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衛星タイタンの場合だと、氷天体表面から地下海へ生命維持に十分な量の有機化合物を供給することは難しいようです

2024年03月16日 | 土星の探査
太陽系には、表面を覆う分厚い氷の層の下に、広大な海が存在すると予想されている天体がいくつもあります。

海というと生命の誕生や存在を期待させますよね。
でも、液体の水の存在が“保証”されれば生命がいるかもしれないと考えていいのでしょうか?

今回の研究では、天体表面に豊富な有機化合物を有し、地下に海があるかもしれないと考えられている土星の衛星タイタンについて、地表から地下へと輸送される有機化合物の量を推定しています。

その結果、有機化合物の輸送量はグリシン換算で7500kg/年以下と、生命の維持には到底足りない量だと推定されました。

今回の研究が示しているのは、有機化合物が豊富なタイタンでさえ生命の維持が困難なこと。
他の天体では、より条件が悪い可能性を示唆しているようです。
この研究は、ウェスタンオンタリオ大学のCatherine Neishさんたちの研究チームが進めています。
図1.タイタンの内部構造(イメージ図)。表面を覆う氷の層の下には分厚い海が広がると考えられている。(Credit: NASA)
図1.タイタンの内部構造(イメージ図)。表面を覆う氷の層の下には分厚い海が広がると考えられている。(Credit: NASA)


表面を覆う分厚い氷の層の下に海を持つ天体

地球は、私たちが知っている生命が存在する唯一の場所です。
そこでは、生命が深海や氷河、火山など、非常に多様な環境で見つかっていますが、どの場所でも液体の水が無ければ生存できないことが分かっています。

このため、液体の水の存在は、地球以外の天体で生命を探すための必須条件とみられています。

豊富な液体の水を持つ天体として確認されているのは、今のところ地球だけです。
でも、太陽系の中には有力な候補がいくつかあります。

これらの候補天体は、どれも太陽から遠く離れたところにあり、表面のほとんどが分厚い氷の層で覆われています。
でも、その下には豊富な液体の水が存在し、地下海を形成していると考えられています。

表面が氷に覆われていることからも分かるように、こうした天体に届く太陽エネルギーは氷を解かすほど強くはありません。

では、なぜ水は凍らずに存在できるのでしょうか?

それは、“他の天体からの潮汐力による過熱”(※1)や“岩石に含まれる放射性元素の崩壊熱”(※2)など、氷を解かす熱源があると考えられているからです。

地下海が存在すると考えられている候補は、どれも地球よりもずっと小さな天体です。
ただ、地下海の体積は、地球の海の体積の数倍から数十倍もあるのではないかと考えられています。

光が全く差し込まない深海で、地熱エネルギーを頼りに存在する生命は地球でも発見されています。
なので、地下海の海底に広がる生物圏は容易に想像することができます。

地下海を持つとされる天体は準惑星の冥王星やハウメア、木星の衛星エウロパやガニメデ、土星の衛星エンケラドスやタイタンなど多数あり、エンケラドスやエウロパのように地下海の存在を示す証拠が見つかっていて、その存在がほぼ確実視されている天体もあります。

これらの天体に対しては、汚染しないように運用を終えた惑星探査機を墜落させないようにするように配慮がされるほどです。

※1.天体の軌道が円形でないとき、惑星(や衛星)から遠いときはほぼ球体の天体も、接近するにしたがって惑星(や衛星)の重力で引っ張られ極端に言えば卵のような形になる。そして惑星(や衛星)から遠ざかるとまた球体に戻っていく。これを繰り返すことで発生した摩擦熱により天体内部は熱せられる。このような強い重力により、天体そのものが変形させられて熱を持つ現象を潮汐加熱という。

※2.放射性物質が崩壊して、放射線を出すときに発生する熱のこと。


地下海へ有機化合物を供給する仕組み

生命は水だけでは生存できません。
生命活動のエネルギー源として、あるいは自らの体を作るための有機化合物が必要となります。

地下海に有機化合物が存在する兆候は、すでに観測されています。
でも、有機化合物が生命を維持するほど十分に含まれているかは分かっておらず、地下海の存在を実証する研究と比べると、熱心に検討されているとは言い難い状況です。

