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系外惑星からの光を直接観測できる装置“ローマン・コロナグラフ”の準備完了! 恒星の光を取り除く技術で第2の地球を発見へ

2024年05月29日 | 系外惑星
NASAのナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡には、恒星の光を遮りその光芒に隠された惑星を見ることができる“ローマン・コロナグラフ”という装置が搭載されます。
この装置を用いた新しい観測技術を実証することで、地球外のハビタブル(生命が居住可能)な世界の探索への道を拓くのに役立ちます。

この技術実証装置は、最近になって南カリフォルニアにあるNASAのジェット推進研究所(JPL)から、メリーランド州グリーンベルトにあるNASAのゴダード宇宙飛行センターへ出荷。
そこで2027年5月までの打ち上げに向けて、宇宙望遠鏡衛星に組み込まれる予定です。

でも、この大陸をまたいでの旅の前に、ローマン・コロナグラフはエンジニアが“ダークホールを掘る”と呼ぶ、星の光を遮る能力の最も完全なテストを受けていました。

宇宙では、この“ダークホールを掘る”ことにより、天文学者は他の恒星の周りの惑星、すなわち系外惑星からの光を直接観測することができるようになります。

この技術がローマン・コロナグラフで実証されれば、同様の技術を用いた将来のミッションでは、天文学者は直接観測により系外惑星の大気中の化学物質を特定し、生命の存在を示すことができるようになるかもしれません。
図1.ナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡のイメージ図。(Credit: NASA)
図1.ナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡のイメージ図。(Credit: NASA)


恒星の近くにある惑星を見えやすくする

ダークホールのテストでは、宇宙の冷たく暗い真空をシミュレーションするために設計された密閉されたチャンバーにコロナグラフを配置。
レーザーと特殊な光学系を使用して、ローマン望遠鏡で観測したときに見える、星からの光を再現しています。

光がコロナグラフに到達すると、車のサンバイザーが太陽を遮ったり、皆既日食中に月が太陽を遮ったりするように、マスクと呼ばれる小さな円形の隠蔽物を使用して、星の光を効率的に遮断します。
これにより、恒星の近くに位置する天体が見えやすくなる訳です。

マスクを持つコロナグラフとして、すでに宇宙空間で実現されている例はありますが、地球と同じような系外惑星を検出する能力はありませんでした。

他の恒星系から見ると、私たちの地球は太陽の約100億倍暗く見え、この2つは比較的近い距離にあります。
なので、地球を直接撮影することは、3000マイル(約5000キロ)離れた灯台の隣にある発光藻の光の斑点を見ようとするようなものになります。


より多くの恒星の光を取り除く技術

これまでのコロナグラフィー技術では、マスクされた星でさえ、その光芒が地球のような惑星のかすかな光を圧倒していました。
このため、ローマン・コロナグラフでは、いくつかの稼働部品を使用して、過去のスペース用コロナグラフよりも、不要な星の光を多く除去できる技術を実証します。
これらの稼働部品により、宇宙を飛行する初の“アクディブ”なコロナグラフとなります。

主な装置は、直径わずか2インチ(5センチ)の2つの変形可能なミラー(可変形鏡)で、上下に動く2000個以上の小さなピストンで支えられています。
このピストンが連携して可変形鏡の形状を変化させ、コロナグラフマスクの端からこぼれる不要な迷光を補正して遮ることができます。

可変形鏡は、ローマン望遠鏡の他の光学系のわずかなズレを補正するのにも役立ちます。
これらのわずかな光学系のズレはとても小さいので、ローマン望遠鏡の他の装置の高精度測定には全く影響を与えません。
でも、コロナグラフではマスクに隠された星のわずかな光を、“ダークホール”に導いてしまう可能性があります。

肉眼では知覚できないほどの、可変形鏡の形状のわずかな、そして正確な変形によって、このようなわずかな光学系のズレも補正することができます。
光学系のズレは非常に小さく、影響も非常に小さいので、実証試験では正しく修正するために100回以上の反復を行う必要があったそうです。

試験では、コロナグラフのカメラからの読み出しに、中心の恒星の周りにドーナツ状の領域が示され、より多くの中心星の光をその領域から取り除いていくにつれて徐々に暗くなるので、“ダークホールを掘る”というニックネームが付けられました。

打ち上げられた軌道上の宇宙空間では、この暗い領域(ダークホール)に潜む系外惑星が、可変形鏡による作業を行うにつれて、ゆっくりと現れるはずです。


直接観測と間接的な検出方法

過去30年間に、他の恒星の周りに5000個以上の惑星が発見および確認されています。
でも、そのほとんどは間接的に検出されたものでした。

間接的というのは、惑星の光を直接観測するのではなく、惑星が主星(恒星)の光に与える小さな影響から惑星の存在を探るというもの。
恒星の周りを回っている惑星の重力で、恒星が引っ張られることによる速度の変化を、光の波長の変化から読み取ることで惑星の存在を検出するドップラーシフト法や、地球から見て惑星が主星(恒星)の手前を通過(トランジット)するときに見られる、わずかな減光から惑星の存在を探るトランジット法があります。

主星の光の相対的な変化を検出することは、はるかに暗い惑星の光を直接見ることに比べれば、(比較的に)かなり容易と言えます。
実際、直接観測された系外惑星は70個未満にすぎません。

