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銀河中心ブラックホールを隠すダストの分布は赤外線放射の時間変動現象で明らかにできる

2022年10月29日 | 銀河と中心ブラックホールの進化
今回の研究を進めているのは、東京大学大学院理学系研究科と同付属天文学教育研究センター、プリンストン大学、大阪大学大学院理学研究科の研究者の皆さん。

活動銀河核の赤外線放射強度の時間変動現象を解析することで、 銀河中心ブラックホールを取り巻くダスト層“ダストトーラス”による活動銀河核中心部からの光の減衰量“ダスト減光量”を測定する新しい手法を開発しています。
活動銀河核とは、銀河の中心部の非常に狭い領域から、銀河全体の明るさに匹敵するかそれを超えるほど莫大な電磁波を放射している天体現象。銀河中心に存在する巨大ブラックホールに物質が落下することによって解放される重力エネルギーが、巨大な放射のエネルギー源とされている。巨大ブラックホール近傍の高温ガスからはX線が、その周囲に形成されるガス円盤(降着円盤)からは紫外線や可視光線が、さらにそれらを取り巻くように分布する“ダストトーラス”からは赤外線が放射される。
巨大ブラックホールと降着円盤をドーナツ状に取り巻くようにガスが分布していると考えられていて、そのガスにはダスト(数nmから数μm程度の大きさの個体の微粒子)が含まれていると考えられている。このドーナツ状の構造をダストトーラスと呼ぶ。
この新手法の長所は2つ。
“ダストトーラス”を透過しやすい赤外線を使うことで、“ダストトーラス”に深く隠された活動銀河核でも測定が可能なこと、そして公開観測データベースをもとに簡便かつ大量に解析できることになります。

活動銀河核463個についてダスト減光量の測定を行ってみると、可視光なら中心放射が約1杼分の1(1兆分の1の1兆分の1)と暗くなるほどに、“ダストトーラス”に深く隠された活動銀河核も存在していました。

研究で測定した“ダスト減光量”に対して、先行研究で測定されたブラックホールから私たちまでの間に存在するガスの量は、銀河系の星間空間における標準的な両者の比から想定される量よりも多く、さらに活動銀河核ごとにまちまちの値を示していました。

このことが示唆していること、それは“ダストトーラス”の内側にダストを含まないガス雲が多数存在していること。
今後、約10万個の活動銀河核について新手法を適用できる見込みで、活動銀河核現象と銀河中心ブラックホールの成長を理解するための有力な手掛かりになると期待されているようです。

“ダスト減光量”を測定することで“ダストトーラス”の構造を調べる

銀河中心ブラックホールを取り巻く“ダストトーラス”は、いわば“ダム”のように活動銀河核の莫大な放射エネルギーの燃料源となる大量のガスをためています。

そして、“ダストトーラス”中のガスの一部は重力によりブラックホールに引き込まれ、莫大な放射の“燃料”となりつつブラックホールの質量を増やしていきます。

一方でガスに混じっているダストは活動銀河核中心からの強力な放射による圧力を受け、このダストと共にかなりのガスが外へ吹き飛ばされてしまうと考えられています。

このように“ダストトーラス”の構造や状態を明らかにすることは、活動銀河核の研究においてとても重要なことになります。

ダストは光を吸収・散乱する性質があります。
なので、活動銀河核中心部から私たちまでの間に存在するダストの量は、中心部からの放射の減衰量“ダスト減光量”で評価することができます。

そう、たくさんの活動銀河核について“ダスト減光量”を測定すると、“ダストトーラス”の構造を調べることができるんですねー

近赤外線放射強度の時間変動現象を解析

これまで可視光による観測は数多く行われてきました。

でも、可視光は少量のダストでも効率的に減光してしまうので、“ダストトーラス”に深く隠された活動銀河核については“ダスト減光量”が測定できませんでした。

そのような活動銀河核を対象に、よりダストに減光されにくい近赤外線(波長約2μm)での観測も進みつつありますが、“ダスト減光量”が測定された活動銀河核の数はいまだ多くはありません。

そこで今回の研究では、活動銀河核の近赤外線放射強度の時間変動(変光)現象の解析により、“ダストトーラス”による減光量を測定する新しい手法を開発しています。

“ダストトーラス”内縁部では、活動銀河核中心からの強力な紫外線・可視光によってダストは昇華寸前にまで温められ、近赤外線(波長1~5μm)を放射。
この近赤外線は、活動銀河核中心からの放射と同様に私たちまでの間に存在するダストにより減光していきます。

可視光・赤外線に対するダストによる吸収・散乱の影響は波長が長いほど小さいので、そのスペクトルはより“赤く(相対的に短波長側がより暗く)”なります。
なので、この赤くなる量を測定することで“ダスト減光量”を見積もることができるんですねー

