先日、このブログで今は亡き西丸震哉氏(1923年生まれ、2012年没)が1981年に書かれた「食生態学入門」という書から、その一部を抜粋して紹介しましたが、氏の論調は実に愉快で面白いです。そうであっても、的を得た、これぞ真実といった内容になっています。小生、この本をもう10回周りぐらい読んだと思うのですが、いつもアッハッハと吹き出してしまう面白い箇所があります。それを紹介することにしましょう。
第2章 人類の起源
直立歩行がもたらしたもの
人間の先祖が直立歩行をはじめて、そのおかげで人間ができあがったことになるが、直立歩行が人間に対して絶大なプラスの作用を与えたと手ばなしで感謝していいかどうか。なんらかの方向に効果があったといえるとき、必ず足をひっぱる面がどこかに発生して、歪となって影響してくるはずである。
四足で、四つんばいで生活している動物たちの場合には、内臓諸器官はすべて背骨からぶら下げられた、つるし柿のような状態となっているから、それぞれが独自の空間を占めていられて、隣に影響を与えることはなく、内臓の重みや、とんだりはねたりの衝撃のために、つるしている筋がゆるんでもただ下にたれ下がるだけで終わる。駄馬のおなかが下にダブンとたるんだ状態だ。
ところが背骨が直立したときには、上の臓器は下の臓器をおさえつけ、パパイアの木に実が鈴なりになった形となり、下降を抑える面が当分出てこなければ内臓を支える筋はますます伸ばされてしまう。臓器がみんな下腹にたまって、いわゆる中年の体形ができあがっていく。何十年も地球に下からひっぱられたあげく水滴形ができるのだ。
胃の次に腸があって、という順序が崩れて、胃はどんどんたれ下がり、胃の検診医がモタモタする。私の胃はもっと下ですよ、もっと、そう骨盤のあたり、ネ、あったでしょ? なんて毎回いわなければならなくなる。
食事をすると胃がふくれる。そうすると隣から文句が出る。おれは膀胱だが、そう押すなよ、お前だれだ?おれ胃。
そこで食事をすると小便がしたくなるような反応が出てくる。ふつうは胃に食物がはいると便意をもよおすもので、これを胃・大腸反応というが、胃・膀胱反応なんていう新語も出なければならなくなるだろう。
この先はもうただの空間というところに肛門があるが、上からやたらと圧迫されつづけると、抵抗しきれなくなって脱肛になりやすくなる。痔疾の原因はそんなものじゃないといわれるだろうが、イヌ、ネコその他四足獣には未だかつて痔で悩んだ個体はないのに、人間だけがこの苦痛を背負わされる根本原因がここにあるのだと考えねばなるまい。
このほか、急に立ち上がって脳貧血になるのも、1000万年程度の歴史的経過の中では、まだ適応しきれていない面の現われであろう。
(引用ここまで)
いかがでしたでしょうか。
「胃が骨盤当たりまで下がる」なんて冗談だろうと思っていましたが、EPARK病気スコープの解説によると「胃を支える筋肉の低下などさまざまな理由によって…胃が骨盤の位置まで下がってくることもあります。」とあり、ウソではないです。
その原因として、同解説では「痩せすぎにより、腹壁の筋肉や脂肪が少なく、腹部の圧力が低下するためにおこるといわれています。体質的な理由のほかに、悪い姿勢や動作によって内臓が下がり、不自然な腹圧がかかることによって胃が下がるともいわれています。出産経験を多くしている人にも多くみられます。妊娠によって緊張していた腹壁が出産によって緩んでしまうことから胃下垂がおこります。」とのこと。
よって、同解説で「胃下垂だけではとくに病気というわけではありません。」と言わしめてしまっているほどに、人間の内臓はいまだ直立歩行に伴う“パパイアの実”状態なんです。
直立歩行する人間と四足動物の違いを別のたとえで解説したものがあります。どなたが言いだされたのか知りませんが、これも面白いです。
四足と二足の違いは、“洗濯物干し”に例えられます。四足ですと、洗濯竿に相当する背骨に、きれいに内臓が吊るされ、押し合うことも癒着もありません。それが、竿を垂直にすると、洗濯物が下に固まるように、背骨の役割が消えてしまい、内臓は押し合い、癒着し、垂れ下がる一方で、臓器はその能力を十分に発揮することができなくなるのです。
病の器といわれる人間の、そもそもの原因は、どうやら直立したことによるようです。この構造的欠陥は四足に戻らないことにはどうしようもない、もう無理ですが。
(関連記事)
2012.5.16 直立二足歩行する裸の猿・ヒトは人類水生進化説に基づき的確な健康対策を
2012.2.3 人は病の器であり、その最大の原因は直立二足歩行