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連星系“VFTS 243”のブラックホールは超新星爆発を伴わずに誕生していた!? 太陽の約10倍の質量を持つ恒星が完全崩壊を起こす可能性

2024年06月04日 | ブラックホール
太陽よりも数十倍重い星は、その一生の最期に超新星爆発(II型超新星爆発)を起こし、強大な重力を持つ中性子星やブラックホールなどのコンパクトな天体を残すと考えられています。

でも、実際には、全く超新星爆発を起こさずにブラックホールへと崩壊する“完全崩壊(Complete collapse)”を起こす恒星もあると考えられています。

今回の研究では、片方の恒星が完全崩壊に至った可能性が高いと言われている連星系“VFTS 243”について、観測記録とモデル計算を照らし合わせることで、完全崩壊を起こしたという仮説が妥当かどうかを検証。
その結果、“VFTS 243”のブラックホールは超新星爆発の影響を受けていない、つまり完全崩壊を経験していると考えて妥当だとする結果が得られています。

本研究結果は、実態がよく分かっていない超新星爆発の内部を探る上で、“VFTS 243”がモデルケースとして役立つことを示しているそうです。
この研究は、マックス・プランク天体物理学研究所のAlejandro Vigna-Gómezさんたちの研究チームが進めています。
図1.恒星とブラックホールの連星である“VFTS 243”のイメージ図。(Credit: ESO & L. Calçada)
図1.恒星とブラックホールの連星である“VFTS 243”のイメージ図。(Credit: ESO & L. Calçada)


非対称で偏った爆発によって蹴りだされる天体

太陽のおよそ8倍以上の質量を持った恒星が、進化の最終段階で鉄の中心核を作ると、鉄は宇宙で最も安定した元素なので、それ以上は核融合を行えなくなってエネルギーを作り出せなくなります。

恒星は、中心核で起こる核融合反応により自らエネルギー(外向きの圧力)を生成することで、重力(内向きの圧力)によって潰れるのを回避しています。
なので、核融合ができなくなると重力によって潰れる“重力崩壊”を起こすことになります。

この重力崩壊によって中心核の密度が十分高くなると、外側から落ちてくる物質を中心核で跳ね返して“II型超新星爆発”を起こすと考えられています。

そして、爆発の後に残されるのがコンパクトな天体です。
重力崩壊に対抗できる力が存在せず、無限に潰れてしまった天体はブラックホールとなり、ブラックホールになる手前で重力崩壊が停止した天体は中性子星となります。

その他に、時々、秒速100~1000キロという猛烈な速度で移動するものが生じます。

それでは、太陽の数倍の質量を持つ天体が、これほどの高速で動く理由は何でしょうか?
それは、非対称で偏った爆発に蹴りだされるようにして、運動エネルギーを得るからだと考えられています。
この現象を“ネイタルキック(Natal kick)”と呼びます。


超新星爆発を伴わずに誕生するブラックホール

一方で重い恒星が必ず超新星爆発を起こすとは限らず、爆発を発生せずに直接崩壊する恒星もあるのではないかという仮説があります。

“完全崩壊”(※1)と呼ばれるこのシナリオでは、恒星はほとんど爆発を起こさずに潰れてブラックホールになると考えられています。
この場合に考えられるのが、ネイタルキックもほとんど発生しないことです。
※1.このような現象について“直接崩壊(Direct collapse)”や“失敗した超新星(Failed supernova)”の語を充てる場合もある。ただ、これらの用語は違う現象を意味する場合もあるので、文脈的に注意が必要。
ただ、実際に恒星が完全崩壊を起こすかどうかは、天文学における大きな論争の一つとなっている状態です。

完全崩壊で誕生したブラックホールの候補は、いくつかあります。
その中でも、特に注目されているのは2022年に発見された“VFTS 243”と呼ばれる連星系です。

この連星系が位置しているのは、地球から約16万光年彼方の大マゼラン雲の中。
片方は太陽の約25倍の質量を持つ恒星で、もう片方が太陽の約10.1倍の質量を持つブラックホールから構成されている連星系だと考えられています。

観測結果から分かったのは、ブラックホールの公転軌道がほぼ円形(軌道離心率0.017±0.012)で、公転軌道の半径もかなり小さいこと。
このことから、“VFTS 243”のブラックホールは完全崩壊によって誕生したという説が提唱されました。

連星系で超新星爆発が起きると、ネイタルキックによってブラックホールが蹴りだされるだけでなく、爆発の衝撃によって恒星も動かされます。

つまり、普通の超新星爆発で誕生したブラックホールの場合、観測されたような“ほぼ円形”で“小さな半径”の公転軌道を持つ確率はかなり低くなるはずです。


ネイタルキックにはニュートリノが関与していた

今回の研究では、“VFTS 243”のブラックホールが本当に完全崩壊によって誕生したのかを確かめるために、シミュレーションを実施しています。

研究チームは、爆発が起こる前の連星系の公転軌道のパラメータ、爆発によって生じるネイタルキックの強さ、エネルギーに変換されて失われる質量について様々な値を仮定。
予想される爆発後の公転軌道と実際の観測値が、最も近いシナリオを探しました。