また、現在までに直接撮影された惑星は、一般的に地球とは似ても似つかないもので、ほとんどがはるかに大きく、高温で、概して主星から遠く離れています。
これらの特徴により、検出は容易にはなりますが、私たちが知っているような生命にとっては、かなり存在しにくい環境と言えます。


第2の地球を直接観測する

生命が住める可能性のある惑星を探すには、恒星の何十倍も暗いだけでなく、恒星からの距離が程良く、惑星の表面に液体の水が安定的に存在できる領域“ハビタブルゾーン”を公転する惑星の撮影が必要です。
ハビタブルゾーンが、地球上で見られるような(地球型)生命の先駆体が生まれる必要条件と言えるからです。

そこで、地球に似た、まさに“地球類似惑星”と呼べる系外惑星を直接撮像する機能を開発するのに必要となるのが、ローマン・コロナグラフのような技術実証のためのステップです。

ローマン・コロナグラフが、その能力を最大に発揮することができれば、太陽の周囲を公転する木星に似た系外惑星を直接撮像することができます。

木星は大きくて冷たい外惑星ですが、太陽系の場合は地球から火星軌道がハビタブルゾーンにあたるので、ハビタブルゾーンの比較的近くに位置することになります。

ローマン・コロナグラフの観測を実施することで得られる経験や知識は、太陽のような恒星のハビタブルゾーンを周回する地球サイズの惑星を、直接撮影するために設計される将来の宇宙望遠鏡ミッションへの道を拓くのに役立つはずです。

ハビタブル・ワールド天文台と呼ばれる、NASAによる将来の宇宙望遠鏡コンセプトは、ローマン・コロナグラフ装置の宇宙での実証観測に基づいて設計される機器を使用して、少なくとも25個の“第2の地球”と呼べる地球類似惑星を直接観測することを目指しています。

このハビタブル・ワールド天文台のようなミッションの目標を達成するために、可変形鏡のようなアクティブ(能動的)な部品が必要となった訳です。

ローマン・コロナグラフ装置のアクティブな性能により、通常の光学による観測を異なるレベルに引き上げることができます。
これにより、システム全体がより複雑になりますが、これなしではこのような素晴らしいことはできないはずです。


ミッションの詳細

ナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡は、メリーランド州グリーンベルトにあるNASAのゴダード宇宙飛行センターで管理されていて、南カリフォルニアのジェット推進研究所(JPL)とカリフォルニア工科大学/IPAC、ボルチモアの宇宙望遠鏡科学研究所、および様々な研究機関の科学者で構成される科学チームが参加しています。

主な産業パートナーは、コロラド州ボルダーのBAE Space and Mission Systems、フロリダ州メルボルンのL3Harris Technologies、カリフォルニア州サウザンドオークスのTeledyne Scientific & Imagingです。

ローマン・コロナグラフ装置は、NASAの機器を管理するジェット推進研究所で設計および製造されました。

ヨーロッパ宇宙機関、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、フランスの宇宙機関CNES(国立宇宙研究センター)、ドイツのマックス・プランク天文学研究所が貢献しています。

カリフォルニア州パサデナにあるカリフォルニア工科大学は、NASAのジェット推進研究所を管理しています。
カリフォルニア工科大学/IPACのRoman Science Support Centerは、コロナグラフのデータ管理と機器のコマンドの生成についてジェット推進研究所と連携しています。


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これで2例目! 直径が木星ほどしかない超低温の赤色矮星を公転する地球サイズの惑星“SPECULOOS-3 b”を発見

2024年05月28日 | 系外惑星
今回の研究では、トランジット法で惑星を検出する望遠鏡ネットワークを用いて、直径が木星ほどしかない超低温の赤色矮星の周りを公転する地球サイズの惑星“SPECULOOS-3 b”を発見しています。

このタイプの星の周りに惑星が発見されたのは“トラピスト1”に続く2例目になります。

“SPECULOOS-3 b”は、主星に非常に近い軌道を回っているので、大気が存在する可能性は極めて低いようです。
それでも、超低温矮星の性質を深く知ることや、生命の存在に適した惑星があるかどうかについても、より深く理解できる可能性があるようです。
この研究は、ベルギー・リエージュ大学のMichaël Gillonさんを中心とする研究チームが進めています。


サイズや質量が恒星としての下限に近い超低温矮星

赤色矮星(※1)は、中心で水素の核融合反応が起こっている“普通の恒星(主系列星)”の中では、最も質量が軽く温度が低い恒星です。
その中でも特に温度が低いものを“超低温矮星(ultra-cool dwarf star)”と呼ぶことがあります。
※1.表面温度がおよそ摂氏3500度以下の恒星を赤色矮星(M型矮星)と呼ぶ。実は宇宙に存在する恒星の8割近くは赤色矮星で、太陽系の近傍にある恒星の多くも赤色矮星。太陽よりも小さく、表面温度も低いことから、太陽系の場合よりも恒星に近い位置にハビタブルゾーンがある。
超低温矮星はスペクトル型がM6.5よりも低温側の赤色惑星で、その表面温度は3000K未満しかありません。
直径は木星ほどで質量は太陽の10分の1ほど、サイズや質量が恒星としての下限に近く、主に赤外線の波長で輝く天体です。

