生命哲学/生物哲学/生活哲学ブログ

《生命/生物、生活》を、システム的かつ体系的に、分析し総合し統合する。射程域:哲学、美術音楽詩、政治経済社会、秘教

祝算之介詩集/龍

2010年08月16日 18時42分11秒 | 詩 poetry
2010年8月16日-4
祝算之介詩集/龍

 わが蔵書の『祝算之介詩集』の目次では、龍、夜の伽、挿話、鬼(158頁の方)、に○が記されている。
 「ひたひた」とか「みしみし」は、千田光の詩
http://www.k4.dion.ne.jp/~rainbow3/senda/contents.htm
を連想する。岩成達也『レオナルドの船に関する断片補足』も、擬態語を配置して独特の効果。
 
 『龍』(12-13頁)を抜粋する。
 
 
   龍
 
 
          はやて               のろし
夜になると、私の心に疾風が捲き起る。いきり立つ神経の狼煙が、めらめらと私の理性に燃えうつる。
 
 〔……〕
                          かけら
私の影法師は、さながら傷ついた龍だ。龍は私の悲しみの破片をくわえて、ばさばさと身もだえする。私は木の葉のように*〔檀の旁を偏として、頁の旁の字。「ふる」と読むと思う〕える。龍よ。こんな夜、小さな私は何をしたらいいのだろう。
 
 〔……〕
 
===
 
祝算之介.1972.6.1.祝算之介詩集.327pp.思潮社.[y1,200] [B19720913]
 
岩成達也.1969.4.10.レオナルドの船に関する断片補足.69pp.思潮社.[y800] [フランス装。初版は活版で箱有り]
岩成達也.1969.11.1[復刻版].レオナルドの船に関する断片補足.69pp.思潮社.[y800] [フランス装。写真製版で箱無し] [B710204, B711214]
http://d.hatena.ne.jp/wtnbt/20051105/p1

僕の人生は、サイダー、点滴、雨あがりのブランコ

2010年08月13日 09時32分11秒 | 詩 poetry
2010年8月13日-3
僕の人生は、サイダー、点滴、雨あがりのブランコ

 住宅顕信(すみたく けんしん 1961-1987)の『ずぶぬれて犬ころ』から、四つの句を抜き出し、凝縮宇宙を構築(創作)した。このようにすると、いくつのもの組み合わせによって、多重または多層の宇宙が楽しめる。
 
 部屋あるいは砂浜あるいは林縁の傍らに、絵画(だれの絵画が良いかはあえて、言いません)を掲げて、ときどき見ると、相乗効果が出て、さらに豊かな時空をあなたは楽しめるだろう。
 
  「住宅顕信にとっては、境涯も作品なのである。……十六歳の自分は、五歳年上の女性と同棲できるか?……複数の女性関係をしのぎながら、二十二歳で出家、得度できるか?……白血病にかかって自由律俳句をはじめるか? 子どもが生まれたあとで離婚し、その子供を入院中の病室で育てるか? 死ぬ直前まで、句集の原稿を握り締めていられるか?……」(藤原龍一郎 2002)。
 
 
*************************************************
 
 
 
気の抜けたサイダーが僕の人生
 
 
 
点滴と白い月とがぶらさがっている夜
 
 
 
淋しさきしませて雨あがりのブランコ
 
 
 
 
 
 ☆
両手に星をつかみたい子のバンザイ
 ☆
 
 
 
*************************************************
 
 さて、
 
 <天気の抜けたサイダーが僕の人生>
 
は、改変なのか、影響の濃い創作なのか。パロディとして新作なのか。
 天気とは天の氣であり、ゆえにサイダーとは、空中の氣が抜けた媒体である。隠喩は、屁理屈のように、膏薬である。
 
 
 
住宅顕信(俳句)・松林誠(版画).2002.5.25.ずぶぬれて犬ころ.(おそらく)64pp.中央公論新社.[B20021024, y1300+]
 
藤原龍一郎.2002.9.13.度胸のあるものが、後世に残り、読者の心をゆさぶる.週間読書人 (2453): 6.


鯉杉光敏 詩集/神々の戯れ(5)沼畑はオレたちを

2010年08月12日 18時27分30秒 | 詩 poetry
2010年8月12日-8
鯉杉光敏 詩集/神々の戯れ(5)沼畑はオレたちを
 
 
 
   沼畑はオレたちを
 
 
 
棒てんをつくるには、
つるとつるを交尾させる。
いか天、これには赤子のいけにえを必要とする。
赤子は大根のように生えて順番を待っている。
巨大ちくわが整列している泥血色の沼畑。
夏の冬至。
オレたち、くそリアリズムの労働者には塞息する自由もない。
血沼畑に入ると出られない、
オレたち串揚げになって空へ向かって狂い咲きする、
オレたちはひたすら熟成する。
 
熟成の瞬間を輪切りにする、
同じく輪切りにされた臓物。
腸のねじ切り、肝の唐揚げ。
それらをもみほぐし、しわくちゃ。
畑にバラまく。
やがて時は串刺し、
オレたちのつるし揚げに向かって。
 
 
空へ空へ咲き、裂く、つるの頭、つるの尻。
オレたち、胴の切断面で逆立ちし、
乳首を連結し、情婦を数珠つなぎ、
蔓を垂直に吊るし。やがて
冬の夏至。
沼が鬱血を噴き散らし、
黄土色に輝く時。
ほどよく乾いた天ぷらは、幾重にも整列する。
輝くとき、乾燥して膿血を噴き散らすとき、
 
沼畑は重いはらわたを抱かえながら、
自ら熟成を待っている。
 
 
  荒漠たる大地を陽が朱け染めるとき、
  オレたち、ひときわの姿態は蒼空に映えている。
  だから、破滅の現在を選べ。
 
 

鯉杉光敏 詩集/神々の戯れ(4)劇場

2010年08月12日 18時23分58秒 | 詩 poetry
2010年8月12日-7
鯉杉光敏 詩集/神々の戯れ(4)劇場
 
 
 
   劇場
 
 
 
ドラマ、
愛憎が渦巻き、悲哀が流れる。
 
役者は役を
演じる、感情をあらわに、またひそかに。
 
登場するのは、
人間ども、大小道具、背景。
 
しかし、
人間が演じられているのか、
感情と意志の織物が演じられているのか。
 
どうも、
道具は人間の方のようで、
さらには、
感情と意志を操っているのは、
背景の方のようで。
作者もまた、
作者にとりついた感情と意志に操られていて、
というのは、二重に本当だ。
 
なぜなら、あなたの感情は、あなたではない。
うすっぺらな感情はぶあつくとりつかれないうちに、
捨てておこう。
あなたの意志は、どこにある?
どこにもないなら結構、
それはあなたではないから。
 
 
幕のあと、
劇場のたたずまいは
いつものように空っぽを装う。
次の劇を待ちながら。
 
 
けれども、
あなたこそは劇場である。
そこにしか劇は起こらない。
 
数本の劇が
あなたにおいて
同時進行する。
 
うつろなるあなたは
うつろさのうちに
あなたを奪回する。
 
それもまた一つの劇の
はじまりはじまり。
 
 

 ……神よ、わたしたちはこの上まだ
   劇を演じ続けなければならないのですか?
 
 
 
 
===
 「神よ、……」は、鯉杉光敏『幻想』第三部より(季刊『アクト』創刊号21頁/1968年3月10日発行/VOUS & ICH)。

鯉杉光敏 詩集/神々の戯れ(3)哀愁の王制共和国

2010年08月12日 18時13分51秒 | 詩 poetry
2010年8月12日-6
鯉杉光敏 詩集/神々の戯れ(3)哀愁の王制共和国
 
 
   哀愁の王制共和国
 
 
 
なるほど、人員削減ですか。
簡単です
ロボットを買い入れなさい
窓口で悪態をつくことはないし
最近のは格段と愛想がよくなりましてね
お望みなら反抗させることもできます
ランダムに、予測不可能的に
あるいは、ステレオタイプ的に
あるいはそれらのミックスでも御希望通り
 
そのうち人は要らなくなりましょう
すると浮浪者ばかりになりますが
御安心下さい
これもロボットが処理してくれます
 
エ? ロボットを削減するんでしたか。
簡単です
全能ロボットを買い入れなさい
いちいち分業させるなんて時代遅れです
ただし制御用プログラムをつくるコンピュータが
 要りますね
ほとんど自動作成するんですが 最後の生き残り
 が大元の制御プログラムと心中しましたもんで
おかげでみんなポカッとどこかに風穴をかかえて
 おります
 
あなたもそうなんですか。
実際、哀愁症が増えてきてしまって
なんというか。一族浪党
難破船に乗ってどこにいくのやら
どうも奴らのアレルギー型陰謀くさいですな
この際 全てのコンピュータを集めて
検討させましょう
短絡的潰滅は目に見えてますが
 
それにしてもバカなのはコンピュータをつくった
 奴です
何の役にも立たないのをつくっちゃって ハタ迷
 惑な
だってそうじゃありませんか
ヒト一匹つくれないんだから
一匹でもできれば わたしたちは
上にあぐらで安泰だったんだ
 
いや わたしが安呑すぎるって?
これは剣呑なことをおっしゃる
御心配なく
すでにロボットは要らないんですよ
そろそろあなたを処理しにやってくるでしょう
御安心下さい
自動自己処理ロボットが
うまくやってくれますから
最後はハデに鮮血の花火を
打ち上げるとか
来た来た。では、
生けとし生きた全ロボット諸君諸嬢、
万歳!
 
 

鯉杉光敏 詩集/神々の戯れ(2)愛の火花

2010年08月12日 14時47分07秒 | 詩 poetry
2010年8月12日-4
鯉杉光敏 詩集/神々の戯れ(2)愛の火花
 
  
                    第一幕   
 
 
 
 
   愛の火花
 
  
表街道の悲哀を知り尽くした男と
裏街道の歓楽を味わい尽くした女が
ポツン ポツ念と
公園の石ベンチに
折りしも降る雨に濡れしょぐれて
手をたずさえるとき
この世の戦争は終わり
肩を組むとき
この世のしがらみは消え失せ
蒼然としたビルディングが群れなして
崩壊する
雨打つ音のガード下を
去り急ぐ男女の群れ
戯れに恋はすまじと
酔っぱらっていた呟きは
今しもドップラー効果の
電車に轢き殺される
急ぐまい
夜は
朝まで夜なのだ
バイ人たちは更けてからの
売り買いを嗚咽する
 
人生の歓喜と悲哀を奏で尽くした
かのような男女が一組
怱然と立ち現われては
去ってゆく
裏通りの裏通りに
今しもふり注ぐ光の束
惜しみなく自分を投げ捨てるとき
陽は束の光となって
そこに峻立している
日輪のなかの哀しみを
柄杓で汲み出したら
どうだろうと
ひねもす
うつら考えていた
雑踏の青年は
今しも
夜を毀そうと
さらに酔っぱらっていた
 
陶然と流れる雨粒が
海のように広がった
木の葉一枚
そこに映し出される
尽くしてしまったかのような男と
尽くされてしまったかのような女
 
   ☆   ☆   ☆
 
出会うは愛。
裏切りは愛。
別れは愛。
曲線のギザギザ。
白いなめらかさ。
うすぐろい細裂のすじ
にそってオンナは歩き
黒い小石ごと
粟粒をほおばる。
たとえ炎であったとしても
たとえ氷の刃であったとしても
みじろぎもせず
酒盃の一滴のように
のみほし
すする。
 
許し、わが身をひきずり
かつて、また
いま、さらにあすへと
つなぐ。
 
 
出会うも愛。
裏切るも愛。
別れるもまた愛。
たどたどしい歩み。
オトコはたじろぐ。
つねに何事かであるように
なにごともなく
十年の夏が過ぎ
二十年の冬がこと切れる。
たとえ眼に見えず
たとえ耳に聴こえずとも
毒盃の一滴も残さず
最期の希望のように
身に浴び
そそぐ。
 
だが許し、わが魂をひきずり
かつて、また
いま、さらにあすなきあすへと
つなぐ。
 
(オマエはまぶしすぎるほど)
(したたかに)
(さわやかだ)
(オレはココには)
(生きられない。)
(だからオレの影を)
(オマエに残しておこう。)
(その影をオマエが見つけるとき)
(もう一つの影がその上に)
(倒れている。)
(そして火花のにおいをそこに)
(確かめるだろう。)
 
   ☆   ☆   ☆
 
ひとしい朝
街が雑然と目覚めるとき
扉が開けられ
愚かしい一日をまた
積み重ねようと
エネルギーが充満発情する
 
ひとしい道
おしゃべりに没頭する
少女たちが
きらら
をこぼしながら
通り過ぎる
鬱蒼たる木洩れ火が
陰鬱の雲を散りばめて
そこかしこ射抜いている
 
  それもまた愛
  あるいは愛に満たされた裏切り
  わたし=わたしたち=映像の影
  ゆれはねて
  それゆえ 愛は
  生けるものたちの影をも つらぬき
  それゆえ 愛は
  世界を反転させ
  いのちを超えていく
 
  裏切りは
  己れを切り刻むゆえに
  ひとは愛を横切り 葬っていく
  切り刻みの果てに
  独り 世界を背負うことを
  あまねく 一個の火花になることを
  夢見る
 
 


鯉杉光敏 詩集/神々の戯れ(1)[いつしか かぎりもない暗がり……]

2010年08月12日 14時41分42秒 | 詩 poetry
2010年8月12日-3
鯉杉光敏 詩集/神々の戯れ(1)[いつしか かぎりもない暗がり……]
 
 
 
 
 
 
                              *
 
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      いつしか かぎりもない暗がり……
 
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                 かすかに ざわめき
 
 
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    ゆらめきながら
 
             ひろがっていった……
 
 
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   やがて ゆがみ
 
           さらにゆがんで 暗みになった……
 
 
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      暗みに
          炎が やどるようになった  
 
 
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                        *
 
 
    暗みに包まれてある炎、接して燃えながら、おもむろに
冷えてゆき、極みにまで冷たくなって、(それは、)こわばりを
もつようになった
 
      *
 
          こわばりは炎から離れ、ある確かさで持続
した。つまり、こわばりとなった。こわばりは、暗みを含んでみ
ずからのものとなし、その内はさらにこわばり、外の暗みと分け
へだてた、つまり〈あたし〉と名をつけた
 
                   *
                    *
 
 
        *
 
          いつしれず、〈あたし〉は、(あたし)で
あるようになった、〈あたし〉、というこわばり。こわばり  
(あたし)。こうして、(あたしは、)〈あたし〉となり、あた
し という名であるようになった。(あたし)は、あたしとなっ
て、(ここへ)浮かび出た
 
 
                         *
 
                  *
 
 
 
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               *
 
 
                あたしにむかうものは何もな
かった。何もあたしをよぎりはしなかった。あたしは暗みに永く
とどまっていた。(ここ)は、(ここ)に他ならなかった。……
    (ここ)
あたしは暗みを、分けようとした。それから、さらに分けはじめ
た。どれも全く同じ暗みだった。あたしはやがて、暗みがあたし
にむかっていることをしった。暗みは、はっきり分けられた、そ
れぞれは、わけられていたあたしに対していた。そのようにして
あたしはばらばらになった。すると暗みはその境目で暗い輝きを
発していた。そして、あたしはあたしでない、ひとつのあたしで
ないあたしになっていた。やがて、あたしは、あたしでないあた
しにおいて、あたしをひらくことができた。そのとき、あたしは
、あたしという名であることをしった。
 
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     あたしはどこかしらを流れていた。あるいはどこかに
とどまっていた。ふかれ、ふきよせられて、深い暗がりへ散り、
おちていった。そして、震え、がこの暗がりを包み、とめどなく
おちていくあたしをも包みこんだ。……震え、は暗がり全体に、
遠く隅々にまで、満ち、激しく渦巻いた。熱い。あたしが方々で
燃えはじめた  
 
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どうしてこのようにあたし、雨は降るのか……

2010年08月11日 13時01分04秒 | 詩 poetry
                      ……………

                ……………………………………
        ……………………………………………    ……
   ……………… どうしてこのようにあたし、雨は降るのか ………………
              ……………………………………………
 …………………………………………………………………………
…………………………………………………………………………………………



 前髪をかきあげる。愁いを含んだ黒い瞳、



それがあたし。突如として、叫ぶ。それで終



しまい。だから、ぼっそり、ま・み・む・め



・も、。何が終ったのか、何も終りはしない



、何も始まりはしないのだから。たぶん、あ



たしは、歩き出している、例えば、東山のふ



もと、疎水に沿った道を。どこかのかつてあ



ったカフェテラス。石段を下りていくと、藤



が咲き乱れていて、あたしは昏倒する。それ



で終しまい。だけど、何も流れ出しはしない



。ただ あたしの血、肉の血が騒ぎ立てる。
            みち
風にゆられて、あたしは舗道をふむ、例えば



洛北、北山通りを西ヘ。ほどなく、ブランデ



ーを手にして、と落ちこんでいるあたし。そ



して、いつしか、まみむめもが踊り狂う。や



さしいやさしい、(ま・み・む・め・も)た



ち。はなれられない。あたしはひょっとして



、まみむめも、ではないか。あたしは、あた



しに巣食う(ま)や(み)や(む)や(め)



や(も)たちをほめ讃え、愛撫してやる、あ



たしがあたしでなくなるまで。





<製作者>
 「どうして……」作者:鯉杉光敏 19**
 『まみむめもノオト』作者:山田百合子 1979
 全体の編集者:鯉杉光敏 2010.8.8.


===予告

 どうしてこのようにあたし、風は吹き、舞い上がるのか……

 どうしてこのようにあたし、光は在るのか……


山田百合子 戯言集/非在死体病理解剖

2010年07月01日 22時53分04秒 | 詩 poetry

非在死体病理解剖


                 山田百合子



 あなたにおいて、あなたはありながら、そのうちにもあ



 なたはあり、しかり、あなたはついぞあらわれず、あな



 たにおいて、あなたはなく、なきあなたは、ひたすらに



 ありつづける、ありようもない、じょうたいでありなが



 ら、しかもけっしてありえないながらも、あるときには……



かきむしり、かきむしり、あなたはかきむしる、ところがかき



むしるものがない、またかきむしる、ところでとにかくかきむ



しられるものがない、ひとつもひっかからない、そこでとっか



かりをこしらえる、まさかとおもったがやはり、ころげおちて



しまう、こしらえたとおもっただけなのだ、いっそうはげしく



かきむしるなら、そこにざわめきがうつるとか、いっそあなた



がもえあがるとか、またまただめだった、あなたはますますつ



めたくなってかきむしる、しかしなにかがかたちをあらわすと



いうこともなく、あなたはなるほど、なるほど、そうなのかと



かきむしる、あなたはまっているのか。そうではない、あなた



はそんなふりをしながら、とおいところへ、ふかくもっともち



かいところへいこうとするらしい、そこでまたもやかきむしる



、さらにかきむしる、ぽろっ、となにかがはげおちた、という



のはきのくるい、あなたのむしりはいよいよはげしく、むしる



、あなたもはげしくなり、うつろにあつくなってくる、どこか



でなにかがひきつってくる、というようなことはまったくない



、しかもいぜんとしてなにもあらわれない、あなたはどこへい



ったのか。あなたはまだかきむしっている、とうとうそこに、



いじょうなきざしがあらわれて、とつぜんおどりでる、という



こともありえない、わかりきっている、あなたはしってかしら



ずか、なおもかきむしる、ぽうぜんとあなたはたちつくす、い



やそんなことはない、にわかにそこがふるえだす、いやいやそ



れもきのくるい、あなたはとめどなくかきむしりつづける、あ



なたはどこへいってしまったのか。ついにはそこへあなたがあ



らわれようとするのか。そうか、そうなのか、あなたはつぶや



く、やっとのことでそこへあなたがあらわれようとしている、



もちろんそんなことはありえない、なるほど、あなたはひっか



かりになろうとしているのか。それとも、あなたじしんになろ



うとするのか。しかし、なにごともおこらない、そのあなたは



とほうもなくかきむしっている、そうか、そうなのか、あなた



はあなたをそこにのこして、どこかへいってしまおうとするの



か、とあなたはつぶやく、そうか、そういうことなのか、そし



てとうとうついに、あらわれぬあなたのつぷやきから、あらわ



れぬかきむしりへもえうつるとか、ついでに、あらわれぬあな



たがあらぬところでひっそりともえあがるとか、あるいはそれ



とも、あらわれぬあなたをあらぬところへさておいて、ありえ



ぬあなたがあらわにもえあがるとか、けれどもきのくるい、そ



れもきのくるい、おそらくあなたはかきむしることはない、と



ころであなたはなにをしているのか。かきむしるあなたはかき



むしる、かきむしるあなたをかきむしる、いやはやそういうこ



ともありえない、つまり、そうか、そうなのか、なるほどそう



いうことなのか、かきむしる、そして、あなたはかきむしる、



かきむしりつづけて、なおさらかきむしり、どういうわけか、



かきむしり、さてそういうわけで、かきむしり、またひときわ



かきむしり、むむむむむしり、ただひたすらにかきむしり……


山田百合子 戯言集(1979)『死体病理解剖 × ・・・・・ノオト』より
http://www.k4.dion.ne.jp/~rainbow3/yamada/zaregoto.htm


山田百合子 戯言集/頓死死体病理解剖

2010年06月29日 18時01分43秒 | 詩 poetry

頓死死体病理解剖


                 山田百合子

あるとせよ そうすれば にぎやかになる



だろうし それはそれとして ひとりでに



うごくだろう ならば このようにもでき



る はずみで やぷれることもあろう そ



のような ようすで うかがうこともでき



よう そのままを やがて たどるのであ



ろう めちゃくちゃに ごくふしぎに そ



こへとどまるようにみえて しかし やは



りそこへ とほうもなく とどまる こう



しておけば さて ないとせよ というな



ら それまでしばらくおいて もはやあり



えないというところへ いわゆる そうす



ることによって これまた どちらかとせ



よ そうすれば あのようなことが とつ



ぜんに ただひたすら ありつづけるとい



うことになり つまり たとえばのことで



はあるが ほとんど どちらでもなく そ



うはならないとしても ざわめきや ある



いは あたりまえだが そのようにもおも



えるし とてもあのようだといったり そ



して たとえ そうであるにせよ まさか



そうではないだろう だからというわけで



はないが とにかく こうなんだ そうし



たところで どちらかであるかどちらかで



ないかのどちらかとせよ そうなると こ



うにもああにも どうにもならなくて そ



うかといって さて とはいうものの さ



あ そろそろ あさめしでもたべましょう



かね いや それはきのうにまわして ど



うです こんばん いっぱつ おや それ



もよろしいですねえ いやほんとに ええ



そうなんですよ あははっは ぬははっは


山田百合子 戯言集(1979)『死体病理解剖 × ・・・・・ノオト』より
http://www.k4.dion.ne.jp/~rainbow3/yamada/zaregoto.htm


山田百合子 戯言集/らりらりるれろノオト

2010年06月27日 22時04分51秒 | 詩 poetry

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らりらりるれろノオト


                    山田百合子

 

街角をかっぽりと切り取ると、雨がどっ
と崩れてきて、あたしは湯舟の中で、ど
っぷりと夕映えにつかっていたところ、
虫のような蝶々が〇匹漬物畑へ墜落して
いった。そのとき実にあたしは、あたし
は夜の鞄を味噌の中にたずさえていたの
だ。

朝の光。持ちこたえる最中、苦しみの鎖、蒼
空に敷き詰める。風。あたしの、空を切り仕
                がらんどう
切り聳える梢を鐘の音伝わる、夢の   。

あたしの心的状態、は何に依っているのか? あたし
はあたしをある状態へとおとし入れることができる(
修練によってできるようになった)。ついであたしは
      ヽヽ
、その状態に殆どとらわれてしまう。
際限なく拡がる思考、思念、それにまつわる情景、風
景、<思い>、あたしはそれらを全くとらえようとす
る。なぜ、そうしようとしてしまうのか。むだなこと
。(らりらりるれるれろろ)
あたしは一体、(一体なのか)、あしたなのか、いま
なのか、それともきのう? もしかしてずっとずっと
むこう?

