宇宙のはなしと、ときどきツーリング

モバライダー mobarider

観測史上最も遠い銀河は、約134億光年彼方にある“GN-z11”に確定したそうです。

2020年12月20日 | 銀河・銀河団
ケック望遠鏡の分光観測により、おおぐま座方向の銀河“GN-z11”の赤方偏移が正確に求められました。
これにより分かったのは、地球からおよそ134億光年の彼方に“GN-z11”があること。
“GN-z11”はビッグバンから4億年後という初期宇宙にあり、観測史上最も遠くに見つかった銀河のようです。

最も遠くにある銀河

宇宙で最初に生まれた銀河は、いつどのように生まれたのでしょうか?

この謎に対する答えを求めて、研究者たちは最も遠くにある銀河を探し続けてきました。

2016年にハッブル宇宙望遠鏡の観測データから発見された、おおぐま座の方向に位置する“GN-z11”も、そのような最遠銀河の候補の一つです。

“GN-z11”には遠方銀河(ライマンブレイク銀河)に特徴的なスペクトルが見られるので、おそらく約134億光年彼方の銀河だろうと推測されていました。
ライマンブレイク銀河は、広帯域フィルターを用いて高赤方偏移銀河に特有のライマンα輝線よりも短い波長における連続スペクトルのブレイクを捕まえるライマンブレイク法によって同定される高赤方偏移銀河のこと。

地球からの距離が約134億光年(赤方偏移11.09)とする、ハッブル宇宙望遠鏡の観測にもとづいた研究成果がイェール大学により発表されていましたが、これまで正確な距離は測定されていませんでした。
ハッブル宇宙望遠鏡が観測した約134億光年彼方の銀河“GN-z11”(中央右の挿入図)。(Credit: NASA, ESA, and P. Oesch (Yale University))
ハッブル宇宙望遠鏡が観測した約134億光年彼方の銀河“GN-z11”(中央右の挿入図)。(Credit: NASA, ESA, and P. Oesch (Yale University))

ビッグバンから4億年後に存在する急速に成長した若い銀河

遠くの宇宙に存在する天体までの距離は、赤方偏移をもとに算出されています。
膨張する宇宙の中では、遠方の天体ほど高速で遠ざかっていくので、天体からの光が引き伸ばされてスペクトル全体が低周波側(色で言えば赤い方)にズレてしまう。この現象を赤方偏移といい、この量が大きいほど遠方の天体ということになる。

そこで、北京大学カブリ天文天体物理研究所と東京大学の研究グループが用いたのは、ハワイのマウナケア山頂にあるケック天文台“ケックⅠ望遠鏡”でした。
“ケックⅠ望遠鏡”に搭載された近赤外線分光器“MOSFIRE”を使い、近赤外線の波長で“GN-z11”の分光観測を行ったんですねー

観測の結果、研究グループは炭素イオンと酸素イオンが放つ光を検出することに成功。
これをもとに赤方偏移の値を10.957と算出しています。

そして、研究グループが結論付けたのは、“GN-z11”が約134億光年彼方にある観測史上最遠の銀河であることでした。

今回、“GN-z11”から検出された炭素の強度と、炭素と酸素の強度比の関係は、一般的なモデルでは説明できないもので、現在の銀河には見られない特殊な物理状況を示唆していました。

研究グループによると、観測されている“GN-z11”の推定年齢は7000万年と若く、質量は太陽の10億倍と見られています。
このことから考えられるのは、“GN-z11”が急速に成長したということでした。

また、研究グループは“ケックⅠ望遠鏡”による“GN-z11”の観測中に、数分間の継続した明るいバーストをとらえたそうです。

分析の結果、研究グループが考えているのは、このバーストが“GN-z11”で発生したガンマ線バーストによって生成された可能性があること。
このことは、ビッグバンから4億年後という初期宇宙の銀河でも、ガンマ線バーストが発生し得ることを示唆しているのかもしれません。
上:ハッブル宇宙望遠鏡の広視野カメラ3“WFC3”にフィルター(F160W)を装着して観測された“GN-z11”(矢印)。下:“GN-z11”の炭素の赤外線スペクトル。緑色の部分は“GN-z11”から放射された炭素の輝線で、波長は約1910Åで紫外線領域にあるが、赤方偏移によって波長が伸びて波長2.28μmの赤外線として観測されている。他には超2μmの酸素も観測された。(Credit: 東京大学)
上:ハッブル宇宙望遠鏡の広視野カメラ3“WFC3”にフィルター(F160W)を装着して観測された“GN-z11”(矢印)。下:“GN-z11”の炭素の赤外線スペクトル。緑色の部分は“GN-z11”から放射された炭素の輝線で、波長は約1910Åで紫外線領域にあるが、赤方偏移によって波長が伸びて波長2.28μmの赤外線として観測されている。他には超2μmの酸素も観測された。(Credit: 東京大学)
138億年前のビッグバンで誕生したばかりの宇宙には、水素とヘリウム、そしてごく少量のリチウムしか存在していませんでした。
このため、宇宙で最初に誕生した“第一世代星(ファーストスター)”は、これらの元素から形成されたと考えられています。

