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月の南極地域は科学的調査や有人探査計画で注目されているけど、月固有の地震“月震”のリスクは考えなくてもいい?

2024年04月07日 | 月の探査
地球唯一の衛星“月”は、太陽系全体を見渡しても5番目に大きな衛星で、周回している惑星との直径比・質量比は太陽系で最大になります。
月と同程度の大きさの他の衛星は、地球よりずっと大きな惑星を周回していることを考えると、月は特別な存在と言えます。

その月は内部が冷えることで徐々に収縮しているんですねー
月の表面は固くもろい岩石でできているので、収縮によって表面には断層や崖が形成されています。

今回の研究では、月の南極地域の地形から、月の表面を覆うレゴリスの斜面における崩れやすさを推定。
過去に南極地域で発生したことが考えられるマグニチード5.3の月固有の地震“月震”の影響を調べています。(※1)
※1.マグニチュードには複数の定義があり、後述するN9事象の規模は、リヒタースケールで約5、実体波マグニチュードで5.5以上と測定されている。ここでは、揺れの強さを推定したときに使用したモーメントマグニチュード5.3を代表値としている。
その結果分かってきたのは、中程度から弱い揺れが震源から50キロを超える距離まで到達し、そのような弱い揺れでも容易に地すべりが発生する恐れがあることでした。

注目すべきことに、特定された断層帯や地すべり発生のリスクが高い位置は、アメリカ合衆国政府が出資する有人月探査計画“アルテミス”の着陸候補地の近くにあること。
月の南極地域は月探査計画で注目されている場所の一つなだけに、今回の研究結果は将来的な探査計画では月震や地すべりのリスクを考慮しなければならないことを示唆しているようです。
この研究は、スミソニアン博物館のThomas R. Wattersさんたちの研究チームが進めています。
図1.今回の研究で推定された、いくつかの斜面の地すべりのリスク(赤・緑・青の丸点)。赤い点であるほど斜面の角度(内部摩擦角)が高く、月震の際に崩れやすいことを示している。水色の四角はアルテミス計画での着陸候補地。(Credit: Thomas R. Watters, et al.)
図1.今回の研究で推定された、いくつかの斜面の地すべりのリスク(赤・緑・青の丸点)。赤い点であるほど斜面の角度(内部摩擦角)が高く、月震の際に崩れやすいことを示している。水色の四角はアルテミス計画での着陸候補地。(Credit: Thomas R. Watters, et al.)


科学的調査や有人探査計画で注目されている地域

月は、地球唯一の衛星で、恒久的に地球の近くに存在する天体なので、宇宙開発の初期から現在に至るまで探査対象として注目されてきた天体です。

特に近年の月探査計画で多くなってきたのは、月の科学的調査をより重点的に行うものや、将来的に恒久的な有人月面基地を建設するための訓練や準備を兼ねたもの。
特に月の南極地域は、科学的調査でも有人探査計画でも注目されている場所です。

月は自転軸の傾きがとても小さいので、月の極域にあるクレーターの内部には、太陽の光が決して届くことのない領域が生じています。
これを永久影といい、温度は最高でもマイナス157度ほどにしかなりません。
そこに彗星や小惑星が落下するなどして水がもたらされれば、氷の状態で保存される訳です。

そう、真空の月面で蒸発しやすい水などの揮発性物質が豊富に残っている可能性があるんですねー

このことが意味するのは、将来の有人月面基地において、生活に必要な水や、農業に必要な水を現地で確保できるだけでなく、水は電気分解をすれば呼吸用の酸素やロケットエンジン用の推進剤も供給できるというメリットがあることです。
さらに、月の表面で蒸発して消えやすい物質が残っている“化石”という点で、科学的にも重要なものと言えます。

また、南極地域には金属資源が豊富に存在すると考えられているので、この点でも月面基地建設や科学的調査で有利な場所といえます。

この南極地域には、2023年8月23日にインド宇宙研究機関(ISRO)の月探査機“チャンドラヤーン3号”が、史上初の着陸に成功しています。
また、アメリカ合衆国で連邦政府が出資している有人月探査計画“アルテミス計画”は、史上初となる有人での南極地域への着陸と探査を予定しています。


月固有の地震“月震”

一方で、あまり良く分かっていないのが、月面に着陸した無人探査機や有人月面基地が、将来どのようなリスクにさらされるのかということです。

地球では、分厚い大気による気象現象や、プレートテクトニクスによる火山・地震活動が常に起こっています。
それとは異なり、月はほぼ真空で地質学的にも“死んだ天体”だとみなされ、短期的なリスクはほとんど無いものと考えられています。

でも、実際には地球ほど激しくはないものの、月にも固有の地震“月震”が存在しています。
その原因には、地球の重力が生み出す潮汐力の影響や天体衝突のような外的要因もありますが、月の構造変化による内的要因もあります。

