去年の夏。
河村静香は青田淳と共にカフェでお茶をしていた。
目の前の淳は携帯を片手に、何やら不機嫌なオーラを出し始めていた。

長年一緒に居る幼馴染みだけあって、静香にはその表情の意味がなんとなく読めた。
携帯を眺める淳に向かって、頬杖をつきながら質問する。
「なーに? 誰? 女?」

「どんな女?」

静香からの問いに、淳はポツリと「‥ウザイ奴」と答えた。
静香はメール相手が男だということを知って、幾分驚いた。
高校時代から彼女と行き詰まるとこういった表情になっていた淳だったので、てっきり女だと思っていたのだ。
「淳ちゃんがウザイ奴の相手してるってこと?見せて見せて!」

数々のメールをスクロールして、静香は溜息を吐く。
「うっわこれはイタイ子だね~。女の子誰よ、かっわいそー」

顔を顰めながら静香がそう口にすると、目の前の淳が再びポツリと口を開いた。
「‥同じだよ」

え?と聞き返す静香に、淳は視線も寄越さず続けて言った。
「同じだよ。そのメール送って来てる奴も、その相手の女も‥」

見限った相手に対する、その冷淡な一面。
静香は淳のそんな顔を見る度、自分しか知らない彼を見つけたようで嬉しくなる。
「ふーん‥そーなんだ。まーた淳ちゃんの気に障る奴が出てきたんだ?」

静香はそう言って、淳に一つ提案をした。
「あたしが代筆してあげよっか?片付けちゃう?」
「何言ってんだよ」

静香の提案に淳は彼女を咎めたが、携帯を取り上げるまではしなかった。
静香は淳を制しながら、メールの新規作成ボタンを押す。
「あたしこういうの得意なんだって。”それじゃあ家にプレゼントを‥”淳ちゃんっぽい口調でっと‥」

おい、と淳は身を乗り出し静香に声を掛けたが、途中で口を噤んだ。
おもしろ、と口にして笑う静香を見ながら、一人何かを思案する。

やがて淳は、乗り出した半身を再び椅子に戻すと、雑誌に目を落としながらこう言った。
「‥好きにしろよ」

そう言ってそれきりメールを見ることもなく、雑誌に目を通し続けた。
カフェには静香の小狡い笑い声と、淳が紙を捲るパラパラという音だけが、響いていた。

「君は見せかけかそうじゃないかもまともに区別出来ないくせに、文句が多いね」

静香がその言葉を聞いたのは、青田淳の実家であった。
広い部屋の真ん中で彼は、通話先の相手に冷淡な最終通告をする。

「その台詞、そっくりそのまま君にお返しするよ」

静香がそのままその場に佇んでいると、
電話を切った淳と目が合った。

静香は、会長が夕飯に招待してくれたから来た、とここに居る理由を述べた後、その感想を口にした。
「そいつとのやり取りもう終わっちゃったの?結構面白かったのにぃ」

静香の感想に対して、淳はさもつまらなそうな顔をしていた。静香は言葉を続ける。
「思ったより大学ってのも大したことない所みたいね~。淳ちゃんいっつもつまんなそうなんだもん」

いつも彼を取り囲む、凡庸、疲弊、退屈。
その暗い瞳を見て感じる闇を、静香は率直に口に出した。
しかし淳はそれに対しては返事をせず、静香に向かって持っていた携帯電話を軽く投げた。
「これあげる」

携帯を受け取った静香は、「どーゆーこと?」とそれを受け取りながら彼に問うた。
しかし淳は質問に答えることなく、狡知な表情でこう言っただけだった。
「要らないの?」

当時、その携帯は最新の機種だった。静香は二つ返事で携帯を譲り受ける。
「まっさかそんなワケ無いじゃん!超ウレシー」

彼は遊び飽きたおもちゃを捨てるように、その退屈な遊びを手放した。
彼の番号と末尾が少し違ったその携帯は、こうして静香の物になったー‥。
「あんたが探してんのはどのメールなの?」

静香は携帯を手に入れることになった経緯を語ったが、
あの時自分が打ったメールがどんな物だったか、曖昧にしか覚えていなかった。
静香は亮の肩に手を掛けながら、今の事態を把握しようと言葉を続ける。
「その明白な証拠を、わざわざ見つけなきゃいけないの?」

静香は、自分のメールはショッピング関連の物しか残してないけれど、
淳のメールはそういう類のものじゃない、と言い切った。内容は決まっているから探す必要は無いと。
「全て利用価値があるかないかよ」

亮は静香の言葉を聞きながら、心の奥深く沈めた記憶が段々と浮き上がって来るのを感じていた。
携帯を握る手に力が入り、「やはりそうだったか」という思いが強まっていく。
先ほど耳にした、呟くような赤山雪の言葉が脳裏に蘇る。
あの子がそういう子だって、本当に分からなかったんですか?