この疑問に対してヒントを与えてくれる天体が土星最大の衛星タイタンです。

タイタンの表面には豊富な有機化合物が存在することが分かっています。
そのほとんどはメタンやエタンなどの極めて単純な分子ですが、より大きな分子が存在することも分かっています。

タイタンを覆う分厚い大気が靄(もや)っぽく見えるのは、大気中に含まれる高分子の有機化合物によって光が散乱されているためです。
図2.タイタンの表面は分厚い大気で覆われ地表が見えない。この視野を妨げる黄色っぽい靄(もや)は、高分子の有機化合物で構成されている。(Credit: NASA, JPL & Space Science Institute)
図2.タイタンの表面は分厚い大気で覆われ地表が見えない。この視野を妨げる黄色っぽい靄(もや)は、高分子の有機化合物で構成されている。(Credit: NASA, JPL & Space Science Institute)
タイタン表面の有機化合物の量は、地球を除くと太陽系随一の規模です。
また、表面には液体メタンの湖が多数ありますが、地下深くには地球の海の14倍もの液体の水があると考えられています。

表面の豊富な有機化合物が地下海へと供給されれば、独自の生命が育まれていても不思議ではありません。
でも、そのためには地下数キロまで有機化合物が供給される必要があります。

このことから、今回の研究では、このタイタンにおける地下海への有機化合物の輸送量を推定することになります。

ただ、タイタンには地球のようなプレートテクトニクスが無いと考えられているので、地表の物質を地下海に送り込む手段は限られてしまいます。

そこで、研究チーム考えたのは、天体衝突による有機化合物の輸送でした。

天体が衝突すると、そのエネルギーで表面の氷が融解し、液体の水と有機化合物が混合することになります。
水は氷よりも密度が高く、氷に対して“沈む”ため、地下海へと到達すると考えた訳です。


表面の有機化合物を地下海へと供給することは難しい

今回の研究では、最も単純なアミノ酸の一つであるグリシンを基準に、タイタンの環境においてグリシンが生成・分解される速度を推定しています。
そして、タイタンへの天体の衝突率推定値から、地下海に供給されるグリシンの量も推定しました。

驚くべきことに、地下海に供給されるグリシンの量の推定値は1年あたり75000キロ。
この値は、地球の14倍も大きな海に対してアフリカゾウ1頭分のグリシンを投入するようなものです。
これでは、有機化合物の“極めて薄いスープ”しか生成されないことになり、生命を維持するには到底足りない量と言えます。

今回の研究で示されたのは、タイタンほど有機化合物が豊富な天体でさえ、その供給が難しいことでした。

このことは、地下海に存在するかもしれない生命のことを考える上で悪いニュースと言えます。
それは、エウロパやエンケラドスのような他の候補天体は、タイタンよりもさらに有機化合物が少ないと考えられているからです。

エウロパやエンケラドスなど生命形成の素となる物質が見つかっている天体に、今回の研究がどのように影響するのでしょうか?
やっぱり、直接探査機を送り込まないと分からないのかもしれませんね。


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なぜ、土星の衛星タイタンの湖には一時的に魔法の島が現れるのか? 原因は多孔質構造の有機化合物にあるようです

2024年01月23日 | 土星の探査
土星の衛星タンタンの表面には、広大な液体メタンの湖が存在しています。
この湖にはいくつかの島がありますが、中には一時的に観測された後に消えてしまう“魔法の島(Magic Islands)”も見つかっています。

