どもですあきらです。
お題を貰って書くゼルアメ、第二弾です。
今回のお題は「フィブリゾ戦で一度命を落としたアメリアとトラウマが生まれたゼル 」
というわけで、アニメNEXT準拠なお話です。
------------------------------------------------------------------------------
――俺は夢を見ていた。
夢と分かるのは、目の前に映る場面を俺は確かに知っているから。その後どうなるのかも、己がどう動くのかも、……何を出来ないのかも、全て。
仲間とともに相対する冥王フィブリゾ。その少女のような少年の掌で、弄ばれる金の珠。それは人の命を司る物だ。……俺は知っている。その珠が誰の命の塊なのかを。
その邪悪で美しい少年は、リナ=インバースの目の前で仲間たちを一人一人殺して見せると嘲笑って。彼はその指先に挟んだ金色の珠に力を籠める。――やめろ! 『俺』の叫びは、しかし誰にも届かない。夢の中の俺は、その場から動く事すら出来ないでいる。
ぱきり、と軽く音が響いて。砕け散る金色。その瞬間に、目の前で少女が悲鳴を上げて崩れ落ちた。
――アメリア……っ!
「あぁあああぁあああぁぁぁああああああっ!!!」
耳を塞ぎたくなるほどの恐ろしい悲鳴。苦痛にのたうち回る彼女の身体を、夢の中、俺は抱き留める。
「アメリア! アメリアっ!」
「大丈夫、です……だいじょう、ぶ」
何故。何故そんな事を言うのだ。……まったく大丈夫なんかではないのに。まるで、俺の事を気遣うみたいに。
「……っ!」
苦痛に歪む顔。その身体から徐々に力が抜けていく。――嫌だ。嫌だ、やめてくれ。どうか逝かないでくれ。
俺の必死の願いを嘲笑うように、死神は容赦なくその大鎌を振り上げた。……徐々に失われていく体温。俺の腕の中で、一人の少女の命が失われていく。アメリアの命が。
「――……アメリアっ!」
ハッとして、俺は目を覚ました。
「……、」
暗い部屋は、宿屋の一室。窓から見える空もまだ薄暗いが、徐々に白んでいるようにも見えるから、夜明けが近い時間なのだろう。
ゆっくりとその場に身を起こした俺は、自分が恐ろしく汗をかいている事に気が付いた。寝巻のシャツが湿って肌に張り付いてしまっているし、ベッドシーツも少々濡れている。
――酷い夢だった。
悪夢。だが、あの悪夢は確かに自分が経験した『実体験』でもあった。目の前で、腕の中失われていく命。その後自分もまた、フィブリゾによって一時的にとはいえ命を奪われたのだ。
……あの後、仲間たち全員が生き残る事が出来たのは、まさに奇跡としか言いようがない。どんな理由で、どのような方法でかも分からないまま、俺たちは気付いたら奪われた命を取り戻していた。
「俺も、あいつも、生きている……」
俺はじっとりと汗に塗れた己の手を見下ろした。その硬い岩の肌を持って、レゾの狂戦士として俺の手が奪った命は数えきれない。盗賊や獣、魔族……この世界では、生きて行くには誰かの命を犠牲にする事は避けられない。そんな事は分かっている。
――だと言うのに、今になってこんなにも『死』を恐ろしいと思うだなんて。
思わず自嘲の笑みが零れた。自分は既に失う物など何も無いと思っていたが……まだ、失う事を恐れるものがあったということか。
朝にはまだ早すぎるが、そのまま寝直す気にもなれない。顔でも洗うかと部屋を出て、そして俺は扉を開けた瞬間にその場で固まった。
