めでたく蓮と恵がカップルになったことを、
雪は自宅で勉強をしている時に知らされた。付き合うことになったと、メールが来たのだ。

まさか二人が‥と雪は思ったが、とりあえずお祝いメールを送っておいた。
小さい頃から喧嘩ばかりしていた二人が付き合うなんて、なんだか変な感じがする‥。

雪はメールを打ち終えてから、額の汗を拭って深い息を吐いた。
毎日色々なことがありすぎて、勉強に集中することが難しくなっている。
横山のことで巻き込んでしまっている聡美や太一にも、申し訳ない思いでいっぱいだ。

雪はパラパラとノートをめくりながら、それでも今日は何事も無く過ごすことが出来たと思い、ホッとする。
明日も平穏な一日であって欲しいと、静かに神に祈る。

雪は深く溜息を吐いた。視線の先には携帯電話がある。
先輩からの連絡は無い。携帯は震えも鳴りもせず、ただ沈黙している。

雪はどこか胸の内が騒ぐのを感じた。
静けさは、ギリギリの均衡を際立たせる

例えるならば、砂浜に築いた砂の城を前にしている気分だった。
波が来る前のほんの僅かな時間しか楽しめない、儚い砂の城‥。
明日何が起こるか、それは誰にも分からない。
大きな運命の歯車に私達は、為す術もなく回されるだけなのだ‥。

翌日、朝早くから赤山蓮は恵とA大の構内に居た。
こんなゴキゲンな笑顔を浮かべながら。

そのままニコニコして隣を歩く彼に、恵は言う。
「も~!何も朝から来なくたって‥」

少し困ったように口にする恵にも、蓮は「一緒に登校するのも楽しいっしょ」と言って嬉しそうだった。
地獄鉄‥ラッシュアワーの人混みで溢れかえる地獄のような地下鉄だって、二人一緒ならハッピーだと。
そのまま暫し二人が会話を重ねていると、後方から不意に名前を呼ばれた。
「蓮君?」

二人が振り返ると、彼は笑顔を浮かべて挨拶を口にした。
「やぁ、おはよう」

青田淳だった。
蓮は淳の顔を見るやいなやピッと姿勢を正し、深く頭を下げて挨拶した。
「わっ!淳さん!」 「久しぶりだね。大学に遊びに来たの?」
「あ、ハイッ!おはようございますっ!」

その超低姿勢の蓮に、恵は幾分呆れ顔だ。
今日はテストですか、と蓮が淳に質問すると、淳はレポートを出しに来たと言って微笑んだ。
明日はテストがあるよと続けて口にした淳に、蓮はファイティンと言ってエールを送る。

淳は蓮の隣に居る恵に視線を移すと、ニッコリと笑って挨拶した。
すると意識しまくりの蓮は、ビクッと身体を強張らす。

恵はそんな蓮に肘鉄砲を食らわすと、同じく笑顔で挨拶を返した。
二人のそんなやり取りを前にして、淳は不思議そうな表情だ。

気まずい思いでその場に佇む蓮の前で、暫し淳と恵は歓談した。
「君ら二人、幼馴染みなんだよね。朝から一緒に登校かぁ」 「はい、そうなんです。雪ねぇと一緒に小さい頃から‥」

しばし俯いていた蓮だが、決意を固めるとバッと顔を上げ、淳に向かって力強く宣言した。
「俺ら、付き合ってるんです!」

いきなりそう口にした蓮に、恵はビックリして息を飲んだ。淳も目を丸くする。
「昨日からっす!」「えっ本当に?」「マジっすよ!あれ?姉ちゃんから聞いてないっすか?」

その蓮からの問いに、暫し淳は固まったが、

すぐに笑顔を浮かべて口を開いた。
「朝から大ニュースだね」

淳は二人に祝いの言葉を述べた。お似合いだよ、と。
蓮と恵が礼を言って頭を下げると淳は頷き、授業があるからそろそろ行くよと別れの挨拶を口にする。
「そうだ。お祝いに今度ご馳走するよ。連絡してくれな」

