どもです。あきらです。
またまたお題でゼルアメSSです。今ゼルアメ強化月間なんで……(今月末のゼルアメオンリー参加のためです。もう少ししたらイベント参加の告知ここでもしますね!コピー本出す予定です~)
お題「人の体に戻ったゼルがアメリアに会いに行く 」
――――――――――――――――――――――――
「成功……成功です! 見てください、人間の身体よ……!」
「おお、本当に凄い……君、体調はどうか? あ、鏡を見たいか? 誰か、鏡を、鏡を……!」
「これは学会に発表すべきかもしれん」
「待ってください。これはエルフの技術と黄金竜の英知によって得られた結果よ。ヒトが軽々しく世界に発表することは許されない」
「――ともかく、彼の命に別状がないか検査を……あれ、彼は? あの男は何処へ行った?」
*
赤法師レゾによって、邪妖精と岩人形を合成された身体。とある魔族には「ミックスジュースを元の材料に戻すようなものだ」と、暗に元の身体に戻る可能性を否定された身体。クレアバイブルの英知すら求めて彷徨い歩き、例えこの丈夫で強い身体を失うのだとしてでも、元の『人間のそれ』に戻りたいと、渇望した身体。
俺はじっと掌を見下ろす。握ったり閉じたりを繰り返す、その掌は人間の肌色をしている。切り付ければ簡単に血を噴き出すような、薄く弱い皮膚の色。
「……戻れたのか、俺は」
とある森にて、変わり者のエルフと黄金竜の二人組と出逢ったのは偶然だった。来たる魔族との争いに備え、様々な魔道の研究を行う彼らは、人間とも手を組もうとする革新的な者たちだったのだ。人間の魔道研究者との繋ぎを付ける事、実験に協力する事を条件に、俺は元の身体に戻る手立てを探す足掛かりを得た。
――結果。
何年も時間を要するであろうと覚悟していた成果を、今俺は手にしている。
成果は得られた。報酬は『人体実験への参加』という前払いで既に支払っている。……ならば、もう此処に用は無い。研究所を抜け出した俺は、一人あてどなく歩き出す。
渡された手鏡に映る顔は、どこか青白い顔をした一般的な青年の顔だった。髪を掻き上げれば、それはさらりと掌から零れて落ちる。金属質な音が鳴る事は無い。
「……、」
どこか現実みが無い。あんなにも渇望したものを得られたと言うのに。――まるで夢のようじゃないか。
俺はそっと指先で自分の頬を摘まんで、その力で頬の皮膚が伸びる事に妙に感動してしまった。
――さて何処へ行こうか。
もう、旅の目的は達成されてしまった。既に俺には、家族も仲間も存在しない。……ほんの一時期、旅を共にした仲間も居たが。
その顔触れを一人一人思い浮かべた所で、不意に、俺の脳裏に一人の顔が焼き付いた。それはとある黒髪の少女の顔。黒目がちな大きな瞳で、俺を見上げる彼女の顔。
「アメリア、か……」
どうしているだろうか。時折手紙を送ってはいるものの、最後に顔を見たのはもう何年も前になる。セイルーンの王女として、彼女はもうあの頃のようには奔放に振舞うことは難しい立場だろう。一国の王女に面会を願うには、あまりに自分は後ろ暗い過去を抱え過ぎている。――だが。
会いたいと、思ってしまった自分の気持ちを、否定する事が俺にはどうしてもできなかった。
*
白魔術都市、聖王都セイルーン。六芒星の形をした街並みは、整然として、なお活気に溢れている。
「来てしまった、な……」
もし彼女と会えたとして、彼女は今の姿の自分を『ゼルガディス』だと認識するのだろうか。元に戻れたのだと報告して、それで? 何を話せば良い。これからの事? それは一体どのような?