魔法の島がどのように出現するのかは、これまでのところ不明でした。

今回の研究では、有機物の多孔質な塊がメタンの湖に浮かぶ条件を探索。
その結果、魔法の島として観測される条件を満たしていることを示しています。

この魔法の島は、地球の海で一時的に出現し、最終的に沈んで消えてしまう軽石でできた幻の島に似ているようです。
この研究は、テキサス大学サンアントニオ校のXinting Yuさんたちの研究チームが進めています。
図1.タイタンのリゲイア海で観測された“魔法の島”。右上にある恒久的な地形と違い、一時的に出現したように見えるが、その出現理由はこれまで不明だった。(Credit: NASA, JPL-Caltech, ASI & Cornell)
図1.タイタンのリゲイア海で観測された“魔法の島”。右上にある恒久的な地形と違い、一時的に出現したように見えるが、その出現理由はこれまで不明だった。(Credit: NASA, JPL-Caltech, ASI & Cornell)


一時的に現れる魔法の島の正体

天体の表面を液体が覆っていることが観測されている地球以外で唯一の天体、それが土星の衛星タイタンです。
タイタンには分厚い大気に加えて気象や季節の変化もあることから、ある意味で地球と似通っている天体と言えます。

ただ、タイタンの平均気温はマイナス180℃と低く、表面の液体は水ではなくメタンを主体とした有機化合物になります。
図2.レーダー観測に基づき作成されたタイタンの地図。大小さまざまなメタンの湖(青色)が存在する。(Credit: NASA, JPL-Caltech, ASI, USGS & T. Cornet (ESA))
図2.レーダー観測に基づき作成されたタイタンの地図。大小さまざまなメタンの湖(青色)が存在する。(Credit: NASA, JPL-Caltech, ASI, USGS & T. Cornet (ESA))
地図化されているタイタンの表面の一部には、日本列島の総面積より広いクラーケン海を始めとした大小様々な湖が存在し、いくつかの湖には島が見つかっていました。

これらの島は恒久的に存在する本物の島の場合もあれば、数時間から数週間だけ出現した後に消えてしまう島もあります。
一時的に存在する島のような構造は、地球においては“幻島”や“疑存島”と呼ばれますが、タイタンにおいては魔法の島(Magic Islands)と呼ばれています。

タイタンの地形はレーダーでのみ観測されているので、魔法の島の正体については、“電波を反射しやすいもの”という以上のことは分かっていませんでした。

これまでの予測には“湖の波による反射”や“湖に浮かんでいる有機化合物の塊”、“湖水の中の有機化合物による濁り”、“窒素ガスによる気泡”といったものがありました。


魔法の島は多孔質構造の有機化合物でできている

今回の研究では、タイタンの魔法の島がメタンの湖に浮かぶ固体の有機化合物ではないかと考え、タイタンの低温環境で生成される固体の有機化合物の種類や形状がメタンの湖に浮かぶものかどうかを調査しています。

最初に分かったのは、単純な計算では、どのような種類の有機化合物もメタンの湖に沈んでしまうこと。
これは、有機化合物の固体は、どれも液体のメタンよりも高密度で、その上メタンは表面張力が低いためでした。

一方で明らかになったのは、メタンにはすでに大量の有機化合物が溶け込んでいるので、メタンの湖に接触した有機化合物が溶けて消えることはないことでした。
図3.タイタンの環境で生成される有機化合物の種類と、それがどのような特性を持つのかをまとめた図。(Credit: Xinting Yu, et al.)
図3.タイタンの環境で生成される有機化合物の種類と、それがどのような特性を持つのかをまとめた図。(Credit: Xinting Yu, et al.)
そこで、研究チームが検討したのは、有機化合物の塊が密度の低いスポンジのような多孔質構造になっている可能性でした。
そのままでは沈んでしまう有機化合物の塊も、内部に隙間が多ければ密度が低下するので、メタンの湖に浮かぶ可能性があるからです。

多孔質な材料で発生する毛細管現象は表面張力を増大させるので、追加の浮遊力を与えます。
さらに、一度は湖に浮かんだ塊も時間が経てば隙間にメタンがしみこむことで密度が増加して沈んでしまうので、魔法の島が一時的な存在であることの説明になります。

こうした特徴とそっくりなのが地球の軽石です。
軽石は組成だけで単純計算すれば海水よりも高密度なので、海水に浮かぶことは考えられません。
でも、実際には隙間によって密度が低下しているので、海水に浮くことができます。