あの男。同じピアノ科で唯一の同学年の男子。ピアノと呼んでいた。
あの事件の後、廊下をがむしゃらに走り、淳の肩を掴んで問い詰めた時のことを思い出す。

お前がやったのか? いいや、俺じゃない お前だろう

本当に分からなかったんですか?
その中に、先ほどの雪の言葉が入り混じる。
俯いた彼女に透けて見えた、かつて感じた既視感の尻尾ー‥。

「‥一緒だってのか‥?」

無意識に、心の声が漏れ出ていた。隣で静香が首を傾げる。
脳裏に、以前雪の実家の裏にて淳と話した記憶が浮かぶ。

雪が危ない、と忠告した亮に、「お前が出て行け」とそっけなく言い放った淳。
あの時亮は憤った。自分の彼女に危機が迫っているというのに、気にも留めないのかよと。
やはりそういうことだったのだ、と亮は今確信していた。
拳を握る手に力が入り、細かく怒りに震えている。
ダメージヘアにも本気じゃなかったってのか?ダメージとオレは、今同じ状況にあるってことなのか?

あの時と同じ思いを、赤山雪がしているというのかー‥。
亮は自分と同じ様に嵌められた彼女を思うと、居てもたっても居られない気分になった。
淳から譲られた携帯を振り上げ、その名を叫びながら投げつける。
「くっそ‥!淳、あの野郎ー!!」

何をするかと静香は目を剥いたが、結局亮は携帯をソファに投げたので無事だった。
静香は、まだ使ってる携帯なのに傷がついたらどうする、と言って憤慨する。

そんな静香を振り返り、亮は荒ぶる気分のまま彼女に釘を刺した。
「お前もバカなことしでかすんじゃねーぞ。オレが監視してっかんな。分かったな?!」

亮はそう言い捨てて、自室のドアをバタンと閉めた。
静香は謎だらけの事態の展開に顔を顰め、「変なの‥」と呟いて肩を竦めた‥。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<退屈な遊び>でした。
以前淳の視点からは<淳>その回想>で書いてますので、合わせてどうぞ。
二度目の記事で失礼しました
しかしアレですねぇ‥静香と淳の2ショット、画になりますねぇ‥。
勿論淳と雪ちゃんが好きな私ですが、この静香と淳のブラック2ショットが堪らなく格好良く見えてしまいます‥^^;
いつかこの二人のイラスト描きたいな‥。(多分需要なし‥)
さて次回は<始まる中間考査>です。
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河村静香は青田淳と共にカフェでお茶をしていた。
目の前の淳は携帯を片手に、何やら不機嫌なオーラを出し始めていた。

長年一緒に居る幼馴染みだけあって、静香にはその表情の意味がなんとなく読めた。
携帯を眺める淳に向かって、頬杖をつきながら質問する。
「なーに? 誰? 女?」

「どんな女?」

静香からの問いに、淳はポツリと「‥ウザイ奴」と答えた。
静香はメール相手が男だということを知って、幾分驚いた。
高校時代から彼女と行き詰まるとこういった表情になっていた淳だったので、てっきり女だと思っていたのだ。
「淳ちゃんがウザイ奴の相手してるってこと?見せて見せて!」

数々のメールをスクロールして、静香は溜息を吐く。
「うっわこれはイタイ子だね~。女の子誰よ、かっわいそー」

顔を顰めながら静香がそう口にすると、目の前の淳が再びポツリと口を開いた。
「‥同じだよ」

え?と聞き返す静香に、淳は視線も寄越さず続けて言った。
「同じだよ。そのメール送って来てる奴も、その相手の女も‥」

見限った相手に対する、その冷淡な一面。
静香は淳のそんな顔を見る度、自分しか知らない彼を見つけたようで嬉しくなる。
「ふーん‥そーなんだ。まーた淳ちゃんの気に障る奴が出てきたんだ?」

静香はそう言って、淳に一つ提案をした。
「あたしが代筆してあげよっか?片付けちゃう?」
「何言ってんだよ」

静香の提案に淳は彼女を咎めたが、携帯を取り上げるまではしなかった。
静香は淳を制しながら、メールの新規作成ボタンを押す。
「あたしこういうの得意なんだって。”それじゃあ家にプレゼントを‥”淳ちゃんっぽい口調でっと‥」

