先週末にかけて、競馬界にショッキングなニュースが続きましたが、特に藤田菜七子騎手の電撃引退の報は大変残念でありました。
本件に関しては、既に数多くの報道機関や有識者からさまざまな意見や感想が述べられている故、ワタクシからは違った視点からお話をしたいと思います。
そもそも「なぜ騎手は、レース前日の21時までに専用の隔離施設に入らなければならないのか？」
よく新聞等では「競走馬の状態などの情報を外に漏らさないため」などと説明されていますが、そうであれば、厩舎関係者である調教師や厩務員だって、前日21時からどこかに閉じ込めなければなりませんから、それが理由ではありません。これは、明確に「八百長行為の防止」が目的であります。
いやいや、「八百長行為」ならば、前日21時からだけでは防げないのでは？という人がいるかもしれませんが、確かにそうなのですが、これが直前だからこそ、防げる「八百長行為」が存在するのであります。
昭和の頃には、「ノミ屋」と呼ばれる「非合法のブックメイカー」が数多く存在しておりました。「非合法のブックメイカー」とは、JRAとは別に、独自に馬券を売る元締め業者のこと。馬券が当たった時の払戻金は、基本的にはJRAと同じでありますが、ときどきオマケでJRAよりも高い払戻金を払ってくれるので、競馬好きの商店街の親父連中などは、この「ノミ屋」を利用している人がけっこうおりました。そして、この「ノミ屋」とは、地域の「反社会的勢力」が執り仕切るケースが殆どでありました。
ちなみに、JRAでは馬券売上の約75％を払戻金に回しますので、どんな馬が勝とうがJRAの取り分に影響は出ません。しかし、「ノミ屋」では馬券の売れ方に偏りが出ますので、どの馬が勝つかによって「ノミ屋」の取り分が大きく異なることが発生します。したがって、もし可能であれば「勝ってほしくない馬には何とか勝たないでもらう手段」があると「ノミ屋」にとっては非常に便利なのでありました。そこに「八百長」発生の理由がある訳です。
そして、この馬券の売れ方の偏りが判明するのが、当然ながらレースの直前になる訳です。だからこそ、レース前日の21時からレース直前まで、そのようなけしからぬ「反社会的勢力」から接触ができないように騎手が隔離されることになります。
当然ながら、いきなり電話が掛かってきたとしても、騎手だってそんな要求を受け付けることはありませんが、これが「後援者」として普段から派手な接待を受けているような相手だったとしたら、「頼むよ！ 後生だから頼むよ‼」と言われたら、ちょっと手心を加える可能性だってあるかもしれない。そして、一度そうした事実が発生するともう「弱み」を握られてしまうので、次からは「反社会的勢力」の言いなりになってしまうという状態に。
このような悲劇を発生させないよう、瀬戸際で防ぐ手段が「前日の21時以降から騎手を世間から隔離する」ということ。相手は「反社会的勢力」ですから、最初は騎手の虚栄心をくすぐることから近づいてきて、親しくなって一度弱みを握った途端に、今度は骨までしゃぶり尽くしてきます。こうした事態にならないよう、騎手とその家族を守るための最後の防波堤として「隔離ルール」が設けられているということ。
ちなみに、JRAの隔離ルールよりも、地方競馬の隔離ルールや、競輪・競艇・オートレースの選手たちの隔離ルールの方がもっと厳しい内容になっているのは、そうした「ノミ屋」がらみの不正行為、グレーな行為があとを絶たなかった黒歴史があり、結果として、より厳しい隔離ルールや懲戒処分が科せられているのだとワタクシは見ております。
さすがに、このような生ナマしい話を世間に晒すことは出来ないため、今回の件の報道も「歯切れの悪い」内容ばかりですが、こうした黒歴史がピンときていない、Z世代といわれる若手騎手たちにとっては、そもそもの「隔離ルールの意義」が理解できていないのでは？とワタクシは考えます。
少なくとも、JRAからは「本来の趣旨」を彼らにも赤裸々に伝えて指導すべきであります。もしすでに伝えているにもかかわらず、それでも根絶できないのであれば、これはもう早急に「隔離施設内では、物理的に通信不能となるインフラを整備すべき」であります。
なお、非合法のブックメイカーは、国内にはもう殆ど存在しなくなりましたが、海外には存在します。大きな問題が発生してからでは手遅れになります。