2021年に発生した福徳岡ノ場の噴火のように、大規模に放出された軽石が形成した軽石いかだはまるで島のように見えました。
そして、軽石は時間が経つにつれて徐々に海水を吸って沈んでしまいます。
図4.2021年の福徳岡ノ場の噴火で発生した軽石が海面を埋め尽くしている様子。このような軽石いかだは、まるで島のようにも見える。今回の研究では、タイタンの魔法の島は有機化合物の“軽石”でできていると予測されている。(Credit: 海上保安庁)
図4.2021年の福徳岡ノ場の噴火で発生した軽石が海面を埋め尽くしている様子。このような軽石いかだは、まるで島のようにも見える。今回の研究では、タイタンの魔法の島は有機化合物の“軽石”でできていると予測されている。(Credit: 海上保安庁)
計算の結果、隙間率が25~60%で直径が数ミリメートル以上の場合、有機化合物の“軽石”がメタンの湖に十分な時間だけ浮くことが可能だと示されました。

また、この軽石は地表で形成された可能性もありました。
最初は雪のように小さく複雑な形状の塊として地表に降り積もった有機化合物は、多孔質な塊を形成します。
やがて、自重によって氷河のように流れ出すと、湖畔の塊が湖面に張り出し、波や潮汐活動によって割れて浮遊する氷山のようになるはずです。

これらのことは、魔法の島の寿命が数時間から数週間であることと一致しています。

タイタンの環境は短時間での変化に富むユニークな性質を持つと同時に、地球から遠く離れているので観測が困難で、未だに多くの謎があります。
メタンの湖に出現する魔法の島は、その一例にすぎません。

タイタンにまつわる他の謎として、湖面が非常に滑らかという謎があります。
地球と比べるとずっと小さいものの、タイタンの湖にはわずかながら波や潮汐活動があると予測されています。
でも、レーダー観測では予想よりも小さな変化しか計測できていませんでした。

研究チームでは、メタンの湖に有機化合物の薄い“氷”が張っていることがその理由だと指摘。
魔法の島の形成プロセスと似ていることから、関連している現象ではないかと考えているようです。


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土星の衛星エンケラドスの地下海の水からアミノ酸の源として重視される“シアン化水素”を発見! 生命誕生の環境条件は存在する?

2024年01月09日 | 土星の探査
厚い氷の層に覆われた海を持つ土星の小さな衛星“エンケラドス”。
エンケラドスではプルーム(間欠泉、水柱)が観測されていて、地表にある割れ目から宇宙空間に向けて海水を噴き上げているんですねー

そのプルームに含まれる物質は、NASAの土星探査機“カッシーニ”による観測から、その中には生命との関連が指摘されている炭素化合物がいくつか見つかっています。 

ただ、プルームを分析した機器の1つ“INMS(イオン・中性質量分析器)”のデータから推定される分子の種類の組み合わせは無数にあるんですねー
なので、これまでの研究では議論の余地が少ないいくつかの物質が同定されているだけでした。

そこで、今回の研究では、“INMS”のデータを分析。
無数に考えられる分子の組み合わせの中から、最も妥当と思われるものを決定しています。

この研究で一番注目されるのは、アミノ酸の源として重視されている“シアン化水素”を発見したこと。
他に発見された多種多様な分子の存在も合わせると、エンケラドスの氷の下の環境は極めてエネルギッシュで、生命誕生の環境条件が存在する可能性は一段と高まったことになります。
この研究は、ジェット推進研究所(JPL)のJonah S. Peterさん、Tom A. Nordheimさん、およびKevin P. Handさんの研究チームが進めています。
図1.今回の研究で検出されたプルーム中の分子の例。(Credit: Jonah S. Peter, Tom A. Nordheim & Kevin P. Hand.)
図1.今回の研究で検出されたプルーム中の分子の例。(Credit: Jonah S. Peter, Tom A. Nordheim & Kevin P. Hand.)