その結果、超新星爆発が発生せず、ネイタルキックもほとんど生じなかった場合が、“VFTS 243”の公転軌道を説明できる最も妥当なシナリオというシミュレーション結果を得ることができました。
図2.今回の研究のシミュレーション結果。ネイタルキックで得られた速度が非常に低速であるパターン(左下のグラフの下側)に点が集中している。(Credit: Alejandro Vigna-Gómez, et al.)
図2.今回の研究のシミュレーション結果。ネイタルキックで得られた速度が非常に低速であるパターン(左下のグラフの下側)に点が集中している。(Credit: Alejandro Vigna-Gómez, et al.)
本研究では、“VFTS 243”のブラックホールが受けたネイタルキックは、最高でも秒速4キロと考えられます。
これは、通常のネイタルキックと比べて数桁も低い速度でした。

“VFTS 243”の場合、超新星爆発のエネルギーのほとんどすべてが、“ニュートリノ”と呼ばれる素粒子の形で逃げ出したと考えられます。

もし、ニュートリノ以外の物質(陽子や中性子などの“普通の物質”)が関与したとすると、ネイタルキックが大きくなり過ぎてしまうんですねー
一方、“幽霊粒子”とも呼ばれるニュートリノは他の物質とほとんど相互作用をしない素粒子なので、極めて小さなネイタルキックを説明することができます。


太陽の約10倍の質量を持つ恒星が完全崩壊を起こす可能性

今回の研究では、“VFTS 243”のブラックホールが超新星爆発を伴わない完全崩壊で生じたことを、強く裏付けるものとなりました。
一方、重い恒星の最期に関する一側面を、ほんのわずかながら明らかにしたにすぎません。

超新星爆発で放出されるエネルギーの大半を占めるのは、爆発直前のニュートリノ放出ということが知られています。

“幽霊粒子”であるニュートリノも、爆発直前の恒星中心部のような極端に高密度な環境では頻繁に物質と衝突し、その際に生じた衝撃波が爆発のエネルギーに加わっていることも考えられています。

ただ、これほど極端な環境をシミュレーションするような環境は整っていないんですねー
このため、ニュートリノの発生量や物質との衝突については、多くの謎が残っています。

いずれにしても本研究は、“VFTS 243”のブラックホールが完全崩壊で誕生した可能性が高いこと、太陽の約10倍の質量を持つ恒星は完全崩壊を起こす可能性があることを示した点で、天体物理学の研究における大きな成果と言えます。
さらなる研究により、条件面が絞り込まれれば、完全崩壊に限らず、超新星爆発全般の謎を解く手がかりが得られるかもしれません。


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原始ブラックホールの形成は実現するのか? より複雑なモデルを考えるか、全く別のメカニズムを考えていく必要があるようです

2024年06月02日 | ブラックホール
今回の研究では、原始ブラックホール生成に関係した大きな振幅を持った小さなスケールのゆらぎ同士が、量子論的にぶつかり合う効果を場の量子論に基づいて、初めて詳細に計算しています。

その結果、小スケールに生成した大きなゆらぎが、宇宙マイクロ波背景放射(CMB)で観測されるような大スケールの揺らぎにも影響を及ぼすことを明らかにしました。

太陽の数十倍の質量を持つブラックホールの起源やダークマターの起源を、原始ブラックホールによって説明できるほど大きなゆらぎを予言するモデルにおいては、宇宙マイクロ波背景放射の観測結果と矛盾するほど影響が大きいことから、大きな質量の原始ブラックホール生成のためには、より複雑なモデルを考えるか、全く別のメカニズムを考えなければならないことを示したことになります。
この研究は、東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU, WPI)機構長で、理学系研究科付属ビッグバン宇宙国際研究センター長を兼ねる横山順一教授と理学系研究科のジェイソン・クリスティアーノ大学院生が進めています。
本研究の成果は、アメリカ物理学会の発行するアメリカ物理学専門誌“フィジカル・レビュー・レターズ(Physical Review Letter)”と“フィジカル・レビューD(Physical Review D)”のオンライン版に2編の論文としてアメリカ時間2024年5月29日付で掲載されました。


太陽の数十倍もの質量を持つブラックホールの正体

近年の重力波観測により、私たちの宇宙には太陽の数十倍もの質量を持つブラックホールが、多数存在していることが明らかになっています。
その正体として、原始ブラックホールが候補の一つとして注目されています。

また、宇宙のエネルギーの3割近くを占めるダークマターの候補としても注目されています。

原始ブラックホールは、熱放射時代の初期宇宙にエネルギー密度の大きなゆらぎがあると生成されます。
このエネルギー密度のゆらぎを作る仕組みは、ビッグバン以前に宇宙が急膨張を起こしたインフレーション期に生成した量子ゆらぎが最有力です。