水素やヘリウムしか含まない原始ガス雲は、光を出して冷えることがあまりありません。
なので、重力が圧力に打ち勝って収縮して星になるためには、ガス雲の質量が大きい必要があるんですねー

そう、初代星は太陽質量の100倍くらいの非常に重い星が多く、わずか1000万年程度で超新星爆発を起こしていたと考えられています。

リチウムより重いすべての元素(重元素)は、こうした初代星の内部で最初に合成され、超新星爆発でばらまかれることになります。

ばらまかれた残骸のガスから第二世代の星が作られ、その星が爆発して星間ガスに還る っという過程が繰り返されることで、宇宙の中で重元素が次第に増えていきす。
たとえば、太陽はビッグバンから何世代も後に生まれた恒星なので、木星14個分ほどの質量の重元素を含んでいる。

このため、初代星は初期宇宙の進化を理解する上で非常に重要な天体なんですが、確実に初代星だといえる天体は観測ではまだ見つかってないんですねー

今回の観測では炭素や酸素が検出されているので、“GN-z11”は宇宙最初の世代の銀河ではないことを示しているのかもしれませんね。


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ヴァージンの有人宇宙船“スペースシップ2”が飛行試験を中止。ロケット・モーターを正常に点火できず帰還

2020年12月17日 | 宇宙へ!(民間企業の挑戦)
日本時間の2020年12月13日未明、ヴァージン・ギャラクティック社は宇宙船“スペースシップ2”の2号機“VSSユニティ”による有人飛行試験を実施しました。
同日1時15分頃、“VSSユニティ”は空中発射母機“ホワイトナイト2”から切り離されるのですが飛行試験は中止。
2名の乗員と機体は、切り離しから12分後に無事地上へ帰還しています。
“スペースシップ2”の2号機は、当初“VSSヴォイジャー”と呼ばれていたが、最終的には“VSSユニティ―”と名付けられた。1号機の“VSSエンタープライズ”と共に、SF作品スタートレックに登場する宇宙船にちなんで名付けられた。
“VSSユニティ”の名前が意味するのは「団結」や「結束」。物理学者スティーブン・ホーキングさんによって名付けられた。
滑空する“スペースシップ2(VSSユニティ)”。(Credit: Virgin Galactic)
滑空する“スペースシップ2(VSSユニティ)”。(Credit: Virgin Galactic)

サブオービタル軌道を飛行する宇宙船

民間による宇宙旅行の実現。
このために設立された会社がヴァージン・ギャラクティック社です。

ヴァージン・ギャラクティック社が開発中の宇宙船“スペースシップ2”は、ロケットで打ち上げるのではなく、航空機“ホワイトナイト2”に吊るされて離陸します。

“スペースシップ2”は、上空で“ホワイトナイト2”と分離した後にロケット・モータを点火。
一般的に宇宙とされている高度約100キロまで上昇するんですねー

ただ、乗客が宇宙空間を体験できるのは数分間で、その後“スペースシップ2”は地球を1周する前に飛行機のように地上に帰還する、サブオービタル軌道を飛行することになります。
“サブオービタル宇宙船”とは、スペースX社の“クルー・ドラゴン”やロシアの“ソユーズ宇宙船”などとは異なり、地球を回る軌道には乗らない宇宙船。同社はすでに“スペースシップ1”によって、高度100キロへの弾道飛行を成功させている。