候補が多すぎる分子の候補

エンケラドスは、表面全体が氷で覆われた低温の天体ですが、南極付近に間欠泉があり、水のプルームが噴き出しているのが観測されています。

この活発な表面活動から、エンケラドスは土星や他の衛星の重力の影響“潮汐力”を受けて地質活動が活発化し、氷の下に海と火山活動があるのではないかと考えられています。(※1)
※1.ほぼ球体のエンケラドスも、惑星や他の衛星に接近することで重力で引っ張られ極端に言えば卵のような形になる。そして惑星や衛星から遠ざかるとまた球体に戻っていく。これを繰り返すことで発生した摩擦熱によりエンケラドス内部は熱せられることになる。このような強い重力“潮汐力”により、天体そのものが変形させられて熱を持つ現象を“潮汐加熱”という。
エンケラドスのプルームは“カッシーニ”による観測で、水の中に二酸化炭素、メタン、アンモニア、水素が含まれていることが判明しています。
これらは、エンケラドスの氷の下に火山活動がある証拠ではないかとみられています。

また、プルームには塩化ナトリウムやリン化合物の他に、多種多様な炭素化合物が含まれていることが示唆されています。

これらが、生命の活動に関連しているのかは不明です。
でも、生命が誕生・生息しやすい環境があるのではないかという希望を持たせる発見でした。

ただ、カッシーニの観測機器の1つ“INMS”のデータには、これまで同定されていない無数の分子があることが分かっています。
さらに、このデータから推定される分子の種類と組み合わせは無数にあり、候補となる物質が複数存在していました。

“INMS”のデータから実際にプルームに含まれている分子を同定するには、いくつかの候補を仮定してデータ分析をする必要があります。
でも、その候補が多すぎて、これまで同定する作業が進んでいませんでした。


プルームからシアン化水素を発見

そこで、今回の研究で試みているのは、“INMS”のデータを分析し正体不明の分子を同定することでした。

データを分析するに当たっては、含まれていると思われる候補の分子を仮定するだけでなく、その候補が含まれていないと仮定した場合も考慮しています。

その理由は、候補分子が含まれていると仮定した場合の分析結果と比べて、候補分子が含まれていないと仮定した場合の分析結果が良くない場合、候補分子が実際に存在する可能性が高まるからです。

そして、分析の結果突き止めたのは、いくつかの分子が含まれている可能性が極めて高いこと。
その中でも特に注目されたのが“シアン化水素”でした。

シアン化水素は窒素を含む単純な炭素化合物で、同じく窒素が重要な構成部品となるアミノ酸の元となると考えられています。

地球やその他の天体における生命誕生の研究において、シアン化水素はアミノ酸の生成過程でほぼ必ずと言っていいほど現れる分子です。
このため、生命の存在が議論されているエンケラドスにおいて、シアン化水素の発見は極めて重要なものとなりました。

今回の分析では、その他にアセチレンやプロピレン、エタンなど、いくつかの有機化合物が同定されています。

また、同定精度は低くなるものの、ブタノールと思われる大きな分子の有機化合物や、アルゴン40、硫化水素、ホスフィンなど、地質活動に関連しているいくつかの分子も見つかっています。

エンケラドスのプルームに関する分析初期の段階で注目されたのは、二酸化炭素・メタン・水素の組み合わせが見つかったことでした。
その理由は、これらの分子が海底の熱水噴出孔のような、化学エネルギーを大量かつ継続的に与える環境が整っていることを示唆するためです。

でも、今回の研究で示唆された多種多様な化合物の存在は、エンケラドスの化学エネルギー供給源が、これまでの推定よりもずっと活発であることを示しています。

エンケラドスの生命の存在を考える上で、この発見は朗報ともいえる発見といえますね。


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土星の環は数億年前に2つの衛星が衝突して作られた!? 衛星の軌道がある位置まで広がると衝突につながるようです

2023年11月29日 | 土星の探査
太陽系では木星に次いで2番目に大きな惑星が“土星”です。

この惑星最大の特徴は何といっても大きな環を持っていること。
ただ、この環は土星が形成された頃から存在するのではなく、地質学的には最近と言える数億年前に形成された可能性が近年の研究で指摘されています。

