酷使され疲労困ぱいの「膵臓」に休暇を!フルパワーで膵臓が働くのは各季節の土用だけです。
膵臓といえばインスリンを内分泌する臓器で、飽食によるブドウ糖過剰がために必死にインスリンを分泌し続け、疲れ切ってしまって糖尿病を引き起こす、ということが、まず頭に浮かびます。
でも、膵臓はその前に、外分泌である消化液を出す最重要な臓器であることを十分に認識しておく必要があります。最終的な消化は小腸で行われますが、小腸には膵臓のような別の臓器がくっついているわけではないですし、前段階消化の胃にもそうしたものはありません。
各種消化液を消化管に大量に流し込んでくれるのが膵臓で、類似したものに肝臓から出される胆汁がありますが、胆汁そのものには消化能力はなく、単に脂肪を小さな粒々にし脂肪粒の表面積を増やして消化液が反応しやすくなるよう助けるだけのことです。
従って、膵臓は消化のための要となる極めて重要な臓器なのです。
このことは、2000年以上も前にその基本が完成している中医学(漢方)で経験的に知られていることです。ただし、近代になって臓器の命名法が間違ったがために、残念ながら今日では“膵臓”は軽視される傾向があります。
2000年以上前の中医学にも解剖学がありました。そこで発見されたのが主要5臓器です。「肝・心・脾・肺・腎」の5つです。もっとも中医学では、これらは臓器そのものを指すのではなく、生理学上の働きを指しているのですが、「脾」以外はその臓器(+α)の働きと概ね一致しています。
中医学で「脾」は何かと言うと、一言で言えば「消化吸収の要」です。臓器に当てはめれば「膵臓」となりますが、その膵臓は脾臓の隣にあり、近代になってから細かく臓器を命名する中で、本来は「脾臓」と命名すべきものを「膵臓」としてしまったのでしょう。
よって、中医学の「脾」の説明が分かりにくくなってしまったのです。
ところで、何でも5分類してしまうのを好む漢民族でして、中医学もそうした分類にしてしまうのですが、しかし、これによって自然界そして人体の生理がスムーズに説明できてしまうから不思議なものです。例えば次のようになります。
五季 春・夏・土用・秋・冬 (土用は季節の変わり目)
五方 東・南・中央・西・北
五臓 肝・心・ 脾 ・肺・腎
五志 怒・喜・ 思 ・憂・恐
我々日本人がこれらを考えると、季節は春夏秋冬の4つでいいし、方角は東西南北の4つしかないし、大きな臓器は肝臓、心臓、肺、腎臓の4つで、感情は喜怒哀楽の4つでいいじゃないか、となるのですが、これでは自然界そして人体の生理がスムーズに説明ができないのです。
もう一つ、抜け落ちている肝腎なものを見つけ出して5つに分類した、そうしたものを五行論といいますが、ここに挙げました4項目ともに3つ目に掲げられたもの(4つでは抜け落ちている肝腎なもの)が最も重要なものとなります。
まず、五季の中で最も重要なのが「土用」で、これは“土に用がある時期”つまり農繁期でして、春・土用・夏・土用・秋・土用・冬・土用と季節は巡ります。五方も同様にして、中央が中心地域であり、東方から中央に戻り南方へ行ってまた中央に戻りというふうに中央を中心にして四方が関係するというものです。五志はというと、怒った後に思い、思った後に喜び、喜んだ後に思い、というふうに感情は「思う」ことを中心に巡っているとするものです。
そして、五臓の働きは、肝が働いた後で脾が働き、脾が働いた後で心が働き、というふうに臓器は脾を中心にして働いているとするのです。
さらに、各項目の1つ目同士、2つ目同士も密接な関連があり、3つ目同士は次のように関連付けされます。
土用(農繁期)という季節は中心地域(農業が盛んな地域)にとって重要な時期であり、農作業で重労働をするから食事の量を増やして脾(消化吸収の要)の働きが活発になり、また、思考力を十分に発揮せねばならないのも土用の季節や中心地域の特質である。
少々中医学の解説が長くなりましたが、膵臓は主要5臓器の要であって最重要の臓器であることが、どれだけかはご理解いただけたかと存じます。
そして、その膵臓は、消化吸収の要の働きを担ってくれるのですが、それは“農繁期に膵臓が活発に働いてくれて重労働に耐えられるようにしてくれる”というものであって、年がら年中膵臓がその働きを強いられるのは想定外の出来事です。
現在の飽食時代にあっては、重労働をせずに単に膵臓に無理強いして1年365日、1日24時間、膵臓を酷使し続けているのですから、膵臓が疲弊しきっているのは必然です。膵炎、膵臓がんの原因もここにありましょう。
また、糖尿病も本質的には膵臓本体の疲弊から発症すると考えた方がよいでしょうね。インスリンは膵臓の中に粒々に存在するランゲルハンス島で作られるのですから、膵臓本体が疲弊すればランゲルハンス島もダメージを受けると考えるのが自然でしょう。
さて、今日のグルメ時代にあっては、ヒトが本来取っていた「1日1食の少食」で済ませることはとうてい不可能です。どうしても1日3食かつ過食になってしまいます。これを無理やり少食にすると、それがストレスとなって、かえって健康を害しかねません。
じゃあ、どうしたら良いでしょうか。
何らかの形で、膵臓に「休暇」を与えてあげねばならないのですが。
そこで考えられるのが、膵臓の前段階消化の消化器官の働きを高めることと、肝臓から出される胆汁の量を十分なものにすることです。これによって、膵臓が出さねばならない消化液の量をグーンと減ずることが可能になります。