おい、と淳は身を乗り出し静香に声を掛けたが、途中で口を噤んだ。
おもしろ、と口にして笑う静香を見ながら、一人何かを思案する。

やがて淳は、乗り出した半身を再び椅子に戻すと、雑誌に目を落としながらこう言った。
「‥好きにしろよ」

そう言ってそれきりメールを見ることもなく、雑誌に目を通し続けた。
カフェには静香の小狡い笑い声と、淳が紙を捲るパラパラという音だけが、響いていた。

「君は見せかけかそうじゃないかもまともに区別出来ないくせに、文句が多いね」

静香がその言葉を聞いたのは、青田淳の実家であった。
広い部屋の真ん中で彼は、通話先の相手に冷淡な最終通告をする。

「その台詞、そっくりそのまま君にお返しするよ」

静香がそのままその場に佇んでいると、
電話を切った淳と目が合った。

静香は、会長が夕飯に招待してくれたから来た、とここに居る理由を述べた後、その感想を口にした。
「そいつとのやり取りもう終わっちゃったの?結構面白かったのにぃ」

静香の感想に対して、淳はさもつまらなそうな顔をしていた。静香は言葉を続ける。
「思ったより大学ってのも大したことない所みたいね~。淳ちゃんいっつもつまんなそうなんだもん」

いつも彼を取り囲む、凡庸、疲弊、退屈。
その暗い瞳を見て感じる闇を、静香は率直に口に出した。
しかし淳はそれに対しては返事をせず、静香に向かって持っていた携帯電話を軽く投げた。
「これあげる」

携帯を受け取った静香は、「どーゆーこと?」とそれを受け取りながら彼に問うた。
しかし淳は質問に答えることなく、狡知な表情でこう言っただけだった。
「要らないの?」

当時、その携帯は最新の機種だった。静香は二つ返事で携帯を譲り受ける。
「まっさかそんなワケ無いじゃん!超ウレシー」

彼は遊び飽きたおもちゃを捨てるように、その退屈な遊びを手放した。
彼の番号と末尾が少し違ったその携帯は、こうして静香の物になったー‥。
「あんたが探してんのはどのメールなの?」

静香は携帯を手に入れることになった経緯を語ったが、
あの時自分が打ったメールがどんな物だったか、曖昧にしか覚えていなかった。
静香は亮の肩に手を掛けながら、今の事態を把握しようと言葉を続ける。
「その明白な証拠を、わざわざ見つけなきゃいけないの?」

静香は、自分のメールはショッピング関連の物しか残してないけれど、
淳のメールはそういう類のものじゃない、と言い切った。内容は決まっているから探す必要は無いと。
「全て利用価値があるかないかよ」

亮は静香の言葉を聞きながら、心の奥深く沈めた記憶が段々と浮き上がって来るのを感じていた。
携帯を握る手に力が入り、「やはりそうだったか」という思いが強まっていく。
先ほど耳にした、呟くような赤山雪の言葉が脳裏に蘇る。
あの子がそういう子だって、本当に分からなかったんですか?

あの男。同じピアノ科で唯一の同学年の男子。ピアノと呼んでいた。
あの事件の後、廊下をがむしゃらに走り、淳の肩を掴んで問い詰めた時のことを思い出す。

お前がやったのか? いいや、俺じゃない お前だろう

本当に分からなかったんですか?
その中に、先ほどの雪の言葉が入り混じる。
俯いた彼女に透けて見えた、かつて感じた既視感の尻尾ー‥。


「‥一緒だってのか‥?」

無意識に、心の声が漏れ出ていた。隣で静香が首を傾げる。
脳裏に、以前雪の実家の裏にて淳と話した記憶が浮かぶ。

雪が危ない、と忠告した亮に、「お前が出て行け」とそっけなく言い放った淳。
あの時亮は憤った。自分の彼女に危機が迫っているというのに、気にも留めないのかよと。
やはりそういうことだったのだ、と亮は今確信していた。
拳を握る手に力が入り、細かく怒りに震えている。
ダメージヘアにも本気じゃなかったってのか?ダメージとオレは、今同じ状況にあるってことなのか?

あの時と同じ思いを、赤山雪がしているというのかー‥。
亮は自分と同じ様に嵌められた彼女を思うと、居てもたっても居られない気分になった。
淳から譲られた携帯を振り上げ、その名を叫びながら投げつける。
「くっそ‥!淳、あの野郎ー!!」

何をするかと静香は目を剥いたが、結局亮は携帯をソファに投げたので無事だった。
静香は、まだ使ってる携帯なのに傷がついたらどうする、と言って憤慨する。

そんな静香を振り返り、亮は荒ぶる気分のまま彼女に釘を刺した。
「お前もバカなことしでかすんじゃねーぞ。オレが監視してっかんな。分かったな?!」

亮はそう言い捨てて、自室のドアをバタンと閉めた。
静香は謎だらけの事態の展開に顔を顰め、「変なの‥」と呟いて肩を竦めた‥。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<退屈な遊び>でした。
以前淳の視点からは<淳>その回想>で書いてますので、合わせてどうぞ。
二度目の記事で失礼しました

しかしアレですねぇ‥静香と淳の2ショット、画になりますねぇ‥。
勿論淳と雪ちゃんが好きな私ですが、この静香と淳のブラック2ショットが堪らなく格好良く見えてしまいます‥^^;
いつかこの二人のイラスト描きたいな‥。(多分需要なし‥)
さて次回は<始まる中間考査>です。
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