今回発表されたのは、この土星の環は2つの衛星が衝突したことで形成されたとする研究成果。
研究は、グラスゴー大学/オスロ大学のLuis Teodoroさんを筆頭とする研究チームが進めています。
2016年4月にNASAの土星探査機“カッシーニ”が撮影した土星。(Credit: NASA/JPL-Caltech/Space Science Institute)
2016年4月にNASAの土星探査機“カッシーニ”が撮影した土星。(Credit: NASA/JPL-Caltech/Space Science Institute)

衛星の軌道がある位置まで広がると衛星同士の衝突につながる

今回、研究チームが着目したのは、土星の環が衛星同士の衝突で生じた破片から形成された可能性でした。

研究では、衛星の大きさや衝突の仕方を変えた約200通りのシミュレーションを実施。
すると、2つの氷衛星の衝突によって生じた破片から環が形成されたり、新たな衛星が形成されたりする可能性があることが分かってきます。

土星の環は主に水の氷でできていて、岩は少ししか存在しないことが知られています。

研究に参加したダラム大学のVincent Ekeさんによると、氷衛星同士の衝突では衛星の中心部にある岩よりも、その周りにある氷の方が分散しやすいことから、土星の環が主に氷でできていることを上手く説明できる可能性があるそうです。
今回の研究で実施されたシミュレーションを紹介するNASAの動画。(Credit: NASA/Jacob Kegerreis/Luís Teodoro)
そもそも、長い間存在していた2つの衛星が数億年前に衝突したのは、太陽の重力によるわずかな影響が積み重なった結果、衛星の軌道が他の衛星と交差する楕円軌道に変化したからだと考えられています。

月が少しずつ地球から遠ざかっているように、土星の衛星も少しずつ土星から遠ざかっていて、衛星の軌道がある位置まで広がったときに、こうした衛星同士の衝突につながる変化が生じると予想されています。
月が地球から遠ざかるスピードは1年間に3.8センチ。でも、土星最大の衛星タイタンは年間11センチの割合で土星から遠ざかっている。
興味深いことに、現在では土星の衛星レア(直径1530キロ)が、まさにそのような位置で公転しています。

ところが、古くから存在する衛星であれば軌道が不安定になる影響を受けているはずなのに、レアの軌道はほぼ真円。
このことから、レアは古くから存在する衛星ではない可能性が指摘されています。
土星探査機“カッシーニ”の広角カメラで2009年11月21日に撮影された衛星レア。(Credit: NASA/JPL/Space Science Institute)
土星探査機“カッシーニ”の広角カメラで2009年11月21日に撮影された衛星レア。(Credit: NASA/JPL/Space Science Institute)
今回の研究では、土星の環がまだ新しいとする近年の研究と一致する結果にたどり着いています。
それでも、なお土星とその衛星にはいくつもの謎が残されています。

その一例として、衛星エンケラドス(直径500キロ)があります。

エンケラドスは氷の外郭の下に地下海が広がっている可能性があり、そこには生命が誕生している可能性が指摘されています。

仮に、土星の衛星の一部がまだ新しいとすれば、エンケラドスに生命が存在するとする研究にも関わってくるはずです。

今回の研究成果は、土星やその衛星をさらに深く理解することにつながると期待されています。
土星探査機“カッシーニ”の狭角カメラで2005年7月14日に撮影されたエンケラドス。紫外線、可視光線、赤外線のフィルターを使用して取得したデータを元に作成。(Credit: NASA/JPL/Space Science Institute)
土星探査機“カッシーニ”の狭角カメラで2005年7月14日に撮影されたエンケラドス。紫外線、可視光線、赤外線のフィルターを使用して取得したデータを元に作成。(Credit: NASA/JPL/Space Science Institute)


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地球とは違う!? 液体メタンの降雨で集められた有機物エアロゾルがくっついて砂粒子に成長、こうして衛星タイタンの砂丘が作られた