特に発生原因として挙げられるのは、月そのものの縮小です。

月は誕生してから膨張を続け、約38億年前にピークに達し、その後に収縮に向かったことが明らかにされています(半径変化史)。
これは、月の内部が少しずつ冷えていくことが原因で、過去数億年で直径が15メートルほど小さくなったと考えられます。

この収縮による影響は、表面に多数の断層や崖として現れることになります。
その大きさは最大で高低差150メートル、長さ数十キロにもなり、断層がズレると地球の地震と同じ月震の原因となります。

アポロ計画で設置された月震計は、表面の断層のズレによって生じたと思われるいくつかの月震を記録しています。

ただ、月震計の少なさに加えて観測期間が1969年~1977年と限られていたことがなどが理由で、総合的なにデータが不足しているので、どこで発生しているかなど月震の正確な状況は良く分かっていませんでした。


アポロ計画で記録された月震

研究チームでは、過去(2019年)にも、月の南極付近にある断層地形とアポロ計画で記録された月震の関連を調べていました。

月表面の非常に高精細な画像は、NASAの月探査機“ルナー・リコネサンス・オービター”によって得られています。
また、アポロ計画で1973年3月13日に記録されたマグニチュード5程度の月震“N9事象(N9 event)”は、南極地域で発生したことが1979年に推定されていました。

でも、データの性質からその精度には限界があり、推定された震源域はかなり広いものでした。
そして、最も可能性の高いポイントには、月震の規模に対してかなり小さい断層崖しかありませんでした。
図2.2019年の研究で示されたN9事象の推定震源地(紫に中黒の点)。青色の点は1979年に推定された最も可能性の高い震源地(実際にはもっと広い領域が推定されている)。水色の四角はアルテミス計画での着陸候補地。(Credit: Thomas R. Watters, et al.)
図2.2019年の研究で示されたN9事象の推定震源地(紫に中黒の点)。青色の点は1979年に推定された最も可能性の高い震源地(実際にはもっと広い領域が推定されている)。水色の四角はアルテミス計画での着陸候補地。(Credit: Thomas R. Watters, et al.)
当初研究チームでは、南極地域にある“ド・ジェラルーシ葉状衝上断層崖(de Gerlache lobate thrust fault scarp)”に、N9事象の原因となった活断層が含まれていると考えていました。
これは、1979年に推定された断層崖よりも、ずっと規模が大きなものでした。

研究チームでは、複数の震源が推定されてしまうものの一つ一つのポイントにおいては、精度が高くなるアルゴリズムを使って震源を推定。
すると、震源が“ド・ジェラルーシ葉状衝上断層崖”に強く関連づいていることが示されました。


大きな月震はかなり頻繁に起きている

今回の研究でチームが考えているのは、月の表面を覆うレゴリスが大規模な月震で崩れる可能性です。

レゴリスは微小隕石や太陽風によって細かく砕かれた鋭い形状の砂状物質。
お互いの結合力が弱いので、レゴリスに覆われた月の表面はとても崩れやすいものとなっています。
図3.今回の計画で推定されたマグニチュード5.3の月震による揺れの強さの推定値。震源から50キロを超える距離でも、中程度から弱い揺れがあると推定される。(Credit: Thomas R. Watters, et al.)
図3.今回の計画で推定されたマグニチュード5.3の月震による揺れの強さの推定値。震源から50キロを超える距離でも、中程度から弱い揺れがあると推定される。(Credit: Thomas R. Watters, et al.)
研究では、N9事象の規模をマグニチュード5.3と仮定。
月の表面地形や斜面の角度、レゴリスの結合力を元に、N9事象と同じ月震が起きた際の揺れと地すべりの評価を行っています。

その結果分かったのは、震源からの距離が40キロ以内では強い揺れに襲われること、一方50キロを超える場所でも中程度から弱い揺れに襲われることでした。
そして、そのような弱い揺れであっても、レゴリスで覆われた斜面は容易に地すべりを起こすことも分かりました。

このことは、南極地域を調査する将来定期な探査計画において懸念事項となるかもしれません。

例えば、アルテミス計画の着陸候補地は、今回推定された震源域や崩れやすい斜面に対して近い距離にあります。
また、地球の地震の揺れの持続時間は長くても数分ですが、月の表面で起こる月震の揺れは数時間を超えて続くことが珍しくありません。
さらに、永久影のように科学調査や資源採掘が予定される場所は、地すべりを起こしやすい斜面に位置しています。

マグニチュード5程度という規模の大きさ、長時間にわたる月震の揺れの長さ、そして地すべり発生の恐れは、長時間または恒久的に月面に滞在する人々や機材にとってリスクとなり得ます。

ド・ジェラルーシ葉状衝上断層崖と似たような断層崖や地形は、月面のあちこちに存在しています。
また、短期間に月震が複数記録されたことや、断層崖の地形的な新しさは、大きな月震がかなり頻繁に起きていることを示しています。

長期間の運用が計画される将来的な月探査計画では、地震や地すべりが計画を妨げる負の事象として、検討されるようになるかもしれませんね。


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2月中旬以降に運用再開に向けて再挑戦! JAXAの小型月着陸実証機“SLIM”は夜を迎えて休眠中

