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NASAの小惑星探査機“サイキ”がイオンエンジンを始動! 時速20万キロまで加速し小惑星“プシケ”への到着は2029年

2024年05月30日 | 太陽系・小惑星
現地時間5月22日のこと、NASAは小惑星探査機“サイキ(Psyche)”のイオンエンジン始動を発表しました。

2023年10月に打ち上げられた“サイキ”の目的は、火星と木星の間に広がる小惑星帯を公転する小惑星“16 Psyche(プシケ)”の周回探査。
このミッションは、“ディスカバリー計画”14番目として2017年に選定されました。
図1.小惑星探査機“サイキ”は打ち上げ後に約6年間をかけて小惑星“プシケ”へ向かう。小惑星“プシケ”に到着するのは2029年8月の予定。(Credit: NASA/ JPL–Caltech / ASU)
図1.小惑星探査機“サイキ”は打ち上げ後に約6年間をかけて小惑星“プシケ”へ向かう。小惑星“プシケ”に到着するのは2029年8月の予定。(Credit: NASA/ JPL–Caltech / ASU)
小惑星“プシケ”は、鉄やニッケルといった金属を豊富に含む“M型小惑星”に分類されています。
その正体は初期の太陽系で形成された原始惑星のコア(核)ではないかと予想されてきました。

過去に探査機が接近して観測した小惑星や彗星は主に岩石や氷でできているので、“プシケ”は金属質の小惑星を間近で観測する初のミッションになります。

地球のコアを直接調べることはできないので、原始惑星のコアだった可能性がある“プシケ”の観測を通して、地球のような惑星の形成についての貴重な情報が得られると期待されています。

イオンエンジン(ホールスラスター)は、“サイキ”に搭載された太陽電池パネルで生じた電力により、キセノンガスのイオンを加速し放出することで、推進力を生み出します。
得られる推力は弱いものの、少ないガス搭載量で長期間のミッションが可能になります。
図2.小惑星探査機“サイキ”に搭載されているものと同じイオンエンジン(ホールスラスター)。青く光っているのがキセノンのイオン。推進剤のキセノンは合計1085キロ充填されている。(Credit: NASA / JPL-Caltech)
図2.小惑星探査機“サイキ”に搭載されているものと同じイオンエンジン(ホールスラスター)。青く光っているのがキセノンのイオン。推進剤のキセノンは合計1085キロ充填されている。(Credit: NASA / JPL-Caltech)
現在、“サイキ”は時速13万5000キロで飛行していて、今後は時速20万キロまで加速し、“プシケ”への到着は2029年が予定されています。

“サイキ”は“プシケ”を少なくとも2年間周回している間に探査を進めることになります。

さらに、“サイキ”ではレーザーを活用した深宇宙光通信“DSOC(Deep Space Optical Communications)”の技術実証も予定されています。

これは、光レーザーを用いて深宇宙との広帯域データ通信を実証するもの。
従来の無線通信と比較して、10倍から100倍とはるかに高速な通信が可能となります。
この技術が実用化できれば、深宇宙探査において得られるデータ量が格段に増す可能性があります。
図3.小惑星探査機“サイキ”の予定航路。2026年5月に火星フライバイを実施する。(Credit: NASA / JPL-Caltech)
図3.小惑星探査機“サイキ”の予定航路。2026年5月に火星フライバイを実施する。(Credit: NASA / JPL-Caltech)


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小惑星の衛星セラムに働く力から年齢を200~300万歳と予測! コストが低く多くの小惑星に適用できる年齢推定方法

2024年05月18日 | 太陽系・小惑星
太陽系には無数に小惑星が存在していますが、実はその年齢を知ることは一般的に困難なんですねー

小惑星の年齢は、表面にあるクレーターの密度が推定の大きな手掛かりとなります。
ただ、この手法が使えるのは、探査機による接近観測が行われたほんの一握りの小惑星に限られてしまいます。

今回の研究では、NASAの小惑星探査機“Lucy(ルーシー)”が接近観測を行った152830番小惑星ディンキネシュの衛星セラムについて、力学的なシミュレーションを通じて年齢推定を行っています。
その結果、セラムの年齢はわずか200~300万歳で、相当に若いことが示されました。

さらに、この年齢はクレーターの密度を元に推定された年齢と一致していたんですねー

力学的な年齢推定は、望遠鏡などを用いた遠隔的な観測方法に適用できる手法です。
このことから、無数に存在する小惑星への幅広い適用が期待されます。
この研究は、コーネル大学のColby Merrillさんたちの研究チームが進めています。
図1.主星の小惑星ディンキネシュと、その衛星セラム(画像右下の小さな天体)。(Credit: NASA, Goddard, SwRI, Johns Hopkins APL & NOIRLab)
図1.主星の小惑星ディンキネシュと、その衛星セラム(画像右下の小さな天体)。(Credit: NASA, Goddard, SwRI, Johns Hopkins APL & NOIRLab)


小惑星はいつ形成されたのか

太陽系に無数に存在する小惑星は、いつ形成されたのでしょうか?
一昔前までは、一律に太陽系誕生時の約45億年前と考えられてきました。

でも、各国の小惑星探査機が小惑星の接近探査を行えるようになると、かなり最近になってから形成されたかもしれない、若い小惑星候補が見つかるようになってきました。

では、小惑星の年齢はどのように推定するのでしょうか?

