そうか、マゼールも死ぬのか・・。
マゼール逝去の報を知ったときに、最初に心に浮かんだのは、この言葉であった。
昨年、サントリーホールで聴いたミュンヘン・フィルとのブルックナーの第3番とアンコールで演奏された「マイスタージンガー」前奏曲の完璧さ、その度肝を抜く音楽的仕掛けには、心底驚愕し、感動したものだ。
それまで、レコードやCDから受けていた、頭はキレるけど温かみが足りない、といった表面的な印象を粉々に打ち砕く名演、快演だったのである。
齢80を越して、枯れた味わいといった要素は皆無。その精力絶倫の指揮振りは、鉄人のそれであり、マゼール不死身を印象づけた。しかし、そこに、大いなる包容力と優しさのあったことは見逃せない。専制君主としての振る舞いはなく、楽員を信頼する謙虚な姿勢に貫かれていた。
あの素晴らしい演奏会から、わずか1年と3か月余りで、亡くなってしまうなんて、とても想像つかなかった。
今年のボストン響とのマーラー5番、来日公演。代役のデュトワはとても立派だったけれど、やっぱりマゼールで聴きたかったな。
というわけで、いま、マゼールとウィーン・フィルによるマーラー3番の第1楽章を聴くことを、わが追悼の行事とした。
心よりご冥福を祈りながら。