2024年02月01日 | 月の探査
“SLIM”の公式X(旧Twitter)アカウントによると、日本時間2024年1月30日~31日の運用をもって、JAXAの小型月着陸実証機“SLIM(Smart Lander for Investigating Moon)”が休眠状態に入ったそうです。

“SLIM”は太陽電池パネルから電力を得ているので、着陸地点が夜の間は活動することが出来ません。

また、“SLIM”は約-170℃まで温度が下がる月の夜を乗り越えるようには設計されていないんですねー
これにより、夜の間に電子機器が損傷する可能性もあります。

月の昼夜は2週間ずつ続くので、JAXAは“SLIM”の太陽電池パネルに再び太陽光が当たるようになる2月中旬以降の運用に再挑戦するそうです。
日没に伴う休眠前に“SLIM”の航法カメラで最後に撮影された画像(日本時間2024年1月29日14時頃に公開)。手前の月面が夜闇に覆われつつある様子が分かる。“SLIM”の公式X(旧Twitter)アカウントから引用。(Credit: JAXA)
日没に伴う休眠前に“SLIM”の航法カメラで最後に撮影された画像(日本時間2024年1月29日14時頃に公開)。手前の月面が夜闇に覆われつつある様子が分かる。“SLIM”の公式X(旧Twitter)アカウントから引用。(Credit: JAXA)
休眠前の“SLIM”が航法カメラで最後に撮影した月面の様子では、太陽光の当たらない部分が増えていることが分かります。

“SLIM”は、着陸後の観測運用を含め、休眠状態に入るまでの一連の電源系の動作は正常だったということです。


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JAXAの小型月着陸実証機“SLIM”が運用を再開! 月の起源の解明に期待

2024年01月29日 | 月の探査
JAXAの小型月着陸実証機“SLIM(Smart Lander for Investigating Moon)”が2024年1月28日夜に運用を再開しました。

この発表は“SLIM”の公式X(旧Twitter)アカウントによるもの。
投稿によると、日本時間1月28日夜に通信を確立。
早速、マルチバンド分光カメラによる科学観測を開始し、10バンド高解像度分光観測の初撮像(ファーストライト)まで終えています。

“SLIM”は1月20日に日本初の月面着陸、および世界初となるピンポイント月面着陸に成功していました。
でも、高度50メートル付近で2基のメインエンジンのうち1基を失い、当初の着陸目標地点から東へ約55メートル離れた地点に着陸。

接地時の降下速度は1.4m/s程度と仕様範囲より低速でしたが、横方向の速度や姿勢などの接地条件が仕様範囲を超えることに…
計画と異なる姿勢で接地した“SLIM”は、太陽電池パネルを西へ向けてつんのめったような姿勢で安定することになります。

太陽電池パネルの向きが想定とは違う方向を向くような姿勢になったことで、“SLIM”は太陽電池からの電力発生ができない状態となり、同日午前2:57には地上からのコマンドにより電源をオフにして休眠状態に入っていました。
この電源オフは、バッテリーが過放電して探査機を失うリスクを避けるためでした。

ただ、太陽電池パネルは西を向いているので、今後月面で太陽光が西から当たるようになれば“SLIM”は運用を再開できる可能性があるんですねー
今回の運用再開は、JAXAの期待通りになったという訳です。

休眠状態に入る前に“SLIM”は、マルチバンド分光カメラによる低解像度のスキャンを行って257枚の画像取得。
これにより、観測対象となる6つの岩石を特定していました。

今回、6つの観測目標のうち“(トイ)プードル”を10バンド高解像度分光観測で初撮像し、その画像が公開されています。
図1.10バンド高解像度分光観測の初撮像(ファーストライト)で“(トイ)プードル”を観測した画像。(Credit: JAXA)
図1.10バンド高解像度分光観測の初撮像(ファーストライト)で“(トイ)プードル”を観測した画像。(Credit: JAXA)
マルチバンド分光カメラは、月のマントルに由来するカンラン石を含んだ岩の分光観測を目的に搭載された観測機器です。

では、なぜカンラン石を分析するのでしょうか?
それは月の起源を探るためです。
月は、ジャイアントインパクト(巨大衝突)という形成過程を経て形成されたと考えられています。

ジャイアントインパクト説によれば、45億年前に火星サイズの天体“テイア”が、作られて間もない原始の地球に衝突。
この衝突から生まれた破片が、かなり急速(おそらく数百万年強の間)に分離し、月を形成したと考えられています。

そこで、月のマントルに由来するカンラン石の組成を分析し、その結果を地球のマントルと比較することで、ジャイアントインパクト説を検証する訳です。

これまでアポロ計画により月の岩石が持ち帰られてきました。
でも、残念ながらそれらの岩石は、“SLIM”で分析しようとしているマントル由来のカンラン石ではありませんでした。

