福島章恭 合唱指揮とレコード蒐集に生きるⅢ

合唱指揮者、音楽評論家である福島章恭が、レコード、CD、オーディオ、合唱指揮活動から世間話まで、気ままに綴ります。

アンドラーシュ・シフ ベルリン・コンツェルトハウス管

2019-06-14 16:38:04 | コンサート


今宵は、ベルリン・コンツェルトハウスに初見参。アンドラーシュ・シフとコンツェルトハウス管の演奏会を聴いた。

プログラムは、前半にバッハ: イタリア協奏曲、ベートーヴェン: ピアノ協奏曲第1番。休憩を挟んだ後半は、バルトーク: 管弦楽のための協奏曲

つまり、シフによる独奏~弾き振り~指揮という流れになるわけだ。

オーケストラを着席させたまま弾いたイタリア協奏曲こそ些か求道的に過ぎて、シフならではの閃きに欠けた気もしたが、次のベートーヴェンは生き生きとした生気とに溢れた超一流の至芸を見せた。まさに自由闊達。ユーモアあり、悲哀あり、憧れあり、なんとも美しいベートーヴェン。

オーケストラのコントロールも抜群で、力づくの場面は外務省。柔らかな響きを主体に千変万化の彩りの移ろいを聴かせたのである。

アンコールは、シフの独奏で、バッハ:パルティータ第1番よりメヌエットⅠ&Ⅱとジーグ。まさに天衣無縫。イタリア協奏曲とは別人のような冴えを聴かせた。



さて、ここで、後半のバルトークの話をしなくてはならないのだが、休憩時間より不意に襲われた睡魔によって、演奏については殆ど記憶がない。ただ、シフの虚飾のない真っ直ぐな指揮姿が、どこか高田三郎先生に似ていたなぁ、という朧気な印象のみ。

そもそも、バルトークの音楽を聴いて幸せを感じたことのない人間なので、意識があっても、楽しめたか否かは定かでない(バルトーク・ファンの皆さま申し分ありません)。

なお、コンツェルトハウスのアコースティックは素晴らしく、全体に昔ながらのコンサート会場という趣があって落ち着いた。いつか指揮台に立ってみたいものである。



Konzerthausorchester Berlin,
Sir András Schiff

Artist in Residence

KONZERTHAUSORCHESTER BERLINSIR
ANDRÁS SCHIFF Piano

Johann Sebastian Bach
„Concerto nach italienischem Gusto“ F-Dur BWV 971

Ludwig van Beethoven
Konzert für Klavier und Orchester Nr. 1 C-Dur op. 15

PAUSE

Béla Bartók
Konzert für Orchester


マスネ「ドンキ・ショット」に酔う ベルリン・ドイツ・オペラ

2019-06-14 09:34:24 | コンサート


昨夜は、再びベルリン・ドイツ・オペラへ。マスネ「ドン・キショット(ドン・キホーテ)」を観る。

座席は、日本風でいう3階席から壁沿いに舞台に向かって降りていくところ、その左サイド。随分高さがあって、高所恐怖症のわたしは一瞬怯んだが、東京文化会館の4階ほどの恐ろしさはなく、何とか落ち着いて座ることができた。

フランス・オペラに明るくないわたしにとって、この作品を聴くのも観るのもはじめての体験であったが、マスネ熟達の創作による音楽は、佳きスペイン趣味に彩られ、メロディもリズムも楽しく、味わいがあって大いに魅了された。何度でもリフレインしたくなる傑作であることに気付いた次第。

歌手では、ドン・キショットの恋い焦がれる女性、ドゥルシネ役のクレメンティーヌ・マルゲーヌ(メゾ・ソプラノ)が出色の出来映え。妖艶でありながら深みと憂いを湛えたその声と華のある舞台姿は、彼女が秀でたカルメン歌いであることを彷彿とさせた。

ドン・キショット役のアレックス・エスポジート、サンチョ・パンサ役のセス・カリコによる低声コンビも、声、演技ともに、滑稽、悲哀、真剣な愛を描いて見事であったが、ドン・キショットの役作りが老人というよりはバリバリの働き盛りのようであったのは、演出上致し方ないところか。それにしても、伝説の名歌手シャリアピンのために書かれたという作品だけに、更なる貫禄、存在感があれば、なお良かっただろう。

指揮はエマニュエル・ヴィヨーム。N響にも来演記録があるスキンヘッドの指揮者。わが座席からは、指揮姿が僅かにしか見えなかったのであるが、随分エネルギッシュな指揮ぶりで音楽を盛り立てていた。

"Jules Massenet: DON QUICHOTTE [Audience Reactions]" を YouTube で見る



演出については、門外漢ゆえ多くは語れないが、たとえば、ドン・キショットがドゥルシネの頭上から赤の花びらを浴びせると、ドゥルシネの衣裳が白から赤に早変わりするなど、とにかくお洒落。古典的で余りに常識的(奇抜よりは百倍よいが)であった前夜の「マノン・レスコー」よりも遥かに精彩があった。もっとも、本公演がプレミエから数えて4公演目ということで、その初心が保たれていたこともあるだろう。

しかし、よいことばかりでもなく・・。昨夜は日本でいう2階席、3階席正面が学生たちに埋め尽くされていたのだが、彼らの騒々しいこと夥しく、オケのチューニングが終わっも、自習時間の教室のような騒がしさ。開幕してピアニシモの場面でも、ヒソヒソ声や物音が絶えず、再三にわたり鑑賞を阻害されたのは残念であった。カーテンコールでのバカ騒ぎは、歓声や口笛が鳴り響き、さながはアイドル歌手かロックコンサートの乗り。なんだか憂さ晴らしのようにしか聞こえなかったが、クラシック音楽ファンの減少が危惧されるなか、彼らのうちの何人かでも、オペラに興味を持ってくれる可能性があるとするなら、これも受け入れざるを得ないのか?

なお、音響は、平戸間に較べ桁違いに良かった。これならオペラの醍醐味を味わえるというもので、「マノン・レスコー」もこの座席で聴いたなら、もっと感動できていただろう。
ステージ上方の字幕も見やすく、価格も平戸間の半額となれば、こちらを選ばない手はない。