ソレントの朝は早かった。
街はずれにあるホテルのバルコニーは、
ゴツゴツとした小さな山に面していて。
夜が明けると共に、鳥たちが、
その岩陰から木陰から、一斉に囀り始めるのだ(笑)
あまりの美味しさに、南にいる間中飲み続けた、搾りたてオレンジジュース。
そういえば前夜、Hさんが、
その山の中腹には小さな教会があるようだと、
狭い階段が続く方角を指差して言っていたが...
せっかく早起きしたことだしと、
ゴンザと私は朝食後にそこへ行ってみようと思い立つ。
小さな山の、小さな階段。
そこに見えてきたのは...
想像以上に静かで開放的で、
まだ一晩眠っただけというのに、
ソレントが、理想の保養地と感じられたのは、
もしかしたらこの朝が、すべてを物語っていたからなのかもしれない。
天国へと続く階段は、素朴に、神聖に、
暮らしと共にそこにあった。
近づいてみれば、彼らの信ずる神のお話。
岩陰に住むのか、とにかくたくさん見かけたトカゲ。
聞こえてくるのは鳥の声だけ。
動いているのは、風に揺れる葉とトカゲだけ。
誰かに踏みつぶされたイチジクの実の甘い香りは...
見上げれば、どうして地中海沿岸に住む人々が、
あれほどイチジクを食べるのかわかるほどの、大きな樹の下から漂っていた。
タイルに描かれたキリストの生涯を追っていくと...
あった!
上るごとにわかってくる、教会へ続く階段の、もう一つの役目。
山肌を削って作られた、
そのジグザグの小さな階段の角ごとには、
キリストの生涯が描かれた、美しいタイルがはめ込まれていた。
信ずるものが何であっても、人々が心を寄せて作ったものは美しい。
小さな門が閉まっていたのは朝早かったから?
ここを上る人々は、きっと、そこを上るたび、眺めるたびに、
信仰を深めていったのだろう。
振り返ればすぐそこに見える地中海同様、
暮らしの中にあるものとして。
振り返れば、ソレントの街並みと地中海。
『ソレントの思い出は何か?』ともし聞かれたら、
私は一番に、この『教会の朝』を挙げるだろう。
そこには、観光地を思わせるものは、
私たち以外には何もなく。
たとえていうならそれは、我々日本人が、
小さな神社の境内をすり抜けていくような、
そんな感覚にも似ていた。
教会の裏にひっそりと建っていた、終戦の記念碑(?)
路傍の花が、美しいのも同じ。