インフレーションが起こるのは、宇宙の大きさが水素原子よりもまだずっと小さかった頃なので、ミクロな世界で働く量子論(※1)が重要なはたらきをするからです。
※1.量子論とは、素粒子とその相互作用など、ミクロの世界の物質の振る舞いを記述する理論。量子論の世界では粒子も波として振る舞い、位置と速度を波長以下の精度で指定することはできないので、ゆらぎ(ムラ)が生成する。宇宙も最小は水素原子よりもずっと小さかったと考えられるので、初期宇宙を考える上で量子論で記述できるレベルでの研究が欠かせない。
初期宇宙にどのようなゆらぎができていたかは、宇宙マイクロ波背景放射の観測によってかなりよく分かっています。

その観測にかかるような長波長ゆらぎは非常に小さく、一様密度からのズレが10万分の1程度にとどまっていることが観測されています。

この観測事例は、スローロールインフレーションと呼ばれる、インフレーションを起こす素粒子の場(インフラトンと呼ばれる)が、ポテンシャルの坂道をゆっくりと転がりながらインフレーションを起こすモデルによって、見事に説明されています。

でも、通常のスローロールモデルでは、短波長の揺らぎが小さく、原始ブラックホールになるような大密度領域を作ることはできません。
このため、大きなゆらぎを実現するモデルの構築が、多くの研究者によって進められてきました。


原始ブラックホールの形成を実現するには

現在、最も盛んに研究されているモデルは、東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU, WPI)機構長で、理学系研究科付属ビッグバン宇宙国際研究センター長を兼ねる横山順一教授を、その提案者の一人とする超急減速(ウルトラスローロール)モデルと呼ばれる一連のモデルです。

これは、球の転がる坂道の一部に平坦な場所を用意し、インフラトンがそこに差し掛かると急減速して、ハッブル時間(※2)当たりの変化が一時的に小さくなるので、その時できたゆらぎは相対的に大きな値を持つことになり、特定のスケールに大きなゆらぎを生成するというものです。
その結果、対応した質量の原始ブラックホールを生成することができます。(図1)
※2.ハッブル時間は、宇宙の膨張率を示すハッブルパラメータの逆数で示される数値で、その時の宇宙年齢の目安となる指標。
図1.インフレーションを引き起こす位置エネルギーの模式図。右側から坂を下り始め途中の平らなところでゆらぎが増幅されて原始ブラックホールができ、最後に原点付近を振動すると位置エネルギーが摩擦熱に変わり、熱いビッグバン宇宙になる。(Credit: ESA/Planck Collaboration, modified by Jason Kristiano)
図1.インフレーションを引き起こす位置エネルギーの模式図。右側から坂を下り始め途中の平らなところでゆらぎが増幅されて原始ブラックホールができ、最後に原点付近を振動すると位置エネルギーが摩擦熱に変わり、熱いビッグバン宇宙になる。(Credit: ESA/Planck Collaboration, modified by Jason Kristiano)
これまでは、このような小さなスケールで起こる現象は、宇宙マイクロ波背景放射で観測できる大スケールの現象には、一切影響しないと考えられてきました。

今回の研究では、このような原始ブラックホールの形成を実現するようなインフレーションモデルにおいて、原始ブラックホールに関係した大きな振幅を持った小さなスケールのゆらぎ同士が量子論的にぶつかり合う効果を場の量子論に基づいて、初めて詳細に計算しています。

その結果、これまでの常識を覆し、このような小スケールに生成した大きなゆらぎが、宇宙マイクロ波背景放射で観測されるような大スケールの揺らぎにも影響を及ぼすことを明らかにしました。(図2)

特に、重力波観測で示唆されている太陽の数十倍もの質量を持つブラックホールの起源やダークマターの起源を、原始ブラックホールによって説明できるほど大きなゆらぎを予言するモデルは、大スケールにおいて宇宙マイクロ波背景放射で観測されている以上に温度ゆらぎをもたらしてしまうことになり、観測結果と矛盾してしまうことが分かりました。
図2.小スケールのゆらぎが量子論的にぶつかり合う様子を示した模式図。原始ブラックホールを作るような大きなゆらぎが小スケールにあると、それが量子論的にぶつかり合って大スケールの揺らぎを大きくしてしまう。(Credit: ESA/Planck Collaboration, modified by Jason Kristiano)
図2.小スケールのゆらぎが量子論的にぶつかり合う様子を示した模式図。原始ブラックホールを作るような大きなゆらぎが小スケールにあると、それが量子論的にぶつかり合って大スケールの揺らぎを大きくしてしまう。(Credit: ESA/Planck Collaboration, modified by Jason Kristiano)
今回の計算は特定のモデルに基づいたものです。
でも、インフラトンがすべての波長のゆらぎの起源になっているモデルで、原始ブラックホールの形成を実現するような既知のモデルのほとんどに当てはめることのできる結論のため、単一場インフレーションモデルで観測的に意義のあるような原始ブラックホールを生成するのは極めて困難なことが分かったと言えます。

なので、原始ブラックホールを生成するためには、より複雑なモデルを考えるか、全く別のメカニズムを考えていく必要があるようです。


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中間質量ブラックホールは球状星団の中で超大質量星から形成されている!? 最先端のシミュレーションによって明らかになった形成過程

2024年06月01日 | ブラックホール
今回の研究では、球状星団(※1)の形成過程で、星の合体から超大質量星(※2)を経て中間質量ブラックホールが形成され得ることを、数値シミュレーションにより明らかにしています。
※1.星団のうち数百万個以上の恒星が重力で集合し、概ね球状の形をとったもの。数百光年以内に数万個以上の恒星が密集している。
※2.超大質量星は、太陽の数百倍から1万倍もの質量を持つ恒星。まだ、その存在について観測的な証拠はない。
本研究では、新たに開発した計算手法により、世界で初めて球状星団の形成過程を、星一つ一つまで数値シミュレーションで再現。
その結果、形成中の球状星団の中で星が次々と合体することによって、太陽の数千倍の質量を持つ超大質量星が形成され得ることが分かりました。

さらに、星の進化の理論に基づいた計算によって、この超大質量星は後に太陽の数千倍の質量を持つ中間質量ブラックホールへと進化することも確かめています。
これまでの観測から、長年論争となっていた球状星団における中間質量ブラックホールの存在を、理論的に強く支持する結果でした。

本研究で、星一つ一つを再現した球状星団の形成シミュレーションは、国立天文台の天文学専用スーパーコンピュータ“アテルイII”を用いたことで実現しています。
この研究は、東京大学大学院理学系研究科の藤井通子准教授をはじめとする研究グループが進めています。
本研究の成果は、5月30日付の科学誌“サイエンス”のオンライン版に、“Simulations predict intermediate-mass black hole formation in globular clusters”として掲載されました。
図1.シミュレーションで再現された形成中の球状星団。左下の青白い点一つ一つが星団の星を表し、その周りの“もや”は星間ガスを表す。色は温度を表していて、暗い部分が温度の低い星間ガス(分子雲)、明るい部分が温度の高い星間ガスを表す。可視化:武田隆顕(ヴェイサエンターテイメント株式会社)。(Credit: 藤井通子、武田隆顕)
図1.シミュレーションで再現された形成中の球状星団。左下の青白い点一つ一つが星団の星を表し、その周りの“もや”は星間ガスを表す。色は温度を表していて、暗い部分が温度の低い星間ガス(分子雲)、明るい部分が温度の高い星間ガスを表す。可視化:武田隆顕(ヴェイサエンターテイメント株式会社)。(Credit: 藤井通子、武田隆顕)


確実な発見例がほとんど無いブラックホール

ほとんどの銀河の中心には、太陽の100万倍から100億倍の質量を持つ“超大質量ブラックホール”が存在すると考えられています。

私たちの天の川銀河の中心にも、太陽の400万倍の質量を持つ超大質量ブラックホール“いて座A*(エースター)”が存在しています。

また、大質量星が超新星爆発を起こした後に誕生する、太陽の数倍~数十倍程度の質量を持つ“恒星質量ブラックホール”も宇宙には多数存在しています。

一方で、存在は予測されていても、確実な発見例がほとんど無いブラックホールもあります。
それが、太陽質量の100倍~10万倍という“中間質量ブラックホール”です。

超大質量ブラックホールは、恒星質量ブラックホールが合体を繰り返すことで形成されたとも考えられています。
なので、この2つのブラックホールの中間くらいの質量を持つ中間質量ブラックホールもあるはずなんですねー


中間質量ブラックホールは球状星団の中で形成される

それでは、中間質量ブラックホールは、宇宙のどこでどのように形成されているのでしょうか?

太陽の数千倍の質量を持つ中間質量ブラックホールが存在する場所の候補とされている天体に“球状星団”があります。

球状星団は数百万個の星が球状に分布する天体で、その中心に太陽の数千倍の質量を持つ中間質量ブラックホールの存在を示唆する観測が、これまでに報告されています。
図2.中間質量ブラックホールの存在が観測から示唆されている球状星団の一つ、ケンタウルス座オメガ星団。(Credit: ESO)
図2.中間質量ブラックホールの存在が観測から示唆されている球状星団の一つ、ケンタウルス座オメガ星団。(Credit: ESO)
球状星団の中での中間質量ブラックホールの形成仮説は、天体同士の衝突合体になります。

