葉室麟さんの、
乾山晩秋(けんざんばんしゅう)と言う本。
先日購入した『洛中洛外をゆく』で知り、
一気に読んだ。
(この文庫には5編収められている)
2005年歴史文学賞受賞作品でありデビュー作品でもある。
尾形光琳の弟、
尾形乾山をモデルにした小説であるが、
兄である尾形光琳は、
知らない人はいないだろうというほどの絵師だ。
知人にこんな「紅白梅図」のテレフォンカードを頂いてあるのだが、
なかなか本物を見られないでいる(MOA美術館蔵)。
「燕子花図」は昔、東京で見ることが出来た(根津美術館蔵)。
こうした華やかな作品を残した光琳に対して、
陶工であった弟乾山は影が薄い。
(上掲本の表紙絵は乾山筆)
だが5歳年下の乾山は、
華々しく活躍する兄を尊敬しながら、
陶法を仁清に学び地道に生きたという。
対照的な兄弟だが命日が兄光琳と同じという奇遇。
そんな乾山の辞世の句は、
「うきこともうれしき折も過ぎぬればただあけくれの夢ばかりなる」
そして、
この文庫本のあとがきに、
葉室麟さんのこんな言葉がある。
尾形乾山を主人公とした小説を書きたいと思った。
兄、尾形光琳のはなやかな存在感に比べれば、
弟の乾山は、
はるかにくすんだ印象がある。
そこに魅かれた。
光り輝くものだけが、
この世に存在するわけではない。
光があれば、必ず、影がある。
影だけではない。
光りのまわりに、
柔らかな色彩で温かみとふくらみのある存在があって、
光を支えているのだはないだろうか。
先に購入した、
『洛中洛外をゆく』
『古都再見』
葉室作品にどっぷり漬かっている。
そしてまた注文した。
葉室麟『いのちなりけり』