私は、朝日新聞から多くのことを学んできたのですが、ウクライナ戦争以降、毎日のように苛立ちを感じる記事を目にします。
先日、朝日新聞の「考論」という欄に、神戸大学大学院の蓑原俊洋教授の「トランプ氏取りこぼし影響注視」と題する記事が掲載されました(聞き手・根本晃)。
朝日新聞が、中立的な立場を放棄し、アメリカのバイデン政権の戦略に追随していることを、自ら表明しているような記事だと思いました。下記は、その一部です。
”トランプ氏はほぼ全ての州で圧勝したものの、多くの州で当初の得票予想を数%ずつ下回った。こうした「取りこぼし」が、接戦が予想される本選にどのような影響を及ぼすのか注視する必要がある。
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もしトランプ氏が勝利すれば、1期目同様にアジア情勢を軽視する可能性は否定できず、そうなれば日本は米国頼りの姿勢からの転換を余儀なくされる。欧州や韓国、オーストラリアなどとの経済安全保障面での連携を多面的・重層的に深める必要がある。(戦闘が続く)ウクライナやパレスチナの人々は見捨てられるだろう。トランプ氏の行動基準は、自分にとって利益があるか否かだ。バイデン氏はウクライナ侵攻を『自由主義を専制主義から守るための戦い』と位置づけて支援を訴えているが、トランプ氏がそのような崇高な理念を踏襲する可能性はない。”
バイデン政権の継続を期待し、トランプ氏を貶める内容だと思いました。確かにトランプ氏は、人類が多くの犠牲を払って進歩させてきた法や道義・道徳を軽視する傾向があり、危うさを感じます。でも、ウクライナ戦争を止めようとせず、また、イスラエルの一方的なパレスチナに対する攻撃、学校や病院、避難所に対する爆撃による多くの子どもや女性の殺害、餓死者を出すような支援物資の制限というイスラエルの戦争犯罪を止めようとせず、国連安保理のガザ停戦決議案に拒否権を発動し、イスラエル支援を続けるバイデン大統領が、民主主義の崇高な理念で動いているなどというのは、読者を欺瞞する内容だと思います。
また、別のところには、”移民締め出し「最大の作戦」■ロシアの侵略 既成事実化”と題する記事が掲載されていました(ワシントン=望月洋嗣)。こちらも、バイデン政権の戦略、さらに言えば、トランプ氏を貶めるために持ち出した「ディープステート(影の政府)」の戦略に追随していることを表明しているような記事だと思います。
「ディープステート(影の政府)」は、確かに、実態のはっきりしない曖昧なものだと思います。でも、最近のアメリカの軍事費は、8,000億ドルを超えるといいます。そして、それが世界の軍事に関する総支出に占める比率はおよそ38%前後だともいうのです。だから、ロッキード・マーティンやボーイング、 レイセオンなどに代表されるアメリカの軍事産業が、自らの利益のために、バイデン政権や国防総省、陸海空の米軍組織、CIAなどの情報機関、大手メディアなどといろいろなつながりをもって、アメリカの政策に関与しているであろうことは、当然、予想できることだと思います。それを「ディープステート」と呼んでいいかどうかは、私にはわかりませんが、間違いなく、そうしたものの力は働いているであろうと思います。アメリカが戦争をくり返してきたこと、また、さまざまな国の内政に関与し武力行使をしたり、紛争を話し合いで解決するのではなく、武力的な戦いの一方側の側を支援してきたことが、そうしたことを物語っていると思います。
日本でも、大手企業が自民党への多額の献金を続けています。それが、企業の社会的責任に基づくもので、日本の政策決定とは関係がないと断言できるでしょうか。私は、あり得ないと思います。
現に、2017年、トランプ氏が大統領に就任する数週間前に行われたインタビューにおいて、上院民主党の院内総務であったチャック・シューマー氏は、CIA批判を繰り返してきたトランプ氏を「本当に間抜けだ」と罵り「言っておくが、情報機関を敵に回すと徹底的な復讐にあうぞ」と述べたと伝えられました。
そして、アメリカ自由人権協会(ACLU)を含む、さまざまなメディアのコメンテーターが、この発言を「ディープステート(影の政府)」の存在を示す証拠として指摘したともいいます。
それを、トランプ氏が、”「陰謀論」を背景に「ディープステート(影の政府)の解体」といった主張を重ねてきた”などと、断言できるのでしょうか。私は、「ディープステート」を「陰謀論」扱いし切って捨てるその姿勢が、かえって、「ディープステート」の存在を隠しつつ、「ディープステート」に追随するメディアの姿ではないかと想像します。