これまでの数値シミュレーションを用いた研究で分かっていたのは、以下の2つの結果でした。

1.星団内では、ブラックホール同士の合体が繰り返し起こっている。
でも、500太陽質量を超える前に、合体時の非等方な重力波放出によって星団外へ飛び去ってしまう。

2.星同士が合体するが、最初から存在した大質量の星が合体した後は、強い星風(※3)によって星は質量を失い恒星質量ブラックホールになってしまう。
※3.星風は、星から噴き出すガスの流れ。質量が大きいほど、星風が強く質量損失率が高い傾向がある。
ただ、これらのシミュレーションは、すでに出来上がった星団に対して行われたものでした。
これに対し今回の研究では、星々の母体となる分子雲(※4)内で星が次々と生まれ星団となる過程を、星同士の衝突合体も含めてシミュレーションしています。
※4.星間空間に撒き散らされた原子やチリが集まって雲のようになった際、周囲からの紫外線(星間紫外線)が内部まで届かなくなると、紫外線によって分子が壊されなくなるので、原子から分子が作られ始める。そのような雲を“分子雲”と呼ぶ。数光年~数十光年と様々な大きさのものがある。分子雲の中で、自己重力でガスやチリが集まってできた高密度な場所を分子雲コアと呼び、いわゆる星の卵に相当する。分子雲コアがさらに収縮することによって、太陽のような恒星や、それよりもさらに重い星(大質量星)その連星が誕生する。
その結果、明らかになったのは、形成途中の星団の中で星が次々と合体し、最終的に太陽の1万倍程度の質量を持つ超大質量星が形成されることでした。(図3左)

星の進化の理論に基づいて計算を行うと、このような超大質量星は最終的に太陽の3~4千倍の質量を持つ中間質量ブラックホールになると予測されます。(図3右)

今回のシミュレーションで得られた、星団とその中で形成されるブラックホールの質量の関係は、観測から推定されている球状星団の質量とブラックホールの質量の関係と一致していました。
この結果は、球状星団中に中間質量ブラックホールが存在することを、理論的に強く示唆するものと言えます。
図3.星団の中で最も重い星の質量の時間変化。(左)シミュレーション中で繰り返し起こった星の合体による星団内で最も重い星の質量の増加。(右)恒星進化の理論に基づく超大質量星の質量の時間変化。この超大質量星は最終的に中間質量ブラックホールへと進化した。(Credit: 藤井通子)
図3.星団の中で最も重い星の質量の時間変化。(左)シミュレーション中で繰り返し起こった星の合体による星団内で最も重い星の質量の増加。(右)恒星進化の理論に基づく超大質量星の質量の時間変化。この超大質量星は最終的に中間質量ブラックホールへと進化した。(Credit: 藤井通子)
図4.球状星団の質量とブラックホールの質量の関係。星印はシミュレーションで形成された球状星団の質量と、その中で形成されたブラックホールの質量の関係を示している。色は、それぞれ星ができる元となった星間ガスの重元素量(水素、ヘリウム以外の元素の量)の違いを表す。破線は、中間質量ブラックホールの質量が星団の質量の3%を示す。縦線は、観測から中間質量ブラックホールの存在が示唆されている球状星団の質量と、ブラックホールの質量の関係を示す(線の長さは誤差の範囲、矢印は上限値を示す)。シミュレーションで形成された球状星団とブラックホールの質量のうち、最も大質量のもの(黄色の丸で囲まれた赤い星印)は、天の川銀河の球状星団の質量と観測から推定されているブラックホールの質量と同程度だと分かる。薄い赤と青で塗られた領域は、星の進化の理論計算とシミュレーションの結果から予測される、各重元素の場合の球状星団の質量と、ブラックホールの質量の関係。天の川銀河の球状星団の質量と、推定されるブラックホールの質量の関係を説明できている。(Credit: 藤井通子)
図4.球状星団の質量とブラックホールの質量の関係。星印はシミュレーションで形成された球状星団の質量と、その中で形成されたブラックホールの質量の関係を示している。色は、それぞれ星ができる元となった星間ガスの重元素量(水素、ヘリウム以外の元素の量)の違いを表す。破線は、中間質量ブラックホールの質量が星団の質量の3%を示す。縦線は、観測から中間質量ブラックホールの存在が示唆されている球状星団の質量と、ブラックホールの質量の関係を示す(線の長さは誤差の範囲、矢印は上限値を示す)。シミュレーションで形成された球状星団とブラックホールの質量のうち、最も大質量のもの(黄色の丸で囲まれた赤い星印)は、天の川銀河の球状星団の質量と観測から推定されているブラックホールの質量と同程度だと分かる。薄い赤と青で塗られた領域は、星の進化の理論計算とシミュレーションの結果から予測される、各重元素の場合の球状星団の質量と、ブラックホールの質量の関係。天の川銀河の球状星団の質量と、推定されるブラックホールの質量の関係を説明できている。(Credit: 藤井通子)
本研究によって、太陽の数千倍の質量を持つ中間質量ブラックホールが、標準的な仮定を置いた数値シミュレーション中で形成されることが確かめられました。

中間質量ブラックホールは、恒星質量ブラックホールと超大質量ブラックホールを結ぶミッシングリングと言えます。
なので、中間質量ブラックホールの一つの形成過程を示せたことは、超大質量ブラックホールの形成過程を理解する上で重要な意義があります。

また、本研究で星一つ一つを再現した球状星団の形成シミュレーションは、本研究チームによって2020年に開発された新しいシミュレーションコードと、国立天文台の天文学専用スーパーコンピュータ“アテルイII”を用いることで、世界で初めて実現したものです。