「……ゼルガディスさん!? なんでこんな時間に……」
驚いた様子のアメリアが、寝巻姿にマントだけ羽織って宿の廊下に立っている。
「それはこっちの台詞だ」
「あ、わたしはちょっと……なんだか目が覚めてしまって、顔でも洗いに行こうかと。ゼルガディスさんも?」
気恥ずかしそうに小さく微笑んだアメリアの、前髪が少し跳ねている。
「……ああ、そうだな」
「ふふっ、なんだか奇遇ですね。リナさんもガウリイさんも、まだきっと夢の中ですよ。――じゃ、井戸でお水汲みに行きましょうか」
そう言って、くるりと俺から背を向け歩き出した彼女の、その腕を俺は無意識に掴んでいた。
「――ゼルガディスさん?」
「……」
きょとんとした顔で俺を見上げてくる彼女に、俺は何も言えない。――正確には、言葉が何も出てこない。
……生きている。アメリアは今、確かに生きている。
「ゼ、ゼルガディス、さん……?」
彼女の驚きの声を、身体越しに聞く。気が付けば夢の中と同じように、俺は彼女の事を抱きしめていた。
「……すまない。すまない、アメリア」
まるで母親を求める幼い子供のように、縋るように抱きしめた彼女の身体。その身体から、確かに温かな体温を感じる。規則正しく刻まれる鼓動の音を感じる。
「少しで良い。……少しだけ、このままで居てくれないか」
我ながら情けない事に、絞り出した声は震えていた。――……恥ずかしい。守れなかったものに縋る自分が、情けなくて悔しくて。
だが、それ以上に。
アメリアが今、こうして生きている事が、嬉しい。
「ゼルガディスさん、……もしかして、怖い夢でも見ちゃったんですか? なーんて……」
冗談めかして笑う彼女に、俺は小さく頷いた。
「ああ、そうだ」
「えっ」
「笑ってくれ。……本当に、本当に恐ろしい夢だった」
次は絶対に守るから。自分の腕の中で失わせるなんてことは、二度と無いと誓うから。それを言葉に出来ない自分の情けなさに唇を噛みながら、俺は彼女を抱きしめる腕に力を込める。――すると。俺の背中に、そっと温かな物が触れた。……アメリアの掌。
彼女の手が、ぽんぽんと俺の背中を軽く叩く。
「大丈夫。……大丈夫ですよ、ゼルガディスさん」
――大丈夫。何の根拠もない、その言葉。……なのに、その声が心地良く胸に響く。
「だって、ヒーローのわたしがついてますからね」
ふふん、と得意げな声で。それでいて、優しい声で。
「……フッ、それは心強いな」
思わず漏れた笑みは、自嘲の笑みでも強がりのそれでもなく。俺は、彼女の強さに確かに救われている事を知るのだった。
夢と分かるのは、目の前に映る場面を俺は確かに知っているから。その後どうなるのかも、己がどう動くのかも、……何を出来ないのかも、全て。
仲間とともに相対する冥王フィブリゾ。その少女のような少年の掌で、弄ばれる金の珠。それは人の命を司る物だ。……俺は知っている。その珠が誰の命の塊なのかを。
その邪悪で美しい少年は、リナ=インバースの目の前で仲間たちを一人一人殺して見せると嘲笑って。彼はその指先に挟んだ金色の珠に力を籠める。――やめろ! 『俺』の叫びは、しかし誰にも届かない。夢の中の俺は、その場から動く事すら出来ないでいる。
ぱきり、と軽く音が響いて。砕け散る金色。その瞬間に、目の前で少女が悲鳴を上げて崩れ落ちた。
――アメリア……っ!