なぜなら、CNN MSNBC ニューヨークタイムズ ワシントンポストなどのアメリカの大手メディアが、トランプ氏が指摘していたように、中立的な立場を放棄して、バイデン政権を支えるような報道を続けているよういに思えるからです。そして、日本の大手メディアも、ほとんど同じような報道を続けているように思います。
ウクライナ戦争に関して、ロシア側の主張は、ほとんど報道されませんでした。
先日、さまざまな困難を乗り越えてロシアを訪れ、プーチン大統領に長時間のインタビューした元FOXのタッカーカールソン氏について、日本のメディアは、トランプよりのジャーナリストであるとして、その内容は、ほとんど伝えていません。
ウクライナ戦争の停戦に極めて重要な意味を持つものだと思いますが、その内容は、ほとんど報道されていないと思います。受け入れ難いことです。
下記は、朝日新聞の、その記事の全文です。
”トランプ氏は前回の大統領選の敗北を認めず。陰謀論を背景に「ディープステート(影の政府)の解体」といった主張を重ねてきた。もし再び大統領に選ばれれば「ディープステート」への攻撃に名を借りて、政敵への「報復」を図りかねない。
政策面で「2期目」に最も力を入れようとしているのが、米国に入ってくる移民への対応だ。5日夜の集会所も「国境を閉鎖する」と宣言。強制送還を含む「史上最大の作戦」を実施する考えを示す。
一方、米国の対外介入には否定的だ。短期的な視点から二国間の「取引(ディール)」で成果を得ようとする傾向があり、多国間外交の枠組みや同盟国は大きく揺さぶられる。「大統領になれば、ウクライナでの戦争を24時間で片付ける」と語り、ロシアとウクライナの停戦仲介に乗り出す意向を示しているが、実行すれば、ロシアの侵略を既成事実として認めることになる。
中東では親イスラエルの姿勢をさらに強め、イランや、その支援を受けるイスラム組織にはより強硬な姿勢を取る。1期目にほのめかしていた北大西洋条約機構(NATO)からの脱退に踏み込めば、欧州の安全保障環境が根本的に変わる。
米国の製造業や米国製品を保護する施策として、外国製品に一律10%の関税をかける考えも示す。日本など友好的な貿易相手国にも経済的打撃を与え、国際的な供給網に大きな混乱をもたらすことになる。
中国に対しては対決姿勢を強めそうだ。中国製品への関税の税率を上げるほか、世界貿易機関(WTO)ルールの基本である最恵国待遇の打ち切りを示唆している。一方、習近平国家主席との直接交渉で、目先の利益を優先しした妥協を進めかねない危うさもある。台湾有事への対応は明言していない。対日関係は重視しつつも、在日米軍の駐留経費をさらに多く負担することなどを可能性も高い。
バイデン大統領が、ほんとうに崇高な理念に基づいて『自由主義を専制主義から守るための戦い』をしていると言うのであれば、なぜ、明らかに日本の主権を侵害し、人権を蔑ろするような「日米安保条約」や「日米地位協定」が、いまだに改定されず放置されているのか、私は、神戸大学大学院の蓑原俊洋教授に教えてほしいと思うのです。
下記は、「日米地位協定逐条批判」地位協定研究会著(新日本出版社)からの抜萃です。
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3 出入国とと移動、民間施設使用を保障する条項──第五、九条
一 日本の空港、港湾への出入りとその使用(第五条一項、三項)
地位協定第五条一項、三項は、日本の空港、港湾への米軍の船舶と航空機の出入りについて、次のような規定をおいている。
「合衆国および合衆国以外の国の船舶及び航空機で、合衆国によって合衆国のために、又は合衆国の管理の下に公の目的で運航されるものは、入港料又は着陸料を課されないで日本国の港又は飛行場に出入することができる」(一項)
「港に入る場合には、通常の状態においては、日本国の当局に適当な通告をしなければならない。その船舶は、強制水先を免除される」(三項)
文言からも明らかなように、第一項は、米軍の船舶と航空機が日本の空港、港湾に出入りする場合、空港使用料や入港料を免除することをとりきめたものである。在日米軍に対する支援経費の総額は、1996年度に約6400億円に達しているが、それ以外にも、このような免除措置により、事実上の財政支援がおこなわれているのである。米軍による空港の使用は年間で1000回近くあり(資料10)、艦船の寄港使用も少なくない(資料11)。免除総額についての政府資料は存在しないが、ボーイング747程度の航空機が成田空港を一回(一日)使用しただけで約95万円になることからみて、莫大な額であることは疑いない。