国立天文台の天文学専用スーパーコンピュータ

本研究の数値シミュレーションには、国立天文台のスーパーコンピュータ“アテルイⅡ”が使用されました。
理論演算値は3.087ペタフトップスで、天文学の数値計算専用機としては世界最速です。
1ペタは10の15乗、フロップスはコンピュータが1秒間に処理可能な演算回数を示す単位。
岩手県奥州にある国立天文台水沢キャンパスに設置されていて、平安時代に活躍したこの土地の英雄アテルイにあやかり命名。
「勇猛果敢に宇宙の謎に挑んでほしい」という願いが込められています。
国立天文台の天文学専用スーパーコンピュータ“アテルイⅡ”(Credit: 国立天文台)
国立天文台の天文学専用スーパーコンピュータ“アテルイⅡ”(Credit: 国立天文台)


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質量や大きさ、周囲の環境が違っても、ガス供給やジェットの放出などの物理過程は超大質量ブラックホール間で普遍的なのかも

2024年05月11日 | ブラックホール
今回の研究では、天の川銀河の中心に潜む超大質量ブラックホール“いて座A*(エースター)”のごく近傍で、電波の偏光をとらえることに成功。
新たに得られた偏光の画像からは、ブラックホールの縁から渦巻状に広がる整列した強い磁場が発見されました。

この磁場構造は、M87銀河の中心にある超大質量ブラックホールと驚くほど似ていて、強い磁場がすべてのブラックホールに共通して見られる可能性を示唆しています。

さらに、この類似性は、“いて座A*”に隠されたジェットがある可能性も示唆しているようです。
この研究は、国際研究チーム“イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)・コラボレーション”が進めています。
本研究の成果は、2024年3月27日付でアメリカの天体物理学雑誌“Astrophysical Journal Letters”に掲載されました。
図1.天の川銀河中心の超大質量ブラックホール“いて座A*(いてざエースター)”の偏光画像。国際研究チーム“イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)コラボレーション”は、2022年に天の川銀河中心の超大質量ブラックホールの史上初の画像を公開。本成果により、この超大質量ブラックホールの新たな姿が偏光でとらえられた。この画像は天の川銀河の超大質量ブラックホール周囲の偏光を示している。天の川銀河中心の超大質量ブラックホールのこれほど近傍に、磁場の構造を映し出す偏光がとらえられたのは史上初めてのこと。線は偏光の方向を示していて、ブラックホール周囲の磁場に関係している。(Credit: EHT Collaboration)
図1.天の川銀河中心の超大質量ブラックホール“いて座A*(いてざエースター)”の偏光画像。国際研究チーム“イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)コラボレーション”は、2022年に天の川銀河中心の超大質量ブラックホールの史上初の画像を公開。本成果により、この超大質量ブラックホールの新たな姿が偏光でとらえられた。この画像は天の川銀河の超大質量ブラックホール周囲の偏光を示している。天の川銀河中心の超大質量ブラックホールのこれほど近傍に、磁場の構造を映し出す偏光がとらえられたのは史上初めてのこと。線は偏光の方向を示していて、ブラックホール周囲の磁場に関係している。(Credit: EHT Collaboration)


ブラックホール近傍の電波の偏光

2022年のこと、地球からおよそ27,000光年の距離にある“いて座A*”の画像が初めて公開され、天の川銀河の超大質量ブラックホールはM87の1000倍以上も質量とサイズが小さいにもかかわらず、見た目は驚くほど似ていることが明らかになりました。

このことから研究チームが考えたのは、この2つのブラックホールには外見以外の共通点があるのではないかということ。
そこで今回の研究では、“いて座A*”のごく近傍で電波の偏光でとらえ、その画像から研究を進めています。

以前、報告されたM87の研究で明らかになっているのは、超大質量ブラックホールの周囲の磁場によって、強力なジェットを周囲の環境に放出することができることです。
この研究に基ずくと、今回新たに得られた画像から、“いて座A*”についてもM87のブラックホールと同じことが言えるかもしれません。

今回の画像から分かるのは、天の川銀河の中心にあるブラックホールの近くに、渦巻くように整列した強力な磁場があるということ。
“いて座A*”の偏光構造が、より大きく、強力なジェットを伴うM87のブラックホールに見られるものと驚くほどよく似ていることに加え、重要なのは、秩序だった強い磁場により、ブラックホールが周囲のガスや物質とどのように相互作用するのかといことだと分かりました。
図2.多波長で見る天の川銀河の偏光。左図は天の川銀河の中心に位置する超大質量ブラックホール“いて座A*”の偏光を示したもの。線は偏光の方向を示していて、これはブラックホール周囲の磁場に関係している。中央の図は成層圏赤外線天文台“SOFIA”がとらえた天の川銀河の中心領域の偏光。右上の図は赤外線天文衛星“プランク”によってとらえられた天の川全域のチリからの偏光を示したもの。(Credit: 左図:EHT Collaboration, 中央図: NASA/SOFIA, NASA/HST/NICMOS, 右図: ESA/Planck Collaboration)
図2.多波長で見る天の川銀河の偏光。左図は天の川銀河の中心に位置する超大質量ブラックホール“いて座A*”の偏光を示したもの。線は偏光の方向を示していて、これはブラックホール周囲の磁場に関係している。中央の図は成層圏赤外線天文台“SOFIA”がとらえた天の川銀河の中心領域の偏光。右上の図は赤外線天文衛星“プランク”によってとらえられた天の川全域のチリからの偏光を示したもの。(Credit: 左図:EHT Collaboration, 中央図: NASA/SOFIA, NASA/HST/NICMOS, 右図: ESA/Planck Collaboration)


