宇宙のはなしと、ときどきツーリング

モバライダー mobarider

カッシーニがとらえた、土星のもっとも内側の環

2013年06月30日 | 土星の探査
土星の環は、土星本体に近い内側からD、C、B、A、F、G、Eとアルファベットで名前が付けられています。

もっとも内側のD環は内縁半径がおよそ67000キロ、外縁半径が74500キロで幅7500キロあり、地球の半径(約6500キロ)よりも広いのですが、広大な土星系全体の中では細く見えるんですねー

アマチュアの天体望遠鏡でもよく見えるA環やB環に比べると、D環はかなり地味な存在で、NASAの土星探査機“カッシーニ”が、およそ50万キロの距離からとらえた詳細な画像を見ても、やっぱり地味だったんですねー
○○○
“カッシーニ”が観測を行った土星のD環、左側の明るい部分は1つ外側のC環。
長時間露出のため、恒星の光が縦方向の筋として写っている。
これは、環自体がひじょうに希薄なためで、長い時間をかけて露出した画像には、ぼんやりとした縞模様が写るのですが、その正体はよく分かっていません。

D環には、環の厚み方向に波打っている様子が見つかっていて、環の中で破片が衝突した痕跡ではないかと考えられているのですが、この波模様の正体も謎なんですねー

月の強重力場から天体衝突の痕跡をさぐる

2013年06月28日 | 宇宙 space
天体の地表には、地形や地殻の物質密度の違いによる重力分布のムラがあります。
このムラの中でも、広範囲にわたって重力が強く高密度と思われる場所は、特に“マスコン(質量の集中)”と呼ばれます。












直径約420キロの
フロインドリッヒ・シャロノフ衝突盆地の
重力分布





1968年に見つかった月面にあるマスコンは、天体衝突の跡らしいとは分かっていたのですが、
2012年に月の重力場を調査したNASAの探査機“グレイル”のデータと、天体衝突の理論モデルを組み合わせた研究により、
今回初めて、その成り立ちが確認されたんですねー

月面の重力分布では、マスコンはダーツの的のような模様として現れます。

この的は、天体衝突の熱でドロドロに溶けた物質が固まって高密度になった中心部、
それを取り囲む重力の弱い内側のリング、さらに外側に噴出物が堆積した重力の強い場所がリング状に取り巻いています。

探査機“グレイル”の観測から、マスコンが軽い地殻と高密度のマントルが天体衝突の衝撃で混ざり合ってできたことが分かります。

こうしたマスコンは火星や水星にも見つかっていて、
その詳細な研究からは、大規模な天体衝突現象や、
それを受けた初期の惑星についての地質学的な理解が進むことが期待されているんですねー

氷河期明けの寒の戻りは、天体衝突が原因?

2013年06月27日 | 宇宙 space
約6500万年前に恐竜などの生物が大量絶滅したのは、
直径10キロ程度の隕石が地球に衝突して、急激な寒冷化を引き起こしたからだという仮設が有力です。
もう少し小規模なんですが、似たことが比較的最近にも起こっていたかもしれないんですねー

最期の氷河期が終わって、地球が温暖化に向かっていた時期。
この時期にも何度か“寒の戻り”と呼べるような寒冷期が存在しました。

中でも1万2800年前から、およそ1000年続いた“ヤンガードリアス期”は、寒冷化が顕著だったようです。
マンモスなどの巨大哺乳類の多くが北アメリカ大陸から消えた時期や、
同じく北アメリカ大陸で広まっていた石器文化である、クローヴィス文化の終焉と重なるので注目されているんですねー

“ヤンガードリアス期”をもたらした原因としては、
これまで海洋循環の変化によって赤道付近の暖かい海水が北へ届かなくなった、という仮設が有力でした。

一方、近年注目されるようになったのが天体衝突説です。





調査が行われた小球体は、
北米から欧州を中心とした
9か国18箇所の
“ヤンガードリアス境界層”から
見つかっている



2007年にクローヴィス文化の遺跡から、相次いで炭素を多く含む黒土が見つかったという発表があり、
これは小惑星か彗星が、北アメリカ大陸に衝突(または衝突直前に空中爆発)したことで、地上の植生が焼けた痕跡だと考えられています。
でも、火災の多くは人為的なものだと考えられるので、黒土は天体衝突がもたらしたものとは言い切れないんですねー

そして今回見つかった新しい証拠が、
砂や岩が高温で溶けてから再び固まったことで形成された、直径1ミリにも満たないビーズ状の物体です。







小球体のサンプル





こうした小球体は火山の噴火や、雷の落下に伴って作られることもあるのですが、
700個近い小球体の成分や磁性を分析したところ、天体衝突以外の要因を除くことができました。

