福島章恭 合唱指揮とレコード蒐集に生きるⅢ

合唱指揮者、音楽評論家である福島章恭が、レコード、CD、オーディオ、合唱指揮活動から世間話まで、気ままに綴ります。

「ドイツ・レクイエム」ベルリン・フィルハーモニー公演を終えて

2019-06-19 23:11:06 | コーラス、オーケストラ


昨日、6月18日(火)20時05分頃、ブラームス「ドイツ・レクイエム」第1曲へのタクトを振り下ろした。

まず、驚いたことは、オーケストラによる前奏の響き方が、ゲネプロとは全く違うこと。ベルリン・フィルハーモニーホールは、空席の時よりも満席の方が良い音響になる、という噂は聞いていたが、まさに身をもって体験することができた。余計な残響がスーッと聴衆に吸い取られ、すべての楽器、すべての声が極めてクリアに聴こえてくるのである。それでいて、バラけた感じは一切なく、美しくブレンドされた響きが生まれるのだから堪らない。

サントリーホール、東京オペラシティはおろか、ムジークフェラインザールの指揮台でも感じられなかった不思議な感覚であり、指揮者にまたあの指揮台に立ちたいと思わせるものだ。

今回、わたしは、本番前々日の合同コーラス稽古の前に現地コーラスのみの稽古、さらに前日のソリスト&コーラスとオーケストラ合わせよりも前に、オーケストラのみの稽古をリクエストしていたのだが、予算、会場、スケジュールの都合で認められず、前日の合わせ3時間と当日ゲネプロのみという苦境の中で本番を迎えなければならなかった。

尋常ならざる集中力と気合いで臨んだ本番は、オケ、ソリスト、コーラスともに上記の悪条件をものともしない素晴らしい出来映え、というよりも、アンサンブルに乱れを起こしてしまった第4曲を除く6つの楽章については、我が音楽家人生の中でも最高に近い感触をもったものである。

とはいえ、稽古がもう1日ずつあれば、コーラスにはもっと細やかなニュアンスを伝えたり、オーケストラにはもっと呼吸の一体化した余裕のあるアンサンブルとなった筈であり、大いに悔やまれる。事実、現地コーラスやベルリン交響楽団からは、もう少し練習したかった、という声もあったとのこと。再びベルリンを訪れる機会を設け、次回への申し送り事項としたい。



ベルリン交響楽団は、サントリーホール公演で共演したヴェリタス交響楽団に較べると不器用なところはあったと思う。ヴェリタス響の場合、コンマスの崔 文洙さんのリーダーシップが抜群で、彼に任せていれば、少々の問題が勃発しても楽員たちが自ら解決してくれたものだが、ベルリン響の場合、その解決に時間が必要であった。しかし、いざ解決したときの、或いはアンサンブルに乱れが生じたときですら、揺るぎない低音による重厚な味わいは、まさにドイツのオーケストラ。やり残したことがあったにせよ本番の指揮への順応は優れたもので、このオーケストラでブルックナーを振れたら、どんなに素敵なことだろうと今は思っているところ。



さて、今回、サントリーホール公演からベルリンで指揮をさせて頂くという機会を与えてくださり、国内練習の労を担ってくださったエメセックインターナショナルの丸尾直史さん、岩本絵美さん、名古屋練習会でお世話になった中村貴志先生、大阪練習会でお世話になった真木喜規先生、北爪かおり先生、また小沢さちさんはじめ、各練習会のピアニストの先生方、現地のソリスト、オーケストラ、ホールのお手配から会場を満席にしてくださったCulture Communication Consultingの寺崎哲夫さん、ベルリン交響楽団の関係者の皆さんには、お世話をお掛けした。心よりの感謝を申し上げたい。

カーテンコールで頂いた花束は、バス移動を幸いハンブルクまで同伴。宿泊先のデスクに飾らせて頂いた。25日の帰国まで美しい彩りで部屋を飾ってくれるだろう。

(一番下の写真は、終演後に楽屋を訪ねてくださったベルリン在住のピアニスト倉澤杏菜さんとともに)