特定の方向に起こる偏った振動

光や磁場などの電磁波は、電場と磁場の振動が波として伝わります。
私たちの目がとらえる可視光もの一種です。

光の波は、ある特定の方向に偏って振動することがあり、私たちはそれを“偏光”と呼んでいます。
偏光は地球上でもありふれたものですが、人間の目には通常の光と区別がつきません。

ブラックホール周辺のプラズマでは、磁場の周りを渦巻く粒子が、磁力線に垂直な偏光パターンを与えます。
このブラックホール周囲の領域の偏光をとらえることで、その磁力線を画像化することができる訳です。

さらに、ブラックホール近傍の高温のガスからの偏光を画像化することで、ブラックホールに落ち込む、あるいは排出されるガスを取り巻く地場の構造と強さを直接調べることができます。

偏光は、ガスの特性やブラックホールに物質が供給された際に起こる現象など、天体物理学の重要な問題について、より多くのことを教えてくれます。


ブラックホール近傍の偏光の画像化

偏光でブラックホールを撮影するのは、偏光サングラスをかけるほど簡単なことではありません。
“いて座A*”の場合は特に難しく、天体の構造が観測中に時事刻々と変化していくので、撮像している間じっとしていてはくれません。

このため、“いて座A*”の撮像には、よりゆっくりと変動し観測中は構造が変わらないM87の撮像に使われた以上の高度な画像化手法が必要となりました。

本の表紙だけを見てもその内容を推測するのは難しいように、偏光を通常の電波画像から予測することは困難です。
ましてや、“いて座A*”の構造は撮影中動き回っているので、通常の電波画像の取得さえ難しいものとなります。

それでも、偏光の画像化が可能となったのは驚くべきことでした。
それは、一部の理論モデルが、偏光撮像が不可能なほどの激しい変動を予測していたからです。
自然は、それほど残酷ではなかったようで、偏光画像を手に入れることができました。

得られた画像とそれに付随するデータは、異なるサイズと質量のブラックホールを比較対照する新しい方法を提供してくれます。
技術が向上すれば、この画像からブラックホールの秘密や類似点、相違点がさらに明らかになるはずです。

今回の研究では、“いて座A*”の磁場構造がM87と非常に似ているという事実が明らかになりました。
このことは、質量や大きさ、周囲の環境の違いにもかかわらず、ブラックホールにガスが供給され、またその一部がジェットとして放出される物理過程が、超大質量ブラックホール間で普遍的である可能性を示していて、重要な発見と言えます。

この結果により、理論モデルとシミュレーションをさらに改良し、ブラックホールの事象の地平面付近で物質がどのような影響を受けるかについて、より理解を深めることが可能になります。
図3.巨大楕円銀河“M87”の中心にある超大質量ブラックホールと“いて座A*”の偏光画像の比較。超大質量ブラックホール“M87”と“いて座A*”の偏光画像には渦巻状の構造が共通して見られ、これらのブラックホールの縁が類似した磁場構造を持つことが示された。これはブラックホールにガスが供給され、その一部がジェットとして噴出される一連の物理的過程が超大質量ブラックホールの間で普遍的である可能性を示唆している。(Credit: EHT Collaboration)
図3.巨大楕円銀河“M87”の中心にある超大質量ブラックホールと“いて座A*”の偏光画像の比較。超大質量ブラックホール“M87”と“いて座A*”の偏光画像には渦巻状の構造が共通して見られ、これらのブラックホールの縁が類似した磁場構造を持つことが示された。これはブラックホールにガスが供給され、その一部がジェットとして噴出される一連の物理的過程が超大質量ブラックホールの間で普遍的である可能性を示唆している。(Credit: EHT Collaboration)
イベント・ホライズン・テレスコープ”では、2017年以来数回の観測を行い、2024年4月に再び“いて座A*”を観測する予定です。
さらに、観測毎に新しい望遠鏡、より広い帯域幅、新しい観測周波数を取り入れるなどのアップデートを行っているので、画像は毎年向上しています。

今後10年間に計画されている拡張により、“いて座A*”の信頼性の高い動画の作成が可能となり、隠されたジェットが明らかになるかもしれません。
また、他のブラックホールでも同様の偏光特性を観測できるようになっているかもしれません。