その働きの一つが先に申しました胃の働きですが、残念ながら胃も疲れています。加えて肝臓も疲れていますから胆汁の量も必要最小限しか期待できないでしょう。
残された消化器官は口だけとなります。
ヒトは出来損ないの動物でして、近い種の霊長類のどれと比較しても、内臓から骨格そして皮膚まで欠陥だらけです。しかし、唯一他の霊長類には決してできない特技を持っています。これは犬歯の退化によって得られたものなのですが、顎(あご)を前後左右に動かすことができ、臼歯で食物をすり潰すことができることです。チンパンジーは犬歯が邪魔になって、これができず、顎を上下に動かして単に物を叩き潰すことしかできないのです。
ヒトは霊長類の中で唯一、牛や馬と同様の顎の動かし方でもって、食べ物を粥状にすり潰す能力を持っているのですから、これを使わないでどうするか、です。
「1口30回ゆっくり噛む」、これが理想と言われていますが、1口100回で難病を自然治癒させた方が何人もみえますから、可能な限り回数多く噛むといいでしょうね。
食べ物のすり潰しによって胃に入った食べ物が、さらに胃の蠕動運動でもって、よりふやけて液体に近い状態になりましょうから、膵液や胆汁は少なくて済んでしまいます。
なお、胃からたんぱく質消化酵素が出ますから、液体に近い状態の食べ物は胃で随分と消化が進み、その分、膵液が少なくて済みます。
加えて、もう一つのヒトの得意技として、口から消化液が出せるということ、つまり唾液に炭水化物消化酵素が含まれていることです。噛めば噛むほど唾液が出て、炭水化物は随分と消化されますから、ここでまた膵液の分泌をうんと少なくさせることができます。
ヒトの数少ない優位な能力、臼歯のすり潰しと唾液の消化酵素を存分に発揮させるための「1口30回ゆっくり噛む」ですから、これを使わない手はないのです。
あとは、食材の吟味です。日本人は古来からの食生活が他の民族とは異なり、たんぱく質と脂肪が極端に少ない食材しか口にしていませんでしたから、これらの消化酵素の出が悪いですし、胃も華奢(きゃしゃ)にできています。よって、動物性たんぱく質はせいぜい魚だけにし、植物性たんぱく質(大豆に多い)もほどほどにすべきでしょう。そして、「油断」です。調理するに当たって油脂は極力控えるに越したことはありません。
ちなみに、1人当たりの食品供給量ベースで戦前(1935年)と現在(1994年)を比較すると、肉は16倍、油脂類は19倍にもなっています。これでは膵臓がもたないのは明らかなことでしょう。
こうした食材の吟味を「1口30回ゆっくり噛む」ことと併せて行えば、膵液は従前の何分の1、いや1桁下の量を分泌するだけで済むことになります。
これでもって、膵臓に「長期休暇」を差し上げることができようというものです。
膵炎、膵臓がんの治療というものも、まずは原点に立ち返って「食い改め」を行い、これでもって自然治癒力を高めることから始めねばいかんでしょうね。
最近、お客様や友人の中に、膵炎、膵臓がんを患っておられる方が次々と現れましたものですから、急ぎ記事にしたところです。
(2015.3.14追記)
膵炎や膵臓がんの発症原因は、どうやら油っぽいもの(揚げ物、炒め物など植物油)の過剰摂取によるようです。このあたりのことを、新谷弘実著「病気にならない生き方」から抜粋して紹介しましょう。(以下、引用)
徳川家康は天ぷらが大好きだったという話は有名ですが、もともと日本には油を使った調理法というのはありませんでした。…日本人が日常的に「揚げもの」を食べるようになったのは、江戸時代も後期に入ってからです。…
これに対し、…地中海に近い国の人々は、古くからオリーブを栽培・多用していたため、オリーブオイルなど油を使った料理を昔から食べていました。…
こうした食文化の違いは、遺伝子の中に「油を消化する」システムとして組み込まれていると考えられます。油は膵臓から分泌される消化液で分解消化されるのですが、私の臨床データからいうと、日本人の膵臓の機能は古くから油ものを食べてきた国の人々と比べて弱いようです。
胃のあたりの痛みを訴えるので内視鏡検査をしたところ、胃炎も胃潰瘍もなく、十二指腸に潰瘍ができているようすもないというケースが、日本人には多々見られます。そういう人は、血液検査をすると、たいてい膵臓の異常を示すアミラーゼ値が高いという結果が出ています。そして食歴を聞くと、揚げものが好きで食べる頻度も高いのです。
ところが、同じかそれ以上の油ものを食べていても、欧米人で膵臓にトラブルが発生する人はあまりいません。つまり、日本人の体は、欧米人のように油ものをたくさん消化することはできないということです。
もしあなたが、週に2、3回油ものを食べていて、上腹部に痛みを感じることがあるようなら、膵炎を起こしている可能性があります。…とくに、動物性脂肪は控えているが、植物性の油なら大丈夫と、天ぷらや油炒めなどを好んで食べている人は要注意です。
…目安としては、揚げものはせいぜい月に1度ぐらいに抑えることです。…
人間に必要な油は、…脂肪分を含有した食物を自然の形のままとることで、必要量を充分にまかなうことができます。
自然の形のままとは、穀物、豆類、ナッツやt物の種など、油の原料となるものを、そのまま丸ごと食べるということです。それがもっとも安全で、もっともヘルシーな油の摂取方法なのです。