人生という街にはまさかという坂が数多くあるようだ。六十も半ばを過ぎて、時間が後ろ向きに流れることもあるのを知った。物理学者や歴史家には周知のことかも知れないが、毎日病人の診療に追われてきた老医には思いもよらぬ発見だ。
節を屈して獲物の分け前に預かろうとする人と10日後の御馳走よりも今のにぎり飯に食らい付くのが生き延びる道と感じる人が過半数を占めるのが世の中らしい。民主主義という理想は民衆によってしっぺ返しを食らうなどとわかったようなことを口走りたくなる。
悪ふざけのように響くなぞなぞだが、どちらかと言えば恵まれている者が恵まれていないように感じ考え、正直なところあまり恵まれていない者が恵まれているように感じ考える国はどこだ。尤も、本当に恵まれている者はどこかで悠々と暮らし、本当に恵まれていない者は秘かに喘ぎ苦しんでいる。
それでいいのか思ってきたのだが、仕事人間という選択もあるのかなと考えてしまう。勿論、社会の外には出られないのだけれども。