Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

無言のSOS

2014-06-23 01:00:00 | 雪3年3部(偽物への警告~疎いライオン)
「はぁ‥」



聡美と太一の元を離れトイレに向かった雪は、頭を抱えながら一人廊下を歩いていた。

先ほど彼から向けられた視線が頭を離れない‥。



こんなことをしていては試験に差し障る。

一人で振り回されてバカを見て‥こんな状態でどうやって彼に勝つと言うんだろう‥。



そう思いながら雪がふと顔を上げると、前方から彼が歩いて来るのが見えた。

ロングコートを羽織り、セーターにジーンズという出で立ちの長身の彼。



伏目がちに歩く彼の頬に、長い睫毛の影が落ちる。

彼は雪の方へは視線を流さぬまま、ゆっくりとこちらに向かって歩いて来る。



雪は何も考えられぬまま、その場で足を止め一人狼狽した。

自分に何か用があるのだろうか。用があるならば、なぜ自分の方を見ないのか‥。



だんだんと彼との距離が近くなる。

雪は彼の顔がそれ以上見れず、動揺の最中に視線を下に逸らした。嫌な汗が頬を伝う。



地面を見ている雪の視線の先に、彼の高級そうな靴がある。

大きな歩幅で、スピードを緩めずその靴はこちらに向かって来る。



雪はたじろいだ。視線をキョロキョロと彷徨わせながら、一人心の中で考える。

な、何を話せば‥まだほんの数日しか経ってないのに‥



胸の中のわだかまりはまだ随分固く、心の整理も依然として出来ていなかった。

当惑する雪だったが、次の瞬間目線の先の靴が、突然くるっと方向を変えた。



雪が呆気に取られて目線で追ったその背中は、自販機の前にあった。

彼は雪の方を向くことなく、何か飲み物を買っている。






雪はあんぐりと口を開けた。

そしてだんだんと怒りが湧いてきて、そのまま彼に構わずトイレへと歩いて行った。


何でいつも墓穴を掘るのは私の方かなぁ?!

あっちから先に話し掛けるまで黙ってるぞ私は!非があるのはあっちなんだし‥!




用を済ませて手を洗う間も、雪の心は荒れていた。

いつも振り回されるのは自分だという思いと、飄々とした態度の彼に腹が立つ。



しかしひとしきり感情が高ぶり終わると、急に疲労感が襲って来た。

馬鹿みたい‥と雪は一人呟きながら、溜息を吐いてトイレから出る。






そして出入口から出た雪が目にしたものは、予想外の光景だった。

壁の前に彼がいる。彼はじっと、彼女を待っていたのだ。



雪は複雑な思いを抱えながら、その場に立ち尽くした。

彼は彼女に向かって歩いて来る。

そして目の前に彼が来た時、雪はビクッと身を竦めた。



淳はポケットから手を出すと、手のひらに握っていた缶コーヒーを差し出した。

雪はその場で身動ぎも出来ぬまま、差し出された缶コーヒーに視線を落とす。



彼は何も言わなかった。

ただ無言のまま、缶コーヒーを差し出している。



突然の彼との遭遇とその行動に、雪は小さく溜息を吐いた。

紡ぐ言葉など、何も見つからない。



雪は彼から目を逸らすと、

「今コーヒー飲んだとこで‥」と口にして、彼から少し身体を離した。




突然、目の前から彼が消えた。

淳は彼女に向かって手を伸ばすと、背後から雪のことを抱き締める。


「!!」



一瞬、何が起きたのか分からなかった。

気がつけば自身が、彼の中に埋まっていた。



そして状況を理解出来るようになるまでの間、淳は強く雪のことを抱き締め続けていた。

頭を前に倒し、彼女の髪に顔を埋める。

ようやく状況の把握が出来て来た雪の身体は硬直し、次第に顔が赤くなって行く。

「あ‥」



掠れた声が口をついて出る。雪は小さく抵抗しながら、

「ちょっ‥ちょっと待って‥」と言うのが精一杯だった。



雪はアセアセと周りを見回した。人が来るんじゃないかとハラハラする。

すると、不意に凭れ掛かるように彼女を抱き締めていた彼が、そっと彼女の肩にその手を置いた。



少し彼女の服を掴むように指を折り、彼女の髪に埋めていた顔を上げる。



ゆっくりとした動作だった。

雪はそのままの姿勢で、目線だけ上に上げて彼の顔を見る。

彼の瞳が、超至近距離で彼女の瞳を見つめている。



その距離、僅か数センチ。

彼女の色素の薄い瞳と、彼の深く蒼がかった瞳が、無言で相対する。



淳は再び身を屈め、より深く雪に寄りかかった。

雪は目を見開いたまま、じっと彼の行動に身を任せている。








背を向けた彼女に追い縋るような、真っ直ぐ立っている彼女を引き留めるような、

そんな姿勢は二人の象徴だった。


彼は久々に出向いた大学で、いつも通りのノイズと見せかけの笑顔で溢れたその世界で、

唯一の理解者さえも背を向けるその現実を感じているのだ。





深い孤独。

誰も居ない暗い闇に取り残された彼の、無言のSOS‥。





抱き締める腕の強さに、甘えるように凭れ掛かるその仕草に、雪は言葉にならない彼の闇を知る。



 

淳は雪の手に自分の手を這わせると、ゆっくりとその手を上に向けた。

そしてその彼女の手に、そっと缶コーヒーを握らせる。



やがて淳は雪の肩に手を置くと、彼女を立たせてスッと身を離した。

先ほどの時間など、まるで無かったかのように。



そしてそのまま雪に背を向け、振り返ることなく彼は行ってしまった。

雪は缶コーヒーを手にしたまま、無言でその背中をじっと見つめている。



全身から、未だ彼の香りがする。

彼の手に握られていた缶コーヒーは、すっかりぬるくなってしまっている。



雪は今の状況と自分の気持ちを持て余しながら、ただその場で立ち尽くしていた。

心の中がざわざわと騒ぎ始めるのを、もう止められそうには無かった‥。


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<無言のSOS>でした。

先輩が買った缶コーヒーはこれかな?



以前3部1話でも先輩飲んでましたね。




差し出された缶コーヒーは、彼の雪に対する気持ちの象徴でしょうね。

要らないといわれても押し付けるように手渡し、去って行く先輩の後ろ姿に哀愁が漂います‥。


次回は<波乱を呼ぶグラフィティー>です。



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