惑星形成モデルによると、超低温矮星では原始惑星系円盤(※2)の質量およびサイズが小さいので、木星型惑星ではなく、水星から地球程度のサイズの惑星を比較的たくさん持ちうることが示唆されています。
※2.原始惑星系円盤とは、誕生したばかりの恒星の周りに広がる水素を主成分とするガスやチリからなる円盤状の構造。恒星の形成や、円盤の中で誕生する惑星の研究対象とされている。
星は大きいほど核融合に使う水素の消費量が増加していきます。
なので、明るく輝いているということは、水素の消費量が多く寿命が短いことを意味します。

一方、軽い恒星ほど寿命が長くなります。
このため、超低温矮星の寿命は、現在の宇宙の年齢を超える1兆年以上にもなります。

恒星は軽いものほど数が多く、超低温矮星は太陽くらいの質量を持つ星々よりもずっとありふれた存在といえます。
ただ、極めて暗いので、その性質はよく分かっていません。

天の川銀河に存在する惑星の大半は、超低温矮星の周りを公転しているはずですが、それらの惑星についても、ほとんど理解が進んでいない状態です。


太陽系近傍の超低温矮星を公転する惑星の探索

今回の研究で見つかったのは、超低温矮星の周りを公転する地球サイズの惑星“SPECULOOS-3 b”です。

この探査に用いたのは、トランジット法(※3)で惑星を検出する望遠鏡ネットワーク“SPECULOOS(Search for Planets EClipsing LUtra-c001 Star)”。
研究チームでは、“SPECULOOS”により太陽系近傍にある超低温矮星を公転する惑星の探索をしていました。
※3.トランジット法は、地球から見て惑星が主星(恒星)の手前を通過(トランジット)するときに見られる、わずかな減光から惑星の存在を探る。繰り返し起きるトランジット現象を観測することで、その周期から系外惑星の公転周期を知ることができる。また、トランジット時には、主星の明るさが時間の経過に合わせて変化していく。その明るさの変化を示した曲線“光度曲線”をもとに、系外惑星の直径や大気の有無といった情報を得ることが可能となる。
図1.主星の超低温矮星“SPECULOOS-3”(右)を公転する惑星“SPECULOOS-3 b”(左)のイメージ図。主星は表面温度が2800Kの赤色矮星で、惑星は、この周りをわずか17時間で公転している。(Credit: NASA/JPL-Caltech)
図1.主星の超低温矮星“SPECULOOS-3”(右)を公転する惑星“SPECULOOS-3 b”(左)のイメージ図。主星は表面温度が2800Kの赤色矮星で、惑星は、この周りをわずか17時間で公転している。(Credit: NASA/JPL-Caltech)
超低温矮星を公転する惑星が見つかったのは、有名な“トラピスト1”に続く2例目でした。

“SPECULOOS”では、2011年からプロトタイプの観測装置を南米チリのヨーロッパ南天天文台ラ・シーヤ観測所“トラピスト望遠鏡”に取り付けて観測を開始。
“トラピスト1”の惑星系を発見したのが2017年のことでした。

“トラピスト1”は、超低温矮星を公転する7個の惑星からなる系で、ハビタブル(生命が居住可能)な惑星も複数存在すると考えられています。

“SPECULOOS”の観測が正式に開始されたのは2019年のこと。
チリ・カナリア諸島・メキシコの計6基のリモート望遠鏡を連携して観測は進められました。

超低温矮星は、夜空に膨大な数が存在しています。
なので、惑星のトランジットを検出するには、数週間にわたってそれらを一つずつ観測する必要があります。
そのために、専用のリモート望遠鏡ネットワークが必要だった訳です。


主星に非常に近い軌道を公転する地球サイズの惑星

“SPECULOOS-3”は、はくちょう座の方向約55光年彼方に位置するスペクトル型がM6.5の超低温矮星で、表面温度は2800と推定されています。
質量は太陽の0.1倍、半径は太陽の0.12倍(木星の約1.2倍)となります。

今回見つかった惑星“SPECULOOS-3 b”は、半径が約6100キロと地球とほぼ同じで、主星(恒星)の周りをわずか約17時間で公転しています。

主星に非常に近い軌道を回っているので、地球が太陽から受ける放射の約16倍ものエネルギーを受けていて、高エネルギー放射線が降り注いでいることが考えられます。

このような環境では、惑星に大気が存在する可能性は極めて低くなります。

それでも、この惑星が大気を持たないことで、いくつか都合が良い点もあるかもしれません。
例えば、超低温矮星の性質を深く知ることや、生命の存在に適した惑星があるかどうかについても、より深く理解できる可能性があります。

さらに、“SPECULOOS-3 b”は、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の良い観測対象にもなるはずです。
研究チームでは、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡を用いれば、この惑星の表面について鉱物的な知見も得られると考えています。


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地球の双子星“金星”に似た系外惑星を発見! 惑星が生命の存在に適した環境を持つための条件を探るカギになるかも

2024年05月26日 | 系外惑星
今回の研究では、すばる望遠鏡の赤外線分光器“IRD”などを用いた観測と、NASAのトランジット惑星探査衛星“TESS”を用いた観測との連携を通じて、地球からわずか40光年の位置に新たな系外惑星“グリーゼ12 b”を発見。
“グリーゼ12 b”は、地球や金星と同程度の大きさを持ち、太陽よりも低温の恒星の周りを12.8日をかけて周回しています。