??みだれ髪しだれつつ
しんとした闇
いたたまれなくなる、闇、闇よ、
あたしを狂いの中へひきいれておくれ。
(おそらくは、あたし、
 とらえきれずつねにはみだしていく、ここ、……)
……ほしくずのあわいをみだれ
   なだれてひいていくあつ
    くひびわれたにびのい
     きづかいのながれな
      がれるふきとんで
       いくゆっくりゆ
        っくりのぼっ
         てくるふし
          ぶしにと
           りかこ
            まれ
             た
              い
              わの
              くだけ
              ちりゆが
                  む

あさのひかり (あたしをさえぎり) もち
こたえるさなか (ゆらめきたちのぼる)
くるしみのくさり (ひきつるうめき) あ
おぞらにしきつめる (ふりしきるやみ)
かぜ (とおりぬけてゆく) あたしの (
なりひびきわたる) そらをきりしきりそび
えるこずえをかけぬける (かねのおと)
こだまし (つたわる) ゆめのがらんどう
 (ふっつり) とだえてしまった (うご
めき) ひきしまる (かぜの) さえわた
り (つぎつぎと) さざめきながら (ひ
としきり) こごえてゆく (あたしの)
とりとめもなくひろがる (ながめ)、、<
はるかにおしよせてくる <きりたち> <
ふかく> <そこなしの> たに> ひきず
りこみ なおうちよせる (おぼろにけむま
き)((まといつき)<つきおとされる>)
          がらんどう
かたまり、 ゆめの     。
              がらんどう
      ゆめの         。

切り取られた街角よ。崩れてきた雨よ。
湯舟の中のあたしよ。どっぷりと夕映えよ。
ふらふらと漬物畑へ蝶々が。〇匹。
あたしの実よ。そのときの実よ。
夜の鞄が街角を。
あるはずのないものたち。

朝の光よ。
     (からっぽのぬけがら
      のなかで すすきが
      ゆっくり ゆっくり
      そよいでいた??、)
                ふりしきる闇よ。

真昼の兎の夢が跳ねる街角に崩れる雨に
犯された湯舟の中のあたしは風にそよぐ
夕映えから遮られた鎖へと引き攣れなが
ら蒼空を摩り抜けて響き渡る梢のさざめ
きを凍えながら眺め、押し寄せてくる谷
へ突き落とされた。つまり、あたしはい
なかった。どこにも、いなかった。する
と、ぴったり反転して張り付いていた、
あたし。ゆめのがらん。ほしくずのあわ
い、この卑猥さを楽しむ。鏡の中の鏡。
閉じ込められた外。外の外。らりらりる
れろ、らりるれろ。らりらりるれろ、ら
りるれるれ、ろろらりる、れろ。れろ。

いっちゃった、あたしのすべて、

おっきなゆうひ、風にそよいでいた。

からっぽのぬけがらのなかですすきが海にゆらめいていた。

   しりめつれつのままにつくされていた、
   しりめつれつのままにつくされていた、??





山田百合子 戯言集(1979)『死体病理解剖 × ・・・・・ノオト』より
http://www.k4.dion.ne.jp/~rainbow3/yamada/zaregoto.htm

パピプペポのおと2 / 山田百合子

2010年06月16日 07時04分16秒 | 詩 poetry

パピプペポのおと


                          山田百合子



パッと咲く。ピッと吹く。プッと笑う。ペッと吐く。ポッと赤らむ。
一杯のスピリット、コップとコッペパン、ポンと抜いて、ヘたりこむ
。それ、バビブベボ、いやちがった、パッパ、パピプペポ。のたりこ
む、すっとこ転んで、見上げて、覗きこんで、眼が血っ走って、ポッ
ポッポ。しゅわしゅわ、のらりこんで、喰らいこんで、ふらりふらり
放さない(あん、離さないで…)。呑みこんで、ペッ。呑みこんで、
ペッ(ポッ…、)。桜は満咲、快風の吹き、陽は笑い、雲は雲を吐き
、ポッと赤らむあたし、のパピプペポ。死体は満咲、怪風の吹き、月
は嘲い、煙は煙を吐き、ポッと青らむあたし、のバビブベボ、いや、
(嫌よ)、パピプペポ。満咲くパピプペポ、吹き飛ぶパピプペポ、笑
い転げるパピプペポ、ペを吐くパピプポ、ポらむパピプペ、かくて、
あたしはポペプピパ。ねえ(うふんポ)、あら(なあにペ)、あそこ
(どこプ?)、いや底よ(どこなのよピ)、くるくるパー(パーッ)
。じわじわ迫ってくる(信じる者は救われる)、不思議愉快な音(バ
ババパパ、しわしわ)、まるで蛇、点で便秘、天から雨のポイ、(ゆ
るりぬるり)、暗雲かたむき、怪風たなびいて、やって来る、(ああ
裂けそう(咲きそう?)、
                            コポッ
                        コポコポ

                    プクリ
                ポッ


                            ピクリ
                        ピクピク
                    ポコリ
             ピッ
           プッ
         ペッ

  パクリパクパク  ペコペコ
           ポコポコ
               パピッ?
プペ?                  ポポポ(赤らんで)

しゅわしゅわしわしわじわじわじゅじゅじゅむむむパッピップッペッ

  ポッ

一杯のスピリット、コップとコッペパン、ポンッと引き抜いて、……
あたしとパピプペポ、
    パピプペポとポペプピパ、
          ポペプピパとあたし、は向いあい
                     もたれあって。
あたしは、何もかも喰らいこんで、あたしに呑みこまれたあたしを、
おっぽり残して、いっぱいいっぱい、おめかしして、
世界を呑みこみに出かける、
             それパピプペポ、
             ほいパピプペポ!




