真実を知りたい-NO2                  林 俊嶺

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「反ユダヤ主義」のルーツ

2024年11月25日 | 国際・政治

 下記は、「ユダヤ人迫害史 繁栄と迫害とメシア運動」黒川知文(教文館)の「はじめに」を抜萃したものです。

 確かに旧約聖書の、”「創世記」1213節”や”「詩編」13714”、のこれらの文章が、反ユダヤ主義のルーツであると思います。反ユダヤ主義は古代から現在まで、いろいろなかたちで存在してきたということですが、それは、「創世記」によって、”選民としてのユダヤ人が誕生”することになったからだと思います。反ユダヤ主義は、この選民思想から生まれてくるものだろうと思います。

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                    はじめに ── 反ユダヤ主義のルーツ

 

 あなたは生まれ故郷

 父の家を離れて

 わたしが示す地へ行きなさい。

 わたしはあなたを大いなる国民にし、

 あなたを祝福し、あなたの名を高める

 祝福の源となるように。

 あなたを祝福する人をわたしは祝福し

 あなたを呪う者をわたし呪う。

 地上の氏族はすべて

 あなたによって祝福に入る。(「創世記」1213節)

 

 神はアブラハムの子孫に祝福の契約を与えた。ここに選民としてのユダヤ人が誕生することになる。ユダヤ人は契約のしるしとして割礼を行った。神から祝福の契約を与えられたユダヤ人。しかし、彼に待っていたのは放浪と苦難の歴史であった。

 カナンに飢饉が起こり、イスラエル一族はエジプトに移住した。しかしエジプトにおいてはイスラエルの子孫は奴隷にされて過酷な労働に苦しんだ。

 モーゼは奴隷状態のイスラエルを救い出し、出エジプトを実現した。しかし、父祖の地に戻るまで40年間砂漠の中をイスラエルは放浪した。苦難の年月。その中でシナイ契約を神から与えられ、選民意識が強化された。カナンに戻ってもペシリテ人等との戦争に参加せざるをえなかった。しかし、その後のダビデ・ソロモン王国の樹立によりユダヤ民族は繁栄と栄光の時代を迎えた。政治的に統一され領土を保有するユダヤ民族の国家。やがて王国は北イスラエル王国と南ユダ王国に分裂する。そして北王国はアッシリア帝国に、南王国はバビロニア帝国に征服され、ユダヤ民族は再び苦難の捕囚状態になる。

 

 バビロンの流れのほとりに座り

 シオンを思って、わたしたちは泣いた。

 竪琴は、ほとりの柳の木に掛けた。

 わたしたちを捕囚にした民が

 歌をうたえと言うから

 わたしたちを嘲る民が、楽しもうとして

 「歌って聞かせよ、シオンの歌を」というから。

 どうして歌うことができようか

 主のための歌を、異教の地で。(「詩編」1371から4節)

 

 捕囚から帰還したユダヤ人は神殿を再建する。この第二神殿はユダヤ人の宗教の中心となる。しかし、ユダヤ人は再びヘレニズム諸王朝の支配下となる。この時期には比較的自治は許されてはいたものの、アンティオコス・エピファネスは「古代のヒトラー」としてユダヤ人迫害を展開した。ユダヤ人は反乱を起こし勝利してユダヤ人の王国(ハスモン国家)を樹立した。そして繁栄の時代を迎えた。しかし今度はローマ帝国に征服されて、間接統治、さらには直接統治の状態となる。重税と貧困。メシア待望と終末論。ついには二度にわたるローマ帝国に対する戦争が展開する。これはメシア運動でもあった。ユダヤ人はこれに敗北してその多くが殺された。また、第二神殿は破壊された。ユダヤ人はパレスチナから追放された。

 ユダヤ人は故国を喪失し、以後長きにわたり全世界に放浪することになる。

 

 主は地の果てから果てに至るまで、すべての民の間にあなたを散らされる。あなたも祖先も知らなかった。木や石で造られた他の神々に仕えるようになり、これら諸国民の間にあって一息つくことも、足の裏を休めることもできない。主は、その所であなたの心を揺れ動かし、目を衰えさせ気力を失わせられる。あなたの命は危険にさらされ、夜も昼もおびえて、明日の命も信じられなくなる。(「申命記」286466節)

 

