羽生が名人戦全勝で挑戦を決めた。
一世代前までは最強の棋士は大山康晴とされていたのだが、大山没後僅か二十年で羽生善治になったと書いて、異論のある人は少なかろう。
羽生の強さは所謂勝負強さとは微妙に違い、本当に強くて強い感じがする。勿論、羽生もやや不利な時には強靭な粘り強さを見せるのだが、それは相手を見てというよりも将棋理論を応用したものと感じられ、あまり勝負師といった印象を受けない。
と書いて、矛盾するようであるが、一局の将棋では勝負師的ではなくてもタイトル戦全体で見るとこれが希代の勝負師を感じさせる。つまりちょっと不本意な展開で奪われたタイトルを直ぐ奪い返しに来るのである。タイトルを奪い返しに来ると簡単に書いたが、これは容易なことではない。つまり翌年挑戦者になるには強豪相手に何連勝もしなければならず、一般には至難の業なのだ。こういうところには強烈な執念を感じる。執念と言うよりは自負矜持のなせる業なのかもしれない。この辺りはへぼが忖度しては失礼だろう。
森内名人はこの一年、一般棋戦では冴えなかった。これで簡単に羽生に名人位を奪取されては立つ瀬がなかろう。名人戦で四勝して最強者を退けさえすれば、将棋を知る人は名人と呼ぶのを躊躇しないだろう。面目を賭したぎりぎりの名勝負が見られると楽しみにしている。