その一つが、天体衝突で生じたクレーターの密度を測る方法です。
小さな小惑星には、表面を更新するような地質活動が無いので、クレーターの数は増えていく一方だと考えられています。
なので、小惑星の表面にあるクレーターの面積当たりの数を計測することで、年齢を推定することができます。

ただ、この手法は比較的正確に年齢を推定できる一方で、高価な小惑星探査機を打ち上げて表面の詳細な画像を得なければならないという難点もあります。

130万個以上発見されている小惑星の中で、探査機が接近探査を行ったのはほんの数十個ほど。
このため、正確な年齢を推定できたのは、ほんの一握りの小惑星になります。


偶然発見された小惑星の衛星

152830番小惑星ディンキネシュはNASAの小惑星探査機“ルーシー”による探査対象の小惑星です。

2023年11月の接近探査と写真撮影では、ディンキネシュとは別の未知の天体が撮影されていました。(※1)
この天体はディンキネシュの衛星で、セラムと名付けられています。
このセラムは、小惑星帯で接近探査の対象となった最も小さな天体の一つになりました。
※1.実は、最接近の数週間前には、ディンキネシュの明るさが時間と共に変化することから、二重小惑星の可能性が指摘されていた。今回の“ルーシー”による最接近時の観測で、二重小惑星ということが確かめられた。
木星のトロヤ群に属する小惑星は、初期の太陽系における惑星の形成・進化に関する情報が残された“化石”のような天体と考えられています。

これらの天体を間近で探査することから、ミッションと探査機の名前は、エチオピアで見つかった有名な化石人骨の“Lucy”に因んで名付けられています。

ちなみに、ルーシーは約320万年前に生息していたアウストラロピテクス・アファレンシスの一体。
小惑星ディンキネシュは、ルーシーの発見地であるエチオピアのアムハラ語での愛称に因んでいます。
ディンキネシュは、“あなたは驚異的だ”を意味していて、人類学におけるこの化石の重要性を表しています。

一方の衛星セラムは、2000年に発見された約332万年前のアウストラロピテクス・アファレンシスの化石人骨に因んでつけられた愛称で、アムハラ語で“平和”を意味します。
発見地が民族対立によって情勢が不安定な場所なので、あえて平和に対する願いを込めた名称となっています。

また、セラムは推定年齢3歳と、化石として残りにくい幼児だったことや、他の幼児化石と比べて保存状態が極めて良く、全身の約60%が見つかっていることから、発見が重要視されています。

偶然発見された衛星セラムも、ある意味で探査が予定されていたディンキネシュよりも興味深い観測対象だと言えます。

セラムは、その形状から2つの天体がくっついている“接触二重小惑星”だと推定されています。
接触二重小惑星自体はイトカワなど複数の発見例がありますが、衛星としての接触二重小惑星はセラムが初めての発見でした。

接触二重小惑星という形態に加え、直径約220メートルという小ささや、主星であるディンキネシュの大きさと形状から、セラムは大小様々な岩石が緩く結合した“ラブルパイル天体(rubble pile:瓦礫の積み重なり)”で、過去にディンキネシュから分裂した岩塊で形成されていることが予測されています。

これらの事実や予測は、セラムがディンキネシュと同時ではなく、別々のタイミングで生成された若い天体であることを示唆していました。
図2.画像右側が衛星セラム。接触二重小惑星であることがよくわかる。(Credit: NASA, Goddard, SwRI & Johns Hopkins APL)
図2.画像右側が衛星セラム。接触二重小惑星であることがよくわかる。(Credit: NASA, Goddard, SwRI & Johns Hopkins APL)


衛星セラムに働く力から年齢を予測

今回の研究では、セラムが形成されてからどのくらいの年数が経過したのかを、推定するためのシミュレーションを実施しています。
これは、セラムの形状が不規則なことや、小惑星の衛星という状況にあったため可能となった研究でした。

セラムのような状況にある天体に働く力は主に2つあります。

1つ目は潮汐力です。
セラムは、瓦礫の山と例えられるほど岩石同士の結合が緩いラブルパイル天体。
このため、自分自身の自転によって岩石が徐々に赤道付近に蓄積されていきます。

赤道付近の直径が大きくなるほど主星のディンキネシュから受ける潮汐力は大きくなるので、セラムの自転速度もその影響で変化します。

一方、セラムのような形状の天体には、もう1つの力“YORP効果(ヤルコフスキー・オキーフ・ラジエフスキー・パダック効果)”(※2)が働きます。
※2.小さく不規則な形状をした天体は、太陽放射によって自転周期が変化する(これをYORP効果と呼ぶ)。YORP効果のシミュレーションでは、自らが分裂するほど自転が加速されることがある。
球形から大きく外れた不規則な形状の天体に太陽光が当たると、向いた面によって熱を受ける時と放出するときのバランスが崩れてしまいます。
これによって、自転速度を加速または減速させる力が働くことになります。