“グリーゼ12 b”が恒星から受け取る日射量が金星の場合と同程度なこと。
また、大気が散逸せずに一定量残っている可能性があることから、“グリーゼ12 b”はこれまでに発見された系外惑星と比べて、金星のような惑星の大気の特徴を調べるのに最も適した惑星と言えそうです。

金星は地球の兄弟とも呼ばれる惑星ですが、金星が地球と異なり生命にとって過酷な環境になった原因は、大きな謎として残されています。

今後、NASAのジェームズウェッブ宇宙望遠鏡や次世代の大型望遠鏡で“グリーゼ12 b”の大気を詳細に調査することで、惑星が生命の居住に適した環境を持つための条件についての理解が大きく進むと期待されます。
この研究は、アストロバイオロジーセンター、東京大学、国立天文台、東京工業大学の研究者を中心とした国際研究チームが進めています。
本研究の成果は、2024年5月23日付でアメリカの天体物理学専門誌“アストロフィジカル・ジャーナル・レター”に“A temperate Earth-sized planet at 12 pc ideal for atmospheric transmission spectroscopy”として掲載されました。
図1.地球から約40光年彼方に位置する赤色矮星を公転する地球サイズの太陽系外惑星“グリーゼ12 b”のイメージ図。この図では“グリーゼ12 b”の周りに薄い大気が描かれているが、惑星が実際にどのような大気を持つのかはまだ分かっていない。今後の研究によって明らかになることが期待されている。(Credit: NASA/JPL-Caltech/R. Hurt (Caltech-IPAC))
図1.地球から約40光年彼方に位置する赤色矮星を公転する地球サイズの太陽系外惑星“グリーゼ12 b”のイメージ図。この図では“グリーゼ12 b”の周りに薄い大気が描かれているが、惑星が実際にどのような大気を持つのかはまだ分かっていない。今後の研究によって明らかになることが期待されている。(Credit: NASA/JPL-Caltech/R. Hurt (Caltech-IPAC))


惑星が生命の存在に適した環境を持つための条件

多種多様な生命を育む私たちの地球は、特別な惑星なのでしょうか?
それとも、広い宇宙の中ではありふれた存在なのでしょうか?

人類にとって根源的とも言えるこの問いに答えるには、地球と似た別の惑星からヒントを得る必要があります。
とりわけ、地球の隣にある惑星“金星”は重要な研究対象の一つになります。

金星のサイズ(地球の0.95倍)や質量(地球の0.82倍)は、まさに地球の兄弟とも言えるほど地球と似通っていますが、その大気は高温高圧で乾燥していて、地球とは似ていません。

太陽から受ける光の量(日射量)に多少の違いはありますが、なぜ金星がここまで地球と異なる表層環境を持つようになったのかは、はっきりと分かっていません。

このように、惑星が生命の存在に適した環境を持つための条件はまだ曖昧なので、その理解を深めるためには、金星だけではなく“太陽系外の金星”にもヒントを求めることが重要となります。


太陽よりも軽くて小さい恒星を周回する惑星

太陽以外の恒星を周回する惑星は、1990年代以降、様々な検出方法によって探索され、その発見数は5500個を超えています。

特に、NASAが2009年に打ち上げた系外惑星探査衛星“ケプラー”により探索が大きく進展し、地球程度かそれより小さなサイズの惑星も発見されるようになりました。

でも、これらの惑星の大半は、地球から数百光年と遠く離れた場所にあるんですねー
なので、現在はもちろん、近い将来の望遠鏡でも、それらの惑星の大気や表層環境を詳細に知ることは困難です。

そこで、近年では太陽系の近くにある、太陽よりも軽くて小さい赤色矮星(※1)と呼ばれる恒星を周回する惑星の探索が精力的に進められています。
※1.表面温度がおよそ摂氏3500度以下の恒星を赤色矮星(M型星)と呼ぶ。実は宇宙に存在する恒星の8割近くは赤色矮星で、太陽系の近傍にある恒星の多くも赤色矮星。太陽よりも小さく、表面温度も低いことから、太陽系の場合よりも恒星に近い位置にハビタブルゾーンがある。
その理由は、恒星が軽くて小さいと、恒星を周回する惑星の重力で恒星が引っ張られることによる恒星の速度変化(ドップラーシフト法)や、明るさの変化(トランジット法)から、惑星の存在を検出しやすくなるためです。

ドップラーシフト法は、恒星の周りを回っている惑星の重力で、恒星が引っ張られることによる速度の変化を、光の波長の変化から読み取ることで惑星の存在を検出する手法です。

分光器により光の波長ごとの強度分布“スペクトル”を得ることができます。
この“スペクトル”は、光のドップラー効果によって私たちの方へ動いている時には短い波長(色で言えば青い方)へ、遠ざかっている時には長い波長(色で言えば赤い方)へズレてしまいます(シフトする)。

この周波数の変化量を測定することで、天体の動きやその速度を知ることができます。
ドップラーシフト法の観測データからは、系外惑星の公転周期や最小質量を知ることもできます。

ドップラーシフト法だけでは原理的に求められるのが惑星質量の下限値。
トランジット法でも観測ができる惑星系の場合だと、その結果と組み合わせて正確に惑星質量を求めることができます。


