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トラピスト1の惑星には、地球に似た大気や大量の水が存在しているかも…

2018年02月28日 | 地球外生命っているの? 第2の地球は?
赤色矮星“トラピスト1”を周回する7個の系外惑星に関する新たな研究成果が相次いで発表されました。

内側の5惑星から得られたのは二酸化炭素などからなる薄い大気を持つ可能性。
さらに一部の惑星には、地球の250倍もの水が存在するかもしれないそうです。
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地球型の系外惑星

みずがめ座の赤色矮星“トラピスト1”は地球から40光年の距離にあり、周囲には惑星が7個見つかっています。

最初の2つはヨーロッパ南天天文台ラ・シーヤ観測所のトラピスト望遠鏡によって2016年に発見され、2017年にはNASAの赤外線天文衛星“スピッツァー”と地上の望遠鏡による観測で残り5つが発見されています。

7個とも地球に近い大きさを持ち、そのうち3個はハビタブルゾーン内に軌道があることで話題になったんですねー

  ハビタブルゾーンとは、恒星からの距離が程良く、
  惑星表面に液体の水が存在できる領域。生命が存在できる範囲。


同じ恒星の周りを公転し、同じ歴史を経てきたのが“トラピスト1”の惑星です。
なので、地球型惑星の特徴を調べる研究にとっては宝の山のようです。
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科学雑誌“Nature(2017年2月23日)”の表紙を飾った“トラピスト1”惑星系のイラスト。


惑星の大気

今回の研究を進めたのはアメリカ・マサチューセッツ工科大学のチーム。

ハッブル宇宙望遠鏡を用いた分光サーベイ観測により、惑星の大気に関するデータを初めて得ることに成功しています。
対象となった惑星は“トラピスト1”の7惑星のうち、ハビタブルゾーン内またはその近くにある4個の惑星“d、e、f、g”でした。

  この観測は2016年5月にハッブル宇宙望遠鏡で行われた最も内側の惑星“b”と“c”に続くもの。

ハッブル宇宙望遠鏡の観測結果から、少なくとも内側の5つの惑星“b、c、d、e、f”には、海王星のようなガス惑星に見られる水素に富んだ厚い大気は存在しないことが分かってきます。

水素は温室効果ガスとして働きます。なので主星(恒星)に近い距離を公転する惑星が水素に富んだ大気を持っていると、惑星表面が熱くなりすぎて生命の存在が難しくなるんですねー

水素が検出されなかったということは、これらの惑星に大気があるとすれば、その厚さはガス惑星より薄く、二酸化炭素やメタン、酸素といったより重い分子からなるガスが主成分で、地球や金星、火星の大気に似ている可能性を示すことになります。

そう、この観測結果は“トラピスト1”の惑星が本質的に地球型であるとする理論を支持するものでした。
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ハビタブルゾーンの内部または近くに位置する4つの惑星“d、e、f、g”の大気組成。


惑星の組成

“トラピスト1”の惑星系については、ハッブル宇宙望遠鏡以外にもNASAの系外惑星探査衛星“ケプラー”など様々な地上望遠鏡・宇宙望遠鏡で観測が続けられています。

  現在は赤外線天文衛星“スピッツァー”が計500時間にわたる観測を実施している最中。

そして、スイス・ベルン大学の研究チームが着目したのは、“トラピスト1”の惑星が主星の前を通過(トランジット)する時刻が惑星同士が影響し合うことで変化する現象でした。

研究では過去の観測データを再現するようなコンピュータモデルから、“トラピスト1”の各惑星の質量をこれまでにない精度で得ることに成功。

こうして得た質量と直径のデータからは惑星の密度がより正確に求められ、惑星の組成が詳しく推定できるようになります。

研究チームによると、“トラピスト1”の惑星は単に荒涼とした岩石質の惑星ではないそうです。
かなりの量の揮発性物質を含んでいる可能性があり、おそらくこの揮発性物質は水で惑星の質量の5%にも達する可能性があります。

地球に存在する海水などの水の総量は地球質量の0.02%しかないので、5%という値は惑星が持つ水の量としては非常に大きなもの。地球と比較すると“トラピスト1”の惑星には250倍の水が存在することになるんですねー

水といえば生命の存在が気になるところです。

ただ、惑星の密度はその組成を知るための重要な手がかりになるのですが、密度の情報だけでは惑星に生命が存在できるかどうかを知ることはできません。
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惑星が主星から受ける放射の強さ(横軸)と惑星の密度(縦軸)の比較。
(いずれも地球を1としている)