ロケット・モーターを正常に点火できず飛行試験は中止へ

今回の飛行試験は、ヴァージン・ギャラクティック社の拠点がニューメキシコ州のスペースポート・アメリカに移ってから初めて試みられた有人宇宙飛行でした。

当初、この有人宇宙飛行の実施予定日は2020年11月19日~23日でした。
でも、新型コロナウィルス感染症の影響によりスケジュールが遅れていたんですねー

パイロットのCJ Sturckow氏とDave Mackay氏の2名が乗り込んだ“VSSユニティ”が、“ホワイトナイト2”に吊り下げられて離陸したのは12月13日の0時24分頃。
宇宙船“VSSユニティ”を抱えて離陸する空中発射母機“ホワイトナイト2”(Credit: Virgin Galactic)
宇宙船“VSSユニティ”を抱えて離陸する空中発射母機“ホワイトナイト2”(Credit: Virgin Galactic)
およそ50分後の1時15分頃に“ホワイトナイト2”から切り離されますが、ロケット・モーターを正常に点火できなかったことから飛行は中止されました。

原因は、“VSSユニティ”のエンジンを監視するオンボードコンピュータが接続を失ったこと。
このため、安全対策としてエンジンが停止されたそうです。

機体はスペースポート・アメリカへ安全に帰還しているので、今後は根本的な原因の調査を含むデータの評価を進めるそうです。
“スペースシップ2”の1号機“VSSエンタープライズ”は、2014年の空中分解による墜落で失われている。

ヴァージン・ギャラクティック社は“スペースシップ2”による宇宙旅行の商業化を目指していて、2018年12月には2名のパイロットを乗せた飛行試験において、高度82.7キロの宇宙空間への到達に成功しています。
国際的には高度100キロ以上が宇宙とされているが、アメリカ空軍は高度80キロ以上と定義している。

“スペースシップ2”には、2人のパイロットと6人の乗客が搭乗可能です。

地球を周回しないサブオービタル飛行ではあるものの、旅行に参加した6人の乗客は100キロ上空の「宇宙」で、無重力の体験や、漆黒の宇宙と地球の青という美しいコントラストを6分間楽しめるそうです。


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なぜ、宇宙空間でイオンが電子より高温になるの? プラズマ中のイオンが縦波的ゆらぎのエネルギーを選択的に吸収しているから

2020年12月16日 | 宇宙 space
宇宙に存在する物質のうち、ダークマター以外の“目に見える”物質の99%はプラズマ状態にあると考えられています。

そのため、プラズマの持つ性質を知ることは、様々な天体現象を理解する上で重要になります。

プラズマが重要になる天体現象の代表例としては、太陽から噴き出る太陽風やブラックホールを取り巻く降着円盤など。
どちらも、プラスの電気を帯びたイオンとマイナスの電気を帯びた電子から成るプラズマでできています。
太陽風は、コロナと呼ばれる太陽の上層大気から噴き出すプラズマの風。地球ではオーロラや磁気嵐が太陽風によって引き起こされる。
ブラックホールによって集められたガスやチリは、降着円盤を形成しブラックホールに落ち込んでいく。一方、降着円盤内のガスの摩擦熱によって電離してプラズマ状態になると、電離したガスは回転することで強力な磁場が作られ、降着円盤からは荷電粒子のジェットとして噴射する。

でも、これらの天体におけるプラズマの物理的性質には、未解明な点が多く存在するんですねー
その一つが、イオンと電子の温度差です。

今回、これまで謎とされてきたそのプラズマの加熱機構が、国立天文台の“アテルイⅡ”を初めてとする複数のスーパーコンピュータを用いた大規模計算によって、はじめて導き出されました。

異なった温度を維持しているイオンと電子

宇宙に存在するプラズマは高温かつ希薄で、イオンと電子との衝突がほとんど起こらない“無衝突”状態にあります。

そのため、イオンと電子は直接相互作用をせず、異なった温度で存在することが可能です。

これは、私たちの身の回りではなかなか見られない特徴です。
例えば、熱いコーヒーに冷たいミルクを注げば、あっという間にコーヒーとミルクは同じ温度になります。
でも、宇宙に存在するプラズマでは、イオンと電子が異なった温度を維持しています。

実際に、人工衛星による太陽風の観測や降着円盤の理論モデルからは、イオンの方が電子よりもはるかに高温になっていることが分かっています。

では、なぜイオンが電子より高温になるのでしょうか?
この疑問は、長年にわたって未解決の問題でした。

この問題を解決するには、コンピュータシミュレーションで無衝突のプラズマの乱流を再現し、イオンと電子が乱流によってどのように加熱されるかを計算する必要がありました。