地球サイズの惑星が存在する兆候を検出

分光観測では、恒星からたくさんの光量を受け取る必要があり、赤色矮星は可視光では暗く、赤外線で明るいという特徴があります。
そこで、すばる望遠鏡では、新しい赤外線分光器“IRD(InfraRed Doppler)”を用いたドップラー法による惑星探査“IRD-SSP”を2019年から開始しています。(※2)
※2.“IRD-SSP”の初期の重要な成果として、ハビタブルゾーン(主星からの距離が程良く、惑星の表面に液体の水が安定的に存在できる領域)を横切るスーパーアース“ロス508 b”の発見を報告している。
今回発見された“グリーゼ12 b”が12.8日をかけて周回しているのが恒星“グリーザ12”です。
“グリーゼ12”は、表面温度が3000℃と、太陽より2500度ほど低く、半径が太陽のおよそ4分の1の赤色矮星です。

研究チームでは、うお座の方向約40光年彼方に位置する“グリーゼ12”を、“IRD-SSP”探査のターゲットの一つとして、2019年~2022年にわたって集中的に観測。
一方で“グリーゼ12”は、トランジット法で惑星を検出するNASAのトランジット惑星探査衛星“TESS”でも、2021年8月から2023年10月の間に観測されていました。

トランジット法は、地球から見て惑星が主星(恒星)の手前を通過(トランジット)するときに見られる、わずかな減光から惑星の存在を探ります。

繰り返し起きるトランジット現象を観測することで、その周期から系外惑星の公転周期を知ることができます。

また、トランジット時には、主星の明るさが時間の経過に合わせて変化していきます。
その明るさの変化を示した曲線“光度曲線”をもとに、系外惑星の直径や大気の有無といった情報を得ることが可能になります。

“TESS”の観測チームは、“グリーゼ12”の観測データから地球サイズの惑星が存在する兆候を検出し、2023年4月に情報を公開しています。

これを受けて、本研究チームはアストロバイオロジーセンターや東京大学が開発・運用する多色同時撮像カメラ“MuSCAT(マスカット)”シリーズ(※3)を用いて追観測を実施。
“TESS”で検出された惑星の兆候がノイズではなく、本物だと確認しました。
※3.“MuSCAT”シリーズは、岡山県の188センチ望遠鏡、スペイン・テネリフェ島の1.52メートル望遠鏡、アメリカ・マウイ島の2メートル望遠鏡に搭載された観測装置。3つもしくは4つの波長帯で同時にトランジット観測が行える。“MuSCAT”はMulticolor Simultaneous Camera for studying Atmospheres of Transiting exoplanetsの略で、岡山県の名産品にちなんでいる。
さらに、“TESS”および“MuSCAT”シリーズで得られたデータの解析からは、惑星の公転周期を12.8日、半径を地球の約0.96倍と求めることができました。
また、“IRD”のデータをカラーアルト天文台の3.5メートル望遠鏡で取得されたドップラーシフトのデータと組み合わせて解析することで、“グリーゼ12 b”の質量の上限値を地球の3.9倍としています。
うお座の方向約40光年彼方に位置する赤色矮星“グリーゼ12”を12.8日周期で公転している惑星“グリーゼ12 b”の動画。(Credit: 4D2U project, NAOJ, 画像:NASA/JPL-Caltech/R. Hurt (Caltech-IPAC))


“グリーゼ12 b”はどのような惑星なのか

“グリーゼ12 b”の“1年(公転周期)”は12.8日と短く、その軌道は主星からわずか0.07天文単位(太陽-地球間の距離の約1/14倍)しか離れていません。
でも、主星の温度が低いので、惑星が主星から受ける日射量は地球の約1.6倍と、金星(地球の1.9倍)と同程度にとどまっています。

それでも、この日射量では惑星の表層が高温になってしまい、地表に液体の水が存在したとしても、暴走的に蒸発してしまう可能性が高いと考えられます。

一方、惑星表面に液体の水が安定して存在できるかどうかは、日射量に加えて大気の組成や量も重要な要素となります。

仮に惑星の表面が適温でも、大気が希薄だと水は液体として存在することはできません。
また、太陽系外の地球型惑星がどのような大気を持つのかも、ほとんど分かっていません。

地球型惑星の大気の研究対象としては、7つの地球型惑星を持つ“トラピスト1”惑星系(※4)が有名です。
※4.“トラピスト1”は、みずがめ座の方向約41光年彼方に位置する赤色矮星。地上の望遠鏡やNASAの赤外線天文衛星“スピッツァー”を用いたトランジット法による観測から、ハビタブルゾーン内の惑星を含む7つの地球型惑星が発見されている。
惑星系の内側から2番目の惑星“トラピスト1 c”は、半径(地球の約1.1倍)や日射量(地球の約2.2倍)が金星や“グリーゼ12 b”とよく似ています。
でも、近年のジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による観測で、この惑星には少なくとも金星のような厚い大気は存在しないことが明らかになりました。

“トラピスト1”は、活動性が高く、強いX線や紫外線、恒星風などを放射しています。
“トラピスト1 c”は、それらの高エネルギー線の照射を受けているので、大気の大半を消失してしまった可能性が高いと考えられているからです。

一方の“グリーゼ12 b”は、主星(恒星)のX線強度が“トラピスト1”より1桁ほど弱いこと。
さらに、主星からの距離が“トラピスト1 c”と比べて4倍以上離れているので、惑星が主星から受ける高エネルギー線照射の影響は“トラピスト1 c”と比べて弱いことが考えられます。