セラムは、ディンキネシュとの連星と見做せるので、“BYORP効果(連星YORP効果)”の下で予測が行われました。
研究チームは、セラムに対する力学的なシミュレーションを100万回実施。
ディンキネシュからセラムが分裂して、現在の自転周期や公転周期に落ち着くまでにかかる時間を算出しています。

このシミュレーションは、現在のセラムにかかる潮汐力とBYORP効果が、互いに平衡状態(力が釣り合っている状態)に達しているという仮定の下で算出。
その結果、セラムが現在の状態になるまでにかかった時間は、中央値が297万年、最も出現する頻度が高いのは200~204万年という数値となりました。

このことから、研究チームはセラムの年齢は200~300万歳という結果をまとめています。

1億歳未満が“若い”と表現される天文学の世界において、200~300万歳と推定されるセラムの年齢は相当若いもの。
このことから、研究チームはプレスリーリース上で“赤ちゃん”と表現しています。

そして、偶然にも衛星セラムの年齢は、名前の由来となった幼児化石のセラムと同年代か、それよりも若いのかもしれません。


コストが低く多くの小惑星に適用できる年齢推定方法

今回の研究で重要な点は2つあります。

まず1つは、今回の研究で推定されたセラムの年齢が、これまでのクレーターの密度で測定する方法と同じだったという点です。

お互いに推定方法が全く異なっていて、使用されたデータにも共通点が無いのに同じ結果が得られたことを踏まえると、約200~300万歳というセラムの推定年齢は、正しい可能性が極めて高いことを示唆しています。

もう1つは、今回の推定方法が、原理的には接近探査を行っていない天体にも適用できるという点です。

クレーターの密度で年齢を推定するには、解像度の高い表面の撮影画像が必要となります。
そのためには、高価な探査機を送り込まなければなりません。

一方、今回の力学的シミュレーション研究を行うには、地上に設置された望遠鏡で観察した結果を使用すればいいので、コストは大幅に低くなり、適用可能な小惑星は大幅に増えることになります。

ただ、力学的シミュレーションでは、適用できるのが連星関係にある小惑星で、なおかつYORP効果が見られるほど小さな天体に限定されてしまいます。
さらに、大きさが推定可能なほど十分な観測記録が必要となるなど、ある程度の制約もあります。

それでも、この方法にはクレーターを利用する方法と比べて、ずっと多くの小惑星に適用できるという利点があります。

多数の小惑星の年齢を推定できれば、小惑星全体の“人口ピラミッド”のようなものも作れるはずです。
今回の研究は、セラムという1個の小惑星に留まらず、小惑星全体の進化を探る上でも重要な役割を果たすものと言えますね。


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やっぱり月面から飛び出した破片? 地球を周回しているように見える準衛星“カモオアレワ”を生み出したクレーターを特定

2024年05月09日 | 太陽系・小惑星
469219番小惑星“カモオアレワ(Kamo oalewa)”(※1)、は見た目は地球の周囲を公転しているように見える“準衛星(Quasi-satellite)”の一つです。

その公転軌道や表面の物質の観測結果が示しているのは、カモオアレワが普通の小惑星よりも月に類似していること。
このことから、カモオアレワが月の破片だという証拠探しが行われています。

今回の研究では、カモオアレワのような破片が月の表面から飛び出すには、どのような条件が必要かをシミュレーションで解析しています。

その結果分かってきたのは、数百万年前に直径10~20キロのクレーターを作るような天体衝突が、カモオアレワのような準衛星軌道を持つ小惑星を飛び出させるということでした。

これほどの直径と若さを持つクレーターはジョルダーノ・ブルーノしかないので、研究チームではカモオアレワの起源がジョルダーノ・ブルーノである可能性がとても高いと考えているようです。
※1.日本語表記は“カモオアレワ”が一般的だが、ハワイ語の発音に忠実ではないとされている。ただ、正式な表記が定まっていないので、本記事内では“カモオアレワ”を使用している。より原語に近い表記として“カモッオアレヴァ”や“カモ・オーレヴァ”が提案されている。

この研究は、清華大学のYifei Jiaoさんたちの研究チームが進めています。
図1.カモオアレワが月から飛び出した破片を起源とする可能性を念頭に描かれたイメージ図。(Credit: Addy Graham(University of Arizona))
図1.カモオアレワが月から飛び出した破片を起源とする可能性を念頭に描かれたイメージ図。(Credit: Addy Graham(University of Arizona))


月を飛び出し地球の周りを公転しているように見える小惑星

2016年に発見されたカモオアレワは、私たちから見ると、地球の周りを1年かけてゆっくりと公転しているように見える奇妙な小惑星です。

ただ、これは見かけの動きなんですねー
太陽から見ると、地球とカモオアレワはそれぞれ独自に太陽を公転しています。

このように、実際には地球の衛星ではないものの、見た目の上では衛星のように振る舞う天体を“準衛星”と呼びます。
図2.カモオアレワの公転軌道(黄色)。私たちからは地球を周回する衛星に見えるが、実際には太陽を公転している。このような軌道を持つ小惑星を準衛星と呼ぶ。(Credit: NASA & JPL-Caltech)
図2.カモオアレワの公転軌道(黄色)。私たちからは地球を周回する衛星に見えるが、実際には太陽を公転している。このような軌道を持つ小惑星を準衛星と呼ぶ。(Credit: NASA & JPL-Caltech)
地球近傍小惑星(※2)は3万個以上見つかっています。
そのうち準衛星は数個しかなく珍しい存在ですが、カモオアレワはその中でも注目を集めています。
※2.公式な定義としては、近日点距離(太陽に最も近づく距離)が1.3au(約2億キロ)未満の公転軌道を持つ小惑星のこと。より口語的には、地球の公転軌道に接近または交差する公転軌道を持つ小惑星のこと。
まず、望遠鏡による観測結果から分かっているのは、カモオアレワの表面を構成する物質が他の小惑星とは似ていないこと。
むしろ月の物質に類似しているという結果が得られているんですねー
このことは、月の表面に別の天体が衝突して飛び出した破片の一つがカモオアレワである可能性を示唆しています。

また、カモオアレワは準衛星である期間と、それ以外の期間を何回か繰り返していると推定されています。
現在のカモオアレワは準衛星の期間にいますが、その長さは約300年で、これは約3800年間安定とされている“2023 FW13”に次いで2番目に長寿命です。
他の準衛星がせいぜい数十年しか続かないことを考えると、その安定性はかなり高いと言えます。

カモオアレワは発見直後から安定的な順衛星だと判明した一方で、“2023 FW13”が安定的な順衛星だと判明したのは発見から10年以上経った2023年のことで、研究の長さにも差がありました。

ただ、カモオアレワが月の破片だとする仮説には賛否両論がありました。

否定的な意見の背景には、月を飛び出したという過去と、現在は順衛星であることとの矛盾があります。

小惑星が順衛星となるには、月や地球に対する相対速度がかなり遅い必要があります。
これに対して、月から飛び出した破片が月の重力を振り切るには、月に対する大きな相対速度が必要となるので、お互いに矛盾しているように見えます。

この矛盾については、確率こそ低いものの、月から飛び出した破片がカモオアレワのような順衛星軌道に到達する可能性を示した研究が2023年に提出されていました。


天文学的に若く大きな直径を持つクレーター

今回の研究では、カモオアレワのような破片が月から飛び出すには、どのような天体衝突を仮定すればよいのかを数値シミュレーションで解析。
その結果と一致するクレーターが、月に存在するかどうかの特定作業を行っています。

なお、この研究はアリゾナ大学が所管する月惑星研究所が主導しています。
月惑星研究所は、今回の研究の前提となる2つの論文でも主導的役割を果たしています。

カモオアレワの直径は40~100キロと推定されているので、天体衝突もそれなりに大きな規模となるはずです。

研究チームは、シミュレーションを重ねることで、月に衝突した天体の大きさは少なくとも直径1キロあり、衝突によって直径10~20キロのクレーターが生じたと推定。
後に、カモオアレワとなる破片は、衝突の衝撃で月の表面の地下深くから飛び出したと推定しています。

また、時々準衛星となるカモオアレワの現在の公転軌道の寿命を0.1~1億年と推定。
これは、他の地球近傍小惑星と比べても短いものとなります。
このことから、カモオアレワを生み出した天体衝突が起こったのは数百万年前という、天文学的に見てかなり最近の出来事だったことが予想されます。
図3.NASAの月周回衛星“ルナー・リコネサンス・オービター”が撮影したジョルダーノ・ブルーノクレーターの全体像。(Credit: NASA, GSFC & Arizona State University)
図3.NASAの月周回衛星“ルナー・リコネサンス・オービター”が撮影したジョルダーノ・ブルーノクレーターの全体像。(Credit: NASA, GSFC & Arizona State University)
そこで、研究チームが考えたのは、このような条件に合致するクレーターは一つしかないこと。
それは、地球から見て月のほぼ東縁にある“ジョルダーノ・ブルーノ”クレーターでした。

ジョルダーノ・ブルーノは直径が約22キロあり、JAXAが打ち上げた月周回衛星“かぐや”の観測結果によれば、その形成年代は100~1000万年前と推定されています。(※3)
※3.古い記録によれば、1178年6月18日に“月から炎が噴き出した”とするカンタベリーの修道士による記録があり、これがジョルダーノ・ブルーノを作った衝突という説もある。ただ、これほどの規模の衝突だと、地球に月の破片による流星群がもたらされると考えられるが、そのような記録はない。“かぐや”による観測結果も合わせると、ジョルダーノ・ブルーノが西暦1178年に形成されたとする説は否定的となる。
今回の研究で示された、これほどの直径と若さを持つクレーターはジョルダーノ・ブルーノしかないので、研究チームではカモオアレワの起源がジョルダーノ・ブルーノである可能性がとても高いと考えています。