核融合のモデル“ジャイロ運動論”を天文学へ応用

今回の研究では、東北大学学際科学フロンティア研究所を中心とする国際研究チームが、スーパーコンピュータを用いて無衝突プラズマ乱流のシミュレーションを実施。
イオンと電子が、どのように乱流によって加熱されるかを調査し、問題の解決を目指しています。

無衝突プラズマでは、私たちが身の回りの水や空気の流れを調べる際に使う流体力学モデルを使うことができません。
なので、運動論と呼ばれる第一原理モデルを使う必要があります。

でも、運動論は流体力学よりはるかに複雑なモデルなんですねー

プラズマの乱流中には、音波のような縦波的ゆらぎと、ロープを伝わる波のような横波的ゆらぎが存在します。

これまでの研究では、両方を同時に計算することが難しいので、横波的ゆらぎのみを考えた計算がされてきました。

でも、このような計算では、イオンが高温になる理由を必ずしも説明できるとは限りませんでした。

そこで、研究チームが採用したのは、ゆらぎの中のゆっくりとした変動に着目する“ジャイロ運動論”でした。
“ジャイロ運動論”は、イオン電子が磁力線の周りを旋回する高速な運動を平均化し、ゆっくりとした運動のみを解く手法。磁場閉じ込め核融合の研究において広く使われている。小さいスケールにおいては乱流の運動は、イオンや電子の旋回運動より遅くなるという理論予測や、太陽風の乱流に速い変動がほとんど存在しないという人工衛星による観測事実に基づき、ゆっくりとした運動に着目する“ジャイロ運動論”を採用している。

“ジャイロ運動論”は、乱流の持つ様々なゆらぎのうち、ゆっくりとした変動のみフォーカスすることで、本来の運動論よりもシミュレーションにかかる計算量を大幅に下げることが可能になります。

この“ジャイロ運動論”を応用して計算量を減らし、問題の解決を図ろうとしたわけです。

そして、“アテルイⅡ”をはじめ複数のスーパーコンピュータを用いた大規模計算を実施。
世界で初めて、縦波的ゆらぎも含む無衝突プラズマ乱流のシミュレーションに成功しています。

その結果、イオンが縦波的ゆらぎのエネルギーを選択的に吸収して電子よりも高温になる事を、初めて突き止めたんですねー

この発見によって可能になるのが、さまざまな天体現象でイオンが電子より高温である事実を説明すること。

さらに、2019年に公開されたイベント・ホライズンズ・テレスコープによるブラックホールの影の撮像結果を、より良い精度で解析するための重要な情報を与える成果といえます。
今回の研究の概念図。太陽風やブラックホール周辺の降着円盤の中で、プラズマを構成しているイオンと電子が乱流になって加熱される。(Credit: 川面洋平)
今回の研究の概念図。太陽風やブラックホール周辺の降着円盤の中で、プラズマを構成しているイオンと電子が乱流になって加熱される。(Credit: 川面洋平)


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位置天文衛星“ガイア”の最新データは、18億以上の星々の位置と動きに関する観測データ

2020年12月14日 | 銀河・銀河団
ヨーロッパ宇宙機関は12月3日、位置天文衛星“ガイア”による最新の観測データ“EDR3(Early Data Release 3)”を公開しました。
このデータからは、宇宙における天体の位置や動きだけでなく、宇宙の歴史までもが見えてくるようです。
位置天文衛星“ガイア”による最新の観測データ“EDR3”をもとに作成された全天画像。(Credit: ESA/Gaia/DPAC)
位置天文衛星“ガイア”による最新の観測データ“EDR3”をもとに作成された全天画像。(Credit: ESA/Gaia/DPAC)

宇宙の立体地図を作る位置天文衛星“ガイア”

ヨーロッパ宇宙機関が運用する位置天文衛星“ガイア”は、天体の位置や運動について調査する位置天文学に特化した宇宙望遠鏡です。
天の川銀河に属する恒星の位置と速度をきわめて精密に測定・記録している。

“ガイア”が打ち上げられたのは2013年12月のことでした。

ソユーズロケットに搭載された“ガイア”は、フランス領ギアナのギアナ宇宙センターから離昇。
打ち上げから約1時間半後、“ガイア”は管制センターとの通信確立や、遮光シールドを兼ねた太陽電池パネル展開などの始動シーケンスを完了しています。

その後、“ガイア”は太陽から見て地球の背後にある重力安定点“L2”へ約20日間かけて移動。
2014年7月からは、望遠鏡を全天にくまなく向けるサーベイ観測で、あらゆる天体の位置や地球からの距離などを観測し続けています。

