神田明神の山車に熊坂人形というのがあります。熊坂というのは、平安時代の末の大泥棒、熊坂長範のこと。それが、どうして山車の人形になったのか。どうやら、長範は義賊と思われていたらしいのです。その長範についてのお話です。
熊坂長範も、赤ん坊の時から泥棒だったわけではありません。長範が7才の時、お寺に忍び込んでお布施を盗んでから、泥棒のひとりになったのです。それから長範は手当り次第に盗み回りましたので、近郷近在に、目ぼしい財宝は無くなってしまいました。そこで長範は、木曾の街道筋の山中に根城を構えて、尾張に出稼ぎに行くことにしました。
ある時、長範は一頭の馬を盗みました。その馬のおかげで、長範は遠くまで出かけることが出来るようになり、三河や美濃、伊勢にまで出没するようになりました。その後、長範は早そうな馬を見つけては盗んで行くようになりました。気が付くと根城の回りは馬だらけになりました。そうなると、飼葉の量も馬鹿にならず、それに、根城が見つかる危険もでてきたので、長範は馬を売る事にしました。最初は馬市で売ろうとしましたが、手下が目立たない身なりで出掛けたのに、すぐに捕まってしまいました。どうやら、馬の毛並みを見て前の飼い主が見破ったらしいのです。
これでは馬は売れないし困ったなと長範は思いました。ところが、その晩、忍び込んだ名主の家で、毛替え地蔵にお願いすると、頭髪を変えて呉れると云う耳寄りな話を聞きました。早速、長範は毛替え地歳のところに出掛けました。そして生まれて初めて、少しばかりのお供え物を置くと、馬を売った金は貧乏な人に与えるので馬の毛並みを変えて呉れるように頼みました。本来なら大泥棒の願が叶えられる訳がありませんが、地蔵にも気紛れがあるのです。翌日、長範が起きてみると、馬という馬の毛並みが、すっかり変っていました。喜んだ長範は、手下に馬を売ってくるよぅ命じました。結局、泥棒するのに必要な馬だけを残して、ほかの馬は全部売ってしまいました。そして地蔵との約束もあったので、もうけた金のうち、ほんの少しだけを貧しい人に分けてやりました。長範が義賊だということになったのは、こんなところからきているのです。
長範の話は、これでお終いではありません。続きがあるのです。長範は、あちこちで椋奪、強盗、追剥と悪行の限りをつくしましたが、そのため、ついに武士たちに狙われる羽目になりました。そこで、長範は、毛替え地蔵のところに行き、自分のもじゃもじやの頭髪を変えて呉れるように頼みました。探索の手を逃れる為に人相を変えようとしたのです。その次の日の夕方、長範はまた泥棒に出掛けました。村外れの木陰に隠れていると、誰かがやって来ました。身ぐるみ脱いで置いていけと怒鳴ると、相手は逃げ出しました。あとを追いかけた長範が刀を振下ろすと、ガチッと音がして、刀が折れてしまいました。何と地蔵の首を切ってしまったのです。何故かぞうっとして、長範はあわてて根城に戻りました。その夜、長範は恐ろしい夢を見ました。身の丈が四丈もある石の地蔵に踏み付けられている夢です。
翌朝、長範は起き上がろうとしましたが動けません。とうとう七日の間、寝込んでしまいました。やっと起き上がれるようになって、髪を洗おうとした長範は、たいそう驚きました。水面に映った長範の顔は皺だらけで、髪は真白になっていたのです。よぼよぼの年寄りになった長範は、それからは、誰からも相手にされませんでした。そして美濃赤坂の宿屋で小銭を盗んで、牛若丸という子供に捕まってしまいました。長範は、俺は泥棒の中の泥棒だぞ、と叫びましたが、信用する人は誰もいませんでしたとさ。
熊坂長範も、赤ん坊の時から泥棒だったわけではありません。長範が7才の時、お寺に忍び込んでお布施を盗んでから、泥棒のひとりになったのです。それから長範は手当り次第に盗み回りましたので、近郷近在に、目ぼしい財宝は無くなってしまいました。そこで長範は、木曾の街道筋の山中に根城を構えて、尾張に出稼ぎに行くことにしました。
ある時、長範は一頭の馬を盗みました。その馬のおかげで、長範は遠くまで出かけることが出来るようになり、三河や美濃、伊勢にまで出没するようになりました。その後、長範は早そうな馬を見つけては盗んで行くようになりました。気が付くと根城の回りは馬だらけになりました。そうなると、飼葉の量も馬鹿にならず、それに、根城が見つかる危険もでてきたので、長範は馬を売る事にしました。最初は馬市で売ろうとしましたが、手下が目立たない身なりで出掛けたのに、すぐに捕まってしまいました。どうやら、馬の毛並みを見て前の飼い主が見破ったらしいのです。
これでは馬は売れないし困ったなと長範は思いました。ところが、その晩、忍び込んだ名主の家で、毛替え地蔵にお願いすると、頭髪を変えて呉れると云う耳寄りな話を聞きました。早速、長範は毛替え地歳のところに出掛けました。そして生まれて初めて、少しばかりのお供え物を置くと、馬を売った金は貧乏な人に与えるので馬の毛並みを変えて呉れるように頼みました。本来なら大泥棒の願が叶えられる訳がありませんが、地蔵にも気紛れがあるのです。翌日、長範が起きてみると、馬という馬の毛並みが、すっかり変っていました。喜んだ長範は、手下に馬を売ってくるよぅ命じました。結局、泥棒するのに必要な馬だけを残して、ほかの馬は全部売ってしまいました。そして地蔵との約束もあったので、もうけた金のうち、ほんの少しだけを貧しい人に分けてやりました。長範が義賊だということになったのは、こんなところからきているのです。
長範の話は、これでお終いではありません。続きがあるのです。長範は、あちこちで椋奪、強盗、追剥と悪行の限りをつくしましたが、そのため、ついに武士たちに狙われる羽目になりました。そこで、長範は、毛替え地蔵のところに行き、自分のもじゃもじやの頭髪を変えて呉れるように頼みました。探索の手を逃れる為に人相を変えようとしたのです。その次の日の夕方、長範はまた泥棒に出掛けました。村外れの木陰に隠れていると、誰かがやって来ました。身ぐるみ脱いで置いていけと怒鳴ると、相手は逃げ出しました。あとを追いかけた長範が刀を振下ろすと、ガチッと音がして、刀が折れてしまいました。何と地蔵の首を切ってしまったのです。何故かぞうっとして、長範はあわてて根城に戻りました。その夜、長範は恐ろしい夢を見ました。身の丈が四丈もある石の地蔵に踏み付けられている夢です。
翌朝、長範は起き上がろうとしましたが動けません。とうとう七日の間、寝込んでしまいました。やっと起き上がれるようになって、髪を洗おうとした長範は、たいそう驚きました。水面に映った長範の顔は皺だらけで、髪は真白になっていたのです。よぼよぼの年寄りになった長範は、それからは、誰からも相手にされませんでした。そして美濃赤坂の宿屋で小銭を盗んで、牛若丸という子供に捕まってしまいました。長範は、俺は泥棒の中の泥棒だぞ、と叫びましたが、信用する人は誰もいませんでしたとさ。