これらのことから、一定量の大気を保持している可能性が高いと言えます。

“グリーゼ12 b”は地球からの距離が近いので、“トラピスト1 c”と同様にジェームズウェッブ宇宙望遠鏡や次世代の大型望遠鏡を用いた惑星大気の観測対象として最適と言えます。

今後、“グリーゼ12 b”の大気を観測し、金星や“トラピスト1 c”の大気と比較することで、地球型惑星の大気が主星からの放射環境によってどのように異なるのかを明らかにできることが期待されます。

現在の金星の表層には液体の水は存在しませんが、過去に存在した可能性が指摘されています。
同様に、条件によっては“グリーゼ12 b”にも過去に液体の水が存在した、もしくは現在も存在する可能性も残されています。

今後、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による詳細な観測や、将来の30メートル級地上望遠鏡によるトランジット分光観測や直接観測によって、“グリーゼ12 b”がどのような大気を持つのか、水蒸気や酸素、二酸化炭素などの生命に関連のある成分の存在が、明らかになることが期待されますね。


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生命活動に関連して放出される化学分子の存在を証明することは困難… 系外惑星“K2-18b”にジメチルスルフィド存在するのか

2024年05月22日 | 系外惑星
太陽以外の恒星の周りを公転する太陽系外惑星(系外惑星)の中には、地球のように適度な温度と豊富な液体の水を持つかもしれない惑星がいくつか見つかっています。

その一つ“K2-18b”について、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による大気組成の観測の結果、豊富なメタンと二酸化炭素に加えて、生命活動と関連のあるバイオマーカーとして注目されている“ジメチルスルフィド”が見つかったと、2023年9月に発表された研究では報告されていました。

でも、今回の研究では、この報告に否定的な結果でているんですねー

本研究では、“K2-18b”模した惑星の大気をコンピュータでモデル化。
シミュレーションにより熱や光によって生じる化学反応を再現してみると、この観測データを元にジメチルスルフィドを検出できたという先の研究結果は、怪しことが示されたそうです。

ただ、“K2-18b”については、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による追加観測が予定されています。
なので、今後の観測でジメチルスルフィドが検出される可能性は残されているようです。
この研究は、カリフォルニア大学リバーサイド校のShang-Min Tasaiさんたちの研究チームが進めています。
図1.赤色矮星“K2-18”(左側の赤色の天体)の周りを公転する惑星“K2-18b”(右側の青色の天体)のイメージ図。“K2-18”には、他に“K2-18c”という惑星も公転している(中央の褐色の天体)。(Credit: Illustration: NASA, CSA, ESA, J. Olmsted (STScI) / Science: N. Madhusudhan (Cambridge University))
図1.赤色矮星“K2-18”(左側の赤色の天体)の周りを公転する惑星“K2-18b”(右側の青色の天体)のイメージ図。“K2-18”には、他に“K2-18c”という惑星も公転している(中央の褐色の天体)。(Credit: Illustration: NASA, CSA, ESA, J. Olmsted (STScI) / Science: N. Madhusudhan (Cambridge University))


生命活動に関連して放出される化学分子

観測技術の進歩によって、天文学者は地球と似た環境を持つと推定される系外惑星をいくつも見つけています。

地球と似た環境があれば、そこに独自の生命体が存在するかもしれないと考えるのは自然なことです。

では、仮に独自の生命体が存在するとして、その証拠はどのようにして見つければいいのでしょうか?

生命活動に関連して放出される化学分子を見つけることは、生命探索の大きな手掛かりの一つとなります。
バイオマーカーと呼ばれるこれらの分子は、生命活動によって大量に生成されることを特徴としています。

分子の種類によっては、生命活動に伴って生成される量の方が、その他の要因によって生成される量を上回ることもあります。


代表的なバイオマーカーの発見

地球から約120光年彼方に位置する惑星“K2-18b”は、ジメチルスルフィドと呼ばれる硫黄化合物の発見が報告されたことで注目されました。

ジメチルスルフィドは、生命と関係のない自然界の化学反応でも生成されます。
でも、地球では特に植物プランクトンの活動によって大量に生成されることが知られている、代表的なバイオマーカーとなります。

2023年9月のこと、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による観測結果を元に、“K2-18b”の大気組成を調べた研究成果が発表されます。
すると、この研究成果が大きな注目を集めることになるんですねー

それは、バイオマーカーの一つジメチルスルフィドの発見に加え、二酸化炭素とメタンが豊富に見つかった一方で、アンモニアが見つからなかったことが理由でした。

この組み合わせは、1%の水素を含む温暖な気候の大気と、その下に液体の水で構成された海が存在する環境で得られると考えられています。

ただ、最も興味深い分子ジメチルスルフィドについては、その存在を示す信号が弱いため、この結果を発表した研究者自身も予備的な結果だと認めていました。
図2.ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡で観測された“K2-18b”の大気組成。真ん中の赤い帯内にジメチルスルフィドの存在を示すスペクトル線が現れている。(Credit: Illustration: NASA, CSA, ESA, J. Olmsted (STScI) / Science: N. Madhusudhan (Cambridge University))
図2.ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡で観測された“K2-18b”の大気組成。真ん中の赤い帯内にジメチルスルフィドの存在を示すスペクトル線が現れている。(Credit: Illustration: NASA, CSA, ESA, J. Olmsted (STScI) / Science: N. Madhusudhan (Cambridge University))