「あぁあああぁあああぁぁぁああああああっ!!!」
耳を塞ぎたくなるほどの恐ろしい悲鳴。苦痛にのたうち回る彼女の身体を、夢の中、俺は抱き留める。
「アメリア! アメリアっ!」
「大丈夫、です……だいじょう、ぶ」
何故。何故そんな事を言うのだ。……まったく大丈夫なんかではないのに。まるで、俺の事を気遣うみたいに。
「……っ!」
苦痛に歪む顔。その身体から徐々に力が抜けていく。――嫌だ。嫌だ、やめてくれ。どうか逝かないでくれ。
俺の必死の願いを嘲笑うように、死神は容赦なくその大鎌を振り上げた。……徐々に失われていく体温。俺の腕の中で、一人の少女の命が失われていく。アメリアの命が。
「――……アメリアっ!」
ハッとして、俺は目を覚ました。
「……、」
暗い部屋は、宿屋の一室。窓から見える空もまだ薄暗いが、徐々に白んでいるようにも見えるから、夜明けが近い時間なのだろう。
ゆっくりとその場に身を起こした俺は、自分が恐ろしく汗をかいている事に気が付いた。寝巻のシャツが湿って肌に張り付いてしまっているし、ベッドシーツも少々濡れている。
――酷い夢だった。
悪夢。だが、あの悪夢は確かに自分が経験した『実体験』でもあった。目の前で、腕の中失われていく命。その後自分もまた、フィブリゾによって一時的にとはいえ命を奪われたのだ。
……あの後、仲間たち全員が生き残る事が出来たのは、まさに奇跡としか言いようがない。どんな理由で、どのような方法でかも分からないまま、俺たちは気付いたら奪われた命を取り戻していた。
「俺も、あいつも、生きている……」
俺はじっとりと汗に塗れた己の手を見下ろした。その硬い岩の肌を持って、レゾの狂戦士として俺の手が奪った命は数えきれない。盗賊や獣、魔族……この世界では、生きて行くには誰かの命を犠牲にする事は避けられない。そんな事は分かっている。
――だと言うのに、今になってこんなにも『死』を恐ろしいと思うだなんて。
思わず自嘲の笑みが零れた。自分は既に失う物など何も無いと思っていたが……まだ、失う事を恐れるものがあったということか。
朝にはまだ早すぎるが、そのまま寝直す気にもなれない。顔でも洗うかと部屋を出て、そして俺は扉を開けた瞬間にその場で固まった。
「……ゼルガディスさん!? なんでこんな時間に……」
驚いた様子のアメリアが、寝巻姿にマントだけ羽織って宿の廊下に立っている。
「それはこっちの台詞だ」
「あ、わたしはちょっと……なんだか目が覚めてしまって、顔でも洗いに行こうかと。ゼルガディスさんも?」
気恥ずかしそうに小さく微笑んだアメリアの、前髪が少し跳ねている。
「……ああ、そうだな」
「ふふっ、なんだか奇遇ですね。リナさんもガウリイさんも、まだきっと夢の中ですよ。――じゃ、井戸でお水汲みに行きましょうか」
そう言って、くるりと俺から背を向け歩き出した彼女の、その腕を俺は無意識に掴んでいた。
「――ゼルガディスさん?」
「……」
きょとんとした顔で俺を見上げてくる彼女に、俺は何も言えない。――正確には、言葉が何も出てこない。
……生きている。アメリアは今、確かに生きている。
「ゼ、ゼルガディス、さん……?」
彼女の驚きの声を、身体越しに聞く。気が付けば夢の中と同じように、俺は彼女の事を抱きしめていた。
「……すまない。すまない、アメリア」
まるで母親を求める幼い子供のように、縋るように抱きしめた彼女の身体。その身体から、確かに温かな体温を感じる。規則正しく刻まれる鼓動の音を感じる。
「少しで良い。……少しだけ、このままで居てくれないか」
我ながら情けない事に、絞り出した声は震えていた。――……恥ずかしい。守れなかったものに縋る自分が、情けなくて悔しくて。
だが、それ以上に。
アメリアが今、こうして生きている事が、嬉しい。
「ゼルガディスさん、……もしかして、怖い夢でも見ちゃったんですか? なーんて……」
冗談めかして笑う彼女に、俺は小さく頷いた。
「ああ、そうだ」
「えっ」
「笑ってくれ。……本当に、本当に恐ろしい夢だった」
次は絶対に守るから。自分の腕の中で失わせるなんてことは、二度と無いと誓うから。それを言葉に出来ない自分の情けなさに唇を噛みながら、俺は彼女を抱きしめる腕に力を込める。――すると。俺の背中に、そっと温かな物が触れた。……アメリアの掌。
彼女の手が、ぽんぽんと俺の背中を軽く叩く。
「大丈夫。……大丈夫ですよ、ゼルガディスさん」
――大丈夫。何の根拠もない、その言葉。……なのに、その声が心地良く胸に響く。
「だって、ヒーローのわたしがついてますからね」
ふふん、と得意げな声で。それでいて、優しい声で。
「……フッ、それは心強いな」
思わず漏れた笑みは、自嘲の笑みでも強がりのそれでもなく。俺は、彼女の強さに確かに救われている事を知るのだった。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます