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ディンキネシュは二重小惑星だった!? NASAの探査機“Lucy”が初のフライバイ観測を実施、データ送信は最大で1週間かかるそうです

2023年11月11日 | 太陽系・小惑星
2023年12月5日更新
12年間にわたるミッションで合計10個の小惑星を探査するNASAの小惑星探査機“Lucy(ルーシー)”が、小惑星ディンキネシュ(Dinkinesh)のフライバイ観測を実施しました。

“Lucy”がディンキネシュに最接近したのは日本時間2023年11月2日1時54分。
最接近時に撮影した画像からは、小惑星ディンキネシュが二重小惑星ということが判明しています。
さらに、今後10年間の探査で使用される装置やシステムのテストも行われたようです。
NASAの小惑星探査機“Lucy”が撮影した小惑星ディンキネシュ。二重小惑星だということが判明した。(Credit: NASA/Goddard/SwRI/Johns Hopkins APL/NOAO)
NASAの小惑星探査機“Lucy”が撮影した小惑星ディンキネシュ。二重小惑星だということが判明した。(Credit: NASA/Goddard/SwRI/Johns Hopkins APL/NOAO)

装置のテストを兼ねたフライバイ観測

“フライバイ”とは、探査機が惑星の近傍を通過するとき、その惑星の重力や公転運動量などを利用して、速度や方向を変える飛行方式です。
これにより、探査機は燃料を消費せずに軌道変更と加速や減速が行えます。
積極的に軌道や速度を変更する場合を“スイングバイ”、観測に重点が置かれる場合を“フライバイ”と言い、使い分けています。

今回のディンキネシュへのフライバイ観測は、今後10年間の探査で使用される観測装置やシステムのテストという位置付け。
“Lucy”に搭載されている高解像度カメラ“L’LORRI”や熱放射分光器“L’TES”、可視光カラーカメラ“MVIC”、赤外線撮像分光器“LEISA”で構成される“L’Ralph”による観測はもとより、フライバイ中に小惑星の位置を特定しながら観測装置の視野内に収め続けるための自立追尾システムのテストが行われました。

“Lucy”によるディンキネシュへの最接近予定時刻は、日本時間の2023年11月2日1時54分。
ディンキネシュから430キロ以内の最接近点を毎秒4.5キロの相対速度で通過したようです。

その前後で、高解像度カメラ“L’LORRI”や熱放射分光器“L’TES”などによる観測も行われています。

ディンキネシュは直径1キロに満たない小惑星だと考えられています。

小惑星帯にあるそれほど小さな小惑星が、間近から観測されたのは今回が初めてのこと。
ただ、最接近の前後では、“Lucy”の高利得アンテナが地球を向いていなかったので通信はできない状況だったんですねー

最接近後には、高利得アンテナが地球へ向けられて通信は再開。
これにより、“Lucy”の運用チームは探査機の状態が良好なことを確認、その後に再接近中に収集されたデータを送信するコマンドが送られています。
小惑星探査機“Lucy”による小惑星ディンキネシュへのフライバイ観測。最接近中の機体姿勢変化を示した図。探査機の飛行方向は赤色の矢印で示されている。(Credit: NASA/Goddard/SwRI)
小惑星探査機“Lucy”による小惑星ディンキネシュへのフライバイ観測。最接近中の機体姿勢変化を示した図。探査機の飛行方向は赤色の矢印で示されている。(Credit: NASA/Goddard/SwRI)

ディンキネシュは二重小惑星だった

“Lucy”が最接近時に撮影した画像から判明したのは、小惑星ディンキネシュが二重小惑星ということでした。

実は、再接近の数週間前には、ディンキネシュの明るさが時間と共に変化することから、二重小惑星の可能性が指摘されていました。

今回の“Lucy”による最接近時の観測で、二重小惑星ということが確かめられた訳です。

推定される小惑星のサイズは、大きい方の天体が最大幅およそ790メートル、小さい方の天体はおよそ220メートルになります。
二重小惑星ディンキネシュの動画。小惑星の追跡などを目的とするカメラ“T2CAM(terminal tracking cameras)”による13秒おきに撮影された一連の画像をアニメーションにしたもの。2つの天体の見かけの動きは、秒速4.5キロで移動する探査機の動きによるもの。(Credit: NASA/Goddard/SwRI/ASU)
二重小惑星ディンキネシュの動画。小惑星の追跡などを目的とするカメラ“T2CAM(terminal tracking cameras)”による13秒おきに撮影された一連の画像をアニメーションにしたもの。2つの天体の見かけの動きは、秒速4.5キロで移動する探査機の動きによるもの。(Credit: NASA/Goddard/SwRI/ASU)

ディンキネシュの衛星は接触二重小惑星だった

2023年11月7日付でNASAが公開した画像から新しいことが分かりました。

この画像は、“Lucy”に搭載されている高解像度カメラ“L’LORRI”で撮影されたディンキネシュとその衛星です。
ディンキネシュのフライバイ観測が行われた2023年11月2日2時頃(日本時間)、小惑星から約1630キロ離れた位置で撮影されたものです。
小惑星ディンキネシュとその衛星。NASAの小惑星探査機“Lucy”に搭載された高解像度カメラ“L’LORRI”で2023年11月2日2時頃に撮影された。(Credit: NASA/Goddard/SwRI/Johns Hopkins APL)
小惑星ディンキネシュとその衛星。NASAの小惑星探査機“Lucy”に搭載された高解像度カメラ“L’LORRI”で2023年11月2日2時頃に撮影された。(Credit: NASA/Goddard/SwRI/Johns Hopkins APL)
画像の左側にはディンキネシュが、右側には今回のフライバイ観測で存在が判明したディンキネシュの衛星が写ってるんですねー

この画像から分かる衛星の特徴は、2つの物体が接触したような形をしていること。
この画像が示しているのは、ディンキネシュの衛星それ自身が接触二重小惑星(Contact binary)、つまりお互いに接触した2つの小惑星で構成されていることです。

なぜ、ディンキネシュの衛星を構成する2つの部分が同じような大きさなのかは分かっていません。
今後、その理由の解明が進められるはずです。
小惑星探査機“Lucy”と小惑星ディンキネシュの位置関係を示した図(赤は探査機の移動経路)。Aは2023年11月2日1時55分頃、Bは同日2時頃に画像が撮影された時の探査機の位置を示している。(Credit: Overall graphic, NASA/Goddard/SwRI; Inset “A,” NASA/Goddard/SwRI/Johns Hopkins APL/NOIRLab; Inset “B,” NASA/Goddard/SwRI/Johns Hopkins APL)
小惑星探査機“Lucy”と小惑星ディンキネシュの位置関係を示した図(赤は探査機の移動経路)。Aは2023年11月2日1時55分頃、Bは同日2時頃に画像が撮影された時の探査機の位置を示している。(Credit: Overall graphic, NASA/Goddard/SwRI; Inset “A,” NASA/Goddard/SwRI/Johns Hopkins APL/NOIRLab; Inset “B,” NASA/Goddard/SwRI/Johns Hopkins APL)
ディンキネシュの衛星をとらえた画像は、2023年11月2日付ですでに公開されていました。
ただ、先に公開された画像は探査機との位置関係上、衛星が接触二重小惑星であることまでは分かりませんでした。

7日に公開された画像は、2日に公開された画像の約5分後に撮影されたもの。
探査機が約1500キロ移動したことで小惑星との位置関係が変化し、衛星の真の性質を伝えてくれる1枚となりました。
接近時に発見された小さな衛星の名称が、エチオピアのアムハラ語で“平和”を意味する“セラム(Selam)”に決まりました(2023年11月27日に国際天文学連合(IAU)が承認)。
ディンキネシュの探査を終えた“Lucy”は、2024年12月に地球フライバイを行って軌道を修正。
2025年には2つ目の探査対象である小惑星帯の小惑星ドナルドジョハンソン(Donaldjohanson)のフライバイ探査を行います。

その後は、2027年のエウリュバテス(Eurybates)とその衛星ケータ(Queta)をはじめ、ミッションの主目標である木星のトロヤ群の小惑星探査が行われる予定です。

運用チームは、再接近後に“Lucy”からの信号を受信、探査機の状態が良好なことを確認しています。
今回実施された初のフライバイ探査で“Lucy”はどのように動作していたのか?
このことを“Lucy”運用チームは楽しみにしているようですよ。

全てのデータが送られてくるまでには、最大で1週間かかるそうですよ。


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