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“あかつき”がケガの功名、太陽風の謎を解明

2014年12月31日 | 金星の探査
私たちの太陽系は超高速のプラズマの流れ、太陽風の中にあり、
太陽風は地球を含む惑星の環境に、大きな影響を与え続けています。

その太陽風が、
太陽半径の5倍程度離れた距離から急に加速されるようすを、
金星探査機“あかつき”で観測することに成功。
長年謎だった、コロナ加速問題を解くカギを得たんですねー
“あかつき”の観測に基づく太陽風加速(イメージ図)


“あかつき”は2010年5月に打ち上げられ、
2010年12月に金星周回軌道への投入を目指すのですが、
エンジントラブルで軌道投入に失敗。

2015年度後半に、金星周回軌道への再投入を目指して太陽系を公転していました。

今回の研究は、“あかつき”が2011年6月に、
地球から見てほぼ太陽の反対側を通過することに、気付くことから始まります。
太陽風の電波観測を実施たときの
“あかつき”、太陽、“ひので”位置関係。

これは、めったにない太陽風観測のチャンスだったんですねー

研究グループは、2011年6月6日から7月8日にかけて16回、
各6~7時間、電波観測をしています。


約6000℃の太陽表面の周りには、
100万℃にも達する高温のプラズマのコロナが広がっています。

この高温のコロナが、太陽風を作り出していると考えられています。

でも、探査機が直接近づいて観測するには温度が高すぎ、
望遠鏡で調べるにはプラズマが薄くて暗すぎるので、
プラズマの希薄なガスが、どのように加速されるかを観測する手段はありませんでした。

そして、軌道投入に失敗した“あかつき”の出番になります。
金星探査機“あかつき”を使った太陽観測。
“あかつき”から発信した電波は、太陽風を通過すると変化する。
この変化を解析して、太陽風の速度を測ったり、
太陽風内の密度変動をとらえたりできる。


地球から見て、太陽の反対側を通過する“あかつき”から、
周波数の極めて安定した電波を発信します。

その電波が、太陽風を横切って地球に届くのを、臼田宇宙空間観測所で受信。

この観測期間の太陽の活動を監視するため、太陽観測衛星“ひので”で同時太陽を観測しました。

太陽から吹き出す太陽風を通過してきた“あかつき”の電波を詳しく解析して、
太陽近くの太陽風の実態に迫ろうと考えたわけです。
“あかつき”の電波観測による
太陽風の速度(左)と音波の振幅(右)が、
太陽からの距離とともに変化するようす。

その結果、太陽風の秒速は太陽近くでは30~60キロと比較的遅いのですが、
太陽半径の5倍あたりから急加速して400キロに達することが分かります。

さらに太陽風の中に、
周期1分~数十分の低周波の音波とみられる周期的な密度変動も見つけることに…

この音波の振幅はかなり大きくてエネルギーが高く、
太陽半径の5~10倍の距離で最大になることを明らかにすることができたんですねー

研究グループが考えたシナリオは、
プラズマ中で磁力線の振動として伝わる波動“アルベーン波”が太陽表面で作られ、
太陽から離れて不安定に…
それで生じた音波が、衝撃波を生成してプラズマを加熱し太陽風を加速するというもの。

このシナリオは、最近のコンピュータによる計算結果ともよく合っていました。

“あかつき”が、
金星大気観測用に周波数が極めて安定した電波を発信できることと、
軌道投入失敗により太陽の反対側を通ることという、偶然が重なった研究。

このユニークな観測から、
太陽風の顕著な加速と、コロナの中で発生した音波が過熱する仕組みが明らかになったんですね。


こちらの記事もどうぞ ⇒ JAXAの探査機“あかつき”がとらえた金星

太陽系の過去を見せてくれるかも? 90光年彼方のチリ円盤

2014年12月30日 | 宇宙 space
90光年彼方の若い星を取り囲むチリの円盤。
この円盤の外縁部に、小天体が衝突した痕跡と見られるチリが、
濃く集まっているようすが観測されました。