2023年09月30日 | 土星の探査
土星最大の衛星タイタンでは、太陽系の天体としては地球以外で唯一液体の海や湖などが確認されています。

そして、タイタンは地球以上に複雑で分厚い大気を持っているんですねー

今回発表されたのは、タイタンの大気中で作られる極めて微小な有機物エアロゾルが、地表面の液体メタンの降雨蒸発によって、大きな砂サイズの粒子に急激に成長することでした。
この研究成果は、東京工業大学 地球生命研究所(ELSI)の平井英人大学院生、同 関根康人教授たちの研究チームによるものです。
NASAの土星探査機“カッシーニ”が撮影した土星の衛星タイタン全域の赤外線画像。赤道域に広がる色の暗い領域が砂丘になる。(Credit: NASA JPL(出所:東工大 ELSI Webサイト))
NASAの土星探査機“カッシーニ”が撮影した土星の衛星タイタン全域の赤外線画像。赤道域に広がる色の暗い領域が砂丘になる。(Credit: NASA JPL(出所:東工大 ELSI Webサイト))

地球によく似た地形が存在する

土星最大の衛星タンタンは水星よりも大きく、太陽系の衛星としては木星のガニメデに次ぐサイズの天体。
半径が2575キロもあるんですねー

タイタンはメタンを数%含んだ窒素の大気を持ち、地表面の大気圧は地球のおよそ1.5倍もあることが知られています。

また、大気がこのような成分なので、光化学反応によって有機物エアロゾルが生成されていることが分かっています。

タイタンの地表には液体メタン(約-183℃~約-161℃)の海や湖があり、赤道域は有機物からなると推測される砂丘で覆われています。

このように地球によく似た地形がある一方で、砂丘を作る有機物の砂粒子の起源は分かっていませんでした。

有機エアロゾルが地表に落ちて砂になる可能性も考えられます。
でも、エアロゾルは100nm程度、砂粒子は100μm程度と、およそ1000倍も大きさが異なるんですねー
仮に有機エアロゾルをビー玉の大きさとすれば、砂粒子は5階建ての建物に匹敵するほど多きが違います。

砂丘で起こる液体メタンの降雨と蒸発

それでは、タイタンの砂丘を作る有機物の砂粒子はどのようにしてできたのでしょうか?

この謎に対して、今回の研究で着目したのは液体メタンの降雨蒸発でした。

タイタンでは、砂丘でも液体メタンの降雨と蒸発が起きています。

そこで今回の研究では、タイタンの降雨蒸発を再現した実験装置が製作されることになります。

実験では、エアロゾルは液体メタンで集められ、それが蒸発する際に、エアロゾルから溶けた成分が糊(のり)のように無数のエアロゾルをくっつけて、効率的に大きな粒子になることが明らかになりました。

そう、タイタンでは無数のエアロゾル粒子が液体メタンの影響でくっついて、大きな砂粒子になっている可能性があるんですねー

地球や火星、小惑星では、大きな岩石が温度変化や水の浸透などで割れて砂粒子が作られています。
でも、エアロゾルから砂粒子に成長するというメカニズムは、地球や火星、小惑星と大きく異なることになります。

なお、タイタンを調査する計画としては、NASAの“ドラゴンフライ”が進行中です。

“ドラゴンフライ”はマルチロータービークル型の着陸機で、飛行によって複数の地点を移動して探査を行うことになっています。

打ち上げは1年延期されて2027年になることが発表され、到着は2034年が予定されています。

今回の研究の予測について、“ドラゴンフライ”などの将来の探査によってその正確性が確かめられることが期待されますね。
打ち上げ予定が2027年6月に延期されたNASAのマルチロータービークル型のタイタン探査機“ドラゴンフライ”のイメージ図。2034年までにタイタンに到着する予定。(Credit: NASA/Johns Hopkins APL(出所:NASA Webサイト))
打ち上げ予定が2027年6月に延期されたNASAのマルチロータービークル型のタイタン探査機“ドラゴンフライ”のイメージ図。2034年までにタイタンに到着する予定。(Credit: NASA/Johns Hopkins APL(出所:NASA Webサイト))


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