小球体は北アメリカ大陸だけでなく、南アメリカの一部やヨーロッパ、中東にも分布しています。

天体の落下地点を推定するのはまだ難しいのですが、
この衝突の証拠が、アメリカの大型動物の大半が絶滅してしまった主な原因が、大規模な天体衝突であることを示しているんですねー

これまでの理論と一致しない惑星の誕生

2013年06月26日 | 宇宙 space
176光年彼方の“うみへび座TW星”は、質量が太陽の半分よりやや大きい赤色矮星です。
生れてから800万年というとても若い星で、周囲には直径およそ660億キロのチリとガスの円盤が広がっています。

“うみへび座TW星”の原始惑星系円盤
ハッブル宇宙望遠鏡の観測画像(左)とイメージ図(右)


ハッブル宇宙望遠鏡による観測では、“うみへび座TW星”からおよそ120億キロ(太陽~冥王星のおよそ2倍の距離)離れた円盤中に、幅30億キロの隙間があることが分かっています。

こんなに軽い恒星から、これほど遠い場所に円盤の隙間が見つかったのは初めてで、
どうやら、この隙間は円盤の中で形成された惑星の重力的な影響で、作られたようです。

でも、もし本当に惑星が存在するなら…
今もっとも典型的とされる惑星形成理論と矛盾が生じることになるんですねー

これは、理論モデルでは惑星ができるまでには1000万年以上かかり、中心から離れた場所ならさらに時間が必要となるからです。
“うみへび座TW星”自体が誕生から800万年しか経っていないので整合性がとれなくなります。

また、アルマ望遠鏡の観測では、砂粒程度の大きさのチリは恒星から隙間のすぐ内側の88億キロまで広がっていて、その外側からぷっつりと存在しなくなっています。
なので、惑星があるのにその外側に砂粒より大きな粒子がないという観測結果も、これまでの理論とは相容れないものになります。

もうひとつ考えられている惑星形成プロセスとして、円盤の一部が重力的に不安定となり収縮するというものがあります。
この場合は、数千年あれば惑星ができあがるので時間の矛盾は解消されるのですが、別の矛盾が生じるんですねー

この理論で作られると予測される惑星の質量は、地球の数百倍ほどなのですが、
隙間の中の様子から推測した惑星の質量は、地球の6~28倍だとか…
いわゆる“スーパーアース”から“巨大氷惑星”程度の大きさになるんですねー

この謎を解明するには、アルマ望遠鏡や次世代赤外線望遠鏡での詳細な観測が、まだまだ必要なようですね。

ダークマターの分布が“冷たい暗黒物質”モデルと一致

2013年06月25日 | 宇宙 space
ダークマター(暗黒物質)は、電磁波による観測で直接見ることはできないのですが、重力的な影響からその存在が確認されている物質です。
宇宙の物質の約85%を占めると考えられているのですが、まだその正体は謎のままなんですねー

ダークマターについて、現在もっとも有力なモデルは、“冷たいダークマター”と呼ばれるものです。

“冷たい”とは、熱運動の速度がひじょうに小さいことを示していて、「ダークマター同士あるいは通常の物質との間には重力だけが作用する」 っという理論です。

このモデルが正しければ、銀河団のような質量の大きい天体におけるダークマターの分布は、銀河など低質量の天体と比較してあまり中心に集中せず、やや拡がるはずだとされています。

直接見ることはできないダークマターですが、
その重力によって、銀河団の向こう側にある天体像をゆがませる“重力レンズ効果”を調べれば分布を知ることができるんですねー

銀河団の観測画像から背景の天体像のゆがみ(重力レンズ効果)を解析して、
それを引き起こす重力源であるダークマターの分布をあぶり出すプロセス


すばる望遠鏡で撮影した50個の銀河団における、ダークマターの分布を調べた結果、
ダークマターの分布を平均すると、“冷たいダークマター”モデルが予測するものにひじょうに近いという結果が得られました。

観測された個々の銀河団のダークマター分布(左)
それらを平均したダークマター分布(中央)
各種モデルで予測されるダークマター分布(右)
予測分布のうち、観測データともっとも一致するのが“冷たい暗黒物質モデル”なのが分かる。


従来の研究では、銀河団中心への集中度が大きい… つまり“冷たいダークマター”モデルと一致しない結果が報告されていたのですが、今回の結果は有力モデルを支持するものとなったんですねー

これまでの研究では、用いた銀河団のサンプルが少ないので、
銀河団の個性が結果に影響しているのではないかと疑われていました。

でも今回は、50個という過去最大の銀河団サンプルを偏りなしに選択して、
すばる望遠鏡で撮影した高精度のデータを解析することで、ダークマターの分布の平均的な姿を導き出しています。

今後は、ダークマターの性質や銀河形成に関わる物理過程を解き明かすため、銀河スケールでのダークマター分布を測定するようですよ。