この観測は、太陽系のような惑星系の形成過程についての理論予測を裏付ける成果になるようです。


アルマ望遠鏡で観測されたのは、
かみのけ座の方向90光年彼方という近距離にある、
およそ1億歳の若い星“HD 107146”を取り巻く“デブリ(残骸)円盤”。

「太陽系の若いころに似ているのではないか」っと考えられていて、
惑星系の形成期から安定して成熟した段階への進化途中にある、
という点でも注目される天体なんですねー
“HD 107146”の周囲のデブリ円盤。
冥王星サイズの天体が周囲の小さい天体と衝突し、チリをまき散らしている。

観測の結果、中心星から130億キロ(太陽~海王星の距離の約3倍)という円盤の外縁部に、
ミリメートルサイズのチリが大量に存在していることが分かります。

研究チームは、このチリについて、
小さな天体が衝突して冥王星サイズの天体(微惑星)が作られる際に、
まき散らされたものでないかと考えて考えています。

惑星系の形成期から安定した段階への途上にある星のデブリ円盤は、
その外縁部にチリが農集するという理論予測があり、
今回の観測は、その通りのものだったんですねー

“HD 107146”の周りにのチリは、外縁部に行くほど濃くなっているのですが、
もっと若い星の周りでは、星に近い内側のほうがチリが濃いようです。

“HD 107146”では、星に近いあたりでは惑星形成はほぼ完了していて、
一方、外縁部では今まさに天体が衝突・合体を繰り返して、微惑星が形成されつつあるようです。

さらに、円盤の中にはチリが少ない領域が幅12億キロにわたって広がっていて、
地球程度の大きさの惑星が、周囲のチリを掃き集めて作られたのではないかと考えられます。

このことは、地球型惑星の形成過程を考える上でも重要な発見になるようですよ。
アルマ望遠鏡が観測した“HD 107146”の周囲のデブリ円盤。
中心に星があり、その周りを取り巻くチリの分布が映し出されている。
円盤の中ほどにはチリが少ない領域がり、惑星の存在が推測される。

火星で一時的に急増したメタンと有機分子の発見

2014年12月29日 | 火星の探査
地球上では、生物が主な発生源になっている気体のメタン。
そのメタンが火星上で急増する現象が観測されたんですねー

NASAの探査車“キュリオシティ”には、
“SAW”というサンプル分析器が搭載されています。

この“SAW”を使って収集した20か月分のデータを詳しく調べた結果、
火星上のメタンの量が、予想よりはるかに少ないことが分かります。

NASAは、隕石によって運ばれた有機物やチリの分解過程などで、
メタンが生成されることを想定し、その量を予測したのですが、
実際に検出された量はその半分ほどでした。

でも、“キュリオシティ”の着陸地点のゲール・クレーターにおけるメタンの背景濃度は、
場合によっては60日ほどの間に、約10倍に急上昇したんですねー

メタンの滞留時間は約300年とされているので、これは驚くべきことでした。

もちろん、メタンが一時的に増えたのは供給源があるからです。
原因としては、生物的なプロセス、水と岩石との作用によるものなど、
多くの可能性が考えられます。


また、カンバーランドと名付けられた岩石に、ドリルで穴を開けて採取した粉状のサンプルからは、複数の有機物質も検出されています。
カンバーランドにドリルで開けられた穴

これは、火星の地表における初の決定的な有機分子の発見になるんですねー

これらの有機分子は火星で形成されたか、または隕石によってもたらされた可能性があります。

炭素と水素を含む有機分子は、生命の元となる物質になります。

過去に微生物が存在した! っとまでは言えないのですが、現在の火星が化学的に活性化していること、
また、過去の火星が生命にとって好ましい環境であったと言えそうです。


火星上に現在、生命が存在するかどうかを調べるための装置は、
“キュリオシティ”には搭載されていません。

でも、炭素、水素、窒素、酸素、リン、硫黄などの、
生命の形成に欠かせない要素とされる化学元素を探すことで、
火星で、かつて生命が発生したかどうかを明らかにすることができます。