今回の“SLIM”にカンラン石の組成の分析で月の起源は分かるのでしょうか?
復活を遂げた“SLIM”の活躍に期待ですね。


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JAXAの小型月着陸実証機“SLIM”は片方のエンジンを失った状態で月面着陸を成功させていた! その結果や成果など

2024年01月27日 | 月の探査
JAXAは、2024年1月20日午前0:20(日本標準時)に小型月着陸実証機“SLIM(Smart Lander for Investigating Moon)”を月面面に着陸させ、地球との通信を確立。
“LEV(Lunar Excursion Vehicle)”と呼ばれる2機の小型プローブの放出に成功しています。

でも、着陸時の姿勢などが計画通りではなく、“SLIM”は太陽電池からの電力発生ができない状態に…
バッテリーが過放電して探査機を失うリスクを避けるため、同日午前2:57には地上からのコマンドにより電源をオフにしています。
ちなみに電源オフ時点でのバッテリー残量は12%だったそうです。

ただ、着陸後に地上との通信を確立できていること、太陽電池だけが損傷するような状況は考えにくいんですねー
これらの理由からJAXAが判断したのは、“SLIM”はソフトランディングに成功したものの、機体に固定されている太陽電池パネルの向きが想定とは違う方向を向くような姿勢になっていることでした。

JAXAでは、電源をオフにするまでに取得した各データを分析。
その結果、“SLIM”が当初の目標地点から東側に55メートル程度の位置で月面に到達していることが確認できました。

また、ピンポイント着陸性能を示す障害物回避マヌーバ(※1)開始前(高度50メートル付近)の位置精度としては、10メートル程度以下、おそらく3~4メートルと評価しています。
もちろん、データの詳細な評価は継続する必要があります。
でも、“SLIM”の主ミッション“100メートル精度のピンポイント着陸”の技術実証は達成できたと言えそうです。
※1.マヌーバは、宇宙機に搭載されている推進剤を噴射して、位置や姿勢を制御すること。
“SLIM”からは、今後のピンポイント着陸技術に必要な着陸に至る航法誘導に関する技術データ、降下中及び月面での航法カメラ画像データを全て取得できたそうです。

また、接地直前には小型プローブ“LEV-1、LEV-2”の放出にも成功。
さらに、“SLIM”に搭載されたマルチバンド分光カメラ(MBC)についても、電源オフまでの間に試験的に動作し、撮像画像を取得しています。
図1.月面に着陸した“SLIM”(イメージ図)。(Credit: JAXA)
図1.月面に着陸した“SLIM”(イメージ図)。(Credit: JAXA)


片方のエンジンを失った状態での月面着陸

着陸直後から太陽電池の発生電力が得られない状況が確認されたので、JAXAではあらかじめ用意していた異常時対応手順を実施。
着陸から同日1時50分頃にかけて“SLIM”上のデータダウンロードや消費電力の削減を試み、1時50分~2時35分頃にマルチバンド分光カメラ(MBC)による月面の観測を行っています。

このダウンロードされた技術データの分析からは、太陽電池パネルが電力を発生しない姿勢で月面に接地した経緯も分かってきています。
原因は、高度50メートル時点で障害物回避マヌーバを開始する直前、“SLIM”に搭載された2基のメインエンジンうち1基の推力が失われたことにあるようです。

“SLIM”の着陸降下シーケンスは、2024年1月19日23時59分58秒に前半の動力降下フェーズが始まっています。
“SLIM”は、カメラで撮影したクレーターの分布を元に位置を把握する、画像照合航法を行いながら水平方向の速度を落としつつ、高度約15キロから約6.2キロまで降下していきます。

そして、後半の垂直降下フェーズに移行した“SLIM”は、高度約4000メートル及び約500メートルで画像照合を行い水平方向の位置を補正しつつ降下を継続(修正量はそれぞれ約100メートルと約50メートル)。
高度約50メートルでは画像を元にした月面の障害物検出が行われ、当初の予定から11.8メートル離れた地点を最終的な目標地点として降下が続けられました。