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“トラピスト1”惑星系と太陽系の4惑星の比較。
それぞれ上から公転同期、主星からの距離、半径、質量、密度、表面重力を表す。
今回の研究結果は、“トラピスト1”の惑星に生命が存在するのかどうかの調査において、重要な一歩になるものです。

水の存在や地球大気に似た重い分子ガスがあるかどうかについては、2019年の春に打ち上げ予定のジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による観測で明らかになることを期待しましょう。


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太陽からの紫外線が火星の大気散逸に及ぼす影響

2018年02月24日 | 火星の探査
重力も弱く磁場もない火星。
なので火星の最も外側の大気は太陽風によって簡単に宇宙空間へ流れ出してしまいます。

今回はこの大気の散逸過程において、太陽の紫外線が重要な役割を果たしている可能性があるというお話しです。
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岩石惑星の大気

地球は適度な大気が存在していて生命が存在するのに適した環境の惑星です。
でも、火星は長い歴史の早いうちに大量の大気を失い、温暖で湿潤な環境から現在の冷たく乾燥した惑星へと変化してしまいました。

また、金星には厚い大気が存在しているので、高温高圧でとても生命が存在できるような惑星ではありません。

このように太陽系内にある岩石惑星の大気は、それぞれ異なる状態にあるんですねー
そして、その原因を解明することは、惑星の環境を生命に適したものにする条件を知る鍵になったりします。


イオン化した惑星大気

地球には内部磁場が存在し、それによって地球の周囲に生み出される磁気圏が荷電粒子の流れである太陽風から大気を守ってくれます。

一方、火星や金星には内部磁場がないので、地球にも存在する電離層が太陽風を妨げる役割を果たすことになります。

電離層は太陽からの紫外線が惑星大気中の原子や分子から電子を剥がして作られる領域で、この層と太陽風とが作用して誘導磁気圏を生み出し、惑星の大気を太陽風から守ります。
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太陽風により磁気圏が形作られる様子(イメージ図)。
金星(上)、地球(中)、火星(下)

今回の研究で明らかになったのは、火星の大気が失われる現象において、太陽の紫外線放射の影響がこれまで考えられていた以上に重要であるということ。

  スウェーデン宇宙物理研究所が、
  ヨーロッパ宇宙機関の火星探査機“マーズエクスプレス”による14年間の観測データを用いて
  明らかにした。


これまでイオンの散逸は、太陽風のエネルギーが誘導磁気圏というバリアを通って電離層へ効果的に運ばれるため起こると考えられてきました。

でも今回明らかになったのは、太陽からの紫外線放射によるイオンの生成増加によって、大気が太陽風から守られているということ。

そう、イオンの散逸にエネルギーはほとんど必要なく、火星の重力が弱いので大気が失われているんですねー

太陽からの紫外線で生じるイオンの量は、太陽風によって失われる量を上回ります。
ただ火星では、イオンの発生によって大気が太陽風から守られても、重力が地球の約3分の1しかないので、イオンは簡単に宇宙空間へと逃げ出してしまうということです。

強い太陽風によって追加のエネルギーが注がれるかどうかはあまり関係ないようです。

これまでに失われてきた火星の大気に対する太陽風による直接的な影響はとても小さなもので、むしろ太陽風はすでに逃げ出している粒子の加速に弾みをつけるという形で影響を及ぼしていただけなのかもしれません。

紫外線でイオン化した惑星大気の保護という点では、磁場の役割は重力ほど大きなものではないんですね。


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宇宙の極低温下でもガスが凍りつかない理由とは?

2018年02月21日 | 宇宙 space
様々な分子が極低温の環境下で凍りつかずにガスの状態で存在できる。
この理由を調べるための研究が行われました。

研究では実験室に宇宙空間を再現。

光の届かない冷たい宇宙空間に漂う氷の微粒子から分子がガスの状態で放出される仕組みが、世界で初めて明らかになります。

この研究結果がガスの状態で存在できる理由を示すことになったんですねー


極低温の領域

宇宙空間には摂氏マイナス263度という極低温の領域“分子雲”が存在し、近年の観測技術の発達により、これまで見ることが出来なかった分子雲の様子も解明されつつあります。