山田百合子 戯言集(1979)『死体病理解剖 × ・・・・・ノオト』より
http://www.k4.dion.ne.jp/~rainbow3/yamada/zaregoto.htm

パピプペポのおと / 山田百合子

2010年06月16日 06時57分53秒 | 詩 poetry

パピプペポのおと


                          山田百合子



パッと咲く。ピッと吹く。プッと笑う。ペッと吐く。ポッと赤らむ。


一杯のスピリット、コップとコッペパン、ポンと抜いて、ヘたりこむ


。それ、バビブベボ、いやちがった、パッパ、パピプペポ。のたりこ


む、すっとこ転んで、見上げて、覗きこんで、眼が血っ走って、ポッ


ポッポ。しゅわしゅわ、のらりこんで、喰らいこんで、ふらりふらり


放さない(あん、離さないで…)。呑みこんで、ペッ。呑みこんで、


ペッ(ポッ…、)。桜は満咲、快風の吹き、陽は笑い、雲は雲を吐き


、ポッと赤らむあたし、のパピプペポ。死体は満咲、怪風の吹き、月


は嘲い、煙は煙を吐き、ポッと青らむあたし、のバビブベボ、いや、


(嫌よ)、パピプペポ。満咲くパピプペポ、吹き飛ぶパピプペポ、笑


い転げるパピプペポ、ペを吐くパピプポ、ポらむパピプペ、かくて、


あたしはポペプピパ。ねえ(うふんポ)、あら(なあにペ)、あそこ


(どこプ?)、いや底よ(どこなのよピ)、くるくるパー(パーッ)


。じわじわ迫ってくる(信じる者は救われる)、不思議愉快な音(バ


ババパパ、しわしわ)、まるで蛇、点で便秘、天から雨のポイ、(ゆ


るりぬるり)、暗雲かたむき、怪風たなびいて、やって来る、(ああ


裂けそう(咲きそう?)、


                            コポッ


                        コポコポ



                    プクリ


                ポッ




                            ピクリ


                        ピクピク


                    ポコリ


             ピッ


           プッ


         ペッ



  パクリパクパク  ペコペコ


           ポコポコ


               パピッ?


プペ?                  ポポポ(赤らんで)



しゅわしゅわしわしわじわじわじゅじゅじゅむむむパッピップッペッ



  ポッ



一杯のスピリット、コップとコッペパン、ポンッと引き抜いて、……


あたしとパピプペポ、


    パピプペポとポペプピパ、


          ポペプピパとあたし、は向いあい


                     もたれあって。


あたしは、何もかも喰らいこんで、あたしに呑みこまれたあたしを、


おっぽり残して、いっぱいいっぱい、おめかしして、


世界を呑みこみに出かける、


             それパピプペポ、


             ほいパピプペポ!





山田百合子 戯言集(1979)『死体病理解剖 × ・・・・・ノオト』より
http://www.k4.dion.ne.jp/~rainbow3/yamada/zaregoto.htm


