踏切は不思議な場所だ。踏切の音と信号、記憶にある七十年の昔から殆ど変わっていない。踏切で待っていると、遠い昔同じように踏みきりで待っていた光景が浮かんでくることがある。相変わらずの竹でできた遮断機が微かに上下に揺れて、ドップラー効果で汽笛の音色が変わる。夕暮れ時など、多くの人が踏切に不思議な郷愁が漂うのをお感じになったことがあると思う。
自分は特別鉄道ファンというわけではないけれども鉄道の魅力はよくわかる。東海道線は子供の頃から数え切れないほど渡り、線路の鈍色に輝く表面と茶に変色した側面を何度も見てきた。光る銀色と錆びた茶色の平行線は美しく、故郷の岐阜どころか日本全国津々浦々あらゆるところへ続いている。
叶わぬ夢かもしれないがシベリア鉄道やオリエント急行そしてベトナムやペルーを列車で旅してみたいものだ。
もう一年以上新幹線に乗っていない。新幹線は窓が開かず踏切もないが旅情皆無というわけではなく、もう一度不要不急の旅に出られる日が来るのが待ち遠しい。