何を見ても何かを思い出す

He who laughs last laughs best

Lucyはそう言うけれど

2016-01-07 22:48:16 | 
「開花不進我が家」からのつづき

「和僑」(楡周平)は、大手商社マンから転身した町長が、超少子高齢化の影響と弊害が顕著に表れ始めている地方都市の再生にかけるという、近未来を先取りしたモデルケースともなり得る物語であり、2040年、地方自治体の半数が消滅する可能性があること、その理由が出産可能な39歳未満の女性が半減するからであるという現実を突き付けながら、政治と国民に対しても警鐘を鳴らしている。

『やがて直面することが分かってる問題を先送りすりゃ、解決を困難にするだけだ』
『人はさ。悲しいもんで、五年先、十年先のことは、考えているようで考えていない。
 明日の飯よりは今日の飯だ。
 それが顕著に表れるのが政治だ。我慢を強いる人間よりも、甘言を弄する人間を選ぶ。
 だけどさ、それじゃ駄目なんだ。問題を次の世代に先送りするだけだ』

大手商社マンから転身した町長・山崎が見据えていたのは、超高齢化社会への対応だった・・・実は、これについては「プラチナタウン」という作品があるのだが、それを読まないままに続編の「和僑」を読んでしまったので、話が食い違っている部分が多少あるかもしれない。
過疎化による財政破綻寸前だった緑原町に、ともかく人を呼び活気を取り戻そうと考えた山崎は、巨大定住型施設「プラチナタウン」建設案を引っ提げ町長に就任する。
金銭的にゆとりのある高齢入居者8000人がプラチナタウンに定住し、それにともなう介護職員600人が町に流入したことにより町は潤い町の財政は一気にV字回復する。これに味を占めた商店街や地元民や、それらと繋がりある町議会議員は、プラチナタウンの更なる拡大を目指そうとするが、プラチナタウンの生みの親である山崎町長自身が、その限界に気付き、次なる手を打たなければ間に合わないと焦っていた、「和僑」はそんな山崎の未来を懸念する場面から物語が始まる。

山崎が懸念する未来。
今は溢れている高齢者すら、いずれはいなくなる。
人口減少問題だ。

今さえ良ければいいという発想で、町政を考える者に対し、山崎は言う
『やがて直面することが分かってる問題を先送りすりゃ、解決を困難にするだけだ』

緑原町は、豊かな自然に囲まれ農業と畜産業が盛んだが、田舎の農家には後継者が育っておらず、TPP問題が追い打ちをかけ、町の産業に展望が見いだせないままであった。ここにメスを入れ、農業と畜産業で安定的な雇用を生み出せれば、若者の流出を食い止め人口増加に転じることができるのではないかと悩んでいた山崎の前に、アメリカで大成功を収めた時田が現れるのだ。
緑原町出身の時田は、農家の口減らしで中卒で寿司屋の修行に出され、そこから更にアメリカへ修行に渡るのだが、寿司屋を手始めに鉄板焼き屋に手を拡げ、今ではアメリカに20店舗もの店を構えるほどに大成功を収めていた。
その時田が、故郷の家を整理するため(二度と日本に帰らない覚悟で)帰国した時、緑原町ひいては日本の人口減少問題に悩む山崎の苦悩を知りアドバイスするのだ。

山崎が町長職を投げ打って乗る時田のアドバイスは、実際手がけて成功するには難しいとしても、案としての目新しさは、皆無だ。
ルーシーなら、こういうに決まっている。
『NEVER TAKE ANY ADVICE THAT YOU CAN UNDERSTAND・・・
 IT CAN'T POSSIBLY BE ANY GOOD!』
『理解できるような助言はきかないこと・・・
ぜんぜん役に立たないにきまってるわ!』
「スヌーピーたちの人生案内 」(チャールズ・M・シュルツ著 谷川 俊太郎 ・訳)より

だが、そこに打って出るための心意気は心に響くものがある、そのあたりについては、つづく。