早いもので、エリシュカ先生とのドヴォルザーク「スターバト・マーテル」初日から、もう1週間が経ってしまった。
気持ちを切り替えなければと思いつつも、エリシュカ先生との6日間があまりに濃密だったため、未だ余韻の中で生活していることを告白しなくてはならない。
さて、いま、もうひとつ思い出すのは、エリシュカ先生とオーケストラ、コーラス、そしてわたしを結んでくれた存在、通訳のプロハースカ尚子さんのことである。
ときに激するマエストロの言葉をまろやかに伝え、休憩を忘れて音楽に没頭するマエストロに時間を示すなど、そこにあるはずの言葉の壁が取り払われた以上の優れたお仕事をされたと思う。
音楽リハーサルの通訳は語学に堪能なばかりでは役不足となりがちだが、その点、桐朋学園器楽科のご出身(即ち、我が後輩)ということで、音楽の専門知識やリハーサルの段取りも万全。
マエストロからの指示の伝達が的確、かつ迅速であり、さらにはマエストロや演奏者の立場や気持ちを汲み取ることを忘れない、など、プロハースカさんの名通訳なしに今回のコンサートの成功はなかった、とも言えるだろう。
オーケストラやコーラス、そして合唱指揮者であるわたしにはステージ上で、マエストロに讃えられる場面はあった。
しかし、通訳者の彼女が舞台で喝采を受けることはない。
遅れ馳せながら、この場を借りて、プロハースカ尚子さんの功績を称えるとともに、感謝の念をお伝えしておきたい。
以下、大阪フィル合唱団団員の言葉から、いくつかを転載しておこう。
「プロフェッショナルであるということ。。。
私の周りには様々な職業のプロがおられる。特に身近なのが音楽関係のプロ。
今回の公演でもマエストロはじめソリストの方々、合唱指導者そしていつも凄いなぁと思うオーケストラのメンバーなどプロの仕事を見せていただいた。
でも、今回私が注目したのは「通訳者」。ドイツ語や英語を話されるマエストロがほとんどで聞いている方も何となく解るのだが、エリシュカさんはチェコ語で通訳なしでは全く分からない。
彼女の通訳は非常になめらかで的確、音楽の専門的なことも時々入るマエストロのジョークも自然に訳されて素晴らしかった。連日の何時間にも及ぶ練習を疲れた様子も見せず、マエストロは勿論出演者も全幅の信頼を寄せられるような、これがプロという仕事を見せてもらった何日間だった。
そんなあれやこれや、まだ余韻に浸りながらのベリーとの散歩の夕暮れ」(Y.H)
「何が感動したかって、あの通訳さんでした。飾り気のない自然体で、しかも機転が効いて、タイムキーパー的な役割も果たしながら、見事なまでにチェコと日本の架け橋になってくださいましたね。
今回の演奏会の成功は、あの方にかなり起因しているように思います」(Y.Y)
「彼女の仕事振りには感心しっぱなしです。せめて、ご挨拶したかったと残念に思います」(K.N)