そして明らかになってきたのが、分子雲には大量の氷星間チリが浮遊していることや、有機物を含む多種多様な分子がガスとして存在していることでした。

これらの分子や氷星間チリが長い時間をかけて集まることで分子雲内に星が生まれます。

でも極低温の環境では、水素などの軽い分子を除くほとんど全ての原子や分子は氷星間チリに付着し、そのまま凍りついてしまうので、ガスとしては存在できないはずなんですねー

さらに分子雲には、氷の表面の分子を蒸発させるために必要な紫外線などのエネルギー源がないので、極限環境で分子がガスとして存在できるメカニズムは謎になっていました。


分子の化学反応

今回、北海道大学低温科学研究所の研究チームが実験で検証したのは、氷星間チリの表面で化学反応が起こるときに分子がガスとして放出されるという理論モデルでした。

用意したのは宇宙空間と同じ超高真空を再現する実験装置。

この装置内に極低温で光なども存在しない分子雲と同じ環境を再現し、摂氏マイナス263度の疑似的な氷星間チリを作成しています。

実験では硫化水素分子を氷の表面に付着させ、氷星間チリに実際に存在することが知られている水素原子をこの氷と反応させて、その様子を赤外線吸収分光法で観測。

すると、硫化水素と水素原子の化学反応により、氷表面から硫化水素がガスとして効率よく放出されることに…

そう、光などのエネルギーがない極低温の宇宙空間で、氷星間チリからガスが放出される仕組みを実証できたんですねー
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分子雲で起こる化学反応によって、
氷星間チリの表面から分子が放出されることを示した図


分子の進化

今回の実験結果から、多種多様な分子が凍りつくことなくガスとして分子雲に存在できる理由が明らかにされ、長年の天文学の謎が解かれました。

分子は氷星間チリの表面やガスの状態で化学反応を起こすことによって、種類を増やしていきます(分子進化)。

なので、氷星間チリからガスが放出されるメカニズムを解明した今回の成果は、宇宙における分子進化を理解するうえでも重要なものになるんですねー

さらに、これまでは非常に小さな氷の表面に弱く結合した分子が、化学反応によって表面から飛び出すかどうかということも解明することができました。

今後期待されるのが、分子雲のガス組成がどうように決定されるのかについて、より定量的で詳細な議論を行うことができるようになること。

これにはメタノールなど他の分子で同様の実験を行うことが必要になるようです。


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宇宙論の標準モデルでは説明できない衛星銀河の運動

2018年02月17日 | 銀河・銀河団
巨大楕円銀河“ケンタウルス座A電波源”。

今回明らかになったのは、この銀河を取り巻く衛星銀河の大半が、
共通の軌道面を同じ向きで周回していること。

このことが標準的な宇宙論に基づく予想とは合わない結果だったようです。


母銀河と衛星銀河

天の川銀河やアンドロメダ座大銀河などの周囲には、
質量がこれらの1/10から1/100ほどしかない矮小銀河が多く存在しています。

そして、これらの矮小銀河は「衛星銀河」として母銀河の周りを周回しているんですねー

ただ、これまでの宇宙論モデルに基づいた銀河形成論では、
矮小銀河のような小さい恒星系の運動方向は母銀河によってランダムに曲げられてしまいます。

  現在広く受けられている“ΛCDMモデル”と呼ばれる宇宙論モデル。
  ΛCDMモデル(宇宙項のある冷たいダークマターモデル)


結果、衛星銀河は母銀河の周囲にほぼ球状に分布し、軌道の方向もバラバラになるとされてきました。


衛星銀河の運動

地球から遠い銀河では衛星銀河の見かけの動きも小さいので、
運動の方向を測定するのが難しくなります。

なので、現実の衛星銀河の運動を詳しく観測して、
理論と比較した研究はあまり多くはないんですねー

これまで、衛星銀河の運動が詳しく分かっているのは、
天の川銀河と230万光年の近距離にあるアンドロメダ座大銀河の2つ。

この2つの銀河では衛星銀河の運動はランダムではなく、
多くの衛星銀河がほぼ同じ平面を同じ方向に周回していることが分かっています。

今回、スイスのバーゼル大学の研究チームが対象としたのは、
地球から1300万光年の距離にある巨大楕円銀河“ケンタウルス座A電波源(NGC 5128)”。

この銀河の過去の観測データ内から16個の衛星銀河のデータを見つけ、
その視線方向の速度を調べています。

その結果、16個の衛星銀河のうち14個がやはり共通の運動をしていて、
母銀河の周りを同じ平面内で動いていることが分かりました。

天の川銀河やアンドロメダ座大銀河が属する“局部銀河群”の外で、
このような衛星銀河の運動が見つかったのは初めてのことでした。
ケンタウルス座A電波源
ケンタウルス座A電波源