火星でのメタンと有機炭素が確認されたことで、期待が膨らみますね。

理論予測と異なる? アンドロメダ座大銀河のダークマター分布

2014年12月23日 | 宇宙 space
アンドロメダ座大銀河の姿を再現したシミュレーション研究から、
銀河の周囲のダークマター分布が、
天体形成に関する標準理論に基づく予測と、異なることが明らかになりました。

このことは、これまで広く受け入れられてきた理論の見直しを迫るとともに、
ダークマターの性質を知る手がかりとして、期待されているんですねー
アンドロメダ座大銀河。
すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラHSCで撮影。

アンドロメダ座大銀河は、私たちから最も近くに位置する大規模銀河です。

およそ8億年前に、400分の1程度の質量の銀河と衝突していたようで、
銀河中心から約40万光年にわたって伸びた数億個以上の星の連なりが、
衝突の痕跡として観測されています。

今回の研究では、スーパーコンピュータを使ってこの衝突を再現。

どのような条件において、
現在観測されているような姿になるかを検証しているんですねー

銀河同士の衝突では、銀河内の星やガスなどの物質に加えて、
未知の重力源であるダークマター(暗黒物質)による重力的な影響が、
カギになります。

それらを忠実に考慮したシミュレーションの結果、
アンドロメダ座大銀河におけるダークマターの分布は、
現在広く受け入れられている天体形成理論に基づいたものと、
大きく異なることが分かりました。
アンドロメダ座大銀河のダークマター分布。
観測される構造を再現するようなダークマターの密度分布は、
銀河の外側では理論モデルの予測と大きく異なる。

今回の成果は、
「小さい天体が互いの重力で集まり、徐々に大きく成長していく」
っという、従来の標準的な天体形成理論に、見直しを迫る可能性があるんだとか…

さらに、正体不明のダークマターの性質を探る手がかりを
与えてくれるかも知れないんですねー

今後は他の銀河でも、同様の観測とシミュレーションを行うようなので、
新たな進展が期待できますね。
銀河衝突シミュレーション



こちらの記事もどうぞ ⇒ 赤外線で見るアンドロメダ銀河

“ビーナス・エクスプレス” 燃料切れでミッション終了へ…

2014年12月22日 | 金星の探査
ヨーロッパ宇宙機関の金星探査機“ビーナス・エクスプレス”が、
燃料切れとなり、金星の有毒大気に落下して燃え尽きる見込みです。
金星の軌道上を周回する
ヨーロッパ宇宙機関の“ビーナス・エクスプレス”
(イメージ図)

“ビーナス・エクスプレス”は、
8年間にわたり金星の詳細な分析を行ってきた無人探査機です。

これまで、地球とほぼ同じ大きさと質量を持つ金星についてのデータを、
科学者に提供し、重要な結論へと導く手助けをしてくれました。

同機が収集したデータからは、金星の地質学的な活動が今でも活発で、
かつては地球と同じような海が存在した可能性があることを明らかにしています。


2005年11月に打ち上げられた“ビーナス・エクスプレス”は、
2006年4月11日に金星の周回軌道に投入され、金星の探査を開始します。

当初2年を予定していたミッションは数回延長され、昨年の春に最後の冒険に出ることになります。

宇宙探査機は通常、車や航空機のような燃料計を備えていないので、
推進剤の残りを正確に把握はできません。

推進剤が尽きるのを待ちながら捨て身の「おまけミッシン」として、
今年5月~7月には、高度を約130キロまで下げて大気抵抗の調査を行ったんですねー

さらに11月末には、わずかな希望に賭けて、
科学観測が可能な高度に戻すためのエンジン噴射を試みるのですが、
そこで推進剤が尽きたようで、姿勢を制御できず安定した通信ができなくなります。

ここで、運用続行を断念。

“ビーナス・エクスプレス”は来年の1月ごろに金星大気に突入し、
飛翔を終えるようです。