月を起源とした地球近傍小惑星の割合

ただ、カモオアレワの起源を月に求める研究は、他の地球近傍小惑星の起源にも影響を与えそうです。

これまで、地球近傍小惑星は火星と木星の間にある小惑星帯が起源で、惑星の重力によって公転軌道が変化したものではないかと考えられてきました。
でも、カモオアレワに関する一連の研究が示唆しているのは、地球近傍小惑星の中には月を起源とする天体が相当数含まれている可能性でした。

今回のシミュレーションでは、衝突によって生じた直径10メートル程度の小さな破片が数万個、月から飛び出して太陽を公転するようになると推定されています。

大部分は、100万年未満という天文学的には一瞬のスケールで再び月に衝突したと考えられていますが、その一部はカモオアレワのように長期間安定した公転軌道を維持すると考えられます。

今回の研究が正しければ、小さな地球近傍小惑星のうち、月を起源としているものの割合はもっと多いかもしれません。


サンプルによる比較

2025年に中国国家航天局が打ち上げを予定している小惑星探査機“天問2号”(※4)により、カモオアレワからのサンプルリターンが計画されています。
なので、サンプルを地球に持ち帰れば、カモオアレワが本当に月の破片かどうかを確定できるはずです。
※4.仮称“鄭和(ていわ、チェン・フー)”
また、NASAが2027年に打ち上げを予定している“NEOサーベイヤー”のような地球近傍小惑星の探査ミッションで、月を起源とする天体が新たに見つかるかもしれません。

興味深いことに、私たちはすでにカモオアレワと同等のサンプルを持っているかもしれません。
当時のソ連が1976年に打ち上げた月着陸船“ルナ24号”が採取した月の石の中には、ジョルダーノ・ブルーノ由来の破片とされるサンプルが含まれています。

もしも、カモオアレワからのサンプルリターンが実現すれば、“ルナ24号”のサンプルと比較することで、この説が正しいかどうかわかりますね。


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小惑星リュウグウから回収した試料の表面に太陽系の磁場情報を記録した新しい組織を発見

2024年05月04日 | 太陽系・小惑星
今回の研究では、探査機“はやぶさ2”が小惑星リュウグウから回収した試料の表面を詳細に調査しています。

その結果、“マグネタイト(磁鉄鉱)”(Fe3O4)粒子が還元して非磁性となった、似た構造の木苺状組織を発見し、“疑似マグネタイト”(疑似Fe3O4)と命名しています。

さらに、それを取り囲むように点在する渦状の磁区構造を持った多数の鉄ナノ粒子からなる新しい組織も同時に発見したそうです。

今回の研究は、“はやぶさ2”の初期分析チームである“石の物質分析チーム”にょる初期分析の一環として行われました。
この研究は、北海道大学 低温科学研究所の木村勇気教授、ファインセラミックセンターの加藤丈晴主席研究員、同・穴田智史上級研究員、同・吉田竜視上級技師、同・山本和生主席研究員、日立製作所 研究開発グループの谷垣俊明主任研究員、神戸大学大学院 人間発達環境学研究科の黒澤耕介准教授、東北大学大学院 理学研究科の中村智樹准教授、東京大学 理学系研究科の佐藤雅彦助教(現・東京理科大学 准教授)、同・橘省吾教授、京都大学大学院 理学研究科の野口高明教授、同・松本徹特定助教たちの共同研究チームが進めています。
本研究の成果は、イギリスのオンライン科学誌“Nature Communications”に掲載されました。
図1.宇宙チリが小惑星リュウグウに衝突した痕跡から、リュウグウ試料と、同試料に記録されていた磁場の渦を電子の波で観察したイメージ。(出所: 東大Webサイト)
図1.宇宙チリが小惑星リュウグウに衝突した痕跡から、リュウグウ試料と、同試料に記録されていた磁場の渦を電子の波で観察したイメージ。(出所: 東大Webサイト)


宇宙風化作用の痕跡

宇宙風化作用の痕跡を調べることで、天体表面の年代に関する情報など、惑星間プロセスを理解できると考えられています。

これまでの試料の初期分析からも、その痕跡として、小惑星内部で水質変質により形成される主要鉱物の“層状ケイ酸塩”が、太陽風や宇宙チリの衝突によって部分的に脱水した組織だということが確認されています。

このように、層状ケイ酸塩に対する宇宙風化作用は徐々に解明されつつあります。
でも、もう一つの重要鉱物であるFe3O4の宇宙風化作用に関する研究は限られていました。

そこで、今回の研究では、宇宙風化作用を受けたFe3O4をさらに詳細に分析しています。

まず、収束イオンビーム加工装置を用いて試料の超薄切片を作成。
宇宙風化作用を受けている試料表面のFe3O4粒子の磁束分布が、ナノスケールの磁場を可視化できる電子線ホログラフィ(EBH)専用電子顕微鏡(TEM)により直接観察が行われました。


天然のハードディスク

さらに、通常のTEMによる微細組織観察、結晶構造解析、元素組成分析、電子エネルギー損失分光分析も実施されています。

超薄切片中のFe3O4粒子の通常TEM像と対応する磁束分布像から、同粒子内には渦状の磁区構造を観察。
同構造は非常に安定していたので、46億年以上にわたって磁場を記録し続けることが可能でした。