――何も分からない。それなのに、のこのこと場違いな場所へとまた足を踏み入れてしまった俺は愚かだろうか。だが……。
ぐるぐると考えながら、しかし足はセイルーンの城へと向いていた。彼女の顔さえ見られれば良い。願わくば、何か少しでも言葉を交わせれば。
と。不意に、近くから叫び声が聞こえる。立ち止まって耳を澄ます。
――なんだ……?
「罪なき人から財布を奪うとは、なんて悪! 貴方たち、そこに直りなさい! このわたしが正義の拳をお見舞いしてあげるわっ!」
「ひっ、姫様! ここは憲兵にお任せを……」
「いいえ! ここはセイルーンよ。民の危機に目を背けるなど王家の恥っ!」
――……。
聞き覚えのあり過ぎる声。正義の怒りに燃える、あの少女の声だ。
俺はその声に、ふつふつと湧き上がる笑いを堪えきれずに再び歩き出す。彼女の元へ。
「……アメリア。久しぶりだな」
俺の声に、彼女は振り向いた。陽の光を受けて煌めくアクセサリーに、淡いピンク色の豪奢なドレスの王女様が、まん丸に目を見開いて。まるで幼い少女のように。
「ゼルガディスさん……っ!?」
一瞬で俺を俺だと気づいた彼女は、まん丸に見開いた目をすぐにくしゃくしゃにして。
「ああ、ゼルガディスさん……」
ぐいと腕で顔を拭って、彼女は勢いよく俺に向かって駆け出して。そして俺の目の前で急ブレーキを掛けてストップした。
「……なんだ、抱き着いて歓待はしてくれないのか?」
思わず漏れた揶揄の台詞に、彼女はくすりと笑って見せる。
「ふふ、わたしにも立場ってものがあるんですよ」
彼女は俺に手を伸ばす。握手の手。――それに、俺は躊躇わずに応える。柔らかい皮膚と皮膚の接触。……そうか、彼女の掌はこんなにも熱を帯びていたのか。岩の肌では感じきれていなかった。
「……あんたは全然変わらないな。アメリア」
「…………貴方はとびっきり変わりましたね、ゼルガディスさん」
未来の話をしよう。これからの話をしよう。希望が溢れる。会う前に抱いていた不安など、軽やかに溶け去ってしまっているのに気づいて、俺は内心苦笑するのだった。
「おお、本当に凄い……君、体調はどうか? あ、鏡を見たいか? 誰か、鏡を、鏡を……!」
「これは学会に発表すべきかもしれん」
「待ってください。これはエルフの技術と黄金竜の英知によって得られた結果よ。ヒトが軽々しく世界に発表することは許されない」
「――ともかく、彼の命に別状がないか検査を……あれ、彼は? あの男は何処へ行った?」
*
赤法師レゾによって、邪妖精と岩人形を合成された身体。とある魔族には「ミックスジュースを元の材料に戻すようなものだ」と、暗に元の身体に戻る可能性を否定された身体。クレアバイブルの英知すら求めて彷徨い歩き、例えこの丈夫で強い身体を失うのだとしてでも、元の『人間のそれ』に戻りたいと、渇望した身体。
俺はじっと掌を見下ろす。握ったり閉じたりを繰り返す、その掌は人間の肌色をしている。切り付ければ簡単に血を噴き出すような、薄く弱い皮膚の色。
「……戻れたのか、俺は」
とある森にて、変わり者のエルフと黄金竜の二人組と出逢ったのは偶然だった。来たる魔族との争いに備え、様々な魔道の研究を行う彼らは、人間とも手を組もうとする革新的な者たちだったのだ。人間の魔道研究者との繋ぎを付ける事、実験に協力する事を条件に、俺は元の身体に戻る手立てを探す足掛かりを得た。
――結果。
何年も時間を要するであろうと覚悟していた成果を、今俺は手にしている。
成果は得られた。報酬は『人体実験への参加』という前払いで既に支払っている。……ならば、もう此処に用は無い。研究所を抜け出した俺は、一人あてどなく歩き出す。
渡された手鏡に映る顔は、どこか青白い顔をした一般的な青年の顔だった。髪を掻き上げれば、それはさらりと掌から零れて落ちる。金属質な音が鳴る事は無い。