 北アフリカからイベリア半島へ移住したユダヤ人はキリスト教徒とイスラム教徒とのはざまにあって商人として活動する。やがてスペイン王国において土地を所有し貴族階級に進出するほど恵まれた地位を確立する。繁栄の時代。しかし1492年にイスラム教徒の支配から国土が回復されるやいなやユダヤ人に対して追放令が発せられた。土地と財産を手放し地中海沿岸地方にスペインのユダヤ人は移住する。迫害の中にあって、多くのメシア運動がこれらの地域において展開されていく。過去の恵まれた地位への回帰の情念とメシア待望の神秘思想をカバラー。しかしメシア運動は瓦解した。その幻滅感が西欧ユダヤ人のキリスト教への改宗を促進した。

 

 一方、イタリア半島からライン川沿いに中欧に移住したユダヤ人は、土地所有こそ禁じられたが商人としての活動を広げていく。しかし11世紀の十字軍運動の時には「キリスト殺しの異教徒ユダヤ人」として虐殺され、14世紀の黒死病蔓延の際には「井戸に毒を流した」罪を問われて虐殺された。このような迫害を逃れて、ユダヤ人の多くは東欧とロシアへ移住した。そこでは比較的安定した時を過ごした。しかし17世紀と18世紀にはウクライナにおいてコサックによる迫害が展開し、ユダヤ共同体は壊滅的打撃を受けた。だが、メシア運動(ハシディズム)がその再建を促進した。さらに19世紀後半から20世紀初頭にかけてはウクライナにおいて大規模なユダヤ人に対する暴動(ポグロム)が三度にわたり発生した。シオニズムと欧米への大量移住がこれを契機に展開した。

 その頃、西欧ではユダヤ人は同化してあらゆる分野に進出していた。しかし19世紀後半にナショナリズムが勃興したことによりユダヤ人は再び差別されることになる。人種理論にもとづく反ユダヤ主義が唱えられ、東欧から移住してきた「異人種的」ユダヤ人はそれを立証するものとされた。西欧諸国において規模の違いはあれ、ユダヤ人迫害事件が再び発生した。

 これような近代的反ユダヤ主義の最終的結果がナチス・ドイツによるホロコーストであった。

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 カナンは、神がイスラエルの民に与えた「約束の地」であると旧約聖書に書かれているということを根拠に、パレスチナ人が何世代にもわたって住み続けてきた土地や家を奪い、カナンの地(パレスチナの地)に住みつくこと、また、パレスチナの地に、イスラエルという国家を建国し、そのイスラエルという国からパレスチナ人を追い出そうとしているユダヤ人の選民思想に基づく方針が、現在の国際社会で許されるものでないことは明らだと思います。

 「旧約聖書」には、とても史実とは考えられないことがいろいろ書かれているといいます。「旧約聖書」の「創世記」のような文字のなかった時代の話には、時の為政者が、自らを絶対的な存在とするために神と関連付けたり、また、自らに都合のよい「つくり話」を史実に含めていることを考慮するべきだと思います。

 日本の「古事記」研究の第一人者といわれる津田左右吉も、同じようなことを指摘していました。

 だから、イスラエル民族のカナン定住が歴史上の事実であったとしても、現在のユダヤ人のパレスチナ人に対する攻撃は正当化できるものではないと思います。

 

 同書の著者黒川知文氏は、あとがきに次のように書いています。

権力者が宗教の色彩を帯びる時、往々にして、それは他からの批判を受けつけず、また、個人の良心を蹂躙するものに化していく。そのような「邪悪な」権力者の下にある者は、良心を犠牲にして権力者に服従するか、良心に基づいて対決するか、あるいは権力者との戦いから逃避するか、いずれかの道を選ばなければならなくなる。

 我々は、悪しき支配者に対して、どのように対し処すべきであろうか? これは今日にも共通する課題である。

 

 この言葉どおり、選民思想に基づく深刻な問題が、イスラエル・ガザ戦争の根底にあることを見逃してはならないと思います。それは、イスラエルの政治家や軍人の発した言葉で分かります。

 

 しばらく前、アラブニュースがラムジー・バロウド氏の文章を掲載していました。同氏は、直近のイスラエルによるガザ侵攻より遥か以前、さらにはイスラエルが建国される1948年よりも前から、イスラエルのシオニストによる主張は常に人種差別的で、相手を非人間的に扱い、排除的で、場合によっては明白に虐殺を訴えるものであり続けてきたとして、次のような例をあげていました。(https://www.arabnews.jp/article/no-category/article_103012/

イスラエルの宣戦布告を行動計画へと変えた責任者であるヨアフ・ガラント防衛大臣は、「我々が戦っている相手は野蛮人たちであり、相手に合わせた行動を取ります」ガラント氏は109日にそう述べている。「相手に合わせた」行動とは、つまり「電気、食料、燃料を断ちます。すべてを遮断します」ということだ。当然ながら、数千人の民間人が犠牲になっている。

