夢七雑録

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改作民話「大きく、大きく、大きくなあれっと」

2009-12-11 22:36:10 | 民話伝説の世界
 昔、昔。尾張の国に子供の居ない百姓夫婦が居りました。ある日、表で大きな音がしたので、出てみると、畑の中に誰かがうずくまっていました。良く見ると、それは子供の雷様でした。子供なら大丈夫だと思ったお百姓は、鍬で威かしながら、子供を授けてくれたら許そうと云いました。そんな事は雷様に出来ない相談でしたが、黙って何度かうなずき、そのうち隙を見て逃げ出しました。でも、あんまり慌てたので、大事な木槌を落としてしまいました。お百姓は、その木槌を家に持って帰りました。

 さて、暫くすると、どう云う訳か、そのお百姓の家に子供が生れました。玉のように可愛いい男の子でした。お百姓は、大きく育てと云う願を込めて、ダイダラボッチと云う名前を付けました。お百姓は楠で桶を作り、竹の葉を2枚敷いて、ダイダラボッチを、一日に何回も湯に入れました。そうすれば、丈夫に育つような気がしたからです。

 ダイダラボッチが1才になった時、お百姓は、試しに雷様の木槌を振りながら、大きくなぁれ、大きくなぁれと唱えてみました。すると、気のせいか少し大きくなったように思いました。それからは、時々、その木槌を振って、大きくなぁれ、大きくなぁれと、唱えるようになりました。ダイダラボッチはすくすく育ち、やがて村一番の大男になりました。ダイダラボッチは、ただ大きいだけでなく、良く仕事をしました。川の水をせき止めていた岩をどけたり、切り通しを開いたり。ダイダラボッチは村一番の人気者でした。

 ダイダラボッチは、その後も、育ち続けました。近くを歩いただけで、家が傾いたり、足跡に溜まった水で子供が溺れかけたり。こうなると、村人も良い顔をしなくなりました。仕方なく、ダイダラボッチは村を出ることにしました。

 それからの、ダイダラボッチは、人里離れた山野を住み家にして暮しました。夏が始りかけた、ある日の事、伊吹山に腰掛けて、ぼんやりと考え事をしていると、麓の方からダイダラボッチを呼ぶ声が聞こえました。どうやら助けて欲しいと言っているようでした。何でも、駿河の国に大きな穴が開いて火が吹出し、人々が難義をしているというのです。

 やっと出番が巡って来た!ダイダラボッチは大はりきりで、土を掘っては穴にかけ、掘っては穴にかけました。そのうち、流石の火の勢いも次第に衰えていきました。人々は喜んで、ダイダラボッチの事を誉めそやしましたが、それも一時の事でした。図体の大きいダイダラボッチは、やはり邪庵なだけだったのです。その事に気付いたダイダラボッチは、何処へともなく姿を消してしまいました。

 お百姓夫婦は、もう一度ダイダラボッチに会いたくて、形見の木槌を持って旅に出ました。ダイダラボッチの噂は行く先々で聞きました。でもダイダラボッチの掛けた土が積って富士山になり、土を掘った跡が琵琶湖になったとか、手の跡が浜名湖になったとか、足跡が窪地になったのでダイダと名付けたとかの話ばかりで、ダイダラボッチの行方は分りません。夢にでも会いたい。そんな思いが通じたのでしょう、ダイダラボッチの夢を見ました。ダイダラボッチは大きく成り過ぎて、天まで届き雷様に怒られた。今度は小人に生れたいと言いました。お百姓は、持っていた木槌を逆さにして振りながら、小さくなぁれ、小さくなぁれと唱えてあげました。

 ダイダラボッチの話はこれでおしまいです。ああ、あの木槌のことですか?そうそう、お百姓が比良の山を越えようとした時に、鬼が現れて奪っていったと言う事です。その後の話は、知っている人が知って居ますよ。

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