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関東温泉紀行 / 関東御朱印紀行
■ 伊東温泉 「いな葉」 〔 Pick Up温泉 〕
発売中の自遊人6月号別冊「温泉図鑑」を読んでいたら、伊東の「いな葉」が「6/3に宿をいったん閉めることになった」(同誌)という記事がありびっくり。(いまのところ引き受け手を探したうえで再開の方向で考えているらしい。)
以前、「東海館」に入湯したとき、「東海館」に比肩する「いな葉」のたたずまいに惹かれ、しかも独自源泉かけ流しということで狙っていましたが、この正月に2泊してきました。そのときのレポです。
なお、その後、B&B施設「ケイズハウス伊東温泉」として再開しています。
<伊東温泉「いな葉」>(静岡県伊東市、11:00~16:00(月・金13:00~)、1,000円、0557-37-3178)
※オフィシャルHP
※もうひとつのHP
「東海館」とともに大正~昭和初期の和風木造建築を今に伝える松川沿いの老舗旅館。
大正から昭和初期にかけて、伊東温泉(→ 温泉地巡り)の中心であった松川沿いには、「松川館」「大東館」「東海館」などの木造の旅館があいついで建築されました。「いな葉」 は、大正末期に当時炭屋を営んでいた稲葉惣次郎氏により「大東館」として建てられたものとみられます。(同館HPより)その後、数度にわたる増改築を経て、昭和23年4月より「いな葉」として営業をはじめ、現在に至っています。なお、「東海館」は平成9年に廃業、現在は観光・入浴施設に転換、「松川館」はすでに取り壊されています。
唐破風の玄関、欅材の磨き上げられた廊下、水まわりのタイル細工、精緻な欄間彫刻、意匠を凝らした照明、狭く急な階段をのぼってたどりつく望楼(見晴台)など、いまつくったらいったいいくらかかるかわからない(というかつくれない?)和風建築の粋が各所にみられます。松川沿いに配された各部屋の風情もしっとりとおちついて、松川で遊ぶかもめや対岸の柳並木が一幅の絵のようです。
ちなみにこの建物は平成10年3月、国の登録有形文化財に指定されています。
すばらしいのは建築だけではありません。お湯もそうですが、おどろいたのは料理のレベルの高さ。今回は両親、姉貴夫婦と泊まりましたが、往年の社用族で舌の肥えた父親やグルメ派の姉貴が思わず唸るほどの味でした。しっかりとした素材のうえで腕ききの板前さんが縦横無尽に腕を振るっているようなすさまじく技量を感じるもので、最近のデザイナーズ旅館で主流のフュージョン(食文化融合)やキュイジーヌは微塵も感じられない筋の通った正統派日本料理です。これだけの食材と板前さんを確保するのは新興の温泉宿ではまず無理では?。
食事はふつうは部屋か料亭「芳味亭」でいただくようですが、今回は大人数だったためか贅沢にも大広間貸切りで用意していただけました。
この大広間もすばらしいもので、市松貼りの天井に、楠材の欄間は彫師・森田東光氏作です。
客筋がよく、満室だったのに館内は静か。大浴場の洗い場など、どの客もみな椅子や湯桶を片づけていくので、常に整然としていたのには感心しました。
接客もつかずはなれずの練れたもので、くつろいだ時間を過ごせました。
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さて、本題の温泉です。
「いな葉」には、1階大浴場男湯(分福茶釜の湯)、女湯、2階と3階に家族風呂の4ヶ所の浴場があります。他に松川の対岸に温泉プールがあるようですが、冬場につき閉鎖されていました。大浴場の男湯と女湯の時間交替はなし(正月だったからかも?)
<1階大浴場男湯(分福茶釜の湯)>
1階脱衣所から階段を下った半地下にある、小ぶりながら総大理石貼りの質感高いメイン浴場。
木枠大理石造5-6人の浴槽に分福茶釜の湯口からやや熱めの源泉が湯量を変えてリズミカルに注ぎ込まれています。この分福茶釜の表情がなんともいえず独特なもので、その口からざあざあと源泉が吐き出される浴室は不思議な雰囲気があります。湯口よこには飲泉用の竹筒がおいてあります。
槽内注排湯はなく全量をざこざこにオーバーフローのかけ流し。潤沢なかけ流し量は申し訳ないほど。カラン4位、シャワー・シャンプー・ドライヤーあり。
<1階大浴場女湯>
分福茶釜の湯よりやや小ぶりで総大理石造。狸の湯口から投入で槽内注排湯はなく全量をざこざこにオーバーフローのかけ流し。
ふたつの家族風呂は予約制ではなく、空いているときにはいつでも入れます。
正月だったからか昼間もお湯が湛えられ、何度か入りました。
<2階家族風呂>
狭いながら二面採光の明るい浴室に、木枠簀の子底壁面タイル貼扇形1-2人の浴槽。木の湯口から少量投入で槽内注排湯はなくしずかにオーバーフローするかけ流し。
<3階家族風呂>
狭いながら二面採光の明るい浴室に、タイル貼扇形1-2人の浴槽。壁からつき出たカラン+ホースからの注入で、槽内注排湯はなくオーバーフローのかけ流し。
お湯は4槽ともほぼ同じと思われます。ただ、分福茶釜の湯のみ夕方の集中時に少量の白い湯の花が出ていました。無色透明でやや熱めのお湯は、はっきりとした芒硝味+微苦味+僅微塩味、石膏臭に仄かな芒硝臭のまじるやさしい湯の香。硫酸塩と土類のきしきしにかすかなヌルすべととろみが加わります。肌に染み渡るような浴感と適度な濃度感のある入り応えのあるお湯で、よく温まりますが、さほどほてらない上質なイメージをもつすばらしいお湯です。
うすさの風合いを味わうような伊東スタンダードのお湯ではなく、伊東をベースにしながら、熱海の上宿や宇佐美のニュアンスを足し込んだイメージのお湯に思えました。
じっさい、共同浴場をいくつか入ったあと「いな葉」のお湯に入ってみましたが、浴感はあきらかに違いました。成分総計=2.676g/kgは伊東のなかでも屈指の濃度と思われます。
それにしても1階食事処や浴室、各部屋の随所もきれいにリニューアルされていたので、まさかこのような事態になるとは予想だにしませんでした。
「伊東の財産」ともいえるこのすばらしい老舗旅館が一日も早く再開されることを祈っています。
Ca・Na-塩化物・硫酸塩温泉 51.4℃、pH=7.9、119L/min動力揚湯、成分総計=2.676g/kg、Na^+=479.7mg/kg (46.78mval%)、Ca^2+=431.7 (48.29)、Cl^-=1217 (78.41)、SO_4^2-=435.2 (20.69)、陽イオン計=942.6 (44.61mval)、陰イオン計=1676 (43.78mval)、メタけい酸=52.2 <H17.8.18分析> (源泉名:岡84号)
※HPによると「天然温泉で当館は源泉を4本所有しております。お風呂はかけ流しの湯(どんどん湧き出しているので常時きれいな湯)です。湧出量は毎分100リットルでタヌキより勢いよく源泉が出ています。文福茶釜の湯には2本の源泉54度と源泉37度の湯を混ぜて風呂温度を41度にしています。」とのこと。
すぐとなりの「東海館」とお湯のイメージがぜんぜんちがうのも、伊東温泉の底力だと思います。
〔 2007年5月4日レポ 〕
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