第三項は、米軍が港湾を利用する場合の通告義務と、その際の水先の免除を定めたものである。国籍不明の戦闘機や艦船が突如として空港、港湾にあらわれれば、航空管制や水先案内が大混乱におちいるわけであり、当然の規定といえる。航空機の場合の通告が書かれていないのは、航空管制が免除されることは安全上ありえないからであり、通告が不要だというものではない。
1 米軍の出入りと日本政府の許可
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実際に、航空機や艦船を日本の空港、港湾に出入りさせるにあたって、米軍が日本側に許可を求めてくることはない。空港、港湾の管理者にたいして、ただ通告がおこわれるだけである。その通告にしても、「民間機は二ヶ月ほど前に運行計画が提出されるが、米軍機はその日の朝に連絡がある」(九州のある空港長)という程度のものにすぎない。
しかし、憲法上の疑義がある民有地の基地としての提供(いまの沖縄問題の焦点)でさえ、提供にあたっては法的な手続きを必要としている。基地として提供されていない日本の施設の使用権を、国内法でなんの根拠づけがされていないにもかかわらず、アメリカが全面的にもっており、日本側に拒否する権限がないとするのは、憲法と国内法を真っ向からじゅうりんする見解である。
実際、第五条一項のどこにも、米軍の権利という用語が出てくるわけではない。これはNATO軍地位協定の補足協定(93年改定のドイツ補足協定)の対応する条項(第57条第一項a)が「NATO軍は)車両、船舶及び航空機で連邦共和国に入国し、又はその連邦領域内の内部もしくは上空を移動する権利を有する」として、明文で権利を認めていることも異なる。しかも、ドイツ捕捉協定が権利としているのは、ドイツへの入国と移動に限ってのことであり、国内施設の利用までをも権利であると規定しているわけではない。
さらにいえば、たとえ日本の施設への出入りは米軍の権利だとする立場にたったとしても、それがただちに日本側の許可は不要だ、ということにつながるわけでもない。NATO軍の出入りを権利であると明記したドイツ補足協定でさえ「連邦政府による承認」がその条件であることを明確にしている。米軍の権利を認めることと日本側の承認を必要とすることは、矛盾しないのである。
米軍の出入国に日本側が個別に承認を与えるべきだとする立場に立つなら、その主体は、いうまでもなく日本政府である。同時に、入国に際して、米軍に提供されている施設でなく、我が国の空港、港湾を使うなら、その管理者にも、使用許可し、あるいは拒否する権限があるということになる。
この点で重要なことは、空港の管理権は国に属している場合が少なくないが(自治体管理空港もある)、港湾にかんする管理権は、戦前は国家に属していたが、戦後、自治体のものになったことである。この管理権のなかには、危険物を運ぶ船舶の規制などもふくまれる(港則法第四章)。自治体には、演習のための武器、弾薬を満載した米軍艦船の寄港を、港湾の安全の確保などを根拠に拒否する権限があることは明白であろう。神戸市は、入港する艦船に非核証明書の提出を義務づけ、提出しない艦船の寄港を認めていない。これに高知県もつづこうとしている。政府がこれを違法措置であるといえないことは、現行の地位協定のもとでも、米軍にどのような権利があるといっても自治体の管理権を侵すことはできないことを、実際には意味しているといえる。
2 空港、港湾の使用目的の制限
地位協定第五条による民間の空港、港湾を利用した出入りがありうるとはいえ、米軍が基本的に使用するのは、第二条にもとづき提供された専用基地であるのは当然である。したがって、民間施設の利用はおのずから限定されたものでなければならない
まず、どの空港、港湾を使えるのかという面での限定がある。米軍の構成員・軍属・家族の出入国にかんする1952年5月の日米合同委員会の合意は、「開港又は米軍の管理する空港」については米軍が使用できるとしている。開港とは、「外国船舶の出入りが許されている港のことで、関税法施行令で定められた120近い港のことをいう。米軍が管理する空港とは、地位協定第二条で提供されている基地のうち、空港施設をもつものである。要するに、港湾については日本のものを一般に使用できるが、空港については米軍基地を使用するのが基本ということである。合同委員会の合意は、「緊急の場合は、他のいずれの日本国の港又は空港にも入ることができる」とされており、開港でない港湾、日本の施設である空港を利用できる道を開いてはいる。しかしこれは、合意にあるように、「緊急の場合」しか使えないのである。
