どもです。あきらです。
新年一発目のガウリナSSです。まさかの死ネタなので苦手な方はご注意ください。
リナを失ったガウリイのIF。
---------------------------------------------------------------------------
「――ガウリイ」
驚くほどに澄んだ空の下。少女が青年を呼ぶ声は、普段の彼女からは想像もできない程に弱弱しく。
「……リナ、もういい。何もしゃべるな」
掠れた声の青年の言葉に、しかし少女は静かに首を横に振った。腹からとめどなく溢れ続ける血液と、みるみる青白く染まっていく彼女の頬の色は、既に『手遅れ』であると彼女自身が分かる程だった。
「ねえ」
自分も血に塗れるのに構わず、少女を強く抱きしめ続ける青年に向かって、少女は最期の声を振り絞る。最期の言葉など聞きたくないと耳を塞ぎそうな青年に、けれどきちんと伝えるために。
「ガウリイ……あのさ……」
「リナ、」
「後追ってきたら、ひっぱたく、かんね……」
ぐっと、力の入らない顔の筋肉に力を込めて。微笑んで見せた少女は、そのままそっと身体の力を抜いてしまった。くたりと、青年の腕の中で眠ってしまったように。
「…………っ、リナ。リナ」
何度名前を呼ぼうとも。もう、少女がその目を開ける事はない。
*
「ガウリイさん」
よく晴れた空の下。庭でぼんやりと空を見上げていた彼に声を掛ければ、青年は少ししてからこちらに気づいて手を振ってくれた。
「よう、アメリア。何か用事か?」
飄々としたその様子は、以前共に旅をしたときとあまり変わりはないように見えるけれど。けれど、彼が見せる穏やかな笑みを目にするたびに、私はどうしようもなく寂しい気持ちに襲われる。寂しさと、悲しみと。そんな感情を漂わせる笑顔。そんな笑顔を、以前の彼は見せたことなどなかったはずだ。
「ええ。……宮廷騎士、辞めちゃうんですってね」
「ああ、フィルさんから聞いたのか? ……スマン、悪い仕事じゃなかったんだけどな」
城付きの宮廷騎士。そして訓練兵の指南役。リナを失ってから、彼にその仕事を依頼したのは純粋に彼が心配だったからだ。一見しては分からない程飄々と振舞っているのに、どこに行ってしまうのか分からない危うさをその背中に感じてしまったから。――巫女としての直感、というのもある。
「彼らも残念がると思うわ。ガウリイさんの教え方、上手だって評判だったから」
実際、彼の剣技は本当に超一流と言って差し支えないモノだったから、訓練兵たちにとってはとても良い刺激になったはずだ。天才肌かと思っていたが、師としての腕もなかなか悪くはなかったようで。
「そうか? ……まあ、よろしく言っといてくれ」
そう笑った青年の、少々窮屈そうな宮廷騎士の制服も似合っていない事はなかったのに。
「――何処へ行くつもりか、聞いても?」
「はは、アテは無いんだけどな。……ただ、ずっと此処にいるのも違うかと思ってな」
「……ガウリイさん」
「心配するなよ。アイツの後を追おうなんて考えちゃいないさ。……そんな事したらアイツに引っぱたかれちまうからな」
また、そうやって寂しげに笑って見せて。
「そう」
「けど、そうだな。オレは、アイツの事を忘れる事なんて出来そうにないからさ」
――だって、自称保護者なんて、名乗っていたものね。
「だから、アイツと……リナと旅した街をもう一度訪ねて回ろうかなーとか。……ああ、でも。その前にやることがあるんだ」
「やること?」
「リナの故郷に、行くよ」
彼女の死を報告しに? それとも、遺品を届けに? おそらく、そのどちらもだろう。
「その後は……なんて聞くだけ野暮ね。ごめんなさい」
「いや、心配してくれてるんだろ。ありがとな、アメリア。またお前さんと会えて良かったよ。此処にいる間は良くしてもらったし、時々ゼルにも会えたし」
「出発は?」
「明日。だから、今日一日はまだよろしくな」
差し出された手を握る。大きく無骨な手は、剣を握る手。傭兵の手だ。
「にゃーん」
「……にゃーん?」
その時、不意に足元から聞こえた小さな鳴き声。視線をそちらに向ければ、握手をするわたしたちの間で、小さな栗色の猫が尻尾を立てて鳴いていた。
「――ああ、お前さんか」
「貴方の知り合い?」
「ああ、最近知り合ったんだ。な?」
ちらり、と笑って見せた彼の足元にすり寄る猫は、こちらには目もくれずに、彼に向ってにゃんと鳴く。――あらあら。
「可愛いだろ、オレに懐いてるみたいでさ」
笑って抱き上げて見せる。それは穏やかな笑顔だった。猫に向かって、「この城の姫さんだぞ」などと説明している姿は、少しだけ昔を彷彿とさせる。――久しぶりに見た。影のない笑顔。
「……旅に、この子も連れて行ったらどうかしら?」
「え? 城の猫じゃないのか?」
「城の猫には揃いの首輪があるもの。ないって事は、野良ですよ」
「そうなのか……お前、どうする? 付いて来たいか?」
きょとんとした顔で猫の顔を覗き込む青年に、私は笑った。
「ええ、それが良いわ。この子が一緒なら、わたしも安心だもの」
栗色の毛並みで、気の強そうな、それでいて元気な。まるで誰かさんを思い出すような、そんな猫だ。
「ガウリイさんを、よろしく頼むわね」