シミュレーションによる推定

今回の研究では、“K2-18b”のような大気組成を持つ天体で、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡が観測可能なほどの高濃度なジメチルスルフィドが生じるのかをシミュレーションしています。

ジメチルスルフィドは生命活動もしくは自然のプロセスによって発生し、恒星からの紫外線によって分解されます。

ジメチルスルフィドの濃度がジェームズウェッブ宇宙望遠鏡で観測できるほどのレベルになるのかどうかを最終的に決定するのは、生じる量から分解する量を差し引いた値になります。

本研究では、生物が全く存在しない場合から、地球よりも豊富な生物が存在する場合までの様々な条件を設定。
ジメチルスルフィド以外の化合物も含めた、様々な分子の生成量を推定しました。

他の分子の生成が想定されたのは、いくつかの硫黄化合物が雲の生成に関与していると考えたからです。
雲は日光を遮断し、紫外線によってジメチルスルフィドが分解されるのを防ぐ効果があります。

シミュレーションの結果、ジメチルスルフィドの濃度がジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の性能で“K2-18b”の大気中から検出できるほど高くなるには、地球の20倍以上の生物の存在が必要だと分かりました。

さらに分かったのは、これほど生命豊かな環境を想定しても、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の観測データからジメチルスルフィドの存在を証明することは、困難であることに変わりはないこと…

この結果からすると、“K2-18b”が生命あふれる惑星だと考えるよりも、ジメチルスルフィドを検出したという結果が幻であると考えるほうが妥当なのかもしれません。
図3.今回の研究結果により、“K2-18b”は地球よりはるかに生命が豊富か、もしくはバイオマーカーの検出が幻という両極端な可能性が見えてきた。現時点では後者の可能性が妥当だと考えられる。(Credit: Shang-Min Tsai (AI生成))
図3.今回の研究結果により、“K2-18b”は地球よりはるかに生命が豊富か、もしくはバイオマーカーの検出が幻という両極端な可能性が見えてきた。現時点では後者の可能性が妥当だと考えられる。(Credit: Shang-Min Tsai (AI生成))
ただ、2024年後半にはジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による“K2-18b”の追加観測が予定されています。
この観測により、今回の研究が示す少し残念な結果は早めに覆る可能性もあります。

現在の観測結果だけでは、ジメチルスルフィドの存在をはっきり確定させることはできません。
この追加観測によって、白黒をはっきりさせるデータが得られるかもしれませんね。


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全体がマグマで覆われた惑星“TOI-6713.01”を発見! 潮汐力と恒星からの放射による加熱

2024年05月20日 | 系外惑星
ある天体の近くを別の天体が公転している場合、潮汐力によって内部が過熱されて地質活動が活発になることがあります。

そのような天体の一例が木星の衛星イオです。
イオは、ほぼ常に複数の火山が噴火しているほど地質活動が活発です。

今回の研究では、地球から約66光年離れた恒星“HD 104067”について、NASAのトランジット惑星探査衛星“TESS”による観測データを分析。
その結果、これまで見逃されていた3番目の惑星の候補を見つけています。

今回見つかった惑星候補“TOI-6713.01”は、他の惑星からの潮汐力によって表面温度が最大約2400℃に加熱され、全体がマグマで覆われているようです。
近くからは、まるで“スター・ウォーズ”に登場する惑星“ムスタファー”のように見えるそうです。

さらに、近い将来には“TOI-6713.01”のマグマからの熱放射を観測できる可能性もあるようです。
この研究は、カリフォルニア大学リバーサイド校のStephen R. Kaneさんたちの研究チームが進めています。
図1.表面がマグマで覆われた高温の惑星のイメージ図。(Credit: NASA, ESA, CSA & Dani Player(STScI))
図1.表面がマグマで覆われた高温の惑星のイメージ図。(Credit: NASA, ESA, CSA & Dani Player(STScI))


潮汐力によって天体の内部が変形し加熱される現象

地球の海では、衛星の月の重力によって周期的に潮の満ち引きが発生しています。
このように、他の天体の重力の影響で副次的に発生する力を“潮汐力”と呼びます。

潮の満ち引きほど目立ちませんが、潮汐力は岩石や氷のような硬い個体にも働いています。

別の天体の重力がもたらす潮汐力によって、天体の内部が変形し加熱される現象があります。
この現象は“潮汐加熱”といい、内部の変形を繰り返すことで発生した摩擦熱により、天体内部は熱せられることがあります。

潮汐力は、天体同士の距離が激しく変化するほど強くなる傾向にあります。
一番分かりやすいのは、天体の公転軌道が主星に対して円形でない(離心率が大きい)場合です。

離心率とは、公転軌道が真円からどの程度離れているのかを示す値。
真円は0、楕円は0よりも大きくて1よりも小さく、放物線は1、双曲線は1よりも大きくなります。

たとえば、月の公転軌道は離心率0.0549の楕円形なので、地球に近付く時と遠ざかる時の距離の差は約4万km。
地球に近付いて大きく見えるタイミングの満月はスーパームーンと呼ばれています。