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地位協定第二条で恒常的に提供している基地(極東の平和目的で使用できる基地)であっても、戦闘作戦行動のために使用する場合や核兵器を持ち込む場合は、無条件には使用できない。安保条約第六条に関する交換公文により、日本政府との事前協議が必要とされる。ましてや、基地として提供されているわけではない日本の施設の使用が、目的のいかんを問わず許されるということは絶対にありえない。「緊急の場合」にしか使えないというのが、当然の法理である。この観点でみれば、海兵隊の実弾演習を移転するための空港、港湾の使用は、「緊急の場合」でないという点でも、また極東の範囲を超えて展開する部隊によるものであるという点でも、許されないことは明白であろう。
ところが、実際の使用実態が。このような制約を踏み越えるものとなっていることは、極めて重大である。…
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二 提供施設、民間施設間の移動(第五条二項)
地位協定第五条二項は、軍の装備と軍人、家族について、「合衆国軍隊が使用している施設及び区域に出入りし、これらのものの間を移動し、及びこれらのものと日本国の港又は飛行場との間を移動することができる」ことも定めている。また、この項では、「移動には道路使用料その他の課徴金を課さない」と明記している。この結果、米軍の有料道路使用料の免除額は、年間で7億円を超えるにいたっている。
1 移動の定義と交通秩序との衝突
日本国に入国した米軍とその構成員が、提供した基地や入国の際に利用した空港、港湾にとじこもって一歩も外に出ないことは考えられず、これらの間を移動することはありうることである。したがって、その範囲で適用されるなら、いわば当然のとりきめとあるといえる。ところが実際には、道路などを使った訓練が、「移動」と称しておこなわれている。その代表が、沖縄で問題になってきた海兵隊の行軍訓練である。
行軍訓練とは、ときとして完全に武装した海兵隊が一般県道、一般国道を行軍するものであり、周辺住民に非常な不安を与えている。海兵隊報道部の発表によれば、部隊の即応体制の維持などが目的とされている。
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…60年の日米合意議事録は、地位協定の第五条にかかわって、「この条に特に定めのある場合を除くほか、日本国の法令が適用される」と明確に述べている。その根拠は、外務省が日米地位協定にかんする解釈を極秘裏にまとめた「日米地位協定の考え方」(73年)によれば、「米軍のわが国内の通行は、直接わが国の交通秩序に関わるものであり、かかる場合にはわが国の法令が遵守されるべきは当然」ということである。米軍だからといって信号を無視してよいなどとなれば大変なことにあるのであり、当たり前のことであろう。
この規定にしたがって、陸と海の交通秩序にかんする国内法については、適用が除外されていない。…ところが、空の交通秩序を規定する航空法については、米軍のための特例法をつくり、適用を除外しているのである。…
…米軍が極東の平和にとって必要だといえば、地位協定で許されていようがいまいが、日本の上空であっても米軍機の訓練はできるというのである。
しかし。米軍機の低空飛行が国内の交通秩序に密接にかかわるものであることには変わりはない。また、日本の空は最近もVFR(有視界飛行規則)で飛ぶ航空機同士の衝突が起きるなど、交通秩序の維持がますます重要になってきている。空だけを特例扱いしているのは、まさに米軍の戦略的な要請があるからに他ならないが(本書4「米軍の優先使用、協力を義務化」を参照のこと)、日本国民にとって死活的な空の交通の安全という面から見れば、この特例はただちになくさなければならないであろう。
2 車輛制限令の適用除外の問題点
