コレステロールの薬は百害あって一利なし、絶対飲まないことです
このことについては、過去記事「コレステロール降下剤は毒薬。更年期すぎの女性は飲んじゃダメ!(改訂版)」で詳細に書きましたが、今回、代表的なコレステロール降下剤である「スタチン」の幾つかの毒性、そして疫学調査における血中コレステロール値と血管性疾患の相関の有無についての解説、この2つに関して、下記参考文献などから新たに知見を得ましたので投稿することとします。
参考文献:2019.9.8 発刊「日本人は絶滅危惧民族 ー誤った脂質栄養が拍車ー 」<裏表紙:糖尿病 慢性腎炎 骨折 脳・心血管病 認知症 少子化の予防を目指して>
(日本脂質栄養学会 食品油脂安全性委員会 糖尿病・生活習慣病予防委員会 編著者:奥村治美)
まず、高コレステロール血症の人に投与される代表的なコレステロール降下剤「スタチン」には、本書によれば次の4つの毒性があるとのことです。
一つは「ミトコンドリア毒としてATP産生を抑える」こと。
ヒトが生きていくには絶え間なくエネルギーを作り続けねばならず、そのエネルギーの素がATPで、これの95%は細胞内小器官ミトコンドリアが担っています。そのミトコンドリアに毒として働くスタチンですから、必要なエネルギー産生に支障をきたすことになります。
2つ目は「セレン含有抗酸化酵素の合成を抑える」こと。
ヒトが体内で合成する抗酸化酵素は亜鉛と並んでセレンが重要な役割を果たしています。その一方が合成しにくくなるのですから、様々な免疫力低下を引き起こします。
3つ目は「ビタミンK1からビタミンK2への変換反応を阻害する」こと。
ビタミンK2不足は骨粗鬆症を引き起こすほか、動脈にカルシウムが沈着する動脈石灰化(動脈硬化症)を引き起こす大きな要因と考えられています。
また、ビタミンK2はオステオカルシン(骨の非コラーゲンタンパク質でホルモン様作用を持ち、インスリンの分泌を促進するなど多様な作用を有する)を活性化するという重要な働きがあり、これが抑えられるとなれば、糖尿病の発症などが危惧されます。
4つ目は「ビタミンD3の合成を阻害する」こと。
ビタミンD3不足は骨粗鬆症を引き起こしますが、ビタミンD3は全身の臓器で必要とされる重要なもので、不足すれば様々な生活習慣病を引き起こす元にもなります。
なお、ビタミンD3はオステオカルシンの遺伝子発現を調節し、ビタミンK2と相加的に働きます。
「スタチン」にこんなにもたくさんの毒性があるとは驚きです。
となれば、血中コレステロール値が基準値より高いからといって毎日コレステロール降下剤「スタチン」を飲まされる人は、この毒性を大きく上回る効能「動脈硬化症を予防して血管性疾患の発症を防ぐ」ことが保証されねばなりません。
これが保証に関して、「スタチン」などコレステロール降下剤を長期飲用した群とコレステロール値が高いまま放置した群との比較で、血管性疾患の発症に大きな差が生じ、なおかつ、心配される糖尿病など他の疾病の発生に特段の差はないという結果が出れば納得できるのですが、そうした調査は一切なされていないようです。
国民の「病から命を守る」施策を打つのが厚労省の重要な仕事であるはずであり、こうした面の大がかりな調査をぜひやってもらいたいものです。
2つ目は「疫学調査における血中コレステロール値と血管性疾患の相関の有無について」ですが、本書(それ以外に日本脂質栄養学会の発表資料を含む)に幾つかの疫学調査結果が載っていましたので、それを紹介します。
注目されるのは、「血中コレステロール値が高ければ高いほど、血管性疾患の発症率なり死亡率が高まる」ということが本当に実証されているのか否か、です。
近年、その大きな根拠となっていたのが、2007年に発表されたNIPPONDATA80-17.3年追跡調査(30歳以上男女9216人)の結果に基づく冠動脈心疾患死亡率のハザード比(相対的危険度)です。この調査によれば、<図1>のとおり血中コレステロール値ときれいな相関関係を示しています。(ただし、脳梗塞については、<図2>の同24年追跡調査のグラフからして相関は全くないどころか、逆相関を示しています。)
