全保障担当の国防次官補だったショレによれば、オバマ大統領が殺傷兵器の供与に反対した理由はいくつかあった。第一に、殺傷兵器をウクライナに提供しても軍事バランスを大きく変えられないにもかかわらず、紛争を激化させて、プーチンにウクライナ全土を侵攻する口実を与えかねない。第二に、ウクライナ支援を強化する条件として、ウクライナが改革を進めるかどうかが重要であるにもかかわらず、ポロシェンコ大統領との信頼関係が十分構築できていない(特にポロシェンコが2014年9月に訪米した際に、殺傷兵器を提供しようとしないオバマ政権を批判する演説を連邦議会で行ったことは、悪影響をもたらしたとされる)。第三に、ロシアがウクライナ東部の武装勢力にミサイルを提供して、マレーシア航空機17便の撃墜という惨劇を招いたように、アメリカも完全に制御できない相手に殺傷兵器を提供すると、予期せぬ事態が生じかねない。
 ショレは、ホワイトハウス高官らは、ロシアを意図せずして挑発することを過剰に恐れていたと指摘している。また、当時のオバマ政権関係者によれば、2015年2月にホワイトハウスでオバマと首脳会談を持ったメルケル独首相は、アメリカはジャベリン対戦車ミサイルをウクライナに提供して事態をエスカレートすべきではなく、外交的解決を探ることは可能だとオバマを説き、このメルケルの説得がオバマの考え方に強く作用したという。
 他方、当時CIA長官だったブレナンは、米情報当局も米軍も当初、ウクライナに特にジャベリン対戦車ミサイルを提供することについては反対だったと、2019年11月のインタビューで述べている。ブレナンによれば、親ロシア政権下のウクライナ軍部、治安当局、情報当局の内部には、ロシアの工作員が深く入り込んでおり、殺傷兵器をウクライナに提供すれば、機微技術がロシア側に漏洩するという懸念があったからだった。ブレナンは、ユーロマイダンから約8週間後にキーウを訪問したが、それはロシアの工作員をウクライナ当局から排除する手伝いをするためであったと語っている。
 ④オバマの判断
 殺傷兵器供与問題に関してオバマ本人はインタビューで、アメリカにとってのウクライナよりも、ロシアにとってのウクライナの方が重要なので、ロシアはあエスカレーション上の優位に立っているという考え方を示唆し、「NATO非加盟国のウクライナがあ、ロシアの軍事的な支配に対して脆弱であるという事実は、何をしようと変わるものではありません」と述べたうえで、次のように説いた。

 人間は自分にとって何が必要不可欠かという判断に基づいて反応するものです。ある何かが、相手にとって本当に重要で、我々にとってそこまで重要ではないとすれば、その事実を相手はわかっているし、我々もわかっているのです。抑止する手段は様々ありますが、それが有効であるためには、あらかじめ何をめぐって戦争する用意があるのかをはっきりさせなければなりません。もしクリミアやウクライナ東部をめぐって我々がロシアと戦争すべきだという人がこの街に(ワシントン)にいるのであれば、その人は声を上げてそれをはっきりいうべきです。単に強硬な言葉を使ったり、問題となっている地域のすぐ隣で何らかの軍事的な行動をとれば、ロシアあるいは中国の意思決定に影響を及ぼせるんどという考えは、過去50年間に見られた様々な事実に反するのです。 

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