ゆるい感じで。

「スレイヤーズ」のガウリナメインの二次創作ブログサイトです。原作者様、関係者様には一切関係ございません。

二人ならなんだって(ガウリナ)

2018-05-26 15:55:51 | スレイヤーズ二次創作
どもです。
以前参加させて頂いたガウリナアンソロジー『Let's Festival』がめでたく完売したということで。寄稿作品の公開許可を頂いたので、こちらにて公開致します。
改めて、素敵なアンソロジーに参加させて頂いてありがとうございました!

では、作品は追記よりどうぞ。

-------------------------------------------------------
 ふわぁ。
 目の前で、小さな口がぱかりと開いた。同時に聞こえる気の抜けるような声。自分もその欠伸につられそうになって、我慢してそれを噛み殺す。
「リナ、眠いのか?」
 いつもよりも幾分かゆっくりと目玉焼きにフォークを突き刺していたリナは、オレの言葉にその動きを止めた。
「あー……、うん。ちょっとね」
 なにしろ凄く良い天気だし。
 そう言ってリナは食堂の窓に視線を向ける。その小さな窓から、きらきらとした朝日が差し込んで、薄暗い店内を明るく照らしていた。その光と影のコントラストが、少し眩しい。
 ――確かに、今日は良い天気だ。暖かな陽気が心地いい。まだ朝起きたばかりとは言え、二度寝したくなる気持ちもよく分かる。
 くあ。気が付けば、オレも口をぱかりと開けていた。
「それに」
「ん?」
「最近なんだか暇よねえ」
 ふう、と小さく溜め息なんぞつきながら。リナは再び目玉焼きに手を伸ばす。とろりと蕩けた黄身と白身が、一緒になってリナの口に運ばれていく。
 それを眺めながら、オレも自分の手元にある焼き立てパンに齧りついた。――うん、美味い。
「そうかあ?」
「そうよ。ここんとこ凄く平和。魔族に付きまとわれる事もなく、変人に絡まれることもなく……」
 大真面目にそんな事を言うリナは、なかなかに感覚が麻痺している。
「リナよ、それが普通だ。……でもまあ、確かに。お前さんと出会ってから、今まで事件やら厄介事やら、色々巻き込まれてきたからなあ。――最近は、落ちついているかもな」
 思えば、リナと出会った瞬間から事件に巻き込まれていたような気がしなくもない。魔王の復活とか、世界の危機とか。そういう難しい事はオレには良く分からないけど。
 だけど、盗賊に囲まれるリナを見つけた、あの瞬間から全ては始まった。
 ――オレの世界が、突然色を変えてしまった。
 それだけは、まぎれもなく真実だった。

「なによそれ。それじゃ、あたしが厄介事を連れて来てるみたいじゃない」
 むっとしたようにオレをジト目で睨むリナに、オレは苦笑した。
「間違ってるか?」
「……むぐぐ」
 言い返す言葉がないのか、リナは小さく唸って頼んだばかりのポタージュスープに口を付ける。
「あ、これ美味しい」
 驚いたように目を見開くリナに、オレも興味がそそられる。
「ほんとか? じゃあ、オレもそれ頼もうかな」
 手をあげて食堂のおばちゃんを呼んだら、そのスキにリナがオレのベーコンにフォークを突き刺していた。
「あ、こら」
「……ガウリイ。食事というものは、戦争なのよ」
 言って、にやりと笑うその表情。――本当に、もう。
「お前さんという奴は……」

***

「そんなに暇なら、これから仕事受けに行くか?」
 食後のデザート。剥いたリンゴを齧りながら、ガウリイがもごもごと言う。それに対して、ヨーグルトにはちみつを加えていたあたしは、スプーンをくるくるとかき混ぜながらうーんと唸った。
「そーいうのはちょっと求めてないっていうか……」
 気ままな二人旅。とりあえず今は、抱えた仕事も問題も何もない。こんな明るい散歩日和に、わざわざ仕事を受けに魔道士教会に行く気にはなれない。……とはいえ、何もしないのも勿体ないような。そんな気がするのである。
「まあ、せっかく時間がたっぷりあるんだから、好きなように過ごせばいいさ」
 笑って、彼は口の中のリンゴを飲みくだす。その指が、今度は切り分けられたオレンジに伸びる。
「好きなように、ねえ」
 あたしも、甘酸っぱいヨーグルトを口に運びながら思案する。

 例えば、図書館で好きな魔道書を心行くまでじっくり読むとか? ――ああ、良いかもしれない。それに、買い物するとか。昼間からお風呂にゆっくり浸かっても良いし。美味しいご飯のお店を梯子したって良い……。あ、それに。
「盗賊いぢめ、は駄目だからな」
 思い付いたそばから先手を打たれた。むう。
「……まだ何も言ってないのに」
 ジト目で訴えれば、ガウリイもジト目であたしを睨み返す。
「なんとなく、言っておかないといけない気がしたんだ」
 そして遠い目。――否定できない所がツライ!
「……ま、いいわ。じゃ、ガウリイはどうなの?」
「ん?」
 今度はあたしが問うてみる。きょとんとした相棒は、「何が?」という顔をした。
「今やりたい事、何かないわけ?」
 言って、ヨーグルトをまた一口。甘酸っぱくて美味しい。
 ――彼の好きな事。彼のやりたいこと、か。
 それって、一体なんだろう?

 そういえば、いつもいつもガウリイは、あたしのやりたい事に付き合わされている。……まー、それに関しては申し訳ないと思わないこともないわけだけど。
 それはともかく。
 逆に、彼があたしを振りまわすことって、たぶん無かった。
 あたしの自称保護者様が、夢中になる程好きな事って、あるのだろうか。
 もしあるのなら、それを知らないのはなんだか悔しくて。
「ぱっと思いついた事で良いのよ。――今、何がしたい?」
 思わず、妙に真剣になって聞いていた。

「……そうだなあ。散歩とか、昼寝とか?」
 そうして、返ってきた答えはあんまりにも普通だった。
 思わずがくりと気が抜ける。
「いつもやってる事と全然変わりないじゃない!」
 呆れて言えば、ガウリイはなんだか照れくさそうに笑った。

「あー、うーん。……でもさ」
 言って、彼は頭を掻く。少しだけ言葉に詰まる。
 そんなガウリイの様子に、あたしはスプーンを持つ手を止めた。顔をあげて、少しだけ高い位置の彼の顔を見上げる。
「?」

「オレは、お前さんと一緒なら、何してたって楽しいよ」
 降ってきた声は、あたしを見つめるブルーの瞳と同じくらい、優しかった。

「飯食うのも、仕事すんのも。……お前さんと一緒だと、全部楽しい」
 そう言ってはにかんだ笑顔は少しだけ赤くなっていて。
 ――……。
「……そーいうとこ、ずるいんだから」
「え?」
 なんでそう、恥ずかしい事さらっと言えちゃうかな、こいつは。
「なんでもないですー。……あたしだって、同じですうー」
 ぷい、とそっぽを向きながら。それでも、たぶんあたしの顔が赤いのは、きっと彼にはバレていた。

 おしまい


最新の画像もっと見る

コメントを投稿