その夜そこへ座ったのは、運命か、それとも...
「そんなに厨房が気になるなら、中に入って見学出来ないか、交渉してあげる」
ー ソレントの夜。
たまたま厨房を映すモニターの前だったことから、
Hさんが、そんな親切な声をかけてくれる。
お年頃のTMは、彼女お気に入りという、
大人な雰囲気の漂う場所に座れず、
少々残念がってはいたけれど、
ゴンザにとってはその席は、
これ以上ない特等席だった。
まずはシャンパンで乾杯!
偶然なのか。
いや。
もしかしたら、
そういう席があると知っていて、Hさんが、
そこをあらかじめ指定してくれていたのかもしれないが...
とにかく、ゴンザといえば、
食事の合間中、そこに映るシェフたちの動きが気になって仕方がない様子。
頼んだのは、お勧め料理と、それぞれの品に合わせたワインのコース。
「あれはなんだろ?」
「あの鍋が気になる」
「ああ、ああやって...」
と、時々呟く他は、黙りこくってしまったり。
料理が出れば、それにまた夢中で、
けれどもやはり、気になるのは、その作り方で...。
「長年の付き合いだけど、
素材だけでなく、それぞれのソースも素晴らしい。
長い時間かけてとる夕食の、
おしゃべりやワインの隙間に入り込む、
ゴンザの『興味深々』。
そんなとき、Hさんが言ってくれたのが、
『見学』の話だった。
全部の写真を載せられればいいんだけど...難しい(笑)
言葉の出来ないゴンザは、驚き、とまどい、
「中に入れてもらえても、なんて言ったらいいの?」と、
実は腰が引けていたけれど(笑)
すぐに、快く承諾してくれたというシェフのもとへ、
支配人らしき男性に連れられ、進んでゆく。
テーブルに残った私たちはといえば、
やはり興味深々で厨房を映すモニターを眺め...
そこへ登場したゴンザの姿に笑い、
しみじみ、「来てよかったねえ!」と呟く。
(ついでに私泣く・爆)
おしゃべりも、ワインもすすむ。
もし、二人だけなら、とても出来なかったこと。
もし、二人だけなら、
知らなかった世界。
私は、どんな風にお礼を言えばいいのか、
どうすればその、感謝の気持ちか伝わるのか、
わからないまま、Hさんにお礼を述べる。
「いやいや、全然、全然!」
大きくて、青い目のHさんは、いつも、
お礼をいわれたり、すみませんと謝られたりすると、
その流暢な日本語で、そう答えるのだ。
私たちが見つめるモニターの向こうでは、
大緊張のゴンザが、シェフたちに囲まれ、
記念写真を撮ってもらっていた。
デザートも、食べきれないほど!
ソレントの夜。
イル・ブッコの夜。
そこで私たちが見たものは、
『美味しいものを作る』だけじゃない、
サービス業のなんたるか。
それは『業』であって『業』ではないのだと、
あらためて知った、
素晴らしい体験の夜だった。
そしてやっぱり、どこでも最後はリモンチェッロ(笑)