でも、高度約50メートルまで降下した1月20日0時19分18秒頃、突如“SLIM”に搭載されている2基のメインエンジンの合計発生推力が約55%まで低下。
着陸後の温度変化を調べた結果、片方のメインエンジン(-X側)に何らかの異常が発生したものと考えられています。
同時刻に“SLIM”の航法カメラで撮影された画像にはノズルと見られる物体が写り込んでいたので、ノズル部が破断した結果としてこのメインエンジンの推力が大部分失われたと見られています(実際に何が起こったのかは調査中)。
図2.“SLIM”の片方のメインエンジン(-X側)に何らかの異常が発生したと考えられる2024年1月20日0時19分18秒前後に航法カメラで撮影された画像を比較したもの。青矢印で示された月面の岩は前後の画像両方に映っているが、後に撮影された画像(右)で赤矢印で示された特徴は、前に撮影された画像(左)には映っていない。赤丸で示されている物体はメインエンジンのノズルのような形状をしている。(Credit: JAXA)
図2.“SLIM”の片方のメインエンジン(-X側)に何らかの異常が発生したと考えられる2024年1月20日0時19分18秒前後に航法カメラで撮影された画像を比較したもの。青矢印で示された月面の岩は前後の画像両方に映っているが、後に撮影された画像(右)で赤矢印で示された特徴は、前に撮影された画像(左)には映っていない。赤丸で示されている物体はメインエンジンのノズルのような形状をしている。(Credit: JAXA)
“SLIM”の垂直方向に対して“ハの字型”に搭載された2基のメインエンジンは、横方向に生じる推力を互いに打ち消し合うように設計されていました。
でも、片方を失ったことで“SLIM”は横方向(東側)に移動しなが降下を継続することになります。
図3.打ち上げ前の2023年6月1日に撮影された“SLIM”。垂直方向に対して“ハの字型”に搭載された2基のメインエンジンのノズルが上を向いている。月面では、この姿勢に近い状態で安定したとみられる。(Credit: JAXA)
図3.打ち上げ前の2023年6月1日に撮影された“SLIM”。垂直方向に対して“ハの字型”に搭載された2基のメインエンジンのノズルが上を向いている。月面では、この姿勢に近い状態で安定したとみられる。(Credit: JAXA)
この状況下で搭載ソフトウェアは自律的に異常を判断し、徐々に東側に移動する“SLIM”の水平位置がなるべく崩れないように制御しながら、もう1基のエンジンでの降下を継続。

高度約5メートルで“LEV-1”と“LEV-2”を放出した“SLIM”は、メインエンジンの異常発生から30秒余りが過ぎた同日0時19分52秒頃、当初の着陸目標地点から東へ約55メートル離れた地点へ、ほぼ垂直の姿勢で接地したと見られています。

接地時の降下速度は1.4m/s程度と仕様範囲より低速でした。
でも、横方向の速度や姿勢などの接地条件が使用範囲を超えていたので、結果として計画と異なる姿勢で接地。
姿勢が大きく変化した“SLIM”は、太陽電池パネルを西へ向けてつんのめったような姿勢で安定することになります。

メインエンジンの推力が失われた原因については、メインエンジン自体ではない何らかの外的要因が波及した可能性が考えられていて、現在も調査中です。

今後進められるのは、取得できた技術・科学的データのさらなる分析や、異常が発生した原因の調査。
分析では“SLIM”の太陽電池は西を向いていることから、今後月面で太陽光が西から当たるようになれば、発電の可能性もあるようです。

JAXAが想定していた“SLIM”の月面上での活動は元々数日程度以上とのことですが、さらなる技術・科学データの取得を目指し、引き続き復旧へ向けて必要な準備を行った行くそうです。

また、月面に展開された小型プローブ“LEV-2”が撮影した着陸後の“SLIM”の画像から分かったこともあります。

それは、“SLIM”が着陸したSHIOLIクレーター付近は着陸時点では昼の前半だったので、画像からも分かるように太陽光は東から当たっていて、西に向いた太陽電池パネルは影に入って電力が発生しない状況にあったことです。

ただ、昼の後半には西から太陽光が当たるようになるので、太陽電池パネルから電力が得られる可能性があるんですねー
JAXAによれば、“SLIM”は太陽電池による発生電力が一定以上あれば動作できるので、今後の運用再開が期待されています。
図4.小型プローブ“LEV-2”が撮影・送信した月面画像。右奥には大きく傾いて接地した状態の“SLIM”(エンジンノズルを上に向けている)が写っている。画像は“LEV-1”経由でデータ転送されたもの。(Credit: JAXA/タカラトミー/ソニーグループ(株)/同志社大学)
図4.小型プローブ“LEV-2”が撮影・送信した月面画像。右奥には大きく傾いて接地した状態の“SLIM”(エンジンノズルを上に向けている)が写っている。画像は“LEV-1”経由でデータ転送されたもの。(Credit: JAXA/タカラトミー/ソニーグループ(株)/同志社大学)


月のマントルに由来するカンラン石の組成を分析

マルチバンド分光カメラは、月のマントルに由来するカンラン石を含んだ岩の分光観測を目的に搭載された観測機器です。

では、なぜカンラン石を分析するのでしょうか?
それは月の起源を探るためです。
月は、ジャイアントインパクト(巨大衝突)という形成過程を経て形成されたと考えられています。

ジャイアントインパクト説によれば、45億年前に火星サイズの天体“テイア”が、作られて間もない原始の地球に衝突。
この衝突から生まれた破片が、かなり急速(おそらく数百万年強の間)に分離し、月を形成したと考えられています。

