二十八年前、病院を辞めて独立個人医院に転身を図った頃は経済的な常識がなく、用意した資金で検査機器が買えそうになく真っ青になった。ところが、検査機器の定価はあってないようなもので、一割引き良くて二割引きだろうと思っていたのが、開業の手伝いをしてくれた薬の卸し問屋のアドバイスで三社を競争させたら恐ろしいほど価格が下がり、ついに七割引きという信じがたい値段でレントゲンの透視装置を買うことができた。
すべての機器が七割引きは嘘だが、それでも半値くらいになった。じゃあ、一体定価というのは何なのと思えてしまうが、どうもいろいろな絡繰りがあるようだ。税金というのは自分の懐が痛むわけではないので、死活問題で始末はしないらしい。
四半世紀以上経ち、最近は超音波の機械などを三四割引きで購入しているので、値引き合戦も変わったのだろうと思っていた。ところが、故障した血球計算機の修理に五十万円とかいうので、新規購入することにしてライバル三社に見積もりを出させたら、驚くなかれ七割引きが再現された。何回も見積もりを出させて競争させるのはあざとい感じがして趣味ではないので一発勝負をさせたのだが、考え抜いたどうしてもという数字を出した会社があったのだ。
改めて商売の世界も厳しいなあと思ったことだ。トランプ大統領はそういうディールの世界で生きてきたから、取引感覚で政治をしようとするのだろう。医者の自分にはとてもできない仕事だ。