「なうー」
任せろ、と言っているような。そんな猫の機嫌のよさげな鳴き声に、わたしはそっと目を伏せた。
驚くほどに澄んだ空の下。少女が青年を呼ぶ声は、普段の彼女からは想像もできない程に弱弱しく。
「……リナ、もういい。何もしゃべるな」
掠れた声の青年の言葉に、しかし少女は静かに首を横に振った。腹からとめどなく溢れ続ける血液と、みるみる青白く染まっていく彼女の頬の色は、既に『手遅れ』であると彼女自身が分かる程だった。
「ねえ」
自分も血に塗れるのに構わず、少女を強く抱きしめ続ける青年に向かって、少女は最期の声を振り絞る。最期の言葉など聞きたくないと耳を塞ぎそうな青年に、けれどきちんと伝えるために。
「ガウリイ……あのさ……」
「リナ、」
「後追ってきたら、ひっぱたく、かんね……」
ぐっと、力の入らない顔の筋肉に力を込めて。微笑んで見せた少女は、そのままそっと身体の力を抜いてしまった。くたりと、青年の腕の中で眠ってしまったように。
「…………っ、リナ。リナ」
何度名前を呼ぼうとも。もう、少女がその目を開ける事はない。
*
「ガウリイさん」
よく晴れた空の下。庭でぼんやりと空を見上げていた彼に声を掛ければ、青年は少ししてからこちらに気づいて手を振ってくれた。
「よう、アメリア。何か用事か?」
飄々としたその様子は、以前共に旅をしたときとあまり変わりはないように見えるけれど。けれど、彼が見せる穏やかな笑みを目にするたびに、私はどうしようもなく寂しい気持ちに襲われる。寂しさと、悲しみと。そんな感情を漂わせる笑顔。そんな笑顔を、以前の彼は見せたことなどなかったはずだ。
「ええ。……宮廷騎士、辞めちゃうんですってね」
「ああ、フィルさんから聞いたのか? ……スマン、悪い仕事じゃなかったんだけどな」
城付きの宮廷騎士。そして訓練兵の指南役。リナを失ってから、彼にその仕事を依頼したのは純粋に彼が心配だったからだ。一見しては分からない程飄々と振舞っているのに、どこに行ってしまうのか分からない危うさをその背中に感じてしまったから。――巫女としての直感、というのもある。
「彼らも残念がると思うわ。ガウリイさんの教え方、上手だって評判だったから」
実際、彼の剣技は本当に超一流と言って差し支えないモノだったから、訓練兵たちにとってはとても良い刺激になったはずだ。天才肌かと思っていたが、師としての腕もなかなか悪くはなかったようで。
「そうか? ……まあ、よろしく言っといてくれ」
そう笑った青年の、少々窮屈そうな宮廷騎士の制服も似合っていない事はなかったのに。
「――何処へ行くつもりか、聞いても?」
「はは、アテは無いんだけどな。……ただ、ずっと此処にいるのも違うかと思ってな」
「……ガウリイさん」
「心配するなよ。アイツの後を追おうなんて考えちゃいないさ。……そんな事したらアイツに引っぱたかれちまうからな」
また、そうやって寂しげに笑って見せて。
「そう」
「けど、そうだな。オレは、アイツの事を忘れる事なんて出来そうにないからさ」
――だって、自称保護者なんて、名乗っていたものね。
「だから、アイツと……リナと旅した街をもう一度訪ねて回ろうかなーとか。……ああ、でも。その前にやることがあるんだ」
「やること?」
「リナの故郷に、行くよ」
彼女の死を報告しに? それとも、遺品を届けに? おそらく、そのどちらもだろう。
「その後は……なんて聞くだけ野暮ね。ごめんなさい」
「いや、心配してくれてるんだろ。ありがとな、アメリア。またお前さんと会えて良かったよ。此処にいる間は良くしてもらったし、時々ゼルにも会えたし」
「出発は?」
「明日。だから、今日一日はまだよろしくな」
差し出された手を握る。大きく無骨な手は、剣を握る手。傭兵の手だ。
「にゃーん」
「……にゃーん?」
その時、不意に足元から聞こえた小さな鳴き声。視線をそちらに向ければ、握手をするわたしたちの間で、小さな栗色の猫が尻尾を立てて鳴いていた。
「――ああ、お前さんか」
「貴方の知り合い?」
「ああ、最近知り合ったんだ。な?」
ちらり、と笑って見せた彼の足元にすり寄る猫は、こちらには目もくれずに、彼に向ってにゃんと鳴く。――あらあら。
「可愛いだろ、オレに懐いてるみたいでさ」
笑って抱き上げて見せる。それは穏やかな笑顔だった。猫に向かって、「この城の姫さんだぞ」などと説明している姿は、少しだけ昔を彷彿とさせる。――久しぶりに見た。影のない笑顔。
「……旅に、この子も連れて行ったらどうかしら?」
「え? 城の猫じゃないのか?」
「城の猫には揃いの首輪があるもの。ないって事は、野良ですよ」
「そうなのか……お前、どうする? 付いて来たいか?」
きょとんとした顔で猫の顔を覗き込む青年に、私は笑った。
「ええ、それが良いわ。この子が一緒なら、わたしも安心だもの」
栗色の毛並みで、気の強そうな、それでいて元気な。まるで誰かさんを思い出すような、そんな猫だ。
「ガウリイさんを、よろしく頼むわね」
「なうー」
任せろ、と言っているような。そんな猫の機嫌のよさげな鳴き声に、わたしはそっと目を伏せた。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます