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ヴァン・デ・コーク教授の The body keeps the score : brain, mind, body in the healing of trauma 『大切にされなかったら、意識できなくても、身体はその傷を覚えてますよ : 脳と心と身体がトラウマを治療する時どうなるか?』
第2章。「心と身体を理解する,革命」,p.30,第3パラグラフ,4行目途中から。その前もご一緒に。
逃げられないショック
トラウマストレスに関する,なかなか消すことができない問いに心ふさがれたまま,私は脳神経科学という新たな学問分野が,ある種の答えをくれるかもしれない,と考えるようになりまして,神経心理薬理学会(ACNP)の学会に参加し始めました。1984年,ACNPは,薬の開発に関して魅惑的な講演をたくさんしましたが,私が乗る予定のボストン行きの飛行機まで残り数時間になったとき,コロラド大学のスティーヴ・マイヤーのプレゼンを耳にしたんです。スティーヴ・マイヤーは,ペンシルベニア大のマーティン・セリグマンの共同研究者でした。マイヤーの題目は,動物の中にある,身に沁みた無力感でした。マイヤーとセリグマンは,檻に入れられた犬達に,痛い電気ショックを繰り返し与えました。マイヤー等は、この状態を「逃げ出せないショック」と呼びました。犬の愛好家なので,こんな実験は,私自身には出来なかったろうとは、分かりました。しかし、私が関心を持ったのは,こんな残酷な仕打ちがその動物達にどんな影響があるのか,ということです。
様々な電気ショックをやった後で,研究者等は檻の扉を開けて,その犬たちにまた電気ショックをお見舞いします。電気ショックをやられずにきたコントロール群の犬たちは,すぐに檻から逃げ出しましたが,逃げられない電気ショックをやられてきた犬たちは,扉が広々と開いていても,一度も逃げようとする素振りもしませんでした。― 逃げられないショックをやられた犬たちは,ただそこに寝て,クンクン鳴いて,ウンチをするだけでした。逃げられるチャンスがあるだけでは,トラウマを負わされた動物や人間を自由にしてくれません。マイヤーとセリグマンの犬たちみたいに,トラウマを負わされた人間は,あきらめている人が多いんです。新しい選択をリスクを冒してまで選択するよりも,体験したあの恐怖に取りつかれたままでいるんです。
私はマイヤーの説明に釘づけにされました。マイヤーらが犬にやったことは,トラウマを負わされた私の患者さん達に起こったことに他なりませんでしたから。トラウマを負わされた患者さん達も,オゾマシイ喪失を押し付けて来た人(もの)から逃げらなかったんです。私は私が治療している患者さん達の心の状態を,ザッと再検討しました。ほとんど患者さんの全員が,何らかの点で,こだわりと動けないことがありましたし,逃げられないことから,逃げようとすることができませんでした。逃げる/戦うの反応が阻害された結果,患者さんたちは,動揺するか,くじけた気持ちになるか,していたんです。
マイヤーとセリグマンが発見したもう1つは,トラウマを負わされた犬たちは,ストレスホルモンを通常よりも大量に出している,ということでした。これでハッキリしたのが,トラウマストレスの生物的な基礎について学びだしていたことでした。若い研究者たち,エール大学のスティーヴ・サイスウィックとジョン・クリスタル,エルサレムのハダシャ医学校のアーリア・シャレフ,アメリカ精神保健省のフランク・バットナムとロジャー・ピットマン,彼はのちにハーヴード大学に移りましたが,この研究者らが発見したのは,トラウマを負わされた人は,実際の危険が過ぎ去った後でも,大量のストレスホルモンを出し続けている,ということでした。それから,ニューヨークのシナイ山病院のレイシェル・エフーダが私どもに突き付けた,一見すると矛盾する発見は,ストレスホルモンのコルチゾールの値が,PTSDでは,低いということでした。彼女が発見したことの意味がハッキリしたのは,ストレスホルモンのコルチゾールは,ストレス反応が終了したことをづけるもので,「もう大丈夫」というサインを送るものであることが分かった時でしたし,PTSDでは,身体内のストレスホルモンが,脅威が去った後も,通常のレベルに下がらない,ということが分かった時でもありましたね。
ですから,日々,刻々,辛い状況に繰り返し出合い続ける発達トラウマ障害の子ども等,大人たちは,ストレスホルモンが大量に出続けることになります。ストレスホルモンは短時間の危機場面には有効ですが,日常的に高いレベルになりますと,様々な健康障害をもたらすもののようですね。
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