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車両制限レートは、道路法(第47条)が、道路の構造保全と交通の危険防止のため、車両の幅や重量を制限するとしていることにもとづき、その最高限度を定めた政令である。法律で通常は通行が許されない米軍の大型の危険車両が、自由に道路を使用する結果、少なくない事故がおきている。たとえば、1985年3月、沖縄では一ヶ月で四件もの米軍特殊車両による事故が連続し、県議会が「米軍特殊車両の通行および事故防止に関する決議・意見書」を全会一致で採択したこともあった。
実は、車両制限令は、以前は米軍に適用除外されていなかった。ベトナム侵略戦争の遂行のために、日米両国政府が強行したものである。
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もう一つは、 日本国内を通行する米軍車両に火薬取り締まり法が完全には適用されないことである。砲弾や火薬類など、どんな爆発物を運んでも、「米軍自体の安全規則の順守、そういうものにゆだねられており、(72年、衆議院決算委員会)、国内法では規制できないことである。
火薬取り締まり法は、火薬類を運搬する場合には、都道府県公安委員会に届け出、運搬証明書の交付をうける義務などを課している。ところが、60年の日米合同委員会合意「米軍の火薬類運搬上の処置」は、その特例を定めている。
火薬類を運搬する米軍車両は、「火薬」と記載した標識をつけることは義務づけられている。しかし、2000ポンド以上の米軍の火薬類の輸送について、日本の運搬業者が運搬する時には「日本の法令で要求されるすべての手続きを行わなければならない」としつつ、「これの手続きは、米軍所有の軍用車については必要としない」として、米軍自身が輸送する場合は、法律の適用除外している。県当局にたいする通知も「可能な限り」おこなえばよいだけである。都道府県公安委員会は、危険な火薬類をチェックすることもできない。
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三 軍構成員等の出入国管理と検疫問題(第九条)
1 出入国管理の広範な免除の問題点
通常、外国人が日本に入国するには、自国政府が発行する有効な旅券を所持し、その旅券に日本の在外公館で査証(ビザ)をうけ、上陸にあたっては検疫をうけ、上陸審査を経ることが必要とされる。入国後も、外国人は、在留資格にもとづき一定の在留期間に限って活動できるものとされ、資格外の活動をしたり、期間を延長する場合は、法務大臣の許可をとらなければならない。また、上陸後60日以内には外国人登録法にもとづく登録申請をおこなわなければならず、住所などを変更したときは申請する義務があり、違反したときには処罰されることになっている。
ところが地位協定第九条は、「合衆国軍隊の構成員は、旅券及び査証に関する日本国の法令の適用から除外される。合衆国軍隊の構成員および軍属並びにそれらの家族は、外国人の登録及び管理に関する日本国の法令の適用から除外される」と規定する。つまり、軍構成員は、旅券・査証・登録・管理のすべての法令の適用が免除され、軍属・家族は登録・管理の法令が免除されるということである。 軍構成員とは、協定第一条で述べているように、「日本国の領域にある間におけるアメリカ合衆国の陸軍・海軍または空軍に属する人員で現に服役中のものである。同様に、軍属とは、「合衆国の国籍を有する文民で、日本国にある合衆国軍隊に雇用され、これに勤務し、又はこれに随伴するものであり、家族とは「配偶者および21歳未満の子」「父、母及び21歳以上の子で、その生計費の半額以上を合衆国軍隊の構成員または軍属に依存するものである。
この結果、日本側はどういう名前の米国人が、どの基地にいるのかさえ、まったくつかめない状態になっている。 …
出国も入国も米軍の思うがままにおこなわれることで、国民生活とのかかわりでいつも問題になるのは、犯罪を犯した米兵が、日本側の知らぬ間に出国してしまうことである。
2 地位協定で明記されていない検疫
人および動植物の検疫は、出入国管理の一環をなす重要問題である。ところが、日米地位協定はこの問題を規律する条項がない。それならば、日本の国内法を順守し、どこから入国しようとも日本の検疫所の検疫を受けるべきであるが、政府は地位協定に書いていないから国内法の適用はしないとの態度をとっている
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…しかし、人と動物の検疫に関しては、基本的な構造はまったく変わっておらず、米軍の検査官が認めれば日本側は何もいえないままである。