ところが、継続調査したNIPPONDATA80-24年追跡調査(2015年発表)によると、<図2>のとおり、その相関(血中コレステロール値が高ければ高いほど冠動脈心疾患死亡率が高まる)がもろくも崩れてしまい、総コレステロール値260超の集団にだけ冠動脈心疾患死亡率が突出するという例外を除けば、総コレステロール値260以下のグループでの有意な相関関係はないという結果になってしまいました。(なお、総コレステロール値が260超の集団の突出原因は、他の要因の混入であることを後ほど解説します。)
左<図1> 右<図2>
NIPPONDATA80-17.3年追跡 NIPPONDATA80-24年追跡
(冠動脈心疾患死亡率のみ) (冠動脈心疾患死亡率と脳梗塞死亡率)
調査規模を「標本数×年数」で示した「人・年」で比べてみると、NIPPONDATA80-17.3年追跡は159千人・年、NIPPONDATA80-24年追跡は221千人・年で、調査規模にたいした差はないのですから、この程度の調査規模では、一つには標本数が十分には大きくなかった、もう一つには追跡年数が十分には長くなかった、あるいは両方が関与して不十分であった、ということになりましょうか。
(ちなみに<図1>の棒グラフの上に書かれている数字は各群の死亡者数で、全死亡者数は128人となり、さほど大きな数字ではないです。)
こうした類の調査は、NIPPONDATA80よりも大きな規模のものが他に幾つかあります。例えば、JACC研究(Cui R,2007)は392千人・年、茨城研究(総コレステロールではなくてLDLコレステロールでの調査)では940千人・年です。その結果はというと、<図3><図4>で示す冠動脈心疾患(CHD)死亡率のハザード比のとおりです。
これらの調査を大づかみすると、NIPPONDATA80-24年追跡調査結果と似たり寄ったりですが、各群のばらつきがけっこう目立ち、類似的な傾向も見られず、結果、どれもこれも「有意な相関関係は認められない」という結論に至ったのです。
<図3>NIPPONDATA80-17.3年追跡とJACC研究の対比 右<図4>茨城研究
(冠動脈心疾患死亡率) (冠動脈心疾患死亡率)
本書では図表の紹介はないですが、こうした調査は他にもあり、例えば韓国研究(Song YM,2000)及びメタ解析(Alexander DD,2016)でも類似した結果が出ているようです。
(メタ解析とは、独立して行われた複数の調査研究のデータを収集・統合し、統計的手法を用いて解析した統計的総説)
こうしたことから、「血中コレステロール値が高ければ高いほど、血管性疾患の発症率なり死亡率が高まる」なんてことは、決して言えないことが明らかになったのです。それは、もう何年も前のことで、医学の関係者は皆、知っていていい事実です。
ところで、総コレステロール値が260超のグループは、3つの疫学調査<図1~3>ともに冠動脈心疾患死亡率が突出し、<図4>の茨城研究(指標はLDL)でも高LDL群では有意に高いです。これは何か原因がありそうです。
本書では、家族性高コレステロール血症の標本混入がそうさせたと言っています。
家族性高コレステロール血症とは聞きなれない言葉ですが、遺伝的に若い時からコレステロール値が体質的に高い人のことを言います。深刻なのは両親から引き継いだ場合の「ホモ接合体」で、これは数十万人に1人程度しかいないのですが、片親から引き継いだ場合の「ヘテロ接合体」は案外多くて2百ないし数百人に1人いるとのことです。
(ヘテロ接合体の人の場合、総コレステロール値の平均は320~350程度のようです。)
家族性高コレステロール血症の方(ヘテロ接合体の人の場合。以下同じ。)が、若い時からなぜにコレステロール値が高いかというと、一つには“こうでもしないことには心臓の筋肉が十分には働いてくれない”からです。
それを説明しましょう。
脳細胞や一般の細胞、そして心筋以外の筋肉の主なエネルギー源はブドウ糖なのですが、心筋細胞だけはLDLによって運ばれる脂肪を主なエネルギー源としているのです。