いろはにほへどノオト / 山田百合子

2010年06月15日 00時41分15秒 | 詩 poetry

いろはにほへどノオト


                  山田百合子


イノチミヂカシ コイセヨオトメ、ふん一理ある、



子供は若いうちにつくる(?)べきといわれるのか



、今、私はドーセーしているので心身ともにおよそ



満ち足りていて好き勝手している、ついこのあいだ



は京都山死水汚の都なる鴨川で水上スキーをやって



、四条のランカンをへしおってしまった(これには



説明がいるがメンドーなのでやめ)みたいなヒマを



持ち合わせていると、オクサン アイサレテマスカ



なんて土足無礼なコトバが降ってきて、「風が強い



ですねえ、アラアラ」とインタビューアぁの頬に私



の平手が当たってしまった、とたんにコーヒーもま



ずくなって(元々水がわるいのでこれ以上まずくも



ならないが)プッと吹き出すと、わがダンナの白々



しい顔に当たって、ガミガミ、私はシュンとしてい



るところです、それではと、色は匂へるごとく歩い



てくる、さらばわれも歩き出すナーンちゃって、な



んですか、ああです、こうだろうと、ヒマヒマする



ひとたちの多いこと、「ヒマだなあ、ヒマだし、ヒ



マヒマしょーか?」「やさしくしてくれるならいい



わ」、どだいまちがっている、この発想の貧困さ、



<色は匂へるごとく歩いてくる>てめーら、この深



い味がわからんだろーな一生、ああ哀れなる子羊た



ちよ、「オイオレはジャン荘へいくぞ」とのたまっ



てネギをしょっていった、私はついに救われないの



か、だからときどき、キドータイにナグラレルンダ



ワ、おおサドマゾねえ、もっともそれで目覚めて、



罪深い私をお許し下さい、もっとダンナとあいしあ



うようにしなくっちゃ、くっちゃね、くっちゃねて



、朝日のキララめくまで、そうそう最近わかったが



、ネコはヒトより高貴な精神の持主であるという、



ゴモットモゴクロウサン、当り前じゃないかそんな



こと、カミサンをダシのもとにすることしか知らな



いソクラテスでさえ知ってたのだ、うだうだしい暑



さの中で、つい裸になって道をたずねたユークリッ



ド星座みたいに、とびはなれて遠くから、わいざつ



な声が掛かってくる夜、の灯の螢があちらこちらと



乱舞する、乱舞する夢、夢のように色は匂へど散り
        
ぬる尾、あたしの尾っぽ、けふはしっぽりともたれ



あいながら、ヒマヒマする一方でイソガシイソガシ



するあたし、湯あがりの色、湯揚がりの匂い、モノ



みな黒焦げ、真っ青だ、イソガシイソガシ、ああん



ヒマヒマ、されどあたしの姿はどこに?





山田百合子 戯言集(1979)『死体病理解剖 × ・・・・・ノオト』より
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はひふへほノオト /山田百合子

2010年06月14日 23時38分28秒 | 詩 poetry

はひふへほノオト


               山田百合子



 あたしの公理、 <我思う、ゆえに我なし>。あたしが

何か思っているとき、そのときあたしはどこにもいない
                 ヽヽヽヽヽヽ
、思っているところ、正確に言えば、現在的思い出(い


うまでもなく思い出は過去におけることについての現在



化である)のなかに、あたしはいる、ように(だけ)思



われる。すると、あたしはとり囲まれているのか? そ



のような気もする、例えば、かつてあるいはいつかの夢



のように幸せな日々の思いの(ありえなかった・ないで



あろうゆえに)楽しげな気分のうちにある気がする。は



ひふへほ。しかし、たしかにその(どこ?)外にも、あ



たしはいる、もしあたしがいるとすれば。とり囲まれて

ある思いと、かすかに外にもいる思い。だが、あたしは



思いのうちに存在するものなのか? もし、あたしが思



うことによってのみあると証しうるのなら、あたしは思



いのうちにあるとき、あたしはない。つまり、いつもあ



たしはないのだ。否、むしろあたし全体があたしの思い



のうちへかくれること、たたみこまれること、そうたぶ



ん、思いのうちへ消し去ること、そうしたとき、その思



いだけはどこかしらにあるといえるかもしれず……。は



ひふへほ。



 とどのつまり、あたしの求心、あたしの放散。ゆえな



く、あること。何かを確定するとき、同時にあたしはそ



の何かによって確定されているのだ(絶対的ではないに



しろ)、といいうるとき、あたしがあたしを確定すると



は、あたしを無限定に確定すること、つかみどころなく



あり、またなしつづけること、つまり、あたしの拡散消



滅存在。



 は、ひ、、ふ、、、へ、、、、、、、、ほ、、、、、



、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、……低い



声で、ひそかにささやく、あたしはどこかに、ある。限



定されないゆえに、あり、それゆえ、あたしは確定され



つづける。たぶん、いつのころからとかは、いいえない



まま…



 ふへほ。あたしの(快い)眠り。あたしは知らない、



あたしの快さを感じるあたしを、眠っているにしろ、眠



っていないときにしろ。想像すぺきは、極限。もう一歩



ふみ出したところを。たぶんそれは、卑猥なクレバス。



だれもがのぞきこむと??、ひきつりこまれる。一歩を



ふみだしたら、あとはそのひとだけのものだ。



 あるいは。(想像すぺきは)その狭間。夢心地のなか



で、あたしの空っぽの内部の絨毛突起は不可解さにしゃ



ぶられつづけていた。ここ、陰裂の暗さはたとえようも



ない。あたし(たち)は、いつからであれ、いつづけて



いたのか。あたし(たち)が、いる、はひふへほ、その



ようなことは、ついに信じられるときがくるとは、いか



ようにもありえない。だが、いかようにもありえないと



き、ありえなかったあたしの片われ、が非在から覚める



、はひ? さむざむとしたおぞましさのなかで、ぬるっ



たいなつかしさのなかで、



 やがて、限られてしまったあたしと、あたしによって



は限られきらない??はひふへほ。いりみだれ、からみ



あう、(はひふへほ)たちへ、あたしは、




山田百合子 戯言集(1979)『死体病理解剖 × ・・・・・ノオト』より
http://www.k4.dion.ne.jp/~rainbow3/yamada/zaregoto.htm