理論との矛盾

天の川銀河やアンドロメダ座大銀河、
そして今回のケンタウルス座A電波源の衛星銀河はランダムでなく揃った運動をしていました。

このことは、広く用いられている宇宙論モデルやシミュレーションの結果と矛盾することになります。

  モデルに基づく予想では、
  天の川銀河近くの銀河で衛星銀河がこのような運動パターンを示す例は、
  わずか0.5%程度に過ぎないと考えられている。


今回の発見は、
銀河とその衛星銀河の分布を説明するとされてきた宇宙論モデルや、
数値シミュレーションの結果が本当に正しいのか?
という点に疑問を投げかける重要なものなんですねー

シミュレーションに何か大事な要素が抜けているのか、
あるいは基本としている理論がも違っているのか…

ひょっとすると、別の宇宙論モデルを検討すべきなのかもしれませんね。


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水星の動きから太陽を調べてみると…

2018年02月10日 | 太陽の観測
太陽は年を取るたびに質量が減り、徐々に重力が弱くなっていくので、
太陽系の惑星の軌道は広がりつつあるんですねー

今回はこの関係を利用して太陽を調べるお話し。

研究では水星の軌道の変化から、
太陽の質量の減少やその他のパラメータが直接計算されたようです。


太陽の内部構造を知る

水星が軌道上で最も太陽に近づく位置“近日点”は、
時間の経過と共に移動することが分かっています。

でも、その要因の大部分は他の惑星による重力で、
2番目に大きな影響は太陽の重力による時空の歪みなんですねー

  アインシュタインが発表した一般性相対理論は、
  この水星の動きを上手く説明できたことで説得力を増したそうです。


さらに、これら2つよりも影響は小さくなりますが、
太陽の内部構造やダイナミックスも水星の近日点移動に影響しています。

つまり、水星の動きを詳しく調べて他の影響の分を差し引けば、
太陽の内部構造などを知ることできるはずです。
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太陽と水星。水星は太陽に近いので、太陽の重力などの影響を非常に受けやすい。


水星の軌道

今回の研究ではNASAゴダード宇宙センターのチームが、
水星の動きの観測をもとに太陽質量の減少を直接計測。

まず、水星の位置推算の精度を向上させるため、
NASAの水星探査機“メッセンジャー”の電波追跡データを利用します。
  探査機“メッセンジャー”、水星3000周回を達成
    

“メッセンジャー”は2008年と2009年に計3回の水星フライバイ(接近通過)を行い、
2011年3月から2015年4月まで水星の周回探査を行っています。
その際にとらえたデータを計測に用いているんですねー

データには水星の動きの微妙な変化が含まれています。この変化の値から逆算することで、
太陽の物理パラメータが水星の軌道に与える影響を調べることが出来るということです。
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水星の動きのわずかな変化を分析して、
太陽そのものや、そのダイナミクスが惑星の軌道に及ぼす影響を調べている。


重力定数の安定性向上へ

この研究により、
いくつかの太陽パラメータを相対論的な効果から分離することが実現されています。
これは、位置推算データに基づいたこれまでの研究では達成できなかったことです。

探査機と水星の軌道を併行して扱うことで、
太陽内部の進化や相対論的効果などにまつわる不明点を、
一挙に解決する新しい手法を編み出しているんですねー

これまでの理論研究では、
100億年につき太陽質量の0.1%が失われると予測されていました。

これは惑星の軌道が1天文単位(約1.5億キロ)あたり、
年間で約1.5センチ太陽から遠ざかっていることを意味します。

一方、太陽質量が失われるスピードを、
理論でなく観測から見積もった今回の研究で求められたのは、
従来の理論よりも少し低い値でした。

太陽質量損失率の精度向上は重力定数の安定性向上にも貢献します。

  ただ、重力定数は決まった数値でだと考えられているのですが、
  本当に不変なのかどうかは物理学における根本的な問題になっている。


さらに重要な成果は、月の動きの研究から得られた値と比較して、
重力定数の安定性が10倍良くなっていること。

今回の研究成果を用いて、太陽系全体における惑星の軌道変化を測定すれば、
太陽と惑星の性質、宇宙の基本的な作用に関する発見が可能になるのかもしれませんね。