“ガイア”が記録した観測データ

今回公開された“EDR3”に含まれているのは、18億以上の星々の位置と明るさに関する情報。
2018年4月に公開された“DR2”から1億個以上も増えています。

そのうち約15億の星々については、年周視差と固有運動(星までの距離や天球上における星の見かけの動き)が記録されています。

“ガイア”の観測データは2016年の“DRI(Data Release 1)”や2018年の“DR2(Data Release 2)”でも公開されていました。
“EDR3”では長期間の観測により、固有運動の観測精度が“DR2”と比べて2倍に向上しているそうです。
位置天文衛星“ガイア”による最新の観測データ“Early Data Release 3”-空を横切る160万年の星の旅(Credit: ESA)
上の動画は“EDR3”をもとに作成されたもの。
太陽から326光年(100パーセク)以内にある4万個の星々について、今後160万年で予想される地球から見た動きを示しています。

ヨーロッパ宇宙機関によると、“EDR3”に含まれているのは、同じ範囲に存在する星全体の92パーセントと推定される33万1312個の星々のデータ。
星々の位置や動きを精密に観測する“ガイア”のデータは、天の川銀河の知られざる歴史を紐解きつつあるようです。

“DR2”から明らかになったこと

2018年公開の“DR2”をもとにした研究で明らかになっていることもあります。

それは、天の川銀河が100億年以上前に“ガイア・エンケラドス(ガイア・ソーセージ)”と呼ばれる別の銀河と衝突・合体していたことです。

“ガイア・エンケラドス”の質量は小マゼラン雲よりも少し大きい程度。
ただ、“ガイア・エンケラドス”は100億年前のまだ小さかった天の川銀河に対して、4分の1ほどの質量になるので衝突は相対的にかなり大きかったといえます。
“EDR3”のデータは、衝突前の天の川銀河の、今より小さい円盤の痕跡を浮かび上がらせている。

さらに、約57億年前から約10億年前にかけて“いて座矮小銀河”と3回にわたり衝突していたことなどが明らかになっています。

数千万個の恒星からなる“いて座矮小銀河”は、天の川銀河に取り込まれつつあることが“DR2”の分析から分かっています。

3億~9億年前に接近したときは直撃こそしませんでしたが、水に石を投げ込んだ時の波紋のように、重力によって一部の星をかき乱したことが、“ガイア”のデータから示唆されています。

この他にも発表された研究成果は多岐にわたっています。

天の川銀河の外、はるか遠方に存在するクエーサーの位置は、見かけ上動いてます。
これは、太陽系が天の川銀河の中で動いていることが原因。
“EDR3”のデータからは、その太陽系の動きが年々わずかに変化していることも突き止められています。

もっと近くに目を向ければ、“EDR3”をもとに太陽系近傍の恒星を33万1312個集めたカタログの作成があります。
この数は太陽から100パーセクと(326光年)以内に存在する恒星の92%にあたると推測されています。
これまでの近傍較正カタログに比べ、質・量ともに大幅に向上したものでした。

天の川銀河の伴銀河である大小マゼラン雲に含まれる星の動きを分析した論文では、大マゼラン雲に渦巻き構造が存在することや、小マゼラン雲から星が流出していることなどが明らかにされています。
“DR2”から判明した天の川銀河と“いて座矮小楕円銀河”の衝突の歴史を示した図。時間の流れは左上から右上→左下から右下の順番。(Credit: ESA)
“DR2”から判明した天の川銀河と“いて座矮小楕円銀河”の衝突の歴史を示した図。時間の流れは左上から右上→左下から右下の順番。(Credit: ESA)
今回の“EDR3”を利用した研究もすでに始まっています。

そのうちの一つは、地球から見て天の川銀河の中心とは反対(つまり天の川銀河の外側)の方向にある天体を分析したもの。
この方向は天の川銀河の円盤に沿った天体の動きを、星間物質による減光の影響を比較的抑えながら調べるのに向いている。
古い星から若い星までの動きをガイアデータ処理、および分析コンソーシアム(DPAC)に所属する研究者たちが分析。
すると、天の川銀河の平面から見て片側の星々は平面に向かってゆっくり動いているの対し、もう片側の星々は平面に向かって速く動いているという予想外の動きが判明しました。

その原因として、“いて座矮小銀河”との比較的最近起きた衝突が影響している可能性があげられています。

また、“EDR3”をもとに天の川銀河の伴銀河である大マゼラン雲や小マゼラン雲の星々を分析した研究者たちは、大マゼラン雲が渦巻き構造を有していることが明確に示されたとしています。