この離心率が大きい(楕円)の公転軌道を持つ天体は、主星に近づくたびに内部の変形が起こり摩擦熱が発生することになります。


太陽系の衛星の中で最も火山活動が活発な天体

太陽系内には、潮汐力を受けている天体が地球の他にも複数存在しています。
その典型的な例が木星のガリレオ衛星です。

ガリレオ衛星は、木星を周回する4つの大型衛星(イオ、エウロパ、ガニメデ、カリスト)のことです。
ガリレオ・ガリレイが望遠鏡で発見したので通称“ガリレオ衛星”と呼ばれています。
衛星が大きいのでガリレオ手製の低倍率の望遠鏡でも見ることができたわけです。

ガリレオ衛星の1つエウロパの公転軌道は真円に近く、木星から受ける潮汐力が大きいことから、地球の月のように公転周期と自転周期が一致し、常に同じ面を木星に向ける“潮汐ロック”という現象が発生しています。
さらに、他のガリレオ衛星からも潮汐力を受けているので、エウロパでは内部の氷が解けて、地下に広大な海が存在するのではないかと考えられています。

衛星イオも、木星と他のガリレオ衛星から潮汐力を受けていますが、その影響はもっと激しいものとなっています。
潮汐力による内部の加熱により、イオの表面には最高で1300℃にも達する熱い火山が無数にあり、高温のマグマを放出。
内部を加熱する熱の発生量は100兆ワットと推定されていて、これは地球の熱(47兆ワット)の2倍以上になります。
図2.NASAの探査機“ニューホライズンズ”によって撮影された、イオの3つの火山が同時に噴火している画像。(Credit: NASA, Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory & Southwest Research Institute)
図2.NASAの探査機“ニューホライズンズ”によって撮影された、イオの3つの火山が同時に噴火している画像。(Credit: NASA, Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory & Southwest Research Institute)
イオは太陽系の衛星の中では、最も火山活動が活発なことが有名で、その表面に確認されている火山は400以上。
そこからは硫黄を含むガスが放出されているようです。
地球以外では高温の活火山があることが知られている唯一の天体になります。(※1)
※1.金星では2023年に、現在でも地質活動が続いている可能性が高い証拠が見つかっている。でも、噴火は確認されていない。


潮汐力による過熱と恒星からの放射により全体がマグマで覆われ惑星

太陽以外の恒星を公転する太陽系外惑星(系外惑星)の中には、惑星同士の距離が木星のガリレオ衛星並みに近いものも複数見つかっています。

惑星同士の距離の近さから連想されるのは、ガリレオ衛星のイオのような潮汐力によって極端に加熱された惑星の存在。
このような惑星は、時に“スーパー・イオ”と呼称されます。

今回、研究チームは、NASAのトランジット惑星探査衛星“TESS”の観測データを分析する作業の中で、恒星“HD 104067”のデータに注目。
“HD 104067”には、この研究以前に2個の惑星が見つかっていて、研究チームが見つけたのは3個目の惑星の存在を示すデータでした。

3つ目の惑星が公転しているのは、“HD 104067”惑星系の中で最も内側。
その公転周期はわずか約2.15日で、直径は地球の約1.30倍だと推定されています。

論文の発表時点では、本当に惑星が存在しているかどうかは確定していませんでした。
なので、この惑星には“TESS”のデータから発見された惑星候補を示す“TOI”(※2)から始まる、“TOI-6713.01”という名前が付けられています。
※2.TOIは“TESS Objects of Interest”の略で、日本語では“TESSの観測によって得られた関心の高い天体(候補)”という意味となる。
“TOI-6713.01”には、より外側の軌道を公転する惑星が存在していること、それら惑星同士の距離が近いことから、重力による潮汐力を受けていることが考えられます。

研究チームの計算から分かったのは、潮汐力の強さはイオの数百万倍(8垓6000京W)にも達すること。
この極端な状況を、研究チームでは“完璧な潮汐嵐(A Perfect Tidal Storm)”と表現し、論文のタイトルとしています。

潮汐力による過熱と恒星からの放射を合わせると、“TOI-6713.01”の表面温度は最大で2373℃(2647K)まで加熱されていると予測されます。
これは、表面の岩石が溶ける温度を十分に上回っているので、予測通りであれば“TOI-6731.01”は表面全体がマグマで覆われているはずです。


マグマからの熱放射を直接観測

潮汐力による過熱と恒星からの放射で加熱された“TOI-6713.01”は、まるで“スター・ウォーズ”に登場する火山とマグマに覆われた惑星“ムスタファ―”のように、赤く光る惑星のように見えるはずです。

地球から遠く離れている“TOI-6713.01”ですが、惑星の状況を間接的に知ることができる可能性はあります。
それは、“TOI-6713.01”の表面温度が、低温の恒星の表面よりも高い温度に達していると予測されているからです。

高い表面温度により、“TOI-6713.01”からは赤外線が放射されているはずです。
その赤外線を観測データから抽出できれば、惑星について何か分かるかもしれません。

残念ながら、今回の観測で使用された“TESS”の場合、観測できる波長の範囲が狭いことや、“TOI-6713.01”からの放射が弱すぎるので、赤外線放射の観測データを抽出することはできませんでした。

でも、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡のような高い赤外線感度と高性能な分光器を持つ望遠鏡が使用できれば、“TOI-6713.01”のマグマからの熱放射を直接観測できるかもしれません。

もし、観測に成功した場合、惑星全体がマグマで覆われているような極端な環境を持つ惑星について、潮汐力と熱の関係に関する興味深いケーススタディとなるはずです。
そのためには、まず“TOI-6713.01”の存在を確定し、より多くの観測データをそろえる必要がありますね。


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