その淳の提案に、蓮はバンザイをして喜んだ。
社交辞令じゃないっすよね?!と口にする蓮に、笑顔で首を横に振る淳。

そして彼は教室へと向かって歩いて行った。
淳の後ろ姿が小さくなるのを見届けてから、蓮はガッツポーズで口を開く。
「それじゃあ奢られようじゃね~の~!悩んだ分食べて取り返してやるぅ!」

悩んだといっても一日じゃないか‥。
恵は呆れながらそう返し、いい加減にしてと言って蓮をポカポカ叩いた。

カップルになったとはいえ、二人の雰囲気は今までと変わらない‥。

清水香織は、鼻歌を歌いながら構内を歩いていた。
テストを受けに行く為、教室へと向かう。

すると視線の先に、見慣れた後ろ姿があった。青田先輩である。
おそらく彼も自分と向かう方向は同じだろう。香織はオロオロし始めた。
で、出来るだけ足音を立てないように‥抜き足差し足‥

忍び足‥と心の中で思うより先に、彼は香織に気がついた。
心臓がドキリと跳ねる。

香織がうろたえていると、彼は行く先を指差して口を開いた。
「あ、同じ授業だよね?」

香織はバッグの持ち手をギュッと握り締めながら、二、三歩後ずさりをし、口を開いた。
「あ‥あ‥あ‥私はちょっと‥コンビニに‥」

そう小さく口にしてから、香織は逃げるように反対方向へ駆けて行った。
「え?そっちには‥」

淳は香織に声を掛けたが、彼女はそれを聞くことなく行ってしまった。
一度も淳の方を振り向くこと無く。

淳は一人で口角を歪め、嗤いながら、ポツリとその言葉の続きを呟いた。
「コンビニなんて無いけど‥」

上々だった。
今日の清水香織の反応は、先日彼女に下した警告が生きている証拠だ。

そして先ほど、新たに布石を打っておいた。
蓮と恵が付き合うことになったという、予想外だが好都合な事態が彼を動かす‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<布石>でした。
この先輩のコート‥。

バー◯リー設定ですかね‥?
なんか色合いが‥ますます彼をおじさんにさせる‥orz
次回は<疎ましいライオン>です。
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雪は自宅で勉強をしている時に知らされた。付き合うことになったと、メールが来たのだ。

まさか二人が‥と雪は思ったが、とりあえずお祝いメールを送っておいた。
小さい頃から喧嘩ばかりしていた二人が付き合うなんて、なんだか変な感じがする‥。

雪はメールを打ち終えてから、額の汗を拭って深い息を吐いた。
毎日色々なことがありすぎて、勉強に集中することが難しくなっている。
横山のことで巻き込んでしまっている聡美や太一にも、申し訳ない思いでいっぱいだ。

雪はパラパラとノートをめくりながら、それでも今日は何事も無く過ごすことが出来たと思い、ホッとする。
明日も平穏な一日であって欲しいと、静かに神に祈る。

雪は深く溜息を吐いた。視線の先には携帯電話がある。
先輩からの連絡は無い。携帯は震えも鳴りもせず、ただ沈黙している。

雪はどこか胸の内が騒ぐのを感じた。
静けさは、ギリギリの均衡を際立たせる

例えるならば、砂浜に築いた砂の城を前にしている気分だった。
波が来る前のほんの僅かな時間しか楽しめない、儚い砂の城‥。
明日何が起こるか、それは誰にも分からない。
大きな運命の歯車に私達は、為す術もなく回されるだけなのだ‥。

翌日、朝早くから赤山蓮は恵とA大の構内に居た。
こんなゴキゲンな笑顔を浮かべながら。

そのままニコニコして隣を歩く彼に、恵は言う。
「も~!何も朝から来なくたって‥」

少し困ったように口にする恵にも、蓮は「一緒に登校するのも楽しいっしょ」と言って嬉しそうだった。
地獄鉄‥ラッシュアワーの人混みで溢れかえる地獄のような地下鉄だって、二人一緒ならハッピーだと。
そのまま暫し二人が会話を重ねていると、後方から不意に名前を呼ばれた。
「蓮君?」