つまり、同粒子は初期太陽系の星雲磁場という重要な環境情報を記録している天然のハードディスクと言えます。
図2.試料から切り出されたFe3O4粒子(丸い粒子)。(A)EBHにより得られた磁束分布像。粒子内にある同心円状の縞は磁力線に相当。これは渦状磁区構造と呼ばれ、一般的なハードディスクよりも安定で、46億年以上にわたって磁場の記録を保持できる。(出所: 北大プレスリリースPDF)
図2.試料から切り出されたFe3O4粒子(丸い粒子)。(A)EBHにより得られた磁束分布像。粒子内にある同心円状の縞は磁力線に相当。これは渦状磁区構造と呼ばれ、一般的なハードディスクよりも安定で、46億年以上にわたって磁場の記録を保持できる。(出所: 北大プレスリリースPDF)


磁石としての性質が失われた粒子

また、同じ資料の異なる領域から切り出された超薄切片のTEM像と磁束分布像においても、同様の粒子(水質変質を経験した隕石によく見られるFe3O4粒子からなる“木苺状組織”)が確認されています。

でも、同粒子の磁場計測から示されたのは、渦状構造ではなく、のっぺりとした均質のコントラストだったんですねー

つまり、同粒子はFe3O4に似た組織ですが、実際にはFe3O4の特徴である磁石としての性質が失われていたことになります。

詳細な分析で分かったのは、同粒子はFe3O4と、それが還元することで形成される“ウスタイト”(FeO)の両方の特徴を持っていること。
これまでに知られていないタイプの木苺状組織だったので、疑似Fe3O4と命名されました。
図3.試料から切り出された超薄切片に含まれていた疑似Fe3O4(丸い粒子)。(A)TEM像。(B)大きな四角で示された領域をEBHで観察した結果得られた磁束分布像。粒子内に磁力線に相当する縞模様は見られないので、磁区構造がないことが分かる。オレンジの点線の小さな四角の領域は、画像4(C)に示されている。(出所: 北大プレスリリースPDF)
図3.試料から切り出された超薄切片に含まれていた疑似Fe3O4(丸い粒子)。(A)TEM像。(B)大きな四角で示された領域をEBHで観察した結果得られた磁束分布像。粒子内に磁力線に相当する縞模様は見られないので、磁区構造がないことが分かる。オレンジの点線の小さな四角の領域は、画像4(C)に示されている。(出所: 北大プレスリリースPDF)


太陽系の磁場情報を記録した新しい組織

さらに、その周囲には鉄ナノ粒子が多数存在していて、その磁場も観察。
すると、Fe3O4同様の渦状磁区構造が示され、鉄ナノ粒子も長期間にわたって、その形成時の磁場情報を保持できることが示されました。
図4.疑似Fe3O4の周囲に分布している鉄ナノ粒子。(A)画像3の左上の領域を走査型TEMで撮影した暗視野像(画像3とは白黒が反転)。(B)対応する鉄の分布像。矢印は鉄ナノ粒子。(C)(A)と(B)の中央領域(画像3(A)の小さな四角の領域)の磁束分布像。疑似Fe3O4には磁力線が見られない一方、鉄粒子内には同心円状の渦状磁区構造が見られる。(出所: 北大プレスリリースPDF)
図4.疑似Fe3O4の周囲に分布している鉄ナノ粒子。(A)画像3の左上の領域を走査型TEMで撮影した暗視野像(画像3とは白黒が反転)。(B)対応する鉄の分布像。矢印は鉄ナノ粒子。(C)(A)と(B)の中央領域(画像3(A)の小さな四角の領域)の磁束分布像。疑似Fe3O4には磁力線が見られない一方、鉄粒子内には同心円状の渦状磁区構造が見られる。(出所: 北大プレスリリースPDF)
詳細な組織観察と元素分布から、疑似Fe3O4と鉄ナノ粒子は宇宙チリの衝突による過熱で形成されたこと、1回の衝突で残留磁化計測が可能となる~1万個ほどの同粒子が形成されることが分かりました。

さらに、このような組織の形成条件について、把握済みの試料の正確な物性値を用いた詳細なシミュレーションを実施。
その結果、星雲磁場が消滅した後の時代に、小惑星リュウグウの母天体に直径2~20マイクロメートルの非常に小さい宇宙チリが秒速5キロ以上の速度で衝突することで、同組織が形成されることが分かりました。
図5.宇宙チリが小惑星リュウグウ表面へ衝突する様子の一例(時間経過は左→右)。最終的な温度が色で示されている。黄色領域ではFe3O4が熱で分解して還元される。衝突体の半径と同程度の厚みまで加熱されていることが分かる。国立天文台天文シミュレーションプロジェクトの計算機を使用してシミュレーションが行われた。(出所: 北大プレスリリースPDF)
図5.宇宙チリが小惑星リュウグウ表面へ衝突する様子の一例(時間経過は左→右)。最終的な温度が色で示されている。黄色領域ではFe3O4が熱で分解して還元される。衝突体の半径と同程度の厚みまで加熱されていることが分かる。国立天文台天文シミュレーションプロジェクトの計算機を使用してシミュレーションが行われた。(出所: 北大プレスリリースPDF)
これにより、同組織は、水質変質が終わった後の時代における太陽系の磁場情報を記録した新しい組織だと結論付けられました。