ベンヤミン・ネタニヤフ首相のリクード党に所属する国会議員のアリエル・カルナー氏は、ガザ侵攻の背景にあるイスラエルの目的を、「現在の目標はひとつ、ナクバです。1948年のナクバが霞むようなナクバです」と述べている。

 

米国の大統領候補の1人であるニッキー・ヘイリー氏はFOXニュースに対し、ハマスの攻撃はイスラエルだけでなく「米国への攻撃」でもあると述べている。そしてヘイリー氏は真っ直ぐにカメラを見据え、「ネタニヤフさん、奴らを仕留めて、仕留めて、仕留めて」と悪意を込めて宣言した。

 米国のジョー・バイデン大統領とアントニー・ブリンケン国務長官はまったく同じ言葉を使ったわけではないが、両者共に107日の事件と911日のテロ攻撃を比較している。その言葉の裏にある意図を詳しく説明する必要はないだろう

 

リンゼー・グラム上院議員は米国の保守派と宗教支持者を集めて「我々は宗教戦争の只中にいます。なすべきことをしてください。あの場所を跡形もなく消し去るのです」と述べている。

 

ゴルダ・メイア氏のパレスチナ人は「存在しない」、メナヘム・ベギン氏のパレスチナ人は「2本脚で歩く獣だ」、イーライ・ベン・ダハン氏のパレスチナ人は「動物のようなものだ。彼らは人間ではない」をはじめ、人種差別的で相手を非人間的に扱う発言が繰り返されるシオニストの論調は変わらぬままだ。

 

今ではそれらすべてが一体となりつつある。言語と行動の完璧な同調だ。今こそ、いかにしてイスラエルの虐殺的な言葉が現場での実際の虐殺に結びついているかということに目を向け始めるべきなのだろう。残念ながらパレスチナの数千人の民間人にとっては、この気付きは遅きに失するものなのだが。

 

 そして、下記のようにまとめられています。

イスラエル史から時代を無作為に選んで政府関係者、機関、さらに知識人の政治論を検証してみれば、行き着く結論は同じものになるだろう。それは、イスラエルが常に扇動と憎悪のナラティブを形成し、パレスチナ人の虐殺を絶えず主張し続けてきたということである。

 

 ふり返れば、第一次大戦は、オスマン帝国の遺産ぶんどり合戦にほかならなかったといわれています。オスマン帝国がドイツ側についたために、第一次世界大戦は、イギリス、フランス、ドイツを中心とする、いわゆる「帝国主義列強」によるオスマン帝国の分割戦争の側面があったということです。

 だから当時、帝国主義列強の代表格であり、中東での分割戦争に最大の勝利を収めたイギリスが、この分割戦争の中でやりたい放題をやった結果が、現在のイスラエル・ガザ戦争をもたらしたということができると思います。それを象徴するのが「バルフォア宣言」ではないかと思います。

 バルフォア宣言にはっきりと書かれています。

 ”イギリス政府は、パレスチナにユダヤ人のための民族郷土を建設することを好ましいことだと考える。わが政府は、この目的の達成を助けるために最善の努力をするだろう。

 この「宣言」は、バルフォア外相が、ロスチャイルドという富豪への手紙を通じて、イギリスのシオニスト組織への伝達を依頼するという、間接的な方法で行われたといわれていますが、パレスチナ人が何世代も住んできた土地を、イスラエルに譲り渡すような最悪の宣言をしてしまったために、今も混乱が続いているということだと思います。

 

 そして現在、イギリス変わって、多くのユダヤ人が移住しているアメリカが、イスラエルに深く関与し、イスラエルと一体となってガザ戦争を戦っているのです。

 先日国際刑事裁判所(ICC)が、イスラエル・ガザ戦争におけるユダヤ人の戦争犯罪(ジェノサイド)を認定し、ネタニヤフ首相とガラント前国防相に戦争犯罪などの容疑で逮捕状を出しました。

 この逮捕状発行について、イスラエルの関係者はもちろん、アメリカのジャンピエール報道官も、記者会見で「決定を断固として拒否する」と述べたといいます。

 また、バイデン大統領も、逮捕状発行は「言語道断だ」と非難する声明を出すにいたっているのです。

 こうした対応こそ言語道断だと思います。

 

 でも、西側諸国の政府や主要メディアは、事実を伝えるのみで、何の対応もせず、非難や抗議さえしません。中国やロシアやイランなどに対する姿勢とのあまりの違いに驚きます。自らの目先の利益や立場を考え、客観的な事実に基づく、理性的な判断が出来ないのではないかと思います。

 

 

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