二人が振り返ると、彼は笑顔を浮かべて挨拶を口にした。
「やぁ、おはよう」

青田淳だった。
蓮は淳の顔を見るやいなやピッと姿勢を正し、深く頭を下げて挨拶した。
「わっ!淳さん!」 「久しぶりだね。大学に遊びに来たの?」
「あ、ハイッ!おはようございますっ!」

その超低姿勢の蓮に、恵は幾分呆れ顔だ。
今日はテストですか、と蓮が淳に質問すると、淳はレポートを出しに来たと言って微笑んだ。
明日はテストがあるよと続けて口にした淳に、蓮はファイティンと言ってエールを送る。

淳は蓮の隣に居る恵に視線を移すと、ニッコリと笑って挨拶した。
すると意識しまくりの蓮は、ビクッと身体を強張らす。

恵はそんな蓮に肘鉄砲を食らわすと、同じく笑顔で挨拶を返した。
二人のそんなやり取りを前にして、淳は不思議そうな表情だ。

気まずい思いでその場に佇む蓮の前で、暫し淳と恵は歓談した。
「君ら二人、幼馴染みなんだよね。朝から一緒に登校かぁ」 「はい、そうなんです。雪ねぇと一緒に小さい頃から‥」

しばし俯いていた蓮だが、決意を固めるとバッと顔を上げ、淳に向かって力強く宣言した。
「俺ら、付き合ってるんです!」

いきなりそう口にした蓮に、恵はビックリして息を飲んだ。淳も目を丸くする。
「昨日からっす!」「えっ本当に?」「マジっすよ!あれ?姉ちゃんから聞いてないっすか?」

その蓮からの問いに、暫し淳は固まったが、

すぐに笑顔を浮かべて口を開いた。
「朝から大ニュースだね」

淳は二人に祝いの言葉を述べた。お似合いだよ、と。
蓮と恵が礼を言って頭を下げると淳は頷き、授業があるからそろそろ行くよと別れの挨拶を口にする。
「そうだ。お祝いに今度ご馳走するよ。連絡してくれな」

その淳の提案に、蓮はバンザイをして喜んだ。
社交辞令じゃないっすよね?!と口にする蓮に、笑顔で首を横に振る淳。

そして彼は教室へと向かって歩いて行った。
淳の後ろ姿が小さくなるのを見届けてから、蓮はガッツポーズで口を開く。
「それじゃあ奢られようじゃね~の~!悩んだ分食べて取り返してやるぅ!」

悩んだといっても一日じゃないか‥。
恵は呆れながらそう返し、いい加減にしてと言って蓮をポカポカ叩いた。

カップルになったとはいえ、二人の雰囲気は今までと変わらない‥。

清水香織は、鼻歌を歌いながら構内を歩いていた。
テストを受けに行く為、教室へと向かう。

すると視線の先に、見慣れた後ろ姿があった。青田先輩である。
おそらく彼も自分と向かう方向は同じだろう。香織はオロオロし始めた。
で、出来るだけ足音を立てないように‥抜き足差し足‥

忍び足‥と心の中で思うより先に、彼は香織に気がついた。
心臓がドキリと跳ねる。

香織がうろたえていると、彼は行く先を指差して口を開いた。
「あ、同じ授業だよね?」

香織はバッグの持ち手をギュッと握り締めながら、二、三歩後ずさりをし、口を開いた。
「あ‥あ‥あ‥私はちょっと‥コンビニに‥」

そう小さく口にしてから、香織は逃げるように反対方向へ駆けて行った。
「え?そっちには‥」

淳は香織に声を掛けたが、彼女はそれを聞くことなく行ってしまった。
一度も淳の方を振り向くこと無く。

淳は一人で口角を歪め、嗤いながら、ポツリとその言葉の続きを呟いた。
「コンビニなんて無いけど‥」

上々だった。
今日の清水香織の反応は、先日彼女に下した警告が生きている証拠だ。

そして先ほど、新たに布石を打っておいた。
蓮と恵が付き合うことになったという、予想外だが好都合な事態が彼を動かす‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<布石>でした。
この先輩のコート‥。

バー◯リー設定ですかね‥?
なんか色合いが‥ますます彼をおじさんにさせる‥orz
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