今回の研究では、近赤外線の異なる2つの波長における放射強度の変化量の比を使うことで、赤くなる量を測定しています。
“ダストトーラス”による減光量の異なる活動銀河核における、活動銀河核中心部からの放射の見え方の違いを示したイメージ図。活動銀河核の一般的な性質として、中心部からの放射の明るさは時間変化(変光)する。可視光・赤外線に対するダストによる吸収・散乱の影響は波長が長いほど小さいので、“ダストトーラス”による減光が大きい場合には中心部からの放射は暗くなりつつ、そのスペクトルは“赤く”(相対的に短波長で暗く長波長で明るい)なる。そこで中心放射の変光する成分のスペクトルがどれだけ“赤く”なっているかを測定することで、“ダストトーラス”の減光量を測定する。
ダストトーラス”による減光量の異なる活動銀河核における、活動銀河核中心部からの放射の見え方の違いを示したイメージ図。活動銀河核の一般的な性質として、中心部からの放射の明るさは時間変化(変光)する。可視光・赤外線に対するダストによる吸収・散乱の影響は波長が長いほど小さいので、“ダストトーラス”による減光が大きい場合には中心部からの放射は暗くなりつつ、そのスペクトルは“赤く”(相対的に短波長で暗く長波長で明るい)なる。そこで中心放射の変光する成分のスペクトルがどれだけ“赤く”なっているかを測定することで、“ダストトーラス”の減光量を測定する。

活動銀河核の近赤外線放射強度の時間変動(変光)から“ダストトーラス”による減光量を評価する方法の概要。一般的に活動銀河核からの近赤外線放射は10数年の観測期間の間で明るさが変化する(図中左側グラフ)。近赤外線の異なる2つの波長(ここでは波長3.4μm、4.6μm)での放射強度を縦軸横軸として各観測日のデータをプロットし、直線フィットする(図中右側のグラフ)。このフィッテング直線の傾きは両波長における変光量の比を示し、変光している近赤外線放射のスペクトルの色の指標になる。“ダスト減光”が大きい場合、長波長の放射よりも短波長の放射の方がより暗くなるためその変光幅もより小さくなり、フィッティング直線の傾きが変化する。そこで、中心部の可視光放射がダストに隠されていない活動銀河核におけるフィッティング直線の傾きの平均的な値を求め、ある活動銀河核についてのフィッティング直線の傾きがそれからどれくらい異なるか測定することで、その活動銀河核における“ダストトーラス”による減光量を評価する。この波長の近赤外線はダストによる吸収・散乱の影響が可視光に比べてはるかに小さいので、“ダストトーラス”に深く隠された活動銀河核でも幾分なりとも透過してきた放射を測定して、ダスト減光量を評価することができる。
活動銀河核の近赤外線放射強度の時間変動(変光)から“ダストトーラス”による減光量を評価する方法の概要。一般的に活動銀河核からの近赤外線放射は10数年の観測期間の間で明るさが変化する(図中左側グラフ)。近赤外線の異なる2つの波長(ここでは波長3.4μm、4.6μm)での放射強度を縦軸横軸として各観測日のデータをプロットし、直線フィットする(図中右側のグラフ)。このフィッテング直線の傾きは両波長における変光量の比を示し、変光している近赤外線放射のスペクトルの色の指標になる。“ダスト減光”が大きい場合、長波長の放射よりも短波長の放射の方がより暗くなるためその変光幅もより小さくなり、フィッティング直線の傾きが変化する。そこで、中心部の可視光放射がダストに隠されていない活動銀河核におけるフィッティング直線の傾きの平均的な値を求め、ある活動銀河核についてのフィッティング直線の傾きがそれからどれくらい異なるか測定することで、その活動銀河核における“ダストトーラス”による減光量を評価する。この波長の近赤外線はダストによる吸収・散乱の影響が可視光に比べてはるかに小さいので、“ダストトーラス”に深く隠された活動銀河核でも幾分なりとも透過してきた放射を測定して、ダスト減光量を評価することができる。

たくさんの活動銀河核を系統的に調べてみる

活動銀河核を中心に持つ銀河(母銀河)中の星などからの放射は、たかだか数十年の観測期間内では明るさは変化しません。
なので、新手法では母銀河の放射の影響を受けずに、活動銀河核の放射が赤くなる量を測定することができます。

近年、赤外線天文衛星“WISE”によって、波長3~5μmの近赤外線での全天長期モニター観測が行われています。
赤外線天文衛星“WISE”は、NASAによって2009年に打ち上げられた天文観測衛星(正式名称はWide-field Infrared Survey Explorer)。天球上のすべての領域について、半年に一度の間隔で赤外線での観測が行われる。初期に4つの波長(3.4μm、4.6μm、12μm、22μm)にて掃天観測が行われたのち、しばらくの休眠期を経て2014年から波長3.4μm、4.6μmにて観測を再開し、現在も継続中である。観測結果のデータは一般に公開されている。
この波長の近赤外線は、ダストによる収集・散乱の影響が可視光に比べてはるかに小さくなります。
そのおかげで、新手法を用いて一般公開されている“WISE”のデータを解析することにより、“ダストトーラス”に深く隠された活動銀河核についても、容易に“ダスト減光量”の測定を行うことが可能になりました。

研究では、“the BAT AGN Spectroscopic Survey(BASS; Koss et al. 2017)”カタログにある活動銀河核に新手法を適用。
463個の活動銀河核に対して“ダスト減光量”の測定に成功しています。

これらの活動銀河核は中心部の可視光放射がダストに隠されていないものと、ほとんど隠されたもの(それぞれ1型、2型と呼ばれる)に大別。
2型活動銀河核の“ダスト減光量”は、1型活動銀河核に比べて大きいだけでなく、それより少し大きいだけのものから、可視光ならば明るさが1杼分の1(1兆分の1の1兆分の1)になるほど非常に大きなものまで、幅広い値を持つことが分かりました。
本研究で測定された活動銀河核のダスト減光量と、それらの活動銀河核におけるブラックホールから私たちまでの間に存在するガスの量との比較。青丸は中心部の可視光放射がダストに隠されていない1型活動銀河核、赤丸はそれがほとんど隠された2型活動銀河核を表す。また、灰色の帯は、銀河系の星間物質の標準的なガスとダストの混合比の場合における図上の位置を示している。2型活動銀河核は1型活動銀河核より少しだけダスト減光量が大きい(それでも可視光放射はほぼ隠されてしまっている)ものから、可視光ならば明るさが1杼分の1(1兆分の1の1兆分の1)になるほどダスト減光量の大きいものまで広い範囲に分布している。また、2型活動銀河核の多くが灰色の帯状のものから、それよりもガス量がおよそ100倍大きいものまで、幅広く分布している。
本研究で測定された活動銀河核のダスト減光量と、それらの活動銀河核におけるブラックホールから私たちまでの間に存在するガスの量との比較。青丸は中心部の可視光放射がダストに隠されていない1型活動銀河核、赤丸はそれがほとんど隠された2型活動銀河核を表す。また、灰色の帯は、銀河系の星間物質の標準的なガスとダストの混合比の場合における図上の位置を示している。2型活動銀河核は1型活動銀河核より少しだけダスト減光量が大きい(それでも可視光放射はほぼ隠されてしまっている)ものから、可視光ならば明るさが1杼分の1(1兆分の1の1兆分の1)になるほどダスト減光量の大きいものまで広い範囲に分布している。また、2型活動銀河核の多くが灰色の帯状のものから、それよりもガス量がおよそ100倍大きいものまで、幅広く分布している。

次に、測定された“ダスト減光量”を、ブラックホールから私たちまでの間に存在するガスの量(BASSカタログに記載されている、X線放射の減光によって測定された値)と比較。
すると、多くの2型活動銀河核において、銀河系の星間物質の標準的なガスとダストの混合比を仮定したときに、“ダスト減光量”から予想されるよりもガスの量が多いことが分かりました。

しかも、このガスの量は、銀河系の星間物質からの予想値にほぼ等しいものから、その100倍近く大きいものまで活動銀河核ごとに様々な値を示していたんですねー

このような傾向は先行研究でも示唆されていたこと。
でも、これほどたくさんの活動銀河核について系統的に調べられたの初めてのことでした。

この結果は何を示しているのでしょうか?

この疑問は、“ダストトーラス”の内側にダストを含まないガス雲が多数存在し、それらがこのガスの超過をもたらしているとイメージすれば説明することができそうです。
本研究が示唆する“ダストトーラス”の構造の概念図。中心の巨大ブラックホールと降着円盤を取り囲むように“ダストトーラス”が存在し、両者の間にダストを含まないガス雲が存在する。近赤外線は“ダストトーラス”内縁部に存在する高温ダスト領域から放射され、それが“ダストトーラス”を通過するときに減光を受ける。X線は巨大ブラックホール近傍の高温ガスから放射され、それがダストを含まないガス雲や“ダストトーラス”中のガスを通過するときに減光を受ける。図中の①~③は異なる方から活動銀河核を観測したときに近赤外線とX線放射が通過する経路と受ける減光の様子の違い、およびそれぞれの図2中でのデータの位置を示している。①では近赤外線放射は“ダストトーラス”で減光を受け、X線放射は“ダストトーラス”とその内側にあるダストを含まないガス雲の両方で減光を受ける。②では近赤外線放射、X線放射はともに減光を受けない。③では近赤外線放射、X線放射は“ダストトーラス”でのみ減光を受ける。
本研究が示唆する“ダストトーラス”の構造の概念図。中心の巨大ブラックホールと降着円盤を取り囲むように“ダストトーラス”が存在し、両者の間にダストを含まないガス雲が存在する。近赤外線は“ダストトーラス”内縁部に存在する高温ダスト領域から放射され、それが“ダストトーラス”を通過するときに減光を受ける。X線は巨大ブラックホール近傍の高温ガスから放射され、それがダストを含まないガス雲や“ダストトーラス”中のガスを通過するときに減光を受ける。図中の①~③は異なる方から活動銀河核を観測したときに近赤外線とX線放射が通過する経路と受ける減光の様子の違い、およびそれぞれの図2中でのデータの位置を示している。①では近赤外線放射は“ダストトーラス”で減光を受け、X線放射は“ダストトーラス”とその内側にあるダストを含まないガス雲の両方で減光を受ける。②では近赤外線放射、X線放射はともに減光を受けない。③では近赤外線放射、X線放射は“ダストトーラス”でのみ減光を受ける。

たくさんの活動銀河核が“WISE”によって観測されていて、このうち新手法を適用できるものは約10万個にもなる見込みです。

こうして得られた大量の“ダスト減光量”データに基づき“ダストトーラス”の構造や状態を推定できれば…
活動銀河核や銀河中心ブラックホールの成長、それが母銀河に与える影響を理解するための手掛かりが得られるかもしれませんね。


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赤色矮星の周りにも、地球のような温暖な気候を持つ海惑星が存在しているのかも

2022年10月23日 | 地球外生命っているの? 第2の地球は?
近年の系外惑星探査で関心が集まっているのは、地球のような温暖な岩石惑星… いわゆるハビタブル惑星の発見なんですねー

こうした惑星の探査の多くは、見つけ易さから太陽系の近傍に多数存在する“赤色矮星”または“M型星”と呼ばれる、太陽よりも低温の星をターゲットとしています。

さらに、惑星が温暖な気候を維持するためには、適度な日射量だけでなく、適量な海水が必要なことが知られています。

でも、これまでの惑星形成モデルで予測されていたのは、“M型星”の周りにそのような条件を満たす惑星が存在する確率は非常に小さいことでした。

そこで、今回の研究で着目しているのは、惑星の形成場である原始惑星系円盤のガス成分の獲得によって形成される大気とマグマオーシャンとの反応で生成される水でした。
原始惑星系円盤とは、誕生したばかりの恒星の周りに広がる水素を主成分とするガスやチリからなる円盤状の構造。恒星の形成や、円盤の中で誕生する惑星の研究対象とされている。
形成期の惑星には、材料となる岩石が頻繁に衝突するため、地表面はその衝突の際の過熱で溶融した状態になる。さらに、この時期の大気の主成分である水素ガスは強い保温効果を持っているため、溶けた岩石は冷えず、全球がマグマに覆われた状態にあると考えられ、これをマグマオーシャンという。
さらに、新しい惑星形成モデルを独自に開発し、改めて系外惑星の持つ海水量を理論的に予測していきます。

すると、“M型星”の周りにおいても、地球程度の半径と日射量を持つ惑星のうち数%が適度な海水量を持っていると見積もられたんですねー

このことが示唆していること、それは今後十年以内の探査で温暖な気候を持つ惑星の発見が十分期待できることでした。

水は気候に重要な役割を果たしている

1995年の初検出以降、太陽以外の星を周回する惑星“系外惑星”は、すでに5000個以上検出されています。

こうした多数の系外惑星の検出によって分かってきたのは、惑星系が宇宙に普遍的に存在すること。
一方、その大きさや成分、中心星からの距離、日射量について、系外惑星が実に多様であることも明らかになりました。

これまでに検出された惑星には、地球に近い大きさの惑星も多数存在しています。

それらの中に地球のような温暖な気候を持つ惑星“ハビタブルな惑星”はあるのでしょうか?
このことは、大きな関心ごとのひとつになっているんですねー

地球の生命体には水が必要ですが、実は気候にも水は重要な役割を果たしています。

恒星から受ける日射量が適度であることに加えて、惑星が温暖な気候を維持するために必要なのが、適度な水量の海洋であることが知られています。

現在の地球は、プレートテクトニクスと大陸風化を伴う炭素循環が機能することで、温暖な気候を維持できています。

でも、海水量が地球よりも数十倍以上多くなると、炭素循環が制限されてしまい、極端に熱い、もしくは寒冷な気候になると考えられています。

惑星が水を獲得する方法

太陽系では、水を含む岩石または氷天体の飛来によって、地球は現在の海を獲得できたとする考えが有力視されています。

この考えを“M型星”を公転する惑星に適用した過去の研究では、適度な水量を持つ惑星は非常に稀であることが予測されていました。

今後のハビタブル惑星探査の主な対象となっている“M型星”ですが、地球のような温暖な気候を持つ惑星が発見される可能性は極めて低い っという、いわばネガティブな示唆が得られていました。

一方、別の水獲得過程として、惑星の形成期に惑星内部で水を生成する過程と条件が生駒大学の研究で提案されていました。

一般に惑星は原始惑星系円盤の中で成長するので、その円盤のガスを重力的に獲得し、水素を主成分とする大気“原始大気”を形成します。

また、形成途中の惑星の地表面は天体の衝突による熱などによって、溶融したマグマの状態“マグマオーシャン”にあります。
形成期の岩石惑星において、原始大気とマグマオーシャンとの反応で水(水蒸気)が生成される状態(イメージ図)。(Credit: 木村真博)
形成期の岩石惑星において、原始大気とマグマオーシャンとの反応で水(水蒸気)が生成される状態(イメージ図)。(Credit: 木村真博)
この時、水素ガスとマグマに含まれる酸化物が化学反応することによって生成されるのが水です。

この水生成反応の効果を考慮すると、これまでの理論モデルよりも水に富んだ惑星を形成できる可能性は上がることになります。

太陽系外の海惑星の存在頻度

惑星が獲得する含水岩石の量や水生成反応から得られる水量は、惑星形成過程に大きく左右されることになります。

そこで、今回の研究では、太陽系外の海惑星の存在頻度を改めて求めるために“惑星種族モデル”を開発。
このモデルでは、最新の惑星形成理論に基づいて惑星の質量成長や軌道進化を追い、その過程で獲得した水の量を計算することができます。
さらに、これまで考えられていた含水岩石の獲得に加えて、原始大気中の水生成の効果も新たに取り入れています。

そして、このモデルを用いた数値シミュレーションで分かってきたのが、様々な位置に大きさや大気量の異なる多彩な惑星が生成されることでした。
1万個の“M型星(0.3太陽質量)”の周りで形成された惑星の軌道長半径と質量の分布。各点の色は惑星の原始大気の質量分率を表す。破線の枠はハビタブルゾーンにある地球に近い質量の惑星の領域を示している。(Credit: 木村真博)
1万個の“M型星(0.3太陽質量)”の周りで形成された惑星の軌道長半径と質量の分布。各点の色は惑星の原始大気の質量分率を表す。破線の枠はハビタブルゾーンにある地球に近い質量の惑星の領域を示している。(Credit: 木村真博)
その中から、ハビタブルゾーンに存在する惑星を取り出して、獲得した海水量を調べた結果が下の図です。
“ハビタブルゾーン”とは、主星(恒星)からの距離が程良く、惑星の表面に液体の水が安定的に存在できる領域。この領域にある惑星では生命が居住可能だと考えられている。太陽系の場合は地球から火星軌道が“ハビタブルゾーン”にあたる。
図のように、原始大気中の水生成が働く場合には、“M型星”を公転する系外惑星は非常に多様な水量を保持できることが分かりました。

その中には、地球と同程度の海水量を持つ惑星も形成されています。

これらの惑星の海水は、ほとんどが大気中の水生成によって得られたものでした。

計算データの解析結果から得られたのは、惑星半径が地球の0.7倍~1.3倍の惑星の数%が温暖な気候を維持するために適切な水量(地球海水量の0.1~100倍)を保持しているという予測だったんですねー
“M型星(0.3太陽質量)”の周りのハビタブルゾーンに位置する地球程度の質量(0.3-3倍の地球質量)の惑星の海水量分率の頻度分布。緑色がこれまでのモデルに従い含水岩石の獲得のみを考慮した計算の結果。橙色が今回の研究のモデルを用い原始大気中の水生成の効果を考慮した場合の結果。点線は現在の地球の海水量分率。(Credit: 木村真博)
“M型星(0.3太陽質量)”の周りのハビタブルゾーンに位置する地球程度の質量(0.3-3倍の地球質量)の惑星の海水量分率の頻度分布。緑色がこれまでのモデルに従い含水岩石の獲得のみを考慮した計算の結果。橙色が今回の研究のモデルを用い原始大気中の水生成の効果を考慮した場合の結果。点線は現在の地球の海水量分率。(Credit: 木村真博)
国立天文台すばる望遠鏡の赤外線ドップラー装置“IRD”を用いた惑星探査計画や現在稼働中のNASAのトランジット惑星探査衛星“TESS”、打ち上げが予定されているヨーロッパ宇宙機関の宇宙望遠鏡“PLATO”などによる探査から試算されているのは、“M型星”周辺のハビタブルゾーンの中に地球程度のサイズの惑星が100個程度発見されるということ。
“PLATO”は、ハビタブルゾーン内にある地球型惑星の検出を目指し、2026年に打ち上げが予定されているヨーロッパ宇宙機関の宇宙望遠鏡。
その中の数個が、地球のような温暖な気候を持つ海惑星であると、今回の研究結果は予測しています。

また、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡や2026年に打ち上げが予定されているヨーロッパ宇宙機関の宇宙望遠鏡“ARIEL”による系外惑星の大気スペクトルの観測から、大気中の水分子などの存在についても明らかになってくるはずです。
“ARIEL”は、既知の系外惑星の大気の化学組成や熱構造を観測することを目指し、2028年に打ち上げが予定されているヨーロッパ宇宙機関の宇宙望遠鏡。
こうした観測によって今回の研究の理論予測が検証され、地球のような海惑星の形成過程の解明につながっていくといいですね。


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画像から見つけたのは磁場のS字型ねじれ! 太陽の磁場が突然反転する現象“スイッチバック”の謎を解明

2022年10月15日 | 太陽の観測
探査機“ソーラーオービター”が太陽に最接近した際の観測から、50年近く前から知られている太陽磁場の反転現象“スイッチバック”の発生メカニズムが明らかになりました。

太陽の磁場が突然反転する現象

1970年代半ばにアメリカ・ドイツの太陽探査機“ヘリオス”が太陽に接近した際、太陽の磁場が突然反転する様子が記録されました。

この現象は突然始まり、数秒から数時間で磁場の方向は元に戻るというもの。
1990年代後半にはアメリカとヨーロッパの探査機“ユリシーズ”も同じ現象を観測しています。

さらに、2018年にはNASAの探査機“パーカー・ソーラー・プローブ”による観測で、その磁場反転が太陽に近いほど多いことが明確に示され、その原因が磁場のS字型のねじれにあることが示唆されています。

この現象は“スイッチバック”と呼ばれるようになり、形成のメカニズムについてはこれまでに多くのアイディアが出されています。
“スイッチバック”のイメージ動画。(Credit: NASA's Goddard Space Flight Center/Conceptual Image Lab/Adriana Manrique Gutierrez)
“スイッチバック”のイメージ動画。(Credit: NASA's Goddard Space Flight Center/Conceptual Image Lab/Adriana Manrique Gutierrez)

コロナのプラズマに見られた歪んだS字型のねじれ

水星軌道よりも内側まで太陽に近づいて観測を行うヨーロッパ宇宙機関の探査機“ソーラーオービター”は、太陽最接近直前の2022年3月25日に、太陽の外層大気であるコロナをとらえました。
ヨーロッパ宇宙機関の太陽探査機“ソーラーオービター”は太陽を斜めに周回する軌道に投入され、これまで見ることができなかった太陽の両極域を観測するための探査機。
2020年2月にアメリカ・フロリダ州にあるケープカナベラル空軍基地から“アトラスVロケット”により打ち上げられた。
その画像の1つで見られたのは、コロナのプラズマに歪んだS字型のねじれでした。

そこで、イタリア・トリノ天文台とイタリア国立天体物理学研究所の研究チームが考えたのは、これが“スイッチバック”ではないかということ。

研究チームは詳細なスペクトル分析を実施。
すると、磁力線が開いている領域と閉じている領域との相互作用から“スイッチバック”が起こることを確認します。

このことは研究チームの一員が2020年に提案した、太陽表面における開いた磁場と閉じた地場の相互作用に着目したアイディアを裏付けるものでした。
2020年に提唱された“スイッチバック”の生成メカニズムのイラスト。(a)太陽の活動領域にある開いた磁力線と閉じた磁力線。閉じた磁力線は、太陽大気中に向かって弧を描いてから、太陽に向かって丸く曲がって戻る。開いた磁力線は、太陽系の惑星間磁場とつながる。(b)開いた磁場領域が閉じた磁場領域と相互作用すると、磁力線がつながり、ほぼS字型の磁力線が形成されてエネルギーが爆発的に増加する。(c)磁力線が磁気リコネクションとエネルギー放出に反応してねじれ、それが外側に向かって伝搬する(スイッチバック)。同様の“スイッチバック”は、反対方向にも送られ、磁力線を下って太陽の中に入って行く。(Credit: Zank et al. (2020))
2020年に提唱された“スイッチバック”の生成メカニズムのイラスト。(a)太陽の活動領域にある開いた磁力線と閉じた磁力線。閉じた磁力線は、太陽大気中に向かって弧を描いてから、太陽に向かって丸く曲がって戻る。開いた磁力線は、太陽系の惑星間磁場とつながる。(b)開いた磁場領域が閉じた磁場領域と相互作用すると、磁力線がつながり、ほぼS字型の磁力線が形成されてエネルギーが爆発的に増加する。(c)磁力線が磁気リコネクションとエネルギー放出に反応してねじれ、それが外側に向かって伝搬する(スイッチバック)。同様の“スイッチバック”は、反対方向にも送られ、磁力線を下って太陽の中に入って行く。(Credit: Zank et al. (2020))
さらに、他の研究チームと協力して“スイッチバック”によるコロナのふるまいをモデル計算で再現してみると、今回の観測と驚くほどよく似た結果になったんですねー

そう、今回の研究では、太陽コロナ内での磁気“スイッチバック”をとらえた最初の画像が、その起源の謎を明らかにしたことになります。

“ソーラーオービター”は軌道を1周するごとに、搭載された10個の観測装置から更なるデータが得られています。
今回のことは、まさに研究者が“ソーラーオービター”に期待していた成果といえます。

“スイッチバック”の発生メカニズムを知ることは、太陽嵐がどのように太陽から加速、加熱されるのかを理解する上での一歩となりそうです。

研究チームではこの研究成果をもとに、さらに期待していることがあります。

それは、次の太陽接近で計画されている観測を微調整し、太陽が太陽系の広い磁気環境とどのようにつながっているかを理解すること。
多くの成果が得られるといいですね。
“スイッチバック”のイメージ動画。(Credit: NASA's Goddard Space Flight Center/Conceptual Image Lab/Adriana Manrique Gutierrez)


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宇宙初期の“星のベビーブーム”はどうやって引き起こされたのか? 星形成率が非常に高い星団から分かってくること

2022年10月10日 | 宇宙 space
小マゼラン雲には、非常に活発な星形成が見られる散開星団“NGC 346”があります。
この散開星団“NGC 346”で、星団の中心に向かって星やガスが渦巻くように運動している様子が明らかになったんですねー
どうやら、この流れが活発な星形成を引き起こしているようです。

非常に活発な星形成が見られる星団

天の川銀河には50以上の衛星銀河が見つかっていて、そのうちの1つ小マゼラン雲は地球から約20万光年の彼方に位置しています。
衛星銀河(伴銀河ともいう)とは重力の相互作用により、より大きな銀河の周囲を公転する銀河。
今回取り上げるのは、小マゼラン雲の中にある散開星団“NGC 346”。
“NGC 346”の直径は、わずか150光年なんですが、太陽5万個分の質量を持っているんですねー
散開星団は、分子雲から同時に生まれた星同士が未だに互いに近い位置にある状態の天体。銀河のディスク部分に存在するため銀河星団とも呼ばれる。
また、渦巻き銀河の腕のようにカーブした星やガスの集まりが見られ、そこでは非常に活発な星形成が行われています。

“NGC 346”は、なぜこうした性質を持っているのでしょうか?
この問いについては、まだよく分かっていません。

星形成率が非常に高い原因は渦巻き運動にあった

アメリカ・宇宙望遠鏡科学研究所のメンバーを中心とする研究チームは、ハッブル宇宙望遠鏡を使って散開星団“NGC 346”の星々の位置を11年間にわたって観測。
ハッブル宇宙望遠鏡が持つ高い分解能と感度のおかげで、極めて精密な測定を行うことに成功しています。

これにより分かってきたのは、“NGC 346”の星々は時速約30000キロの速度を持ち、11年間で2天文単位(約3億キロ)ほど動いていること。
ただ、小マゼラン雲は天の川銀河の星々より遠いので、地球から見た移動量は極めて小さなものでした。

さらに、ヨーロッパ南天天文台の超大型望遠鏡“VLT”を使って、星団の星々の視線速度も求め、星々の3次元的な運動を明らかにしました。

その結果分かってきたのは、“NGC 346”の内部では星とガスが星団の中心に向かって渦を巻くように動いていることでした。

そう、星団の奇妙な椀構造や星形成率が非常に高い原因の1つは、この渦巻き運動に合ったんですねー
小マゼラン雲にある大質量星団“NGC 346”。赤い渦巻きは星とガスが中心に向かって渦を巻いて運動している様子を示している。(Credit: NASA、ESA、Andi James (STScI))
小マゼラン雲にある大質量星団“NGC 346”。赤い渦巻きは星とガスが中心に向かって渦を巻いて運動している様子を示している。(Credit: NASA、ESA、Andi James (STScI))
渦巻構造は、星団の外側から中心に向かって星形成を促す、非常に自然で良い方法と言えます。

それは、星や星形成の燃料になるガスを、中心部に送り込むのに最も効率的なやり方だからです。

“星のベビーブーム”がどのように引き起こされたのかのヒントになるかも

天の川銀河よりも重元素の量が少ない小マゼラン雲では、重い星が生まれやすくなります。

ガス雲が重力収縮して新たな星になるためには、ガス雲が冷える必要があります。
でも、重元素が少ないガスは冷えにくいんですねー

このため、より大きなガスの塊でないと圧力に打ち勝って重力収縮が進まないからです。

こうして誕生した大質量星は、わずか数千年で超新星爆発を起こして一生を終えることになります。

そう、重元素の少ない小マゼラン雲は、超新星爆発で宇宙に大量の重元素がばらまかれる前の初期宇宙の銀河に似ているとも言えます。

今回明らかになった“NGC 346”の星形成の仕組みは、ビッグバンから約20億~30億年後の初期宇宙で起こったとされる“星のベビーブーム”が、どのように引き起こされたのかを理解するヒントになるのかもしれませんね。


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生命が居住可能な領域に惑星を発見! 太陽よりも小さく表面温度が低い恒星を8.46日で公転

2022年10月04日 | 地球外生命っているの? 第2の地球は?
太陽系から約100光年の彼方に位置する恒星“LP 890-9”。
この低温の恒星の周りに2つのスーパーアースが発見されました。

さらに分かってきたのは、外側のスーパーアース“LP 890-9c”が“ハビタブルゾーン”内を公転していること。

“ハビタブルゾーン”とは、主星(恒星)からの距離が程良く、惑星の表面に液体の水が安定的に存在できる領域。
太陽系の場合は地球から火星軌道が“ハビタブルゾーン”にあたり、この領域にある惑星では生命が居住可能だと考えられているんですねー

今回の発見は、NASAの系外惑星探査衛星“TESS”と、ベルギー・リエージュ大学の研究者のSPECULOOSプロジェクトによるもの。
さらに、観測の成功には、東京大学とアストロバイオロジーセンターの研究者らによる多色同時撮像カメラ“MuSCAT3”、すばる望遠鏡の赤外線ドップラー装置“IRD”の連携があったそうです。
今回の研究のイメージ図。(Credit: アストロバイオロジーセンター/ MuSCATチーム)
今回の研究のイメージ図。(Credit: アストロバイオロジーセンター/ MuSCATチーム)

太陽よりも暗い恒星を回る惑星を探す

2022年現在、惑星が恒星の手前を通過する“トランジット”という現象を利用した系外惑星の探索が、トランジット惑星探査衛星“TESS(Transiting Exoplanet Survey Satellite)”によって行われています。

“TESS”はマサチューセッツ工科大学が中心となって実施しているNASAの衛星計画です。
2018年4月18日に打ち上げられ、2年間ほぼ全天のトランジット惑星を探索するという計画を実施してきました。

“TESS”が第1期延長計画までの4年間で発見したのは、5000個を超えるトランジット惑星候補。
観測は5年目に入っていて、現在は第2期延長計画を実施中なんですねー

“TESS”が狙うのは、地球からおよそ300光年以内にあり、恒星の明るさによって大気が照らされている惑星。
調査する恒星の多くはM型矮星という銀河系に最も多いタイプで、私たちの太陽よりも小さくて暗い恒星です。

地球から見て惑星が主星の手前を通過(トランジット)するときに見られる、わずかな減光から惑星の存在を探る“トランジット法”は、“分光(光をスペクトルに分ける)”を行う“ドップラーシフト法”ほど多くの光子を必要としないので、“トランジット法”による“赤色矮星”周囲の惑星探査が近年進んでいます。

“TESS”は、4台の超広視野カメラを用いて空の24度×96度の領域を27.4日ずつ観測し、トランジットの際に起きる恒星の周期的な減光を探していました。

2つのチームが独立してトランジット惑星候補の観測を実施

今回、惑星が発見された赤色矮星“LP 890-9(別名:TOI-4306、SPECULOOS-2)”は、周期約2.73日の減光を“TESS”がとらえたものでした。
トランジット惑星候補“TOI-4306.01”という名で2021年7月21日に世界へ公開されています。
表面温度がおよそ摂氏3500度以下の恒星を赤色矮星と呼ぶ。
実は宇宙に存在する恒星の8割近くは赤色矮星で、太陽系の近傍にある恒星の多くも赤色矮星。
太陽よりも小さく、表面温度も低いことから、太陽系の場合よりも恒星に近い位置にハビタブルゾーンがある。
さらに、“LP 890-9”に対しては追観測も行われています。

この観測を行ったのは、“TESS”の公式追観測プログラムであるTFOP(TESS Follow-up Observing Program)に参加している日本のMuSCATチームとベルギーの研究者からなるSPECULOOSチーム。
2021年8月以降それぞれ独立に、この惑星候補が本物かを確認するための追観測に取り組んでいます。