今回発見された鉄ナノ粒子は、高い磁気安定性を示す渦状磁区構造を有していて、衝突時に形成された当時の磁場情報を記録している可能性があります。
このことから、初期太陽系のより幅広い磁場環境の理解につながることが、今後期待されます。


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小惑星の軌道を意図的に変更するミッションで予想外の結果! 少なくとも4個の岩が火星に衝突する可能性があるようです

2024年04月29日 | 太陽系・小惑星
小惑星の軌道を意図的に変更できるかどうかを検証したミッションがありました。
それは、NASAの小惑星軌道変更ミッション“DART”で、目標天体となった小惑星の衛星“ディモルフォス”の公転軌道を変更することに成功しています。

ただ、実験では事前に予測されていない結果をもたらしているんですねー
その一つが、幅数メートルの岩がいくつも飛び出したことでした。

今回の研究では、DARTミッションで飛び出したことが観測された37個の岩の軌道を追跡。
そのうち4個が、将来的に火星に衝突する可能性があることを突き止めています。

この分析結果は、地球や火星に衝突する小さな天体の起源を考察する上で、重要なものになるようです。
この研究は、地球近傍天体調整センター(NEOCC)のMarco Fenucciさんとイタリア国立天体物理学研究所(INAF)のAlbino Carbognaniさんたちの研究チームが進めています。
図1.ハッブル宇宙望遠鏡によって撮影された65803番小惑星“ディディモス”の周りを公転する衛星“ディモルフォス”から飛び出した37個の岩(丸囲み中の公転)。直径は1~7メートルと推定されている。(Credit: NASA, ESA, David Jewitt(UCLA) & Alyssa Pagan(STScI))
図1.ハッブル宇宙望遠鏡によって撮影された65803番小惑星“ディディモス”の周りを公転する衛星“ディモルフォス”から飛び出した37個の岩(丸囲み中の公転)。直径は1~7メートルと推定されている。(Credit: NASA, ESA, David Jewitt(UCLA) & Alyssa Pagan(STScI))


小惑星に人工物を衝突させて軌道を変化させるミッション

今から約6600万年前に起きた白亜紀末の大量絶滅は、小惑星の衝突によって引き起こされたという説が有力視されています。

もし、同じような天体衝突が起きれば、現在の文明は壊滅的なダメージを負うことになるので、喫緊の課題ではないにしても、天体衝突を回避する方法の模索が続けられています。

現在の技術で最も現実的な方法の一つは、人工物を高速で小惑星に衝突させて、その運動エネルギーで軌道を変化させるというもの。
NASAの小惑星軌道変更ミッション“DART”は、まさにこの手法が可能かどうかを調べるために行われたものでした。
図2.衝突前に撮影されたディモルフォスの表面(補正画像)。(Credit: DART, NASA / Edit: Eydeet)
図2.衝突前に撮影されたディモルフォスの表面(補正画像)。(Credit: DART, NASA / Edit: Eydeet)
DARTミッションで検証されたのは、65803番小惑星“ディディモス”の周りを公転する衛星“ディモルフォス”に探査機本体を衝突させて、その公転軌道を変化させられるかどうかでした。

ディモルフォスに探査機を衝突させたのは2022年9月26日のこと。
観測は宇宙と地上の両方で行われ、衝突の結果には予想外なものが含まれることになります。

その一つが公転軌道の縮小による公転周期の短縮です。
予測では約10分とされていましたが、実際には3倍以上の約33分にもなりました。

これほど予想がズレた理由として考えられるのは、ディモルフォスが一塊の岩ではなく、無数の小さな岩が緩く結合した構造をしていることです。
このような構造をしていると、衝突後の影響をシミュレーションで正確に推定することが困難になります。
図3.探査機がディモルフォスに衝突したシミュレーションの一例。(Credit: S. D. Raducan, et al.)
図3.探査機がディモルフォスに衝突したシミュレーションの一例。(Credit: S. D. Raducan, et al.)
予想外な結果は他にもあります。
それは、ディモルフォスから飛び散った岩でした。

ディモルフォスから飛び出した直径1~7メートルの岩の合計は37個もあり、それらはハッブル宇宙望遠鏡の観測により追跡されています。(※1)
これほど大きな岩が多数飛び出すことも、事前に予測されていないことでした。
※1.ただし観測能力の限界により、正確に推定可能な直径の最小値は4メートルとされている。
これらの岩は衝突時のエネルギーによって直接飛び出したのではなく、緩く結合した岩片で構成されているディモルフォス全体が衝突の衝撃によって揺さぶられた時の反動で飛び出したと考えられています。