「……、」
どこか現実みが無い。あんなにも渇望したものを得られたと言うのに。――まるで夢のようじゃないか。
俺はそっと指先で自分の頬を摘まんで、その力で頬の皮膚が伸びる事に妙に感動してしまった。
――さて何処へ行こうか。
もう、旅の目的は達成されてしまった。既に俺には、家族も仲間も存在しない。……ほんの一時期、旅を共にした仲間も居たが。
その顔触れを一人一人思い浮かべた所で、不意に、俺の脳裏に一人の顔が焼き付いた。それはとある黒髪の少女の顔。黒目がちな大きな瞳で、俺を見上げる彼女の顔。
「アメリア、か……」
どうしているだろうか。時折手紙を送ってはいるものの、最後に顔を見たのはもう何年も前になる。セイルーンの王女として、彼女はもうあの頃のようには奔放に振舞うことは難しい立場だろう。一国の王女に面会を願うには、あまりに自分は後ろ暗い過去を抱え過ぎている。――だが。
会いたいと、思ってしまった自分の気持ちを、否定する事が俺にはどうしてもできなかった。
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白魔術都市、聖王都セイルーン。六芒星の形をした街並みは、整然として、なお活気に溢れている。
「来てしまった、な……」
もし彼女と会えたとして、彼女は今の姿の自分を『ゼルガディス』だと認識するのだろうか。元に戻れたのだと報告して、それで? 何を話せば良い。これからの事? それは一体どのような?
――何も分からない。それなのに、のこのこと場違いな場所へとまた足を踏み入れてしまった俺は愚かだろうか。だが……。
ぐるぐると考えながら、しかし足はセイルーンの城へと向いていた。彼女の顔さえ見られれば良い。願わくば、何か少しでも言葉を交わせれば。
と。不意に、近くから叫び声が聞こえる。立ち止まって耳を澄ます。
――なんだ……?
「罪なき人から財布を奪うとは、なんて悪! 貴方たち、そこに直りなさい! このわたしが正義の拳をお見舞いしてあげるわっ!」
「ひっ、姫様! ここは憲兵にお任せを……」
「いいえ! ここはセイルーンよ。民の危機に目を背けるなど王家の恥っ!」
――……。
聞き覚えのあり過ぎる声。正義の怒りに燃える、あの少女の声だ。
俺はその声に、ふつふつと湧き上がる笑いを堪えきれずに再び歩き出す。彼女の元へ。
「……アメリア。久しぶりだな」
俺の声に、彼女は振り向いた。陽の光を受けて煌めくアクセサリーに、淡いピンク色の豪奢なドレスの王女様が、まん丸に目を見開いて。まるで幼い少女のように。
「ゼルガディスさん……っ!?」
一瞬で俺を俺だと気づいた彼女は、まん丸に見開いた目をすぐにくしゃくしゃにして。
「ああ、ゼルガディスさん……」
ぐいと腕で顔を拭って、彼女は勢いよく俺に向かって駆け出して。そして俺の目の前で急ブレーキを掛けてストップした。
「……なんだ、抱き着いて歓待はしてくれないのか?」
思わず漏れた揶揄の台詞に、彼女はくすりと笑って見せる。
「ふふ、わたしにも立場ってものがあるんですよ」
彼女は俺に手を伸ばす。握手の手。――それに、俺は躊躇わずに応える。柔らかい皮膚と皮膚の接触。……そうか、彼女の掌はこんなにも熱を帯びていたのか。岩の肌では感じきれていなかった。
「……あんたは全然変わらないな。アメリア」
「…………貴方はとびっきり変わりましたね、ゼルガディスさん」
未来の話をしよう。これからの話をしよう。希望が溢れる。会う前に抱いていた不安など、軽やかに溶け去ってしまっているのに気づいて、俺は内心苦笑するのだった。
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