なお、今回公開された“EDR3”は2段階で行われるデータリリースの前半に当たり、完全版のリリースは2022年に予定されているようです。
“EDR3”をもとに分析された大マゼラン雲の星々の固有運動と密度を示した図。(Credit: Gaia Collaboration, X. Luri, et al. A&A 2020)
“EDR3”をもとに分析された大マゼラン雲の星々の固有運動と密度を示した図。(Credit: Gaia Collaboration, X. Luri, et al. A&A 2020)


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2021年の年始めは“しぶんぎ座流星群”から! 見ごろはいつ? どこを見ればいいの?

2020年12月12日 | 流星群/彗星を見よう
まだ、“ふたご座流星群”が終わっていないのに次の流星群の話です。
年が明けてすぐには三大流星群のひとつ“しぶんぎ座流星群”が控えているんですねー
“しぶんぎ座流星群”も、8月の“ペルセウス座流星群”、12月の“ふたご座流星群”と並ぶ三大流星群のひとつ。
ただ、毎年安定して多くの流星が出現する“ペルセウス座流星群”や“ふたご座流星群”と比べると、“しぶんぎ座流星群”は活動が活発な期間が短い上に、流星の出現数が年によって変化することで知られています。

見ごろはいつ? どこを見ればいいの? 観察の条件は?

2021年の“しぶんぎ座流星群”の極大は、1月4日の17時頃と予想されています。
極大とは、流星群の活動が最も活発になること。ある場所で見える流星の数には、流星群自体の活動の活発さだけでなく、その場所での放射点の高度や月明かりなども影響する。そのため、極大の日時と、それぞれの場所で多くの流星が見える日時とは、必ずしも一致しない。

ただ、夜半前は放射点の高度が低いので観察には適さず…
観察に適した時間帯は、5日の夜明け前2~3時間になります。
放射点とは、流星群の流れ星が、そこから放射状に出現するように見える点。流れ星の数は、放射点の高度が高いほど多くなり、逆に低いほど少なくなる。
黄色の矢印は“しぶんぎ座流星群”の放射点(2021年1月5日AM3:00)。放射点は“うしかい座”と“りゅう座”の境界付近にある。
黄色の矢印は“しぶんぎ座流星群”の放射点(2021年1月5日AM3:00)。放射点は“うしかい座”と“りゅう座”の境界付近にある。
日本で観察しやすい時間帯が極大から大きくズレているので、それだけ流星の数は少なくなると思われています。

でも、月明かりの影響はなく、観察にはまずまずの条件になりそうです。
見える流星の数は、空の暗い場所で1時間当たり最大20個ほどと予想されています。

流星は放射点の方向だけに現れるのではなく、空全体に現れます。
いつ、どこに出現するかは分からないので、なるべく空の広い範囲を見渡すようにしましょう。

街明かりの中で観察したり、極大ではない時期に観察すると、見ることのできる流星の数は減ってしまうので注意してください。

流星の元になるチリを放出した天体は?

実は、流星群の由来になっている“しぶんぎ座”という名前の星座は今は存在していません。

“しぶんぎ座流星群”の放射点があるのは、“うしかい座”と“りゅう座”の境界付近。
かつて、この辺りに“へきめんしぶんぎ(壁面四分儀)座”という星座が設定されていたので、この名前が付けられています。

また、“しぶんぎ座流星群”の母天体には諸説あり、まだ確定していません。
母天体とは、チリを放出して流星群の原因作っている天体のこと。
最近有力視されているのは、2003年に発見された小惑星番号196256の小惑星です。
でも、この小惑星がどのように流星の元になるチリを放出したのかは分かっていません。

なぜ活動期間が短いの?

地球が彗星の通り道を、毎年同じ時期に通過することで流星群が現れます。

彗星の通り道にはチリの帯が残されているので、それらが地球の大気に飛び込むことで、上空100キロ前後で発光して流れ星として見えるんですねー

ただ、“しぶんぎ座流星群”の元となるチリの帯は、地球の公転面と直角に近い角度で交差するので、地球はチリの帯を短時間で抜けてしまうことに…

このため、“しぶんぎ座流星群”の活動は、“ふたご座流星群”や“ペルセウス流星群”などほかの流星群に比べて、活動が活発な時間(流れ星を多く観測できる時間)が短いという特徴を持っています。


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