少なくとも4個の岩が火星に衝突する可能性がある

今回の研究では、飛び出した岩の運命を確かめるために、2万年後までの公転軌道の変化を推定しています。

これほど小さな天体の公転軌道を正確に推定することは、通常なら不可能です。
でも今回の場合は、ディモルフォスという明確な基準点と、そこから飛び出した正確な時間が分かっていたので、より正確な公転軌道が計算でき、この研究を進めることを可能としています。
図4.ディモルフォスから飛び出した岩が、地球(左側)および火星(右側)の中心に対して、どれくらい接近するのかをシミュレーションしたもの。火星に対しては、その半径以下まで接近する。つまり、衝突する可能性が示されている。(Credit: M. Fenucci & A. Carbognani)
図4.ディモルフォスから飛び出した岩が、地球(左側)および火星(右側)の中心に対して、どれくらい接近するのかをシミュレーションしたもの。火星に対しては、その半径以下まで接近する。つまり、衝突する可能性が示されている。(Credit: M. Fenucci & A. Carbognani)
37個の岩について、誤差を考慮してシミュレーションを繰り返して分かったのは、少なくとも今後2万年間は地球に衝突しないこと。(※2)
でも火星には、少なくとも4個の岩が衝突する可能性があることが分かりました。
※2.最も近づくのは約2500年後で距離は約300万キロ。
そのうちの2個は約6000年後に、残りの2個は約1万5000年後に衝突する可能性があります。

直径数メートルの岩が衝突した場合、地球では大気圏で完全に燃え尽きるか、小さな破片しか残らないはずです。
でも、火星には地球の約0.75%という薄い大気しかないので、ほとんど抵抗を受けずに落下する可能性があります。

本研究では、この影響も検証していて、岩が比較的頑丈な場合は、ほとんど質量を失わずに地表へ落下。
地表には、直径200~300メートルものクレーターが形成されると予測しています。

ただ、ディモルフォスの岩が頑丈かどうかは明確になっていません。
予想以上に脆い場合は空中で砕けてしまい、地表に明確な影響が現れない可能性もあります。

火星の地表には、今のところ生命は見つかっていませんが、数千年後には人類が火星に基地を設けている可能性は十分にあります。
そして、このような直径数メートルの小さな天体を観測することは非常に困難です。

遠い将来の話になるものの、十分な大気に保護されていない火星の地表にある基地は、たとえ小さな天体であっても衝突リスクを抱えることになりますね。


地球に落下する天体の起源

今回の研究結果は、地球に落下する天体の起源に関しても、興味深い洞察を与えてくれています。

地球には毎日数万個もの天体が落下していて、そのうちの10個から50個ほどは隕石として地表に到達していると推定されています。
これらの隕石の起源については、伝統的に火星と木星の間にある小惑星帯の小惑星が起源だと見なされてきました。

でも、観測能力の向上によって、地球のすぐ近くを通過する“地球近傍小惑星”の存在が明らかになると、地球近傍小惑星から飛び出した破片が隕石として落下しているのではないかという説が出てきます。

例えば、落下前に宇宙空間で発見された珍しい小惑星の一つ“2018 LA(隕石名はモトピ・パン隕石)”です。

当初、“2018 LA”は小惑星帯にある4番小惑星“ベスタ”が起源だと考えられていました。
でも、その後の研究で、地球近傍小惑星である直径約500メートルの454100番小惑星“2013 BO73”が起源ではないかとする説も出てきています。
図5.小惑星“2018 LA”の破片の一つ(モトピ・パン隕石)。当初は小惑星帯に起源があると考えられていたが、後の研究では地球近傍小惑星を起源としているという説が出ている。(Credit: SETI Institute)
図5.小惑星“2018 LA”の破片の一つ(モトピ・パン隕石)。当初は小惑星帯に起源があると考えられていたが、後の研究では地球近傍小惑星を起源としているという説が出ている。(Credit: SETI Institute)
ある研究では、直径約100メートルの小惑星に直径約1メートルの小天体が衝突した時の衝撃で拡散した破片の一部が地球へ落下したものが、時々地表で隕石として見つかると推定してます。
その割合は、火球の約4%とするものもあれば、見つかっている隕石の約40%、あるいは約70%とするものすらあります。

一方、DARTミッションでは、質量約570キロの探査機本体が直径約170メートル・質量約400万トンのディモルフォスに秒速約6.6キロで衝突した結果、直径数メートルの岩が複数飛び散っています。

この時のエネルギーは、直径約100メートルほどの小惑星に直径約1メートルの小天体が衝突する”いうシチュエーションの約16分の1ですが、それでも十分に似た状況が発生し得ることを示しています。

現在の技術では、直径約100メートルの小惑星でも単独で発見することは困難です。
まして、直径約1メートルの小天体を発見して正確な公転軌道を予測できたのは、事実上DARTミッションが初めての事例となります。(※3)
今回行われた岩の長期的な軌道予測が、地球で見つかる隕石の起源推定に影響を与えてくれるといいですね。
※3.地球に極めて接近し、あるいは衝突した一部の小惑星は、直径約数メートル程度だと推定されている。でも、こうした小惑星の観測回数は限られていて、その軌道は極めて荒くしか予測できないので、起源を推定するのは困難となる。


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