福島章恭 合唱指揮とレコード蒐集に生きるⅢ

合唱指揮者、音楽評論家である福島章恭が、レコード、CD、オーディオ、合唱指揮活動から世間話まで、気ままに綴ります。

井上道義 & 大フィル「大ブルックナー展」第1回

2015-01-29 10:45:05 | コンサート

ご報告が遅れましたが、24日土曜日には、井上道義先生と大フィルによる「大ブルックナー展」を聴いてきました。会場は、懐かしき兵庫県立芸術文化センター大ホール。記念すべき第1回目の選曲は「第8番」。

井上先生と大フィルの演奏会、昨年のチャイコフスキー「第4」(大フィルへの復帰第一弾)にも伺いましたが、このコンビにとって、今回の演奏がより大きな意味を持ったではないかと感じました。井上先生の意志がより多くの団員に伝わり、オーケストラのサウンドに覇気と重厚感が増していたからです。井上先生のアプローチもパフォーマンス抜きの真剣勝負。炎のコンマス崔文洙(チェ・ムンス)以下、集中力と燃焼度は半端なく、これからの大阪フィルの進むべき道が明確に示されていたと言えるでしょう。

一方、井上先生のブルックナーを聴きながら、自分のブルックナーとの違いを小節毎に感じたのも本当です。テンポ感然り、フレーズ感然り、バランス感然り。というか世界観でしょう。決して違和感があるとかではなく、その違いを心地よく、興味深く受け止めました。井上先生の演奏を味わいながら、自分のブルックナーとは何かを発見する旅もしていたということになります。音楽には、こういう楽しみ方もあるのですね。

井上先生のお言葉はここ。

http://www.michiyoshi-inoue.com/2015/01/post_23.html

第2回はスケジュールの都合から伺うことは難しそうですが、近隣の方には大いにお勧め致します!

■兵庫県立芸術文化センター特別演奏会「大ブルックナー展」

第1回 2015年1月24日(土)午後3時開演
・ブルックナー:交響曲第8番

第2回 2015年6月27日(土)午後3時開演
・ブルックナー:交響曲第7番

指 揮:井上道義
管弦楽:大阪フィルハーモニー交響楽団
料 金:A5,000 B4,000 C3,000 D2,000

お問い合わせ:大阪フィル・チケットセンター 06-6656-4890


新国立劇場「さまよえるオランダ人」

2015-01-29 00:14:54 | コンサート

今宵は新国立劇場で「さまよえるオランダ人」を観た。

正直、序曲から第1幕はいまひとつ乗れなかった。
「基本的に、自分は飯守泰次郎とは波長が合わないんだな」ということを端々に感じてしまったのだ。棒が分かりにくいことも関係あるが、全てではない。そんなことを言えば、朝比奈先生やマタチッチを聴けなくなる。

飯守泰次郎の指揮は、腹の底から息をしているという気配が一見感じられず、腕だけを振り回したり、こねたり、押したりしているように見える。だから、腑(はらわた)にズシンと響く音がしない。それが原因なのだろうと思う。「パルジファル」の時から感じていたことなのだが、それを改めて認識せざるを得なかった。特に序曲では、アインザッツが分かりづらいせいかオーケストラも探りながら出て、決め所が決まらず、音楽が全体に平板だったように感じた。

ところが、第2幕の中盤から第3幕のラストまでは、音楽に独特の生命力と緊張感が生まれ、いつの間にやら音楽に引き込まれてしまったのだから不思議である。基本的に好きなサウンドではないのに、いつしか自分の好みを超越して、結局はワーグナーの素晴らしさを堪能させてくれたのだから、飯守泰次郎を名指揮者と呼ばないわけにはいかないのだろう。なんとも奇妙な理屈だが・・・。

歌手では、何と言ってもゼンタを歌ったエルベートに尽きる。終演後、オランダ人役のマイヤーが最も大きな喝采を受けていたが、ボクのベストは断然エルベート。その声のよく通ること! 他の全ての存在を超越して響く声は、ゼンタの自己犠牲的な愛を描くのに相応しい美があって胸を打たれた。マリーの竹本節子さんは、厚木のモツレクにご出演頂いたばかりだが、人間性溢れる素晴らしく深い声。男声陣では、ダーラント役のシヴェクのピッチ感がボクとは少し合わなかったが、舵手の望月哲也さんは本当に立派! 益々惚れた次第。

演出は、妙な読み替えのないオーソドックスなのは良かったが、もうひとつキラリと光る部分も欲しかった。特に、ゼンタとオランダ人が光に包まれながら昇天すべきところ、オランダ人だけが地上で人として死ぬ、というラストには夢がないように思う。

31日の千穐楽は仕事が入っているため、今回のプロダクションは、本日1回だけの鑑賞となった。
もし、どうしようか迷われている人に相談されたなら、「どうぞご覧なさい」と言うだろう。

 

新国立劇場 2014/2015シーズン
ワーグナー《さまよえるオランダ人》
【ドイツ語上演/日本語字幕付】

2015年1/18(日)14:00、21(水)14:00、25(日)14:00、28(水)19:00、31(土)14:00
新国立劇場 オペラパレス

■指揮:飯守泰次郎
■演出:マティアス・フォン・シュテークマン
■美術:堀尾幸男
■衣裳:ひびのこづえ

■キャスト
【ダーラント】ラファウ・シヴェク
【ゼンタ】リカルダ・メルベート
【エリック】ダニエル・キルヒ
【マリー】竹本節子
【舵手】望月哲也
【オランダ人】トーマス・ヨハネス・マイヤー

合唱:新国立劇場合唱団
管弦楽:東京交響楽団