(コレステロールは食物由来のものの他に肝臓でその数倍量が合成されますが、肝臓から全身へ供給される姿がLDL、全身から不要になったものが肝臓へ戻される姿がHDLで、善悪とは無関係です。なお、正しい表記はLDLコレステロール<LDL‐C>ですが、以下単にLDLと略記します。)
よって、心筋細胞にはLDL受容体が数多く発現し、スムーズに脂肪を取り込み、24時間休みなく拍動し続けてくれるのです。これが心筋の、他の筋肉と違うところです。
ところが、この受容体の機能が不完全な方もいるのです。心筋細胞へのエネルギー源の供給がままならないという方です。こうした方を家族性高コレステロール血症と呼ぶのですが、そうした方の体がどう反応するかと言えば、必然的に少しでも多くのLDLを血液中に流し込んで、心筋にいっぱいエネルギー源を送り届けようとするでしょう。
(なお、家族性高コレステロール血症の方のLDL受容体の機能は、正常な人の概ね半分程度のようで、肝臓における取り込みも不活発になりますから、自然にLDL濃度が高くなる傾向にもあります。)
こうして、家族性高コレステロール血症の方であっても、なんとか心筋にエネルギー源をまずまず供給できていますから、本人は体の異常を何ら感じないのです。
しかし、家族性高コレステロール血症の方は若い時から、こうした無理をずっと強いられてきていますから、それが積もり積もって、年老いてくれば普通の人に比べて、どうしても心疾患に罹る危険度が高まろうというものです。
これが、<図1~3>のように総コレステロール値が260超のグループに限って冠動脈心疾患のハザード比が3倍ほどの値を示している原因と考えられるのです。
なお、家族性高コレステロール血症の方であっても、脳梗塞になる危険度は普通の人と変わりないであろうことは、NIPPONDATA80-24年追跡調査が示していましょうし、他の調査からもそのように言えましょう。
また、過去の疫学調査では、コレステロール値が高い人は「元気で病気しない傾向にある」という結果も出ていますから、喜ばしいことでもあるのです。
ついでに付言しておきますが、家族性高コレステロール血症の方がスタチンなどコレステロール降下剤を飲んだらどうなるでしょうか。LDL供給が減りますから、心筋へのエネルギー源供給が不十分になるのは当然のことですし、先に紹介しましたスタチンの場合はその毒性によって、ただでさえ不足しがちな心筋におけるATP(エネルギーの素)産生が抑えらるのですから、これほどひどい治療法はないと言えましょう。
人間だれしも例外なく死にます。近年は老いると血管性疾患で死ぬ割合が大きいです。小生思うに、脳梗塞では後遺症が残って家族に迷惑をかける恐れが多分にあるのですが、冠動脈心疾患であればピンピンコロリと逝ける確率が高まりましょう。家族性高コレステロール血症の方は、そうした良い面もあると捉えていただいてはいかがでしょうか。
日本脂質栄養学会の提言にこうあります。
「コレステロール値の検査は定期健診項目から外すべきだ」と。いたずらに混乱を招いているだけのコレステロール値ですから、早速にもそうなってほしいものです。
単にコレステロール値が定められた基準(根拠が疑われる低い値)をオーバーしたからといって、コレステロール降下剤を安易に飲むのは百害あって一利なしですからね。
最後に付言しておきますが、若くして高コレステロール血症で悩まねばならない、家族性高コレステロール血症で深刻な「ホモ接合体」の人(LDL受容体がほとんど働かず、通常、総コレステロール値が450超)が数十万人に1人いらっしゃって、この方々は遅まきながらやっと2014年に難病指定され、様々な治療が行われていますが、高コレステロール疾患に関しては、こうした方々の治療に止めるべき性質のものではないでしょうか。
(備考)
本稿の多くは、日本脂質栄養学会の書籍や発表資料に基づいていますが、この「日本脂質栄養学会」は信用が置けるか否かですが、これについては下記の記事で小生の受け止め方を書いています。ポイントとなるのは「利益相反開示」です。
久しぶりに本を買い、食の見識を新たにする