一方、イベント・ホライズン・テレスコープ”を宇宙に拡張することで、ブラックホールの画像をこれまで以上に鮮明にすることができると考えられます。


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ブラックホールの大きさを測るには? 光でも逃げ出せなくなる境界“事象の地平面”までらしいです

2024年05月08日 | ブラックホール
ブラックホールについての記事などを読むと、ブラックホールの大きさは“太陽の○倍の質量”というように、質量で表されているのを見ることが多いと思います。

例えば、私たちが住む地球が属している天の川銀河の中心には、“いて座A*(いてざエースター)”という超大質量ブラックホールが存在していて、その質量は太陽の約400万倍の質量を持っていると考えられています。

とても大きそうだということは何となく分かりますが、半径でいうとどれくらいになるのか想像は付きませんね。
Credit: NASA’s Goddard Space Flight Center; background, ESA/Gaia/DPAC
Credit: NASA’s Goddard Space Flight Center; background, ESA/Gaia/DPAC


重力で潰れたコンパクトな天体

太陽のおよそ8倍以上の質量を持った恒星が、進化の最終段階で鉄の中心核を作ると、鉄は宇宙で最も安定した元素なので、それ以上は核融合を行えなくなってエネルギーを作り出せなくなります。

恒星は、中心核で起こる核融合反応により自らエネルギー(外向きの圧力)を生成することで、重力(内向きの圧力)によって潰れるのを回避しています。
なので、核融合ができなくなると重力によって潰れる“重力崩壊”を起こすことになります。

この重力崩壊によって中心核の密度が十分高くなると、外側から落ちてくる物質を中心核で跳ね返して“II型超新星爆発”を起こすと考えられています。

そして、爆発の後に残されるのがコンパクトな天体です。
重力崩壊に対抗できる力が存在せず、無限に潰れてしまった天体はブラックホールとなり、ブラックホールになる手前で重力崩壊が停止した天体は中性子星となります。

中性子星は主に中性子からなる天体で、半径10キロ程度の表面が存在し、そこに地球の約50万倍の質量が詰まっていています。
では、ブラックホールはどうなんでしょうか?


光でさえ逃げ出すことができない境界面

ブラックホールにある程度以上近づくと、光でさえ逃げられなくなります。
そのような、内側に入った物体やエネルギーが、たとえ光速であっても再び外側に逃げ出すことができない境界面このとを“事象の地平面”と呼び、ブラックホールでは光でも逃げ出せないという性質の根幹となっています。

そして、事象の地平面の半径のことを“シュバルツシルト半径”と言います。
ブラックホールの大きさは、このシュバルツシルト半径のことになります。

ブラックホールの半径Rは、意外と単純な以下の計算式で求めることができます。

R=2GM/c2
式の中のMが質量、Gは万有引力定数、cは高速です。

物理定数のGとcの値はいつも変わらないので、ブラックホールの半径Rは質量Mに比例することになります。
例えば、太陽(質量1.98884×1030kg)のシュバルツシルト半径は約3キロ、もう少し正確に言うと約2.95キロとなります。

つまり、太陽を約3キロまでぎゅっと縮めることができれば、ブラックホールになってしまいます。
ちなみに、地球(質量5.972×1024キロ)だと、約9ミリになります。


銀河中心にある超大質量ブラックホールの大きさ

ブラックホールには、大質量星などからできる恒星質量ブラックホールと、銀河の中心部ある超大質量ブラックホールが存在することが知られています。

ブラックホールの質量と半径は比例するので、太陽の10倍の質量を持つブラックホールの半径は約30キロ、100倍の質量のブラックホールの半径は約300キロとなります。

恒星質量ブラックホールは、意外と半径が小さいと感じますね。
でも、銀河中心にある超大質量ブラックホールの半径だと、さすがにもっと大きくなります。

私たちの天の川銀河の中心にある超大質量ブラックホール質量は、太陽の約400万倍と考えられています。

このブラックホールの半径を計算すると、約1200万キロとなります。
太陽系では、太陽から一番内側の水星までの平均距離が約5790万9000キロなので、その4分の1ほどの半径です。

他の銀河の中心には、もっと質量の大きなブラックホールが存在しています。
例えば、太陽の5000万倍の質量を持つブラックホールの場合、半径は約1億5000万キロとなります。

この半径は、太陽~地球間の平均距離とだいたい同じもの。
つまり、太陽質量の5000万倍のブラックホールの大きさは、地球の公転軌道と同じくらいということになります。
さらに、質量が太陽の15億倍だと、半径がほぼ海王星の軌道と同じくらいになります。

銀河団“エイベル85”に属する銀河“ホルム15A”には、もっと質量が大きなブラックホールが存在しているようです。
この超大質量ブラックホール“ホルム15A”は、太陽の約400億倍の質量を持っていて、観測史上最大のブラックホールになるんだとか…

このブロックホールの半径は、私たちの理解を超える驚異的な大きさになるんでしょうね。


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