それぞれのチームが独立して観測を行っているのは、“TESS”で発見される周期的な減光が、2つの恒星(連星)がお互いを隠す場合にも起こりうる っということが理由でした。

MuSCATチームは、マウイ島のハレアカラ観測所に設置した4色同時撮像カメラ“MuSCAT”による多色同時観測と、すばる望遠鏡の赤外線ドップラー装置“IRD”による視線速度の観測から、2021年10月までに“TOI-4306.01”が惑星“LP 890-9 b”であることを確認しています。
“MuSCAT”シリーズは、岡山県の188センチ望遠鏡、スペイン・テネリフェ島の1.52メートル望遠鏡、アメリカ・マウイ島の2メートル望遠鏡に搭載された観測装置。
3つもしくは4つの波長帯で同時にトランジット観測が行える。
“MuSCAT”はMulticolor Simultaneous Camera for studying Atmospheres of Transiting exoplanetsの略で、岡山県の名産品にちなんでいる。
一方、SPECULOOSチームは2021年8月から“TOI-4306.01”のトランジット時刻以外も含めて“LP 890-9”の継続な観測を実施。
2021年10月と11月に“TOI-4306.01”とは別の周期の減光(別のトランジット惑星候補)を発見しています。
“SPECULOOS”は、ベルギーのリエージュ大学の研究者がリードする、赤色矮星周りのハビタブルゾーンを公転するトランジット惑星を探索するプロジェクト。
“SPECULOOS”はSearch for habitable planets EClipsing ULtra-c001 Starsの略で、ベルギーの伝統的なビスケットの名前にちなんでいる。
ただ、SPECULOOSチームのデータでは、惑星の公転周期を1つに絞り込むことができなかったんですねー

そこで、MuSCATチームはSPECULOOSチームと協力して“MuSCAT3”での追観測を実施。
この観測により、トランジット惑星候補が本物の惑星“LP 890-9 c”であり、公転周期が約8.46日であることを突き止めています。

すばる望遠鏡の赤外線ドップラー装置“IRD”による視線速度の測定は、惑星候補の質量に強い制限を与え、“LP 890-9”を公転する2天体が本物の惑星であることを示す決め手になったそうです。

ハビタブルゾーンに位置する地球よりやや大きな岩石惑星

発見された2つの系外惑星“LP 890-9 b”と“LP 890-9 c”の半径は、それぞれ地球半径の1.32倍と1.37倍。
この半径の惑星は、理論的には地球よりやや大きな岩石惑星“スーパーアース”と考えられます。
半径が地球の1~1.5倍程度の、地球よりやや大きな惑星のことを“スーパーアース”と呼ぶ。
理論上、この半径の惑星は水素大気を維持できないので、水素大気を持つ小さなガス惑星“サブネプチューン”である可能性が極めて低い。
このため岩石を主体とした惑星と考えられる。
この2つのうち外側にある“LP 890-9 c”は、主星“LP 890-9”からの距離が惑星表面に液体の水が存在可能な条件を満たした領域、いわゆるハビタブルゾーン(生命居住可能領域)内にあります。

なぜ、公転周期が10日に満たない、主星のすぐ近くにある惑星がハビタブルゾーンにあるのでしょうか?
それは、主星が太陽の15パーセントほどの半径の小さな恒星で、その表面温度が摂氏約2600度(太陽は摂氏約5500度)しかないからでした。
すばる望遠鏡に2018年から搭載された赤外線ドップラー装置“IRD”。低温の恒星をめぐる惑星の探査に活躍している。“IRD”の観測から、“LP 890-9 b”と“LP 890-9 c”の質量が、それぞれ13.2地球質量以下、25.3地球質量以下という制限が与えられた。(Credit: アストロバイオロジーセンター)
すばる望遠鏡に2018年から搭載された赤外線ドップラー装置“IRD”。低温の恒星をめぐる惑星の探査に活躍している。“IRD”の観測から、“LP 890-9 b”と“LP 890-9 c”の質量が、それぞれ13.2地球質量以下、25.3地球質量以下という制限が与えられた。(Credit: アストロバイオロジーセンター)

2020年8月に東京大学で完成した“MuSCAT3”。2020年9月からは、マウイ島のハレアカラ観測所にある2メートル望遠鏡に搭載されている。(Credit: MuSCATチーム)
2020年8月に東京大学で完成した“MuSCAT3”。2020年9月からは、マウイ島のハレアカラ観測所にある2メートル望遠鏡に搭載されている。(Credit: MuSCATチーム)
まだ発見されたばかりのスーパーアース“LP 890-9 c”。
この惑星がどんな環境で、果たして生命が生まれているのかどうかも現時点では分かっていません。

でも、“LP 890-9 c”はトランジット惑星であるため、将来のトランジットの追観測によって大気組成や雲の有無など大気の性質を詳しく調べることができるんですねー

その大気の性質は、地表に液体の水が安定的に存在できるかどうかに大きく影響します。

例えば将来の観測で、この惑星には生命が存在しそうにないと分かっても、ハビタブルゾーンにある岩石惑星がどのような大気を持つのかを研究することは、私たちの住む地球が宇宙の中でどんな存在なのかを位置づける上で重要なことになります。

その点においても、今回の発見は将来のさらなる研究へとつながる重要な研究対象をもたらしてくれたといえますね。


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