そこで、月のマントルに由来するカンラン石の組成を分析し、その結果を地球のマントルと比較することで、ジャイアントインパクト説を検証する訳です。
図5.マルチバンド分光カメラによる観測を行う“SLIM”のイメージ図。着陸後は、このような姿勢で安定することが想定されていたが、実際にはつんのめったような姿勢で安定している。(Credit: JAXA)
図5.マルチバンド分光カメラによる観測を行う“SLIM”のイメージ図。着陸後は、このような姿勢で安定することが想定されていたが、実際にはつんのめったような姿勢で安定している。(Credit: JAXA)
マルチバンド分光カメラによる観測は、着陸後に低解像度のスキャンを行って観測対象となる岩石を特定してから、高解像度の分光観測を行う予定でした。
スキャンは通常なら35分で333枚の画像を取得するはずが、太陽電池の発生電力が得られない状況なので15分で打ち切ることに…
このため、257枚の画像取得と送信が行われています。
図6.“SLIM”のマルチバンド分光カメラによる月面スキャン撮像で取得されたモザイク画像。275枚の低解像度モノクロ画像を撮像・合成し、景観画像を作製したもの。モザイク画像の右側の灰色部分は、スキャン運用を途中で切り上げたためデータの無い部分。(Credit: JAXA、立命館大学、会津大学)
図6.“SLIM”のマルチバンド分光カメラによる月面スキャン撮像で取得されたモザイク画像。275枚の低解像度モノクロ画像を撮像・合成し、景観画像を作製したもの。モザイク画像の右側の灰色部分は、スキャン運用を途中で切り上げたためデータの無い部分。(Credit: JAXA、立命館大学、会津大学)
マルチバンド分光カメラによる高解像度分光観測の実施は、太陽電池の発生電力が今後回復するかどうかにかかっています。

観測候補の岩石には、相対的な大きさがイメージできるように“セントバーナード”や“しばいぬ”といった愛称が付けられていて、今後電力が回復した際には速やかに観測が行えるよう準備が進められています。
図7.マルチバンド分光カメラによる月面スキャン撮像で取得されたモザイク画像を拡大したもの。この画像をもとに観測対象の岩石を識別し、相対的な大きさがイメージできるような愛称をつけて、今後電力が回復した時に速やかに10バンド高解像度分光観測が行えるよう準備を進めている。(Credit: JAXA、立命館大学、会津大学)
図7.マルチバンド分光カメラによる月面スキャン撮像で取得されたモザイク画像を拡大したもの。この画像をもとに観測対象の岩石を識別し、相対的な大きさがイメージできるような愛称をつけて、今後電力が回復した時に速やかに10バンド高解像度分光観測が行えるよう準備を進めている。(Credit: JAXA、立命館大学、会津大学)


SLIMミッションの技術実証の結果と成果

最終的に“SLIM”は、着陸目標地点から約55メートル離れた場所に着陸することに成功しました。

JAXAは合計14回(7領域で2回ずつ)実施された画像照合航法の結果は全て正常に完了していて、航法精度は10メートル程度以下、高度約50メートル行われた障害物回避マヌーバ付近までの状況から、ピンポイント着陸精度も10メートル程度以下(おそらく3~4メートル)と評価しています。

これまでの月探査機の着陸精度が数キロから十数キロ以上だったので、“SLIM”は驚異的な着陸精度を実証したと言えます。
これほどの着陸精度を発揮したからこそ、メインエンジン1基の喪失という事態に遭遇しても、フルサクセス項目の1つ“100メートル精度のピンポイント着陸”の技術実証を達成できたと言えます。

ただ、これまでの方法では着陸が難しい斜面にも安定した姿勢で接地するために考案された2段階着陸方式(※2)の挙動は、接地時の横方向速度や姿勢が仕様範囲を超えていたこともあり、今回のミッションでの技術実証はできませんでした。
※2.月面に対して垂直の姿勢で降下し、着陸直前に機体を斜めに傾けて半円形をした脚で一度接地してから、斜面に向かって倒れ込むように横向きに設置するという特徴的な着陸方法になります。
図8.“SLIM”は、月周回軌道を離れてからは、月面に対して垂直の姿勢で降下。着陸直前に機体を斜めに傾けて横向きに設置するという特徴的な着陸方法を採用している。(Credit: JAXA)
図8.“SLIM”は、月周回軌道を離れてからは、月面に対して垂直の姿勢で降下。着陸直前に機体を斜めに傾けて横向きに設置するという特徴的な着陸方法を採用している。(Credit: JAXA)
また、ミニマムサクセス項目の1つ“金属3Dプリンターで製造された軟着陸のためのシンプルな衝撃吸収機構の実現”や、エクストラサクセス唯一の項目である“月面到達後に日没まで一定期間ミッションを行う”など、一部の工学実験目標は調査中もしくは継続中になっています。

今後、太陽光が太陽電池パネルに当たるようになれば、再び動作する可能性があるので、もうしばらくは“SLIM”から目が離せない状況が続きます。


2機の小型プローブ“LEV-1”と“LEV-2”

月面に展開された2機の小型プローブうち“LEV-1”は、2024年1月20日0時19分49秒~51秒の間に“SLIM”から放出され、同日0時19分51秒~53秒の間に月面に着陸し、同日0時20分30秒から月面での活動を開始しています。

40分以上可能な限りと計画されていた活動時間は1時間51分程度続き、通信電波は同日2時10分に停止したようです。

“LEV-1”にはバネの力で月面を蹴るパッドが搭載され、跳躍(ホッピング)しながら移動できる仕組みになっていて、月面で6回跳躍したことが取得されたデータから確認されています。

一方、愛称のSORA-Qで知られる“LEV-2”も“SLIM”からの放出後に月面に着陸。
2つに分割された外殻を展開して活動したことが分かっています。

さらに、LEV-2”が撮影した着陸後の“SLIM”の画像からは、
“SLIM”から正常に放出された“LEV-2”が月面で想定通り変形して活動したこと、
“SLIM”の検出と画像の選定を行う画像処理アルゴリズムが正しく機能したこと、
“LEV-1”との間で正常に通信が交わされ“LEV-1”経由で画像が送信されたこと、
などの機能が正常に動作したことが確認できました。
図9.月面に到達した2機の小型プローブ“LEV-1”(左)と“LEV-2”(右)のイメージ図。(Credit: JAXA)
図9.月面に到達した2機の小型プローブ“LEV-1”(左)と“LEV-2”(右)のイメージ図。(Credit: JAXA)
こうした成果が確認されたことで、“LEV-1”と“LEV-2”は“日本初の月面探査ロボット”になったと同時に、“世界初の完全自律ロボットの月面探査”、“世界初の複数ロボットによる同時月面探査”を達成したことになります。
さらに、“LEV-1”は“世界初の跳躍による月面移動”、“LEV-2”は“世界最小・最軽量の月面探査ロボット”にもなっています。

小さなサイズで大きな記録を残した“LEV-1”と“LEV-2”ですが、太陽電池が搭載されている“LEV-1”の運用はまだ終わっていません。

計画通りの活動期間を終えた“LEV-1”は、現在バッテリーの電力を使い切ったか、温度が上昇したため活動を停止して待機中の状態。
太陽電池パネルに太陽光が当たるようになったり、温度が下がったりすれば活動を再開する可能性があります。
このことから、引き続き“LEV-1”からの電波を受信する体制を維持する予定です。

昨今、対象になる天体についての知見が増え、探査すべき内容が今までよりも具体的になっているので、探査対象の付近への高精度着陸が必要になっています。
また、将来の太陽系科学探査で必要になるのが、より高性能な観測装置の搭載です。
その時のために探査機システムを軽量化し、その分を観測装置にリソース配分ができるよう、探査機の軽量化は欠かせないんですねー

“SLIM”は、将来の月惑星探査に必要なピンポイント着陸技術と、小型で軽量な探査機システムの実現を目指す月面探査機です。
目指しているのは、これまでの“降りやすいところに降りる”着陸ではなく、“降りたいところに降りる”着陸への質的な転換。
これを実現することで、月よりもリソース制約の厳しい惑星への着陸も、現実のものになっていくはずです。

さらに期待されるのは、“LEV-1”と“LEV-2”の開発と運用で得られた技術が、今後の宇宙探査や月面小型プローブに活かされることです。
月面着陸というイベントは終わりましたが、もう少し“SLIM”と“LEV-1”の活動が続くといいですね。


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【着陸成功】いよいよ月面着陸へ! JAXAの小型月着陸実証機“SLIM”が着陸降下準備フェーズに移行

2024年01月17日 | 月の探査
2024年1月20日更新
2024年1月20日午前0:20(日本標準時)
小型月着陸実証機“SLIM”が月面に着陸したことが確認されました。
着陸後の“SLIM”との通信は確立されているそうです。
ただ、太陽電池が電力を発生していない状況であり、現在月面からのデータ取得を優先して実施してる状態。今後は取得できたデータの詳細な解析を進め、状況などは随時発表されるそうです。


JAXAは、小型月着陸実証機“SLIM(Smart Lander for Investigating Moon)”の月周回軌道投入以降の運用結果や計画を踏まえて、準備が整ったことを確認したので、2024年1月10日に着陸効果準備フェーズへ移行することを決定しました。

すでに“SLIM”は、1月14日17時32分(日本標準時)に遠月点降下マヌーバ(※1)を正常に実施・完了。
その後、高度約600キロの円軌道に予定通り投入されたことが確認されています。
遠月点は軌道上で月から最も遠ざかる地点、近月点は軌道上で最も月に近づく地点。
マヌーバは、宇宙機に搭載されている推進剤を噴射して、位置や姿勢を制御すること。
現在、“SLIM”は正常に動作していて、今後は近月点降下マヌーバを実施し、2024年1月19日に近月点は高度15キロまで低下する予定です。

“SLIM”が着陸を予定しているのは、月の地球側にある“神酒の海(Mare Nectaris)”の西に位置するSHIOLIクレーター付近。
1月20日午前0:00頃(日本標準時)に着陸降下を開始し、同0:20頃の着陸を予定しています。

着陸に成功すれば日本初の月面着陸となり、世界でもアメリカ、旧ソ連(ロシア)、中国、インドに続く5か国目になります。

月面着陸直前の1月19日(金)23:00から、JAXA YouTube公式チャンネル“JAXA Channel”でライブ中継番組が配信される予定です。
JAXAの小型月着陸実証機“SLIM”のピンポイント月着陸ライブ・記者会見。
JAXA YouTube公式チャンネル“JAXA Channel”(1月19日(金)23:00から)


☆ “SLIM”ミッションのココに注目 ☆

“SLIM”のミッションには幾つかの特徴があります。

1つ目は、推進剤の消費量が少ない軌道の採用です。

2023年9月7日に打ち上げられた“SLIM”は、ロケットからの分離後、予定していた軌道への投入に成功しています。

探査機が惑星の近傍を通過するとき、その惑星の重力や公転運動量などを利用して、速度や方向を変える飛行方式があります。

この飛行方式の特徴は、燃料を消費せずに軌道変更と加速や減速が行えることにあります。
積極的に軌道や速度を変更する場合を“スイングバイ”、観測に重点が置かれる場合を“フライバイ”と言い、使い分けています。

“SLIM”のミッションでは、着陸機自身のエンジンと限られた推進剤で月へ向かうためスイングバイを実施。
飛行時間が長くなる代わりに推進剤の消費量が少ない軌道を採用しています。

そのため、月スイングバイを終えた“SLIM”は、月や地球から一旦大きく離れるような軌道を飛行した後で、月周回軌道に入っています。

2つ目は、“降りたいところに降りる”着陸への質的な転換です。

昨今、対象になる天体についての知見が増え、探査すべき内容が今までよりも具体的になっているので、探査対象の付近への高精度着陸が必要になっています。

“SLIM”では、月の地球側にある“神酒の海(Mare Nectaris)”の西に位置するSHIOLIクレーター付近の傾斜地に、正確にピンポイント着陸を行うための航法と、二段階式のより安全なタッチダウンを行う技術を実証することになります。

目指している着陸誤差は100メートル以内。
これまでの月面着陸機の誤差は数キロから十数キロ以上だったので、“SLIM”は驚異的な着陸精度を目指すことになります。

このピンポイント着陸技術によって実現するのが、これまでの“降りやすいところに降りる”着陸ではなく、“降りたいところに降りる”着陸への質的な転換。
月惑星の資源探査では、軌道上からリモートセンシングで資源分布を推定し、その後実際に地面を探査することになるので、その際に威力を発揮する技術になります。

3つ目は、月の起源を探ることです。

“SLIM”の着陸地点には、月のマントルに由来するカンラン石が散らばっています。
“SLIM”は着陸後に搭載するマルチバンド分光カメラで、このカンラン石の組成を分析することになります。

なぜ、カンラン石を分析するのでしょうか?
それは月の起源を探るためです。
月は、ジャイアントインパクト(巨大衝突)という形成過程を経て形成されたと考えられています。

ジャイアントインパクト説によれば、45億年前に火星サイズの天体“テイア”が、作られて間もない原始の地球に衝突。
この衝突から生まれた破片が、かなり急速(おそらく数百万年強の間)に分離し、月を形成したと考えられています。

そこで、月のマントルに由来するカンラン石の組成を分析し、その結果を地球のマントルと比較することで、ジャイアントインパクト説を検証する訳です。

ただ、カンラン石は比重が大きいので、通常は地下深くに埋まっています。
地表に露出したカンラン石はクレーター付近に存在していますが、これはクレーター形成時に、衝撃で地下から掘り起こされたものと考えられています。

JAXAは、2007年に打ち上げた月周回衛星“かぐや(SELENE)”で月面のリモートセンシングを実施し、月面におけるカンラン石の分布を突き止めていました。

また、組成分析にあたっては、宇宙線の影響の少ないカンラン石を用いる必要があります。
このため、宇宙線の影響をあまり受けていないカンラン石が存在するとみられる若いクレーターの探査が必要になります。

そう、これらの理由から、着陸地点にはSHIOLIクレーター付近の傾斜地(15度程度の斜面)が選ばれたんですねー

“SLIM”は“2段階着陸方式”と呼ばれる方法で、行きたい場所が斜面であっても、安全な着陸を実現しようとしています。

これは、月面に対して垂直の姿勢で降下し、着陸直前に機体を斜めに傾けて半円形をした脚で一度接地してから、斜面に向かって倒れ込むように横向きに設置するという特徴的な着陸方法になります。

このように“SLIM”のミッションには、ワクワクせせる挑戦がいくつも含まれています。

“LEV(Lunar Excursion Vehicle)”と呼ばれる2機の小型ローバーは、着陸直前の“SLIM”から分離され、月面到達後は画像の取得と、地球へのデータ送信を連携して行う予定です。

1月19日は少し遅くまで起きて、JAXA YouTube公式チャンネル